DMGP2022 Day2 準決勝:kazuna vs. 上田秋斗
ライター:高橋 穂
撮影者:後長 京介
ゲーム終了後、今回のデッキ選択理由を尋ねた筆者の耳に、とんでもない発言が飛び込んできた。
kazuna「いつもは別のデッキを握ってるんですが、前日に思い立って、いつも使われて嫌だなって思ってるデッキを使うことにしたんです」
言わずもがな、ここは準決勝のフィーチャー席。3000人以上のプレイヤーの海を泳ぎ切ってベスト4までやってきたプレイヤーの発言である。
だが、日頃からインターネット対戦にて環境分析を行うkazunaの嗅覚は間違っていない。彼が駆った《CRYMAX ジャオウガ》を軸にした【水闇自然ハンデス】は、類似デッキを含めると本戦参加者の中で最多となるシェアを誇るなど、この大会において間違いなく「勝ち組」側にいるデッキだ。
思いつきと謙遜するkazunaだが、日頃使われる側にいるからこそわかる感覚をもってここまで勝ち上がってきた……という事実そのものが、彼の確かな実力を物語っている。
そして、彼の前に立つ者もまた、とある理由をもって自らのデッキを選んだという。
上田秋斗「【水闇自然ハンデス】に対してリソース差をつけられるからです」
環境最多のデッキを見切り、そこに優位に立てる【水魔導具】を選び抜いた環境分析が光るのは宮城県のプレイヤー、上田秋斗。
他にも多くの仮想敵に対して《ガル・ラガンザーク》が刺さることや、《卍 新世壊 卍》さえ設置すれば【アポロヌス】系列にも間に合う…などといった要因もあるが、彼がこのデッキを選んだのにはもう一つ大きな理由があるようだ。
上田秋斗「ミスがなければ勝てるデッキなので、最近使い続けています」
精密機械のような環境読みとプレイングを成就させてここまでやってきた彼もまた、ここに立つ資格十分の強者と言えるだろう。
「感覚」と「理論」がぶつかり合うという読者諸兄に対する事前の「種明かし」が済んだところで、時を巻き戻して彼らの戦いの風景に戻ろう。
Game1
先攻:kazuna《SSS級天災 デッドダムド》《ガル・ラガンザーク》とマナに置いて自己紹介を交わす立ち上がり。
ファーストムーブは2ターン目の《悪魔妖精ベラドンナ》。もしここでハンデスからキーパーツの《卍 新世壊 卍》を打ち抜ければ一気に有利となるが、そもそも引いているかもわからない上ランダム要素が強すぎることからここは素直にマナ加速を選ぶ。 実際に上田秋斗の手札に《卍 新世壊 卍》の姿はなく、返しのムーブは《堕呪 ゴンパドゥ》に留まる。
最速パターンを回避したkazunaは、《キャディ・ビートル》を召喚して「除去しないと《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》の踏み倒しはさせないぞ」と圧力をかけていく。
まだ《卍 新世壊 卍》を引けていない上田秋斗の次の一手は《堕呪 ウキドゥ》。シールドの《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》を墓地に送って入れ替え、ドローで手札を整えてターンを返す。そのタイミングで。
kazuna「手札は何枚ですか?」
上田秋斗「5枚です」
いつ《卍 新世壊 卍》を引かれていてもおかしくないkazunaは、意を決して《絶望と反魂と滅殺の決断》。ハンデスと《悪魔妖精ベラドンナ》蘇生を選ぶ。 最初のハンデスで落ちたのは《ガル・ラガンザーク》。ここで《卍 新世壊 卍》が落とせれば安心して《悪魔妖精ベラドンナ》をマナ加速に使えたのだが、今回はさらに追撃のハンデス。《凶鬼卍号 メラヴォルガル》が落ちる。
動きの鍵となる魔導具呪文を落とせていない以上一見ハズレに見えるが、《若き大長老 アプル》を出せれば《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》への圧力となる。次のターンに動きがなければさらなるメタクリを並べて封殺していくことも夢ではない。
……というkazunaの期待を裏切るように、返しのターンの上田秋斗の手札から飛び出るのは《卍 新世壊 卍》! とはいえ即座に動くことはできなかったようで、2マナを残してターンを返す。そして、また。
kazuna「手札は何枚ですか?」
上田秋斗「2枚です」
このターン、kazunaは大きな選択を迫られる。kazunaの手札は《悪魔妖精ベラドンナ》と《異端流し オニカマス》、墓地には《絶望と反魂と滅殺の決断》、マナには《生命と大地と轟破の決断》《若き大長老 アプル》《キャディ・ビートル》含む5枚のカード。
《絶望と反魂と滅殺の決断》でハンデスを選べば上田秋斗の手札を落とし切ることは可能だが、ドロー効果付き魔導具呪文を引かれた瞬間に《卍 新世壊 卍》のドローが連鎖して努力は無に帰す。
逆に《生命と大地と轟破の決断》からメタクリーチャーの展開を行えば、《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》への圧力はさらに増すもののマナは減り、こちらの勝ち手段の《CRYMAX ジャオウガ》を引けばすぐ出せる7マナへは遠ざかってしまう。
一長一短の選択肢からじっくり考えたのちkazunaが選んだのは、そのどちらでもなく《悪魔妖精ベラドンナ》によるマナ加速→《異端流し オニカマス》召喚というもの。二種類の「決断」という強力な選択肢を次のターンに持ち越したまま圧力を残してターンを返した形となる。
……だが、この時点での上田秋斗の手札は実は《堕呪 エアヴォ》と《龍素記号Xf クローチェ・フオーコ》、そして次のドローが《堕呪 ギャプドゥ》。
《堕呪 エアヴォ》をマナに送って《堕呪 ギャプドゥ》を唱えると、都合2ドローからさらに《堕呪 ギャプドゥ》!さらなる2ドローで手札が一気に4枚まで回復し、《卍 新世壊 卍》のカウントも2つ進んでしまう。
こうなればターンが帰ってきてもkazunaのハンデスは追い付かず、魔導具呪文がもたらす圧倒的ドローの連鎖から必要なものは全て引かれたうえで無月の門99が開いてしまうだろう。
ここで《若き大長老 アプル》を引いたkazunaは、苦しい顔をしつつも《絶望と反魂と滅殺の決断》で《悪魔妖精ベラドンナ》2体を蘇生。
「ハンデスで手札の魔導具呪文を落とし、マナ加速で単色をめくって《若き大長老 アプル》召喚」という細い勝ち筋を狙っていきたいが……無情にも、落ちたのは《龍素記号Xf クローチェ・フオーコ》。
ひとしきり悩んだのち《若き大長老 アプル》を諦めて追撃のハンデスを繰り出すも、落ちたのは《凶鬼卍号 メラヴォルガル》。ここまで一度も魔導具呪文をハンデスできていない!
策が尽きたkazunaは、はじめから上田秋斗の手札に魔導具呪文がないことに賭けてターンを返す。
……が、上田秋斗は全てを持っていた。《堕呪 ギャプドゥ》2ドロー→《堕呪 カージグリ》で《キャディ・ビートル》をどかすと、満を持して《卍 新世壊 卍》の無月の門99から《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》!
こうして《ガル・ラガンザーク》《凶鬼卍号 メラヴォルガル》の群れと両者ブレイク効果による大量の手札、そして追加ターン権が上田秋斗に与えられると、もはやkazunaに抗う術は残されていないのだった。
kazuna 0-1 上田秋斗
デッキ選択時点で想定されていた圧倒的なドロー性能でハンデスを退けた上田秋斗。
とはいえ、kazunaも多様な選択肢やランダムハンデスのすれ違いに泣かされた要素が強く、【水魔導具】の流れをせき止めるチャンスは確かに存在した。
過去より連綿と続くハンデスとドローの相克を制するのは、どちらか。
Game2
先攻:kazuna《SSS級天災 デッドダムド》《ガル・ラガンザーク》と、Game1とまったく同じカードをチャージしてスタートを切った両者。
だが、今度は先に動いたのは後攻の上田秋斗。しかも、値千金の《卍 新世壊 卍》!
このロケットスタートに対して、kazunaはお家芸の《天災 デドダム》で応える。 Game1ではプレイの叶わなかったこのカードさえあれば、手札を減らさずリソース勝負に食らいつくこともできる…ばかりか、《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》後に唯一の能動的防御手段となる《秩序の意志》(しかもGame1では見せていない!)をキープし続けることもできる。 山札の上三枚をチェックし、墓地に《絶望と反魂と滅殺の決断》、マナに《悪魔妖精ベラドンナ》と綺麗に送り込んでkazunaはターンを終えた。
考えることのまだまだ多いkazunaに対して、上田秋斗が行うべきはたったひとつ。《堕呪 ゾメンザン》《堕呪 ゴンパドゥ》と、手札を整えながら《卍 新世壊 卍》のカウントを進めてターンを返す。この様子なら、よほどでない限り次のターンに無月の門99が開いてしまいそうだ。
動き続けるしかないkazunaは、《有象夢造》をチャージすると《天災 デドダム》でさらに手を進める。墓地に《SSS級天災 デッドダムド》、マナに《生命と大地と轟破の決断》が送られるといういつもならブン回りのムーブながら、今回に限っては相手が速すぎる。
残るは2マナ。判断をしくじればこれがこのマッチで使用する最後のカードになってしまうことから、じっくりと考える。
そしてkazunaが選んだのは、《悪魔妖精ベラドンナ》によるマナ加速!これで7マナに到達して《秩序の意志》の不意打ちからターンが帰って来れば、あとは《CRYMAX ジャオウガ》が確実な勝利をもたらしてくれる。
……だが、ここでマナに送られたのがあろうことか《秩序の意志》!もし1枚でもズレていたら《天災 デドダム》から手札に加わってさらに強固なカウンター体制を取れたと考えると、これはかなり痛い。
そして、運命の上田秋斗の4ターン目。《堕呪 ギャプドゥ》をマナに送り、《堕呪 ゴンパドゥ》→《堕呪 バレッドゥ》(《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》を捨てる)から最速で《卍 新世壊 卍》の無月の門99を達成。
ターン終了時に放たれるのは、もちろん《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》!潤沢な手札から《ガル・ラガンザーク》と《凶鬼卍号 メラヴォルガル》2枚、そして追加ターン権が飛び出す。
だが、3体しか出てこなかったのはkazunaにとって僥倖。手札の《秩序の意志》1枚と、なんらかの防御手段(2枚目以降の《秩序の意志》や、追加ターン入ってからのG・ストライク等)で受け切れる可能性が残るからだ。
そして《凶鬼卍号 メラヴォルガル》1体目の効果ブレイク時に、《CRYMAX ジャオウガ》を切って《秩序の意志》!《凶鬼卍号 メラヴォルガル》に封印を付け、反撃の狼煙を上げようとする!
……しかし。シールドブレイクにチャンスを見出せるのは、kazunaだけではない。
《凶鬼卍号 メラヴォルガル》2体の合計4ブレイクで上田秋斗の盾から飛び出すのは、《堕呪 カージグリ》2枚に《堕呪 エアヴォ》! 《堕呪 カージグリ》で2体の《天災 デドダム》が、《堕呪 エアヴォ》で《凶鬼卍号 メラヴォルガル》の封印が手札に帰っていく!
こうして、kazunaの全ての希望を奪い去った上田秋斗は続く追加ターンにて《凶鬼卍号 メラヴォルガル》2体の攻撃でこの戦いに終止符を打った。
Winner:上田秋斗
宣言通りミスのない精緻な動きを以て、Game1ではリソース差で、Game2では速度差で【水闇自然ハンデス】を手玉に取って決勝に駒を進めた上田秋斗。
相性差と言えばそこまでだが、あらゆる手を尽くして食らいつかんとしたkazunaの執念も決して劣っていなかったと言えるだろう。
そして、一つでも順位の数字を小さくすべく彼らはすぐに今日最後の決戦に臨む。泣いても笑っても、あと一戦。
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