DMGP2024-2nd Day1(アドバンス)決勝Round 2:かい vs. マメ
ライター:林 直幸(イヌ科)
撮影:瀬尾 亜沙子
戦略的なエッセンスを吸収してカバレージに生かそうという魂胆だったのだが、たった1日見学した程度ででそれができるわけもないだろうな、とそこまでの期待感を抱いているわけではなかった。
だが、結果的にこの日彼らの練習を見たことは、本稿を書く上で大きな手助けとなった。
彼らがこのとき強いと結論づけたデッキタイプが、決勝トーナメントの大半を占める結果になっていたのだから。
昨年紅蓮によって結成された、関西圏のトップランカーを中心とした調整チーム。
特別な名前を持っているわけではないが、Discordの「サーバー」からもじって、対外的には「紅蓮鯖」と呼称される。
半年前のDMGPではみみみがDay1で4位、所属メンバー3人で結成された「みんなで戦えてよかった。」がDay2チーム優勝。前期ランキング枠でTJMとみみみが全国大会出場決定。
関西圏どころか今日本で最も勢いに乗っている調整チームと言えるだろう。
個々のプレイヤーのレベルが高いのはもちろんだが、どこよりも圧倒的なのは大会に対するモチベーション。
通常、春のDMGPで全国大会の権利を獲得したプレイヤーはDMPランキングで上位入賞しても得られるリターンが少ないこともあり、1年間マイペースな頻度でCSに出場する。
一例を挙げると前期3位入賞したdottoはこの半年間あまりCSに出ておらず、7月に至っては1回も出ていないほどだ。(dottoに関してはYouTubeやデュエチューブリーグなど他にリソースを回さなければならない事情もあるが)
そんな中にあって、チーム戦で優勝した3人は、DMGPで獲得した12,000ポイントを抜いた状態ですらDMPランキングで全国大会を狙える頻度でCSに出続け、上位入賞を重ねまくった。
リーダーであり柔軟な発想と言語化能力に長けた紅蓮、大会主催や「魔王軍」でのデュエチューブリーグ出場とマルチに活躍するりっきー。この両名はこの半年間、大会に対するモチベーションを大きく落としたタイミングは全くなかったと言っていい。
実際、両名はDMGPを抜いた状態でも約15,000ポイント前後を獲得。これは全体を見ても30~40位台には入る数字であり、「チームSAGA」所属のにわかがそのあたりのライン……ここまで言えばその凄さが伝わるだろうか。
そして、この2人すらも圧倒するほどのモチベーション、そして勢いに乗っていたのが3人目のメンバーであり、今回フィーチャーテーブルに座るかい。
なんと先述の12,000ポイントを抜いた状態でも約27,000ポイントを獲得しており、DMPランキングでの招待枠1位【キャンテ】よりも多い……つまり、DMGPで勝っていなくともDMPランキング前期1位だったのだ。
その上で、合計40,000ポイントの大台を額面上達成できなかったことを大いに悔しがるほどに向上心の塊である。とんでもない逸材だ。
さて、話は冒頭に戻る。「紅蓮鯖」の面々はこの日が終わった段階で、この環境を攻略する糸口を掴んでいた。
それは【光水ヘブンズ・ゲート】。DMGP2週間前の超flat-CSGFで、のすけが使用したことで注目を集めたデッキだ。
いち早く情報をキャッチしたかいがこの日の調整に持ち込み、あらゆるデッキをテストした中で最も安定した勝率を出したのだ。
もちろん、優勝しか狙っていない彼らにとって、ここで結論を出すのは早計すぎる。ここまでは他のプレイヤーも辿り着いているであろう想定をしたとき、目下の課題は【光水ヘブンズ・ゲート】ミラーの攻略法。
Day2の使用デッキにも頭を悩ませる中、ミラーマッチに多くの時間を取って練習を重ね……。
ベスト64。紅蓮鯖唯一の生き残りとなったかいは、マメ.との【光水ヘブンズ・ゲート】ミラーマッチに臨む。
マメ.も辿った思考過程は同じだ。活発に自主イベントを開催する東京経済大学のTCGサークルを拠点として活動している。
サークル内にはみどれんなど、DMPランキング経由で本大会のbyeを獲得するほどにやり込んでいる選手が所属。そのレベルの高さが伺える。
現に紅蓮鯖と同様、直近の大会結果を見て【光水ヘブンズ・ゲート】に光明を見て、ベスト64にマメ.を送り込んだ。
いざゲームが始まるその直前。かいはジャッジにルールについて質問する。
その内容は主に時間切れ後のEXターンの扱いについて。
2分ほどをかけて詳しくルールについて確認していたのだが、それもそのはずだろう。
この1週間の練習によって、ミラーマッチが20分の制限時間で終わるかわからないことを理解していた。
そして、この時点でかいはゲームの終着点をイメージしていたはずだ。
先攻:まめ 試合は3ターン目からドローソースを撃ち合う展開だが、先攻のマメ.が《支配の精霊ペルフェクト / ギャラクシー・チャージャー》の呪文側で2ヒット、後攻のかいが《♪なぜ離れ どこへ行くのか 君は今》。先攻、チャージャーの分マメ.が2歩リードといったところ。
先に≪スターゲイズ・ゲート≫を撃つ権利を得たマメ.だが、手札になく4ターン目に試合は動かず。ここは水マナを補完する《理想と平和の決断》チャージ。
かいも遅れて≪ギャラクシー・チャージャー≫に辿り着き2ヒット。ここで《氷牙君主ハイドロ・ビスマルク帝》というテックカードが見えたが、回収対象ではないのでこの試合に絡むことは少なそうだ。
さて、かいが遅れてチャージャーを撃ったことで速度差は先手後手の差のみ。
一歩差が縮まったところで、マメ.の速度における優位性は変わらない。このリードを保った状態で仕掛けに入る。
6マナをタップし《ヘブンズ・ゲート》、《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》と《闘門の精霊ウェルキウス》というアドバンスでの黄金コンビ。
バトルの的がいないので《闘門の精霊ウェルキウス》連鎖は発生しないものの、《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》に加え、≪スターゲイズ・ゲート≫とドローソースを無力化する《∞龍 ゲンムエンペラー》を出す。
《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》からは少し考え……≪ブルー・インパルス≫ケアで何も出さない。ものの、後続の展開を確保しつつ次のターンには≪天命讃華 ネバーラスト≫に龍解できる布陣を揃えてターンを返す。
《∞龍 ゲンムエンペラー》がクリティカルに刺さるデッキならこれだけでゲームが終わってしまうほどに強力な盤面だ。
しかし、このシーンこそが準備の差となって現れた。
1週間の練習の末、かいにとってこの盤面はむしろ僥倖とも呼べるものになっていた。
「このミラーマッチは基本的に先に展開しちゃダメなんです。展開を受けた側が《闘門の精霊ウェルキウス》と《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》で盤面を返す権利を得てしまうので」
「《神聖龍 エモーショナル・ハードコア》や《聖霊超王 H・アルカディアス》、僕らが採用している《氷牙君主ハイドロ・ビスマルク帝》なんかで蓋をできるなら先に展開する権利を獲得できるんですけど、《∞龍 ゲンムエンペラー》だと《ヘブンズ・ゲート》を止められない分蓋が不十分なんですよね。しかも盤面を返されたとき、《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》で回収したリソースカードを後のターンに撃てなくなってしまうので自分の首を絞めてしまいます」
「相手視点では次のターンのリーサル(決着)を見据えての動きだったと思うんですけど、こちらも盤面を返す準備ができていたので、そこが上手くかみ合いましたね」 "2024年の男"と呼べるほどに覚醒を遂げたかいは、もはやこの盤面を待っていたのだ。
チャージ後少し考えたあと、《ヘブンズ・ゲート》から《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》を2体展開。
1枚目に《覇闘将龍剣 ガイオウバーン》を装備して《闘門の精霊ウェルキウス》に対処。山札を確認したあと、1枚目のEXライフに5枚のシールドを重ねる。
2枚目の方には《邪帝斧 デッドアックス》を装備し、こちらにはシールド追加なし。
《邪帝斧 デッドアックス》のマッハファイターを用いて《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》にアタックするとき《轟く覚醒 レッドゾーン・バスター》に侵略、《∞龍 ゲンムエンペラー》の動きが止まる。
バトルに勝ったことで≪勝利の覇闘 ガイラオウ≫が龍解、《邪帝斧 デッドアックス》が《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》を呼び出し、それが《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》を呼び出しつつ、墓地の呪文2枚を回収。
結局《闘門の精霊ウェルキウス》なしでそれなりに盤面の脅威を押し付けた上で、フリーズした《∞龍 ゲンムエンペラー》を当たり先として運用できる、1ターン先にまで響く完璧な展開。
先の展開にリソースを割き、ドローソースを撃った回数の差でリソース勝負の土俵に立たされたマメ.は一気にピンチに。
結局カードをプレイできず、終了時《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》。
盤面は動かなかった。ゲームの流れは一気にかいに傾く。
そして、もうここからはこの1週間繰り返し練習した流れ。3ターンにかけての詰めが始まる。
もはや必要ないとばかりに《氷牙君主ハイドロ・ビスマルク帝》をチャージしたかいは、まずは6枚シールドの《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》で《∞龍 ゲンムエンペラー》に向かって自爆特攻。これによって一気に墓地にリソースを確保。
《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》が《∞龍 ゲンムエンペラー》攻撃時、《轟く覚醒 レッドゾーン・バスター》侵略。《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》攻撃時効果で《ブルー・インパルス / 「真実を見極めよ、ジョニー!」》の呪文側。
これが攻撃中の《轟く覚醒 レッドゾーン・バスター》、EXライフが外れた自身の《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》、相手の《∞龍 ゲンムエンペラー》を手札に送還。さらに《轟く覚醒 レッドゾーン・バスター》が相手の《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》の動きを止める。
終了時《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》で今しがた撃った≪「真実を見極めよ、ジョニー!」≫と、《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》の6枚墓地肥やしがもたらした≪♪必殺で つわものどもが 夢の跡≫を回収する。
マメ.は自身の《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》を≪「真実を見極めよ、ジョニー!」≫で対象に取ることでフリーズによる行動不能をケアしようとする。
……のだが、ここはお互いの《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》のもう1つの能力、呪文のコスト増加に引っかかってしまう。目論見が外れたマメ.は、再び《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》が棒立ちで晒されることになってしまった。
結局終了時《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》を出すのみに留まる。
的がいる状態で《ヘブンズ・ゲート》、《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》、《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》、≪♪必殺で つわものどもが 夢の跡≫がかいの手札に揃う。
これこそがこのゲームの終着点。最後の詰めに向かうべく、《ヘブンズ・ゲート》からこれらを出し、≪次元のスカイ・ジェット≫が呼び出される。
再び6枚シールドを携えた《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》の自爆で実質のデッキ掘削。
そしてこの状態で撃たれる……《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》プレイヤー攻撃時、《》!!
《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》による2回の掘削が功を奏し、ついにかいのデッキは0枚……つまり、≪♪必殺で つわものどもが 夢の跡≫によってEXターンを獲得。 かいが終着点として狙っていたのはこのルート。闇雲に攻めても硬い防御に阻まれてしまう中、最初から《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》でデッキを掘削した上での《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》による≪♪必殺で つわものどもが 夢の跡≫EXターン。
自爆特攻の的さえいれば無限ターンまで狙っていただろう。それなら、最初に制限時間後の追加ターンの処理について詳しく聞いたのも納得がいく。
2枚の《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》のEXライフが破られたことで呪文を使う権利を得たマメ.だが、この盤面に対する完璧な解答を得るにはまだ準備が必要だった。
撃たれたのは《理想と平和の決断》ドロー2回、≪「真実を見極めよ、ジョニー!」≫で自身の盤面を全てバウンス。
この状態で残りのシールドから《ヘブンズ・ゲート》を捲ることで、まだギリギリ逆転の芽を残そうとするも……。
結局、シールドから現れたのは≪「真実を見極めよ、ジョニー!」≫のみ。≪次元のスカイ・ジェット≫によって全てがスピードアタッカーとなった後続を受け止めるには、EXターンがあまりに重すぎる。
「まあ、ウチの人間ならこれくらいできます」
リーダー紅蓮が自信満々にそう語るほどに、《ヘブンズ・ゲート》を撃って以降、次々と難しい選択肢を乗り越えていった。
結局このゲームに《闘門の精霊ウェルキウス》が絡んだ枚数は0。《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》と《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》でデッキを掘り切ればここまでの到達はできる、というのが彼らの結論。
圧倒的な練習量と蓄積によって、かいがベスト32へと歩みを進めた。
WINNER:かい
そのモチベーションの源は"悔しい"という感情だ。
前年度はDMPランキングでの全国出場を惜しくも逃してしまった。それをバネに練習し続けた結果、トップクラスの【火水マジック】使いとなり、半年前のDMGP2024-1stのチーム優勝に貢献。
そしてGP王者として迎えたこの日ですら、彼のモチベーションは“悔しさ”にあった。
「2年前のDMGPではベスト64で終わってしまったんですよ。個人としてはそこが最高なので、それは絶対に超えたかった」
成長し続ける若者の快進撃は、未だ留まる気配を知らない。
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