DMGP2024-2nd Day1(アドバンス)Round 3:試験管 vs. むらまつ
ライター:林 直幸(イヌ科)
撮影:瀬尾 亜沙子
半年ぶりに顔を合わせた試験管は、なんとなく大人びて見えた。
朗らかに挨拶するむらまつに、にこやかに対応する試験管。
なんというか……試験管の所作が、半年前よりも落ち着いて見えるのだ。
シャッフルの手つきも、カードを提示する所作も、ビデオマッチに臨む雰囲気すら……
半年前とは別人になったような、まるで王者の風格すら漂わせる。
じゃんけんに負けたむらまつは「今日3回後攻なんですよね……」と笑う。
試験管も笑みを返すも、表情は一気に集中モードへ。
私は胸に抱いた違和感の正体をうまく言い表せないまま、試合が始まった。
先攻:試験管
そして、その決着は刹那的なものだった。
「すみません、行かせてもらいます」
試験管が《支配の精霊ペルフェクト / ギャラクシー・チャージャー》の呪文側で3枚のドローを重ねた次のターン。 「3マナタップ!」
むらまつのその号令によって、生命のやり取りが始まる。
これこそが、一瞬の勝負の始まりであり、その終わりを予見させる合図であった。
“今まで後攻しか取っていないにも関わらず”2-0を果たしたむらまつの携えた武器。それは、史上類を見ない"矛"の名を受け継いだ新デッキ、【火水光BAKUONSOOO】。
その性能は、凶悪さで言えば本家《BAKUOOON・ミッツァイル》以上。
たった2枚のコンボで。
除去トリガーをケアしながら。
最速3ターンキル。
少しでもカードゲームで遊んだことがある人間なら誰にでもわかるほどに暴力的なデッキである。
先手後手の差で少し遅れを取ったとしてもこの一撃は誰にも止められない。2-0という絶好のスタートを切ったむらまつは、勢いそのままに、この試合でも必殺の一撃を手札に構えていた。
それを受ける試験管。だが、その表情に曇りはない。
彼が構えた"盾"……それがこの世に放たれたのは2005年。
19年の歴史の中でより硬く。
19年の歴史の中でより柔軟に。
19年目にはついに<もうひとつの盾>すらも獲得。
デュエル・マスターズを語る上では欠かせない、由緒正しき伝統の受けデッキ、【光水ヘブンズ・ゲート】である。
いくら《頂上混成 BAKUONSOOO8th》が襲ってこようが、《ヘブンズ・ゲート》がトリガーすればそれだけで守り切ってしまえる。
それこそが試験管が構えた、絶対防御の"盾"なのだ。
攻撃時、《禁時王秘伝エンドオブランド》。返すターンの《星門の精霊アケルナル / スターゲイズ・ゲート》の呪文側を咎めたことで、ゲームの焦点はたったひとつに絞られた。
《ヘブンズ・ゲート》、《光開の精霊サイフォゲート》を踏むか、踏まないか。
「お願い!」と祈るむらまつが2枚のシールドを選択し、試験管がそれに手を伸ばす。
居合の間合いで、西部劇のように向き合う2人の矛と盾がぶつかり合う。
試験管の手が、ゆっくりと2枚のシールドを持ち上げ………… カードの向きがひっくり返るほどに、《ヘブンズ・ゲート》を勢いよく叩きつけた。
そう、それで終わりだったのだ。少し考えたあと、緊張の糸が切れたように試験管が笑い出した。
「いやー、難しすぎるなー……」
その選択肢は強すぎるが故に豊富。だからこそ、どれを選んでも盤石の選択肢。
結局選ばれたのは《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》、《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》。《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》が後続の展開を保障する《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》を展開し、《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》が追加の防御トリガーを保障する。
《頂上混成 BAKUONSOOO8th》が引き連れた《シェイク・シャーク》、《凶鬼000号 ゼロヴォイド》の《時空の禁断 レッドゾーンX》侵略でバトルゾーンに触りながらアタックすることはできるが……このままでは《真邪連結 バウ・M・ロマイオン》の効果で再度撃つことができる《ヘブンズ・ゲート》をケアすることができない。
ここからを語りすぎるのは冗長だろう。そもそものシールドに《光開の精霊サイフォゲート》が埋まっており、そこからゲームの趨勢を完全に決定づける《閃光の精霊カンビアーレ》。
≪天命讃華 ネバーラスト≫龍解、《閃光の精霊カンビアーレ》の攻撃時効果と合わせて盤面を一掃する。
絶対防御の"盾"を完成させた試験管を前に、"矛"が砕け散ったむらまつ。もう1度息を吹き返す力が残っているわけもなく、劇場は幕を下ろした。
WINNER:試験管
半年前と少し異なる印象を持った私を、試験管は当時と同じ笑顔で否定した。
「別にそんなに変わってないですよ。緊張してたんじゃないですかね?」
「(2bye明けのため)初戦が1番緊張するんですよね。その日1日の運命を占うというか……。それさえ乗り越えちゃえば、もう大丈夫です」
そういえば、実質的に勝負を決めた《ヘブンズ・ゲート》を勢いよく踏ませたあとは、普段の自分を取り戻したように気分よくカードを捌いていた気がする。
落ち着いた好青年であるという新たな一面を発見しつつも、やっぱり少しお調子者。それくらいのほうが、ディフェンディングチャンピオンにはよく似合う。
次の再会もまた半年後……彼の内面を少し知ったことで、全国大会がちょっと待ち遠しくなった。
TM and © 2024, Wizards of the Coast, Shogakukan, WHC, ShoPro, TV TOKYO © TOMY