DMGP2024-2nd Day2(オリジナル)Round 5:おんそく vs. nano
ライター:清水 勇貴(yk800)
撮影:坂井 郁弥
フィーチャーマッチのテーブルはえてして緊張の面持ちをたたえたプレイヤーと共にあるものだ。傍らに座るnano選手はその例に漏れないようだが、相対する「彼」はどうも様子が違う。
完璧なカメラ目線を決め、シャッター音のたびにさほど広くない画角の中で細かくポーズや表情を切り替える——まさしく「デュエマ界のアイドル」がそこにはあった。
おんそく選手といえば、全国大会2019で見事3位入賞を果たした【4c邪王門】や、前回のGPで使用したドラゴン系のデッキなど、ミッドレンジの名手という印象が強い。
果たして今大会に持ち込んだのは如何なるデッキだろうか。
Game
2ターン目、先手のnanoは《卍 新世壊 卍》を、返す後手のおんそくは《エメラルド・クーラー》をプレイしてゲームがスタートする。コンボデッキ同士の対面らしく、どちらもテンポ良く自身の動きを用意していく立ち上がりとなった。
nanoのデッキは言わずと知れた【水魔導具】。登場以来長きにわたって環境の最前線で活躍し、むろん歴代のGPでも数々の結果と名勝負を残してきたデッキタイプだ。
現環境では主流なデッキタイプとは言えないが、それでも一定の活躍は見せている。アンフェアデッキの通りが良いメタゲームを見越しての採択だろうか。
一方のおんそくは【マーシャル・クイーン】。それもいわゆる【星龍マーシャル】でも、従来の光/水型【マーシャルループ】でもない。
ここ1週間ほどで突如として現れた新たなる構築の形、光/水/闇の3色を存分に活用した【マーシャルループ】だ。
このデッキを成立させた立役者は《逆転の影ガレック》。
ループパーツであることはもちろん、厄介なメタクリーチャーを除去できるパワー低下も、コンボの下準備を一気に進める山札の切削もこなせる器用な1枚。
3面振り分けのパワー低下除去が単純に受けトリガーとしても抜群に強いだけでなく、相手ターン中にトリガーすればそのままループに突入しうる最強の地雷でもある。デッキとしてのパワーを大きく引き上げている万能手だ。
このカードだけでなく、《影世界のシクミ》と《絶対華麗!マーシャル歌劇団》もトリガーで《マーシャル・クイーン》を展開しうるカードとして採用されている。
最速3ターン、安定5ターン目でループコンボに突入できるデッキでありながら、相手からすれば迂闊な攻撃は許されない。コンボデッキとして、非常に理想的な構成に仕上がっている。
精力的に競技シーンに取り組んでいるプレイヤー間でのシェアが非常に高く、本大会においてもっとも注目すべきデッキのひとつだ。
さて、先攻nanoの3ターン目は《好詠音愛 クロカミ》を召喚して終了。《卍 新世壊 卍》の魔導具カウントこそ増えていないが、呪文のコストを軽減する能力により次のターン以降のアクションを飛躍的に強化する1手だ。
次のターンにはコスト2の魔導具呪文をコスト1に軽減して連打し、一挙に「無月の門99」の開門まで視野に入る。
迎えた3ターン目、ここで長考に入るおんそく。 果たしてその手札には……値千金の《マーシャル・クイーン》!
しかも、踏み倒し先の候補も多数手札にあるわけだが、だからこそ選択肢は無数に存在する。
チェインコンボからそのままループに突入するデッキには往々にしてあることだが、このデッキは中でも輪をかけてループに至るまでの過程が難しい。
ランダムに落ちる墓地肥やしやドローするカードの組み合わせ次第で展開が幾重にも分岐するにも関わらず、《マーシャル・クイーン》で踏み倒したトリガーの解決順は、結果を見るよりも先に決めなければならないからだ。
未来の状況を想像し、逆算してプレイを選択する。
おんそくが選んだのは2枚埋めての2枚回収、トリガーしたカードは《絶対華麗!マーシャル歌劇団》と、《影世界のシクミ》だ。
先に《絶対華麗!マーシャル歌劇団》から《エメラルド・クーラー》が登場。《影世界のシクミ》からは《逆転の影ガレック》、《マーシャル・クイーン》、《影世界のシクミ》の3枚が墓地へ。
《マーシャル・クイーン》を《マーシャル・クイーン》の上に進化させ、ここで《エメラルド・クーラー》の1ドローをチェック。
貯めておいた《マーシャル・クイーン》から手札の3枚を埋め込み、そのうちの2枚と1枚の未確認シールドをブレイク。
埋めた2枚は《邪魂転生》と≪ゾンビ・カーニバル≫だ。 《邪魂転生》で《マーシャル・クイーン》を破壊して2ドローしつつ、≪ゾンビ・カーニバル≫でスプラッシュ・クイーンを選択。破壊された《マーシャル・クイーン》2体を即座に墓地から回収し、一気にリソースを拡充する。
しかし、ここで踏み倒しトリガーのチェインが途切れたことで、ターンはnanoへと渡った。
千載一遇の好機を得たnano《堕呪 バレッドゥ》、《堕呪 ギャプドゥ》と魔導具呪文が繋がり、そのまま2コスの魔導具2枚で一気にゲームエンドが見える。しかし2マナタップからプレイされたのは2枚目の《卍 新世壊 卍》、「無月の門99」は開かれず、おんそくにターンが帰る!
試合後、nanoはこの時の判断をこう振り返った。
nano「《卍 新世壊 卍》の『無月の門99』を何回使う対面かわからなかったんで、2枚目を抱えておきたかったんですですけど……≪ブラッドゥ≫を切ったせいで2コス魔導具が途切れちゃったんですよね」
命からがらターンを繋いだおんそく。
《マーシャル・クイーン》を手札に抱え、バトルゾーンには進化元が残り、絶好のチャンス……のはずなのだが、トップデッキを見るなり顔を青ざめさせ、《マーシャル・クイーン》を出した後の展開をシミュレーションするおんそく。
プレイを複雑にしたのは、直前のターンの彼自身のプレイだ。
おんそく「俺下手すぎる〜〜〜!!! 《ゾンビ・カーニバル》の回収、絶対1枚でよかったぁ!」
おんそくがデッキトップから引き込んだのは、《逆転の影ガレック》。カード自体はゲームエンドが一気に視野に入る待望の1枚だが、蘇生先としてもっとも効果的な《マーシャル・クイーン》が墓地にない!
墓地に1枚でも《マーシャル・クイーン》が残っていれば、すぐにでもループに入れただろう。歯噛みしながらも、おんそくは意を決して3マナをタップする。
《マーシャル・クイーン》の能力で、おんそくが手札から仕込んだシールドは3枚。うち1枚と初期シールド2枚を確認し、自ら埋めたシールドから《逆転の影ガレック》、そして初期シールドからは《邪魂転生》の使用を宣言する。
《逆転の影ガレック》を出すところまで先に解決したのち、《邪魂転生》で盤面を平らげながら4ドロー。残る《逆転の影ガレック》の登場時能力で墓地から《エメラルド・クーラー》2体と《マーシャル・クイーン》を蘇生する。
見逃したフィニッシュルートの残映が脳裏にこびりつくがゆえに、次々とトリガーをチェインさせながらも今ひとつ晴れない顔のおんそく。
もちろん、いつ終わるかわからないカードの連鎖を見守るnanoの側も固唾を飲むばかり。お互いが苦い顔をしながらゲームを進行する、稀有な時間が訪れた。
さて、《エメラルド・クーラー》2体でドローを進めつつ、次なる《マーシャル・クイーン》からおんそくがトリガーさせたのは《逆転の影ガレック》、≪ゾンビ・カーニバル≫、そして今し方《エメラルド・クーラー》から引き込んだ《ポジトロン・サイン》。
《逆転の影ガレック》の登場時能力を待機させつつ、《ポジトロン・サイン》で山札の上4枚を確認するおんそく。
刹那、咆える。
おんそく「おっし危ねえ、≪シクミ≫あるぅ!」 墓地だけでなく、なぜか手札からもコスト3以下のクリーチャーを出せてしまう《影世界のシクミ》。手札に抱えた《マーシャル・クイーン》を踏み倒すことで、結果として前ターンのミスは帳消しとなった。
最後に残された≪ゾンビ・カーニバル≫を解決し、宣言する種族はゴースト。墓地の《逆転の影ガレック》2体がおんそくの手札に舞い戻る。
《影世界のシクミ》から出てきた《マーシャル・クイーン》が《深海の伝道師 アトランティス》と《逆転の影ガレック》2体をバトルゾーンに呼び寄せ、1体目の《逆転の影ガレック》が《冥土人形ウォカンナ・ピエール》と《エメラルド・クーラー》、≪学校男≫の3体を蘇生。
≪学校男≫の能力で自身と《マーシャル・クイーン》とその進化元を墓地に落とし、残った《逆転の影ガレック》のストックを1つ使って3体をそのままそっくり再蘇生する。
またしても≪学校男≫を解決して再び自身と《マーシャル・クイーン》、進化元の3枚を墓地に逃してから、《深海の伝道師 アトランティス》の登場時能力を解決。ループには関係しない《エメラルド・クーラー》以外のクリーチャーを全てバウンスして、ループパーツを根こそぎ手札に抱え込む。
そして、おんそくの手元には《マーシャル・クイーン》のストック1回が残された。
おんそく「ループの証明に入ります」
初期盤面の条件は4つ。
《マーシャル・クイーン》の登場時能力ストックが1回。
墓地に《マーシャル・クイーン》、《エメラルド・クーラー》、≪学校男≫。
手札に《深海の伝道師 アトランティス》、《冥土人形ウォカンナ・ピエール》、《逆転の影ガレック》。
バトルゾーンに任意のクリーチャーが1体。
《マーシャル・クイーン》のストックから手札の3体を踏み倒し、《逆転の影ガレック》で≪学校男≫、《エメラルド・クーラー》、そこに進化させて《マーシャル・クイーン》を蘇生。
≪学校男≫で自身と《エメラルド・クーラー》の上に重なった《マーシャル・クイーン》を破壊し、《深海の伝道師 アトランティス》で任意のクリーチャー1体を残して《逆転の影ガレック》と《冥土人形ウォカンナ・ピエール》と《深海の伝道師 アトランティス》を手札に戻せば……。
おんそく「≪マーシャル・クイーン≫のストックが残った状態で、初期盤面に戻ります。この過程で≪クーラー≫と≪ウォカンナ≫を好きな回数ストックできるので、あなたの山札の枚数分≪ウォカンナ≫をストックして、そのまますべて解決します」
無限とも思えるほどの連鎖の果てに、真の無限が成立した。
——これはイフの話だが。
もしも、4ターン目の開始時点で墓地に《マーシャル・クイーン》があったとしたら、どうなっていただろうか。
《エメラルド・クーラー》に進化した《マーシャル・クイーン》から《逆転の影ガレック》と《邪魂転生》をトリガーさせ、バトルゾーンのクリーチャーを全てドローに変換。
《逆転の影ガレック》の能力で《エメラルド・クーラー》の上に重ねるように《マーシャル・クイーン》2体を蘇生し、登場時能力を2回ストック。
1回目の解決で手札の《学校男 / ゾンビ・カーニバル》の呪文側と《深海の伝道師 アトランティス》を踏み倒す。
≪ゾンビ・カーニバル≫で墓地の《逆転の影ガレック》を回収しつつ、《深海の伝道師 アトランティス》で《マーシャル・クイーン》を残してバトルゾーンの《逆転の影ガレック》ごと自身をバウンス。
2回目の解決で先ほど手札に戻ってきた《逆転の影ガレック》2体と《深海の伝道師 アトランティス》を踏み倒し、1回目の《逆転の影ガレック》で≪学校男≫と《エメラルド・クーラー》を蘇生し、≪学校男≫の効果を先に解決して《マーシャル・クイーン》と≪学校男≫自身を破壊して墓地へと退避。
最後の仕上げに、《深海の伝道師 アトランティス》を解決して、《エメラルド・クーラー》以外のクリーチャーを返せば。
2体目の《逆転の影ガレック》のストックが残った状態で、墓地に《マーシャル・クイーン》、進化元、≪学校男≫の3体、手札に《逆転の影ガレック》と《深海の伝道師 アトランティス》の2体を構える布陣となり、ここからループを証明できる。
この時点で《マーシャル・クイーン》から踏み倒すカードは《逆転の影ガレック》と《深海の伝道師 アトランティス》の2枚だけで十分なので、間にもう1枚のトリガーを挟む余地がある。
また、ループの過程で《エメラルド・クーラー》の能力が無限にストックできる。あとは山札を掘り進めて《冥土人形ウォカンナ・ピエール》にアクセスする手段を見つければ、そのままフィニッシュループまで一直線……だったかもしれない。
とはいえ、もし墓地に《マーシャル・クイーン》が残っていたとしたら。
nanoも座視はせず、墓地を警戒したかもしれない。
余裕を持って《卍 新世壊 卍》2枚をキープするようなことはせず、躊躇うことなく《凶鬼98号 ガシャゴン / 堕呪 ブラッドゥ》の呪文面を唱えたかもしれない。
その結果もたらされる2ドローから4枚目の魔導具呪文まで辿り着き、ドルスザクの群れがおんそくを蹂躙していたかもしれない。
たとえ一見してはミスであったとしても、それらもまたすべてGPという大型大会、それもフィーチャーマッチの舞台が生み出す、その場限りの綾なのだ。
私たちに言えることはただひとつ、この試合の勝者はおんそくであった、ということだけだ。
Winner:おんそく
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