デュエル・マスターズ

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超CSV大阪 決勝戦:そん vs. ブラックブレット

ライター:河野 真成(神結)
撮影者:出端 敏夫

 超CSⅤ新潟で4位となったそんは、決勝を前にしてこんな話していた。

「前回、ユウキング選手に負けたんですよ」

 そして、こう続ける。
 
「だから実質2位だって、ずっと言っているんですけどね

 ……いや、その理屈にはやや無理がある。これが通るなら道中でユウキングに負けたプレイヤーは全員2位になってしまうし、そもそもそん自身が3位決定戦で敗れているのだ。
 
 だが、彼のこの話はここで終わらない。

 ある意味、本気でそう信じているからこそ、次のような言葉に繋がった。
 
「今回もユウキング選手、予選抜けたじゃないですか。だから今度こそ俺が狩るつもりだったけど、残念ながら落ちちゃったんで。じゃあ、俺が頂点獲るしかないですよね

 ユウキングを破れば、自分が1位になる。だがそれが叶わなくなった以上、ユウキングに続く自分は、優勝して然るべきなのだ、と。

 そんはこのように、自らの野心を敢えて明言したのだ。

 強い言葉は、時に批判の的にもなる。
 
 しかし、いまの彼を誰が批判出来ようか。この言葉を口にするだけの、結果が伴っているのだ。
 
 前回大会で4位。そして今回、この決勝。2つの大会をトータルで考えれば、彼より勝っているプレイヤーは存在していないのだ。
 
 さて、決勝戦が大会の象徴的な試合であるとするならば、優勝者とはまさに主人公であると言える。

 もしそんが主人公たるならば……。一度の敗北を経て、今度こそ優勝を果たし――これほど美しいストーリーが存在するだろうか?

 そして、その相手となるのがブラックブレットだ。
 
 その名前を筆者は初めて耳にした……が、「デュエルマスターズプレイスのブラック会社選手」となると、話は別である。本人に依れば、最高レートは1772。
 期にもよるが、最終1位のレートがおおよそ1700後半から1800くらい、と言えばその実力は明らかだろう。
 
 そしてその上で面白いのは、彼が余りにも無欲だった点だ。
 
「久々の紙の大会で、まさかここまでこられるなんて思わなかったので……」

 賞品の《我我我ガイアール・ブランド》を入れるスリーブすら用意してないんですよ、と彼は笑っていた。
 ちなみにプレイスで使っている“ブラック会社”で登録しなかったことをちょっと後悔したようだ。まさかここまで勝つと思っていなかった、ということらしい。
 
 まるで「高い実力があるのに、よくわかっていない」みたいな話だが、それもそれで、主人公っぽさがある。

 しかし彼が近くて遠い「異世界」で積み上げた実力は本物だ。久々という大会で決勝まで来たのが、その証左だ。
 
「先月何使いました?」

 相手がプレイスのプレイヤーでもあると知ったそんは、そんな話を振った。ちなみにそんも、鬼丸覇cupで最終12位の実績持ちだ。
 
「自分はシューゲイザーでしたね」
「え、シューゲイザーですか? あれ厳しくないですか?」
「でも前期の最終100位のうち、一番多かったのってシューゲイザーなんですよ」

 踏み込んでいくそんに対しても、ブラックブレットは変わらぬ調子で応じる。
 
 野心に満ち溢れ、目に見える結果も出したそん。対して「紙」は久々だという、無欲なブラックブレット

 あまりに対照的な二人の、決勝戦が始まった。

Game1

先攻:そん  そんのマナゾーンは、《龍素記号wD サイクルペディア》から。
 ブラックブレット《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》をチャージしたのを見て、そんは呟く。

「新潟と一緒か」

 一緒、というのはマッチアップのことだ。
 
 新潟ではユウキングの【水闇サガ】との【水闇自然ジャオウガ】が対戦している。そして今回も、サガとジャオウガの対決となった。
 もっともそんのデッキは火を足した方のサガであるし、ブラックブレット《極楽鳥》を全抜きしている。

 それぞれ、前回とは異なる姿だ。
 
 そんは2ターン目に《氷牙レオポル・ディーネ公 / エマージェンシー・タイフーン》を唱えた。ゲーム開始の合図であると同時に、これはリーチでもある。ブラックブレットは自然マナをチャージし《とこしえの超人》を召喚。3ターン目のサガループは許さない格好だ。
 
 手札を1枚消費したブラックブレットの動きを確認すると、そんは2マナで《サイバー・K・ウォズレック / ウォズレックの審問》の呪文側を唱えた。サガにとって、決して悪くない流れだ。
 
 公開された手札は《天災 デドダム》《キユリのASMラジオ》《CRYMAX ジャオウガ》《飛翔龍 5000VT》。当然、《天災 デドダム》を墓地に置く。
 
 実はこの時点でそんの手札状況もいいものではなかった。《絶望神サガ》も引けていなかった。だが≪ウォズレックの審問≫がクリティカルに当たった分、猶予も貰える。その間に準備を整えればいい。
 
 そう思った、束の間のことだったろう。

「申し訳ない」

 突如ブラックブレットはそんな言葉を発した。一瞬、時が止まったような顔をするそん。気付けば、落とした筈の《天災 デドダム》がバトルゾーンにいるではないか。
 
 そう、ブラックブレットのデッキトップから《天災 デドダム》が駆け付けてきたのだ。
 
「まじか……」

 これにはそんも苦笑い……という程の余裕はない。納得がいかない、という顔をしている。
 
 返しのターン、《百鬼の邪王門》をマナに置く。
 手札状況はかなり悪いが、ここは我慢の時間と見たか。何もせずに、ターンを終えた。
 
 対して《天災 デドダム》のドローに成功したブラックブレットは、デッキが順調に動き出す。
 持っていた《キユリのASMラジオ》を唱えると、デッキから《キャディ・ビートル》《天体妖精エスメル /「お茶はいかがですか?」》が場に出てくる。
 
 ブラックブレットの場には、《とこしえの超人》を4体が並んだ。これは王手だ。
 
 というのも水闇火のサガは、その防御を《百鬼の邪王門》が担っている。
 これは《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》との対峙では強力であるものの、《とこしえの超人》《CRYMAX ジャオウガ》の展開になってしまうと敗北なのだ。新潟でユウキングを助けた《ドアノッカ=ノアドッカ / 「…開けるか?」》も、《邪招待》も入っていない。
 つまりこの《とこしえの超人》を退けないといけない。
 
 そう、簡単には引き下がるわけにはいかない。
 2マナをタップすると、唱えたのは≪「オレの勝利だオフコース!」≫!  水闇火の、新たな切り札だ。これまでメタカードに対して《ボルシャック・スーパーヒーロー / 超英雄タイム》の呪文側などで1対1の交換をせざるを得なかったこのデッキが、わずかなコストで《とこしえの超人》《若き大長老 アプル》といったカードを纏めてなぎ払うカードを手にしたのだ。
 
 そんはこのカードを2枚、デッキに採用していた。
 
 展開をしてくるなら、素直に≪「オレの勝利だオフコース!」≫で叩く。仮に≪「オレの勝利だオフコース!」≫を恐れて展開をしないなら、今度は≪超英雄タイム≫でいい。
 
 この新たな切り札によって、盤面は完全にリセットされた。
 
 ……だが、この一見すると五分に戻ったかのように思うが、これはそんが望んだ展開ではなかった。
 
オフコースを撃ったなら、そのターンに勝ちたいんです。だからサガループが出来るように、ギリギリまで手札を作っていたんですよ。《蒼狼の大王 イザナギテラス》《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》もキープしていたので」

 ≪「オレの勝利だオフコース!」≫を撃つなら、そのまま勝ちたい。その瞬間であれば、抵抗される術はないからだ。

 だが、この時は不運にも肝心の《絶望神サガ》がいなかった。 
 
 ターンは、ブラックブレットへと返っていく。
 
 そして一度リソースを広げた水闇自然のデッキにとっては、再展開など造作もない……というのは言い過ぎだが、充分可能だ。
 
 ブラックブレットはこのゲーム中2回目の《キユリのASMラジオ》をプレイすると、《Disジルコン》、そして《天災 デドダム》と展開していく。更に手札を整えると、4マナで《キユリのASMラジオ》のおかわり。今度は《Disジルコン》《リツイーギョ #桜 #満開》が並んだ。
 盤面を一瞬で回復した上に、《リツイーギョ #桜 #満開》という厄介なメタカードまで追加されてしまった。

 この第1ゲーム、そんが主導権を握る展開は中々巡ってこなかった。トップの《天災 デドダム》のドローによって想定は大きく狂い、それを《キユリのASMラジオ》で押し広げられてしまった。
 
 苦慮の末、そん《龍素記号wD サイクルペディア》を召喚をする。墓地から≪エマージェンシー・タイフーン≫を唱えてターンを終了した。
 或いは《とこしえの超人》がなければ……とも考えたが、それは叶わぬ望みだった。
 
 ブラックブレット《とこしえの超人》、続けて《キャディ・ビートル》と展開し、盤面7体を作って《飛翔龍 5000VT》を召喚。《龍素記号wD サイクルペディア》を手札へ返す。
 
 更に残るマナから《幻緑の双月 / 母なる星域》を唱えると、《CRYMAX ジャオウガ》も追加され、フィニッシュへと向かう。 「……投了します」

 T・ブレイクを受けた後、そんはデッキを畳んだ。

そん 0-1 ブラックブレット


「あのデドダム、強かったですね……」
「それだけじゃないなぁ?」

 恐縮そうなブラックブレットに対して、恨めしそうにそんが応じた。
 二人の会話は、ずっとこんな感じだった。

 さて、DMPランキングの過酷さについては何度か語られているが、プレイスのランキングもまた、過酷である。
 1位に称号はあれど、2位から100位までは同じ。
 残り1週間ともなれば、激しく上下するレートの中で自我を保ちながら戦い続けねばならない。
 
 そうした戦いに、耐えられなかった人もいただろう。
 だが、ブラックブレットはそうではなかったということだし、仮に折れたとしても立ち直りが早いのだろう。

 久々という大会で、本来なら緊張して潰れてしまってもおかしくない大舞台。実際、フィーチャーエリアに来ると緊張からミスをしてしまい負けた、なんて試合も多く見てきた。決勝ともなれば、尚更だ。
 
 だがそこでブラックブレット自然と振る舞っている所以は、これまで積み上げてきた実績と経験があるからではないのだろうか。
 
 彼にも、主人公たる資格がある。

 優勝まではあと一本。
 何度も潜り抜けてきただろう「魂の一戦」が、また始まろうとしている。

Game2

先攻:そん  ゲームは後攻のブラックブレットが、1ターン目に《とこしえの超人》を召喚したところからスタートする。≪ウォズレックの審問≫で《とこしえの超人》を落とされるのを嫌った動きであろう。
 
 そんはある意味で注文通りに、≪ウォズレックの審問≫を唱える。
 開かれた手札は《幻緑の双月 / 母なる星域》が2枚と、《天災 デドダム》、そして《キユリのASMラジオ》だ。
 
 残る水闇を用意するのが困難であることを考えると、《天災 デドダム》を触る必要はない。
 単色を落とせば《キユリのASMラジオ》をキープしながら次の≪幻緑の双月≫をプレイするのには単色を引かねばならず、更に3ターン目も同様の要求になる、ということだ。
 
 こうして、《幻緑の双月 / 母なる星域》を1枚落とすことを選択する。そのブラックブレットは無事単色を引き込むと、予定通りに≪幻緑の双月≫をプレイした。
 
 3ターン目、そんの動きは早い。3マナを捻って出すわサガかと思ったら、そうではなかった。
 
《デビル・ドレーン》で」  ≪「オレの勝利だオフコース!」≫が新たな切り札だとするならば、《デビル・ドレーン》は正真正銘【水闇火サガ】の最強の切り札だ。
 実際その威力は絶大で、準決勝の対【水魔導具】では、1-1で迎えたGame3でこのカードが引き込むと、シールドを5枚回収。豊富な手札を武器に主導権を握ると、《「無月」の頂 $スザーク$》を作ってきた返しのターンに≪超英雄タイム≫で《DG-パルテノン ~龍の創り出される地~》を叩き割り、サガループへと繋げて勝利を掴み取った。
 
 加えて本来なら受けで使う想定の《百鬼の邪王門》も、《デビル・ドレーン》さえあれば「攻撃時」に使うことも出来る。不可能を可能にするのが、このカードなのだ。
 
 そんはシールド4枚手札に加えると、ターンを終了した。次のターンの即ループこそほぼないが、充分過ぎるほどのリソースを手にした。
 
 しかしブラックブレットの動きは、単色チャージからの《キユリのASMラジオ》 「それ単色単色要求やで……」
 
 そんは嘆いた。ブラックブレットのデッキの多色は12枚と、一般的な【水闇自然ジャオウガ】と同じ枚数。見えているカードから考えると、単色を2ターン引き続けるの確率は40%ほどか。割と現実的な数字ではある。
 
 ただそんな数字は些細な話であった。ブラックブレットが場に送り込んだのは、なんと《天災 デドダム》2体。それはもう、数%の世界の話だ。

 後続となる《Disジルコン》を墓地に用意し、≪幻緑の双月≫で《デビル・ドレーン》で減った最後のシールドをブレイクする。
 仮に≪「オレの勝利だオフコース!」≫を引かれていても、増えた手札や墓地の《Disジルコン》からの再展開が可能だ。
 
「ちょっと考えます」
 
 まさか、《デビル・ドレーン》の返しにここまでの窮地になるとは思っていなかっただろう。最低でも《とこしえの超人》は退けなれればならない。
 
 そして≪「オレの勝利だオフコース!」≫は引けていなかった。
 
「≪「オレの勝利だオフコース!」≫を探すためにドレーン撃ったんですけどね」

 それでも代わりに《勝熱と弾丸と自由の決断》を唱えると、《天災 デドダム》《とこしえの超人》をデッキ下に送った。
 
 が、これがそんのこの日最後のアクションとなった。
 ブラックブレット《Disジルコン》を召喚から、《とこしえの超人》を2枚、バトルゾーンへと送る。
 
 ……繰り返すが、【水闇火サガ】は《とこしえの超人》を添えて攻撃されると、抗うことが出来ない。 「勝てるわけないやん~~~~! なんでもう~~~~!」  そんの悲痛な叫びとともに、試合は終わった。

そん 0-2 ブラックブレット

Winner:ブラックブレット


 そんの嘆きはしばらく続いた。
 
「だってどうしょうもなくないですか?」  そう訴える彼の気持ちも、よくわかる。
 
 決勝ともなれば、自らのプレイによって勝利を手繰り寄せるような、そんな戦いがしたい。相手と鎬を削って、互いのプレイをぶつけ、自分が下回ったのだったら、それは受け入れよう。
 
 だが結果として、どうしても「それ以外」の要素で負けた、という気持ちが強いのだろう。彼の切り札たちは、残念ながら勝利に結びくことはなかった。
 
 対して、勝敗が決した直後のブラックブレットは、なんとも言えない表情をしていた。
 喜びの雄叫びを上げることもなかったし、もっと言えばガッツポーズすらなかった。

「いや……思ったよりあっさりだったというんですかね」

 ヒーローは、どちらかと言えば苦笑いしていた。

「勝ったら『よっしゃぁ、勝ったぞ!』ってなるとも思ったんですけどね……」

 これは眼前にいたそんが悔しさを隠さなかったことや、引きが噛み合い続けたことの後ろめたさもあるかもしれない。
 或いはそんのように、この大会への執念とも言えるような想いがなかったからかもしれない。
 
 しかし、ブラックブレットにはもっとこの勝利を誇って欲しいと想う。
 
 過酷な最終ランキング争いの中、配られたカードと引いたカードで1つ1つのプレイ、勝利を積み上げる。戦いが終われば、次の戦いへ行く。
 これを日々繰り返しているプレイスのプレイヤーたちが、一体どれほどの実力を積み上げているのか……我々はまだよく知らないのだ。
 
まだ見ぬ力を秘めたプレイヤーたちが、もっといるかもしれない。
 
 今回の結果を見て、「異世界」から参戦してくるプレイヤーも増えてくるだろう。
 その時、彼らのとっての旗印になるのは、きっとブラックブレットに他ならない。
 
 それだけのことを、今日の主人公は成し遂げたのだ。
 
 おめでとう、ブラックブレット
 全国大会でどのような戦いを見せてくれるのか、楽しみだ。
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