全国大会2019 中四国エリア予選 Bブロック準決勝:垢BANチキン(愛媛) vs. てらりあ(岡山)
撮影者:堀川 優一
ライター:小林 龍之介
~《ハビエルネイチャー》のフレーバーテキストより~
垢BANチキン「最強のシータを持ってきました」
一足先にフィーチャー席に着いた垢BANチキンはこう言った。
『シータミッツァイル』といえば、水火自然の3文明を軸に組まれ、《“魔神轟怒”万軍投》《BAKUOOON・ミッツァイル》で大量にクリーチャーを並べて勝つデッキだ。
ひとたび6マナに到達してしまえば、《天啓 CX-20》《マリゴルドⅢ》などの強力なマナドライブを持つGRクリーチャーで圧倒的なアドバンテージを叩き出せる。
垢BANチキンはシータミッツァイルの魅力を「2ブロック環境の全てのデッキに勝ち筋があるところ」と言う。
ブーストカードをしっかり9枚入れた。色配分とトリガー枚数にも気を遣い、デッキパワーを落とさずに事故負けの確率を減らせばどんなデッキだろうと対応できる。
理論的に語る姿に緊張は見られない。
一方、てらりあが選んだのは自分の動きを押し通す《タイク・タイソンズ》軸の『ジョラゴン』だ。このところジョラゴンデッキは《》を積んだカウンター型が主流だったが、「『火水ミッツァイル』には勝てないけれど、『火水自然ミッツァイル』などには安定して《アイアン・マンハッタン》を押し付けられるこの型が良いと思いました』と話すてらりあ。
《アイアン・マンハッタン》の召喚制限が有効という環境読みがぴたりとハマり、ここまでを7勝1敗の好成績で勝ち抜いている。
会場内の全員に勝つ必要はない。目の前の相手さえ全て倒せば優勝できるのだ。
“全てに勝てる”を選んだ垢BANチキンと、“母数が多いデッキを狩る”を選んだてらりあ。
そんな2人のゲームに唐突な“非情“が訪れた。
先攻:てらりあ
てらりあの手札は2ターン目こそ動きが無いものの、3ターン目には《メイプル超もみ人》でマナを伸ばしていける。《ジョット・ガン・ジョラゴン》までの道筋は見えている。
対して後攻の垢BANチキンは開幕から2ターン連続で《》をチャージしターンエンド。
てらりあの目が一瞬見開かれた。
そう、垢BANチキンはブーストカードを引けていないのである。
マナドライブ6を軸に据えたシータミッツァイルでは、ブーストの遅れはそのまま動き出しの遅れに直結する。
「マナを6まで伸ばしてGR連打する」が目標の垢BANチキンにとっては辛い展開だ。
てらりあは《メイプル超もみ人》でマナを伸ばし、《ジョジョジョ・ジョーカーズ》から《》を手札に加えた。
しかし垢BANチキンは3ターン目もマナチャージしてエンドするのみ。運命の女神は微笑まない。
《天体かんそ君》を召喚したてらりあはデッキトップを3枚見て、少し固まって首をかしげた。1枚をマナへ、1枚をデッキ上へ、1枚をデッキ下へ。マナに置かれたのは《ジョット・ガン・ジョラゴン》である。
垢BANチキンは思考する。
どんな状況でも「やったことがある」のならば、正しいプレイを選択できる。勝利への道筋を選べる。
事故を起こしにくい構築を選べども、2ターン目にブーストを打てない可能性は存在する。後手2ターン目なら9枚積んだブーストを引ける確率は85.9%だが、女神にそっぽを向かれたパターンさえも練習済みだった。
てらりあの手札は2枚で、1枚は《》である。《ジョット・ガン・ジョラゴン》をマナに置いたということは、2枚目の《ジョット・ガン・ジョラゴン》か《ソーナンデス》を持っているのだろう。
てらりあの目標は「《ジョット・ガン・ジョラゴン》を着地させ、《アイアン・マンハッタン》効果で召喚制限をかけつつアタックする」である。
てらりあの手札が薄くなっている状況なら≪「本日のラッキーナンバー!」≫で7を宣言することで確実にターンを稼げる。うかつに手札を消費すれば《アイアン・マンハッタン》効果を使っても捨てるカードが不足するので、7の宣言だけで実質的に他のカードの使用も縛れるのだ。
そして帰ってきたターンでブーストを引けば6マナに到達できる。手札を捨てて《“魔神轟怒”万軍投》を撃てば墓地に呪文が4枚となり、シールドの《知識と流転と時空の決断》が活きるようになる。《アイアン・マンハッタン》のブレイクに呪文トリガーのバウンスは非常に有効だ。この流れで耐えれば、増えたリソースで再び≪「本日のラッキーナンバー!」≫を撃ち込んで召喚制限のターンをやり過ごし、完全に自分の土俵に持っていける。
垢BANチキンは勝機を見出した。
しかし、てらりあのデッキにはそれを打ち砕く“神”が眠っていた。
てらりあが5マナをタップしたとき、そこまで冷静だった垢BANチキンが僅かに身じろぐ。
「5マナ、《ガヨウ神》召喚」
「負け筋を消すために一番欲しいカードだったので、《天体かんそ君》で《ガヨウ神》が見えた時に悟られないように我慢しました」と振り返るてらりあ。余ったマナで《タイク・タイソンズ》も添えて、王手をかける。
殿堂カードによってプランを崩された垢BANチキン。
ドローカードを見てこちらも首をかしげる。また、ブーストではない。
5ターン目ともなればブーストを95%の確率でドローできる計算になる。
よりにもよって絶対に負けられない1戦で、どうしようもない5%を引いてしまった。
普通の人間なら「どうしようもない、手札が悪かった」で諦めてしまうだろう。
しかし、垢BANチキンの頭では勝つための計算が行われていた。
12枚のGRから《“魔神轟怒”万軍投》で3枚出したとき、2枚積んでいる特定のカードが1枚でも出る確率は45.5%。
《全能ゼンノー》が出てきて、かつ相手が除去に失敗すれば、次のターンで待ちに待った6マナに到達できる。手札の中から最も勝利に近い択を垢BANチキンは選ぶ。
冷静な手つきで4マナをタップ、手札を1枚捨てて《“魔神轟怒”万軍投》。
《タイク・タイソンズ》軸ジョラゴンの構造的な弱点……《全能ゼンノー》に対処しづらい点を突く。
これが垢BANチキンに与えられた最後のチャンス。
捲れた3枚は、
《全能ゼンノー》《全能ゼンノー》《天啓 CX-20》。
まだ戦える。垢BANチキンの「よしっ」という声が響く。
てらりあは深呼吸し、垢BANチキンの墓地とマナにある4マナカードを数える。
神の足元を掴まれた。しかし、自分の優位は揺るがない。
「3マナ、≪7777777≫」
これが最後のコイントスだ。
4マナが捲れるかどうか、つまり《全能ゼンノー》が生き残るかどうかの賭けがゲームを決める。
そして、運命に選ばれたのはてらりあだった。
「《κβバライフ》選択で」
垢BANチキンのバトルゾーンが空になる。
そのまま《ガヨウ神》たちを手札に戻し、《ジョット・ガン・ジョラゴン》降臨。
アタックするとき《ガヨウ神》を捨て、2ドローから《アイアン・マンハッタン》捨ててシールドをブレイク。
《》捨てからどんどんクリーチャーが展開され、垢BANチキンにシールドトリガーは無かった。
Winner:てらりあ
てらりあ「今日、5、6試合は《ガヨウ神》を引いている。ノッてます」
と決勝に向け確かな手ごたえを感じるてらりあ。
それはカウンター型ジョラゴンでは選べなかった要素である《天体かんそ君》《ジョジョジョ・ジョーカーズ》がもたらす恩恵だろう。
垢BANチキン「どのタイミングでも良いからブーストを引きたかったけど仕方ない。来年は勝ちます」
次を見据えて、プレイの検討を始める垢BANチキン。
それぞれの選択は、それぞれの結末を迎えた。
非情にも対戦結果というコインは表か裏しかない。
が。
気まぐれな運命の女神に愛されるため、彼らは努力を続けるのだ。
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