デュエル・マスターズ

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DMGP2024-1st Day1(アドバンス)Round 5:dotto vs. くろうさ

ライター:林 直幸(イヌ科)
撮影:瀬尾 亜沙子

 カードゲームはどうしても運否天賦が絡む勝負。

 先手後手、相性、ブン回り。その他様々な要因によって、実力が絡みにくい決着というものが往々にして発生する。
 それは時として運ゲーと揶揄されるし、「運ゲーが嫌なら将棋でもやってろ」なんて冗談もよく見る。
 だけれど私を含め多くのカードゲーマーは、将棋についてよく知らない。それも込みでの冗談なのだが。

 将棋。言わずと知れた古来から伝わる日本伝統のボードゲーム。
 近年ではAIを活用した研究が進んでいるが、その力をもってしても研究が追い付かないほど難解なゲームとして知られる。
 先手後手の差こそあれど運否天賦で決着がつきにくい。将棋には明るくない人でも、この共通認識を持っているだろう。

 では、将棋の達人がカードゲームに取り組んだときにどうなるのか。
 誰もが気になるその真相に、1人の男が迫っていた。



 #フィーチャーme にてその経歴を見たときのライターチームの驚きは言うまでもない。
 日本将棋連盟アマチュア三段、将棋ウォーズ五段。一説には東大合格レベルの難易度を誇る肩書を持つ、プロ棋士にも匹敵する棋力の持ち主である。
 私たちが《芸魔王将 カクメイジン》を出されてテーブルをひっくり返してる間に、このくろうさは自らの王将を穴熊で守り飛車角で相手の玉将を狙う生活をしてきた。彼の前では軽々しく将棋を語ることすら憚られるほど、将棋にその人生を捧げてきた男だ。
 ここまで全勝とその肩書きに恥じぬ実力を発揮し、フィーチャーテーブルにやってきた。

 そんな彼が全勝卓で対峙するのは、正真正銘のプロカードゲーマー、dottoである。  中学生の時分からその名を全国に轟かせ、圧倒的実力を見せつけた全国大会2017の活躍をモチーフにした商品が生まれ、"魔王"の二つ名を持つ、デュエマにおける生きる伝説の1人。
 最近は公式YouTubeチャンネル「デュエチューブ」にまで活動の幅を広げており、正真正銘カードゲームで飯を食える、その姿はまさにプロカードゲーマーである。

 棋士が本気でカードゲームに取り組み、その研究成果をプロカードゲーマーにぶつける、まさに相手の土俵に乗り込んでの異種格闘技戦。
 くろうさの先攻で、最高峰の頭脳戦が幕を開けた。
 決着ののち、棋士はこう語った。

「(レギュレーションが異なる)明日のチーム戦に向けて練習していたので、今日頭を使うデッキを使ってもうまい人には勝てないと思ったんですよね」

「だから、運で勝ちに行こう、と」  先攻3ターン目、高コストカードばかり置かれたマナゾーンから繰り出されたのは、《龍世界 ~龍の降臨する地~》
 ランダムにデッキトップから落とされた高コストドラゴンの力で薙ぎ倒す【龍世界】デッキ。それはまさに頭脳戦とはかけ離れた、運否天賦に身を任せた究極のガチャデッキである。

 これは何も悪い選択ではない。
 彼が語るように、埋めがたい実力差を覆す手っ取り早い方法は自身の上ブレを押し付けること。それが色濃く出る【龍世界】デッキは合理的な選択肢の1つとも言える。
 トッププレイヤー間では、実は環境デッキの【ドルマゲドン】や【巨大天門】に有利を取っているという評もあり、dottoにとっては当たりたくない、最も厄介なデッキの1つであることに間違いない。

 そして、dottoはこの《龍世界 ~龍の降臨する地~》に対する答えを持ち合わせていない。自らの足回りを整える《配球の超人 / 記録的剛球》《ハニー=マーガニー / 「こっちは甘いぞー」》の呪文側をプレイするのみで、4ターン目踏み倒しを妨害することはできなかった。
 4ターン目、緊張が走る中捲られたデッキトップは……《龍世界 ~龍の降臨する地~》。ここは踏み倒しに失敗。
 だが、最新の【龍世界】デッキにはさらなる二の矢が用意されている。4マナを支払い、ゲーム開始時に置かれていた《禁断 ~封印されしX~》を対象とした《水晶転生》!!
 実質ノーコストで放たれる必殺の一撃。デッキトップから捲られたのは……  デュエマを代表するカードの1枚。運否天賦要素の塊とも言える、最凶の元殿堂カード。
 くろうさの盤面に降り立ったカードの名は、《勝利宣言 鬼丸「覇」》!!




 この瞬間、私の脳裏には様々な景色がよぎった。

 ひとつ、10年ごろ前に《ミステリー・キューブ》から《勝利宣言 鬼丸「覇」》を出す運要素が強いデッキが環境を席捲していたころ。
 このデッキを嫌悪していた当時のプレイヤーたちは、口を揃えて面白おかしくこう叫んでいた。

「デュエマは頭脳の格闘技!覇ァ!」

 見ているか、運ゲーを嫌う全てのプレイヤーよ。
 見ているか、将棋をやっている人はきっと運なんかに頼らないと思い込んでいる全てのプレイヤーよ。  今、私の目の前で、トップ棋士がプロカードゲーマーに対して。
 《勝利宣言 鬼丸「覇」》による頭脳の格闘技で、真っ向勝負を挑んでいる。

 もうひとつ、デュエマ界の生ける伝説であるdottoについて。
 ポーカーフェイスから繰り出される圧倒的な強さ、それに奢らぬ謙虚かつストイックな性格。
 その姿に多くのプレイヤーが憧れ、いつしかその伝説は全盛期のイチローよろしく、「3戦5勝は当たり前」「先攻ワンターンキルも日常茶飯事」「ダイレクトアタックを受けたにも関わらずCS優勝」と大量の尾ひれをつけた状態で流布されることとなった。

 そんなdottoでも勝てないものがある。4ターン目に踏み倒された《勝利宣言 鬼丸「覇」》である。
 かつて《ミステリー・キューブ》デッキが流行っていた頃、「dottoさんが4ターン目《勝利宣言 鬼丸「覇」》に負けてる姿を見てやっぱり同じ人間なんだなあと思った」というプレイヤーの声を聞いたことがある。
 それほどにdottoの存在は当時から神格化されており、それ以上に《勝利宣言 鬼丸「覇」》の強さは多くのプレイヤーに恐怖を植え付けてきた。
 神をも地上に叩き落す最凶のカード。10年の時を経て、dottoはまた頭脳の格闘技に身を投じることになった。

【龍世界】デッキはその大半を高コストドラゴンで固めていることもあり、ガチンコ・ジャッジに関しては無類の強さを誇る。事実、この時点でくろうさは勝ちを確信していた。
 運命の《勝利宣言 鬼丸「覇」》の攻撃。くろうさは《ボルシャックライシス・NEX》の15コストを見せつけ、まず1回目の追加ターンを獲得。
 いくらdottoでも《勝利宣言 鬼丸「覇」》に3回殴られたら勝てないのだ。心なしかいつもよりも弱弱しく見えた手つきで、3枚のシールドをチェックする。


「逆転こそが、カードゲームだ。」

 今年のデュエル・マスターズのスローガンである。
 古くは《ホーリー・スパーク》《デーモン・ハンド》に代表される、シールド・トリガーによる大逆転こそがこのゲームの醍醐味だ。
 デュエマが世に放たれてから23年。近所の公園、カードショップ、全国大会。数々の場所で繰り広げられる名勝負は、時としてとんでもない大逆転に彩られていた。

 その半生をデュエマに捧げた男は、このGPの場でまたひとつの大逆転を生み出した。  加えたシールドには、≪「真実を見極めよ、ジョニー!」≫《忍蛇の聖沌 c0br4》!!
 くろうさの唯一の攻め手となる《勝利宣言 鬼丸「覇」》を≪「真実を見極めよ、ジョニー!」≫が手札に送還する。
《忍蛇の聖沌 c0br4》効果で繰り出されるのは《アーテル・ゴルギーニ》
 墓地肥やしと蘇生の効果が解決され、【龍世界】デッキのメインギミックを完封する《キャディ・ビートル》に辿り着く。
 シールド・トリガー2枚による完璧なカウンター。《勝利宣言 鬼丸「覇」》がもたらした追加ターンがあったとしても、くろうさに最早できることはなかった。

 dottoが大きく息を吐き、「よし」と呟いた。
 一連の所作はカードが全く動いていないにも関わらず、その場にいる全員にdottoの勝利を確信させるものだった。

 ターンが渡ったdottoは5マナ目をチャージし、それらを全てタップ。墓地から7枚の進化元を携えた切り札、《超神星DOOM・ドラゲリオン》が盤面に降り立つ。
 攻撃時《復活の祈祷師ザビ・ミラ》から《超神星DOOM・ドラゲリオン》の攻撃をキャンセルしつつ、フィニッシャーである≪勝利の頂上 ヴォルグ・イソレイト6th≫を完成させる。

 詰めろが見えた。しかし棋士は最後の最後まで「負けました」とは言わなかった。dottoも人間、ひとつでもミスが生じればまだトリガーによる逆転が見える。
 しかし、dottoは完璧だった。≪勝利の頂上 ヴォルグ・イソレイト6th≫の攻撃時に呼び出された《復活の祈祷師ザビ・ミラ》が攻撃をキャンセルすることで、くろうさのシールドには一切触れることなく、淡々とループの準備を整えていく。
 ここからの逆転は、誰をもってしても不可能。

 ついに《ツタンメカーネン》ループが証明され、くろうさがデッキを全て引ききる。
 棋士は魔王の前に倒れ、dottoが5回戦を全勝で折り返した。

Winner:dotto

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