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DMGP2024-2nd Day1(アドバンス) 準決勝:Thrasios vs. じゃきー

ライター:林 直幸(イヌ科)
撮影:後長 京介

「いや……ちょっとあっさり終わりすぎて、悔しいとかそういう感情がまだない……」

 完敗だった。
 本日のメタゲームにおいて最も正解に近いと言える、《der'Zen Mondo / ♪必殺で つわものどもが 夢の跡》の呪文側を用いたループギミックを搭載した【光水ヘブンズ・ゲート】を組み上げてきた。

 何より、“天門のカギを持つ者”として2015年の全国大会を制したほどの【ヘブンズ・ゲート】の第一人者。その誇りを示すかのように、水を得た魚が如く、ベスト4までするすると勝ち上がってきた。

 準決勝、2本のゲームが終了。所要時間は2ゲーム合計でたった15分程度。
 あのじゃきーが、本日が初めてのDMGP参加というルーキーに、完膚なきまでに叩きのめされてしまった。


 そのデッキリストを見たときの率直な感想。
 言葉を選ばずに言うと、あり得ないと思った。いくらなんでもデッキパワーが低いのではないか。
 ドラゴンを使うデッキなら《夢双龍覇 モルトDREAM》という最強格のフィニッシャーがリリースされたのだから、《炎龍覇 グレンアイラ / 「助けて!モルト!!」》と一緒にそれをフィーチャーするようなデッキでいいのに。
 なんで今、【ガイアッシュ覇道】なんだ。

 しかし、Thrasiosに……いや、北陸勢にこのデッキを託したぺん丸。
 彼に詳しく話を聞いたとき、私は自らの浅はかさを大いに恥じた。

 Thrasiosがこの場に辿り着いたのは決してビギナーズラックや偶然の類なんかじゃない。
【ガイアッシュ覇道】のみを使い続けてDMGPで3回の予選突破を果たすほどに、このデッキに精通したぺん丸の構築能力。
 新弾リリースに伴って大きく変動したメタゲームの流れを、しっかりと見極める洞察力。
 それを以てすれば、北陸勢の誰かがこの場に辿り着くのは必然だった。  最後にちょっぴりのラッキーを掴み取ってその大役を担ったのが、たまたまThrasiosだっただけなのだ。

 これは、北陸地方の大会でしか見ることのない、しかし彼らにとってはお馴染みのデッキ。
 【北陸限定ガイアッシュ覇道】が全国に羽ばたくまでの物語だ。

Game 1

先攻:Thrasios

 予選は全勝、準々決勝で星1つを落としたのみのThrasiosが順位先攻。その勢いのまま《メンデルスゾーン》2マナブーストという絶好のスタート。

 次のターンには《流星アーシュ》《インフェル星樹》を回収し、リソースを着実に伸ばしていく。 「一般的な構築だと《王道の革命 ドギラゴン》が4投される枠ですね」

 《流星アーシュ》。「ドラゴン娘」シリーズの中では比較的存在感の薄いカード。
 強いテキストは書いてあるけど、もっと強い《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》がある以上このカードまで採用する意味は薄いし、入れて1~2枚くらいだよね……世間の評価は概ねそんなところだろう。

 だが、ぺん丸はこのカードに光明を見た。
 この日の環境を攻略する中核として、4枚フル投入したのだ。

「このカード、1枚で《頂上混成 BAKUONSOOO8th》を止められるんです」

 新弾最凶カード、《頂上混成 BAKUONSOOO8th》。3ターンキルを仕掛けつつ1回限りの除去耐性を持ち、トリガーを見てから追撃を行う性質上、並のトリガーが通用しづらい。

 《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》《王道の革命 ドギラゴン》も、最初の2枚でトリガーしてしまうと《頂上混成 BAKUONSOOO8th》のGR召喚が止まらないし、仮に1枚トリガーしたとしてもデフォルトで過剰打点となるGRクリーチャーたちを受け止めきれない。

 だが、《流星アーシュ》は違う。
 最初の2枚でトリガーしたときも、除去とブロッカーで《頂上混成 BAKUONSOOO8th》が呼び出した2体のGRクリーチャーに対処できるのだ。

 それだけじゃない。《最終龍覇 ロージア》、及びその5枚目として採用された《新世代龍覇 グレングラッサ》トリガーから《邪帝斧 ボアロアックス》装備でもトリガータイミングで登場できる。

 実質9投された《頂上混成 BAKUONSOOO8th》対策によって、速度だけを以て射出された《頂上混成 BAKUONSOOO8th》には高確率で対処できる。

 「そして、終了時《流星のガイアッシュ・カイザー》で蓋をできる。これは【ガイアッシュ覇道】ならではなんです」


 じゃきーの後攻3ターン目、《支配の精霊ペルフェクト / ギャラクシー・チャージャー》の呪文側で2枚ヒット。この中には《星門の精霊アケルナル / スターゲイズ・ゲート》があり、 後攻4ターン目の動きが確約された。
 Thrasiosは《インフェル星樹》でさらにリソースを伸ばすが、このままだと≪スターゲイズ・ゲート≫を撃たれてしまう……。


「直前の大会入賞デッキに【ヘブンズ・ゲート】が多いという情報はわかっていて……。だからこの枠は減らせなかったですね」

 ぺん丸が託した奇跡は、Thrasiosの手にしっかりと握られていた。  《流星アーシュ》攻撃時、“天門のカギを閉じる”≪音卿の精霊龍 ラフルル・ラブ≫!!
 《光開の精霊サイフォゲート》以外の自由を奪い取り、安全に2点を詰める。まだ5マナしかないじゃきーは、返しのターンに何もカードをプレイできない。

 とはいえ、≪音卿の精霊龍 ラフルル・ラブ≫はデッキ内に2枚の採用。《13番目の計画》によってデッキ枚数が増えていることもあり、2枚目を引くことに期待はあまりできないだろう。
 横にチェンジ元がいないこともあり、《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》で使い回して1ターン後のリーサル(決着)を見据える。この時点での私はこういう動きを予想していたし、彼を応援する北陸のプレイヤーも同じことを思っていただろう。

 唯一、Thrasiosだけはおそらく、1ターン前からすでに決着のイメージを見据えていた。
 ≪音卿の精霊龍 ラフルル・ラブ≫攻撃時、チェンジ≪音卿の精霊龍 ラフルル・ラブ≫!!

 シールドが1枚になる。とはいえ次は《光開の精霊サイフォゲート》のターンだ。じゃきーもまだこの段階では一息つけるタイミングだっただろう。
 しかし《インフェル星樹》攻撃宣言時、手札から決着を意味するカードが提示される。
 
 殿堂カード、《蒼き団長 ドギラゴン剣》。効果で《流星のガイアッシュ・カイザー》が呼び出される。
 序盤からデッキを回転させ続けたThrasiosの手には、最後の1打点を埋めるピースが揃っていた。

Thrasios 1-0 じゃきー 「本当に……夢みたいです。初参加でここまで勝ち上がれたこと、画面の向こうでしか見たことがない人と戦えたこと」

 その言葉に驕りも謙遜もあるはずがない。初めてのDMGPに参加し、仲間の期待を一身に背負うことだって初めてのはず。
 夢みたい。Thrasiosの本心からの言葉だろう。無垢だとか素直だとか、そういったフレッシュ言葉が彼には似合う。
 
 だが、唯一違和感があったのが彼のカード捌きとプレイ速度。
 手慣れている。迷いがない。ゴールが見えている。浮足立っていない。

 カードゲーム歴は長い。プレイヤーネームも好きなカードが由来だし、《Black Lotus》のスリーブからは純然たるカードゲームへの愛を感じる。

 が、元々はカジュアルプレイヤーだという。私はその言葉がどうにも信じられなかった。
 彼の言葉を借りるなら、初参加で勝ち上がり、画面の向こうでしか見たことのないじゃきーを相手に、こんな大立ち回りをしてみせるカジュアルプレイヤーがどこにいようか。

 慣れた手つきでデッキカットを終えると、俯き、大きく息を吐いた。
 否が応でも跳ねる心臓を押さえつけなければならないことも、彼はよく理解している。

Game 2

先攻:じゃきー  ここまで手早くプレイしていたじゃきーは、先攻3ターン目に初めて時間を取って考える。
 水マナが不足しがちな【光水ヘブンズ・ゲート】において、手札唯一のドローソースである《理想と平和の決断》を水マナとしてここでチャージするかをじっくりと考え……チャージする選択肢を選ぶ。

 《龍の呼び声》で再び2マナブーストをするThrasiosに対して、じゃきーの先攻4ターン目はドローソースに恵まれず、チャージエンドに終わった。

 Thrasiosは6マナ《最終龍覇 ロージア》《邪帝斧 ボアロアックス》装備から《インフェル星樹》
 リソースを拡充しつつ盤面に光のドラゴンを置いたことで、Game1同様≪音卿の精霊龍 ラフルル・ラブ≫の脅威を押し付ける。
 
 そして、この試合1番の時間を取ってじゃきーは思考の海へ飛び込む。
 ≪スターゲイズ・ゲート≫から《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》+《邪帝斧 デッドアックス》《最終龍覇 ロージア》を処理することはできる。

 問題は《流星のガイアッシュ・カイザー》
 《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》《夢双龍覇 モルトDREAM》という次なる脅威を押し付けられる上、そもそも《流星のガイアッシュ・カイザー》が≪音卿の精霊龍 ラフルル・ラブ≫にチェンジできてしまう。そこまでを織り込んで、どの形が1番Thrasiosに圧をかけることができるか。

 マナチャージの前から、手札をじっと見つめ、深く深く考え……

 果たして、《最終龍覇 ロージア》を処理する動きは先述の通りになった。分岐となった《邪帝斧 デッドアックス》から呼び出すドラグハートは《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》

 ターン終了時、《聖霊超王 H・アルカディアス》を出してリソースを確保。《流星のガイアッシュ・カイザー》を出されたとしてトリガーから長いゲームをしようという想定だ。
 じゃきーの処理終了を見届けたThrasiosの手から、予定調和の《流星のガイアッシュ・カイザー》が放たれた。

 そして、たった15分の短いゲームは、このカードによって決着した。


「だからこの枠は減らせなかったですね」

 【ヘブンズ・ゲート】対策についてぺん丸に聞いたときと同じ場面。
 この言葉と一緒にぺん丸が指をさしたカードは2枚の《音卿の精霊龍 ラフルル・ラブ / 「未来から来る、だからミラクル」》
 
 と、もう1枚。
 それは≪音卿の精霊龍 ラフルル・ラブ≫と同様に“天門のカギを閉める”……

 いや、文字通り“天門を破壊する”カードが、そこにはあった。  《流星のガイアッシュ・カイザー》の4軽減が乗って7マナ、《「修羅」の頂 VAN・ベートーベン》!!

 じゃきーの盤面が更地になる。そして、それ以上にゲームを決定づけたのはもうひとつの効果。
 現行の【ヘブンズ・ゲート】に採用されている大型ブロッカーは全て「コマンド」。無論じゃきーのデッキもそうだ。
 《「修羅」の頂 VAN・ベートーベン》は、「コマンド」が場に出ること、その効果を発動することすらも、許さない。

 一切の勝ち筋が潰えたわけではなかった。
 トリガーのタイミングで≪「真実を見極めよ、ジョニー!」≫を撃てば《「修羅」の頂 VAN・ベートーベン》に対処できないわけではない。一縷の望みを託して《理想と平和の決断》でドローを進め、じゃきーは最後のターンエンドを宣言する。

 もちろん、ここまで辿り着いたThrasiosが、最後の階段を踏み外すわけがない。
 革命チェンジ、≪音卿の精霊龍 ラフルル・ラブ≫。

Thrasios 2-0 じゃきー

WINNER:Thrasios

 あっという間だった。何もさせない、圧倒的な完勝だった。
 対戦相手はじゃきー。8年前、2015年度の全国大会で、《奇跡の精霊ミルザム》殿堂により環境から脱落した【ヘブンズ・ゲート】で並み居る強豪を打ち倒し、一躍スターダムに駆け上がった。2015年度から競技シーンそのものの露出が増えたこともあり、彼の活躍を見て競技プレイヤーを志した若者も多い。
 アーチ―chの対戦役としてメディア露出も増えた近年、彼は多くのプレイヤーにとって「画面の向こう側」、憧れの存在だった。

 敗れた“天門のカギを持つ者”は、勝者に向けて最大級の賛辞を送った。

「ここまで勝ち上がってきた理由が、よくわかりました」

 決勝戦はビデオマッチ。YouTubeにて全世界に配信される。
 Thrasiosが、【北陸限定ガイアッシュ覇道】が、世界に羽ばたく瞬間だ。
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