全国大会2018 準々決勝:ギラサキ(滋賀) vs. いわな(東京)
35,000人から40人。40人から8人。
2ブロックレギュレーション、殿堂レギュレーションによる予選を経て、今年の日本一を決める戦いに残るプレイヤーも8人にまで絞り込まれた。
そこにかかっている重みとデュエマへの真摯さは、普段のCSの比ではない。
そして、その内の2人が今、日本一の頂を目指すべくこの卓に座っている。
一人はギラサキ。前年度王者dottoと共に「関西の双璧」と並び称される、関西を代表するトーナメントプレイヤーだ。
もう一人はいわな。最大の激戦区である関東大会を見事勝ち抜いてここまで来た、古くから戦い続ける関東の古豪だ。
日本一が現実的に見えてきたここにきて、この面子。流石にヒリついているかと思ったが、筆者が卓に向かうとそんなことは全くなかった。
「ここまで勝てているのは完全にちゃそさん恩恵なんだよね」と、前年度準優勝のちゃそ激推しで意気投合する二人。
そこから暫くプレイヤー談義であったり、会場に遊びに来ていた当のちゃそを見つけて呼びかけたりしていたが、先手後手のアナウンスを合図にそこまでの和やかな雰囲気が一気に静まり返る。
日本一まで、あと3回。
予選順位上位のため先手となるギラサキは、素早いテンポで《名犬機 ワンコピー/ 101匹コピット大冒険》《》をマナチャージし、《ヤッタレマン》を召喚する。『自然ジョーカーズ』だ。
対する後手のいわなは逆に少考を挟みつつ《奇天烈 シャッフ》《水晶の記録 ゼノシャーク/クリスタル・メモリー》をマナチャージするのみ。こちらは青しか見えていないが『火水覇道』らしい。
3ターン目になり、軽快だったギラサキの手がピタッと止まる。ここからのプランを模索するように少し手札を見つめ、マナチャージから《メイプル超もみ人》を召喚し、ターンを返した。
それに対していわなは自分のペースを崩さない。またも少考した後、マナチャージし≪マグナム・ルピア≫を召喚。
次の4ターン目《ジョット・ガン・ジョラゴン》こそ封じられたものの、ギラサキは我関せずとばかりに《ガヨウ神》《ヤッタレマン》を召喚し、更に手札と盤面を伸ばす。
いわなもまた今後を見据え≪クリスタル・メモリー≫を発動し、山札を1回見返すのみのあっさりした動作でカードを1枚手札に加えた。
5ターン目、《メイプル超もみ人》を召喚したことによってギラサキのマナがついに7マナに届いた。
……が、どうやら《ジョット・ガン・ジョラゴン》は無いらしい。そして「ならば探しに行けばいい」と言うように次に召喚したのは《ソーナンデス》。
ノータイムで≪マグナム・ルピア≫に殴りに行き、《》にJチェンジする。
効果で出てきたのは《ポクチンちん》。一番嫌ではないにしろ、これはこれで『赤青覇道』にとっては厳しい。
更に指で机を叩き今後のプランを考えるギラサキ。長考の末《ソーナンデス》の効果で手札を捨てつつもう1枚あった《》を回収、≪マグナム・ルピア≫を討ち取り《ガヨウ神》でシールドを1枚ブレイクした。
《ジョット・ガン・ジョラゴン》に頼らず殴り切る構えだ。
この時点でいわなの盤面は0、対してギラサキの盤面は《ヤッタレマン》《ヤッタレマン》《メイプル超もみ人》《メイプル超もみ人》《ガヨウ神》《ポクチンちん》≪キング・ザ・スロットン7≫、と絶望的に開いている。ギラサキが「これなら殴り切れる」と踏んだのも道理だろう。
だが、その圧倒的な戦力差故のほんの僅かな慢心がギラサキにはあった。今タップされているのはパワー“4000”の《ガヨウ神》なのだ。
そしてそれを見逃すいわなではなかった。ターンが帰ってきたいわなはマナチャージし、すぐさま≪ゴリガン砕車 ゴルドーザ≫を召喚!
そのまま《ガヨウ神》に突撃し相打ち破壊、そのラストバーストにより≪ダイナマウス・スクラッパー≫を発動し、目下処理が必須だった《ポクチンちん》を含めて《ヤッタレマン》《メイプル超もみ人》と、半分以上のクリーチャーが吹き飛ぶ。
これにはギラサキも堪らずターンが戻った後も何度も「ミスった」と呟いているが、まだ攻め手は切れていない。
6ターン目、先程回収した≪キング・ザ・スロットン7≫を召喚、効果で《ソーナンデス》を出しもう一度殴り切るだけの打点を確保した。
そしてその《ソーナンデス》でWブレイク。トリガーはない。
更に元居た≪キング・ザ・スロットン7≫で残りのシールド2枚をブレイクしにいく。
《ドンドン吸い込むナウ》程度じゃ足りない。絶対の窮地だったが、ここまで追い詰められてもいわなは全くもって冷静だった。
4ターン目にデッキを確認した時点で、これさえ知っていればよかったのだ。そうすれば≪マグナム・ルピア≫で時間を稼ぎ、≪ダイナマウス・スクラッパー≫でメタクリーチャーを処理し、先に殴られる所まで“全てを見通すことができる”。
その綿密なプランニングの結果がここにあった。Sトリガー、《終末の時計 ザ・クロック》!
時が止まり、いわなにターンが渡る。目の上のたんこぶだった《ポクチンちん》もいない。反撃開始だ。
マナチャージをし、まずは《異端流し オニカマス》を召喚。
そして3マナを支払い手札を1枚捨て、「これでもくらえ」とばかりに《“必駆”蛮触礼亞》をB.A.D!そして出てくるのは当然《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》!
捨てたカードが≪ゴリガン砕車 ゴルドーザ≫のため後続を抱えているのは確定的に明らか。
そして、この後出てくるであろうスピードアタッカー達を含めた過剰打点を止め切る事は、受けの薄い『自然ジョーカーズ』には絶望的に難しい。
こうなること全てを予想して動いていたのであろうハンドキープだ。日本一を決めるこの大会でもきっちり予選を勝ち抜いて来れる実力を持っている。
そして動き出す《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》。Wブレイクされるギラサキのシールド。
この2枚でなんとかするしかない。
その強い意志を現わすかのように、ギラサキは捲ったカードの内1枚を勢いよく叩きつけた。
《》だ。
相手のデッキを3枚表向きにして、その中にあるカードのコストのクリーチャーをデッキの下に送るSトリガーだが、処理しなければならない《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》は既に2枚が見えている。デッキはまだ厚い上、勿論そんな高コストのカードはこれ以外に入っていない。
捲れる筈がない、と訝しむだろうか。普通無理だろと笑い飛ばすだろうか。
だが、“時に強い意志はその希望すら引き寄せる”。
いざ、勝負の時。
いわながカードを3枚表向きにする。
その中には、赤くて左上に「10」とあるカードが確かにあり。
ギラサキが力強く「よしっ」と呟くのを受けて、いわなは天を仰いで投了を宣言した。
ギラサキ 1-0 いわな
自分のデッキをシャッフルしながら「あぶな」と胸を撫で下すギラサキと、しきりに「まじか」と呟くいわな。
それもそのはず、盤面だけ見るなら3枚目の《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》だったが、いわなは更にもう1枚を手札に握っていたのだ。
そしてこの時見えていた《》も全部合わせて3枚。
つまり最後の1枚の《》を盾から引き当て、最後の1枚の《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》を捲ってみせたことになる。
自身がインタビューで語る通り正に「主人公」としか言いようのない逆転の仕方だ。
もっとも、彼らの言葉を借りるならばこれも「ちゃそ恩恵」という程度のものなのかもしれないが。
だがギラサキを主人公と呼ぶのなら、いわなにとってもまた自分自身が主人公なのだ。
普段からあまりCSなどに出られない彼は、エリアを優勝してからこの日本一決定戦一本に的を絞って関東の古豪グループでずっと調整を重ねてきた。
そして最後にその仲間である東北のあーに託されたリストを手にして、top8唯一の『火水覇道』として今、この場所に座っている。
仲間たちに報いるためにも、負けられない。
その想いからだろうか。先程までの不運を嘆く呟きは、シールドを並び終わる頃にはピタリと止まっていた。
先手となるいわなは1、2ターン目をマナチャージで終え、3ターン目も≪水晶の記録 ゼノシャーク≫召喚という静かな立ち上がり。
対して後手のギラサキは、2ターン目に《タイク・タイソンズ》召喚からの3ターン目《メイプル超もみ人》チャージ《ポクチンちん》召喚、さらに《タイク・タイソンズ》でアタックしながら、先程埋めた《メイプル超もみ人》にJチェンジし2ブーストを決めるというロケットスタートだ。
ブレイクしたシールドから《終末の時計 ザ・クロック》がSトリガーするが、些細な問題でしかない。
だが、ここにきていわなの動きにもアクセルがかかる。4ターン目、3マナでB.A.D《“必駆”蛮触礼亞》を発動、《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》を呼び出し効果によって《ポクチンちん》を破壊。
《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》はデッキ下に送られてしまうが、それも只のお膳立てでしかなかった。最後の1枚の手札からG.G.G、《“轟轟轟”ブランド》が降臨する!
1枚ドローして逡巡した後、それを捨てて《メイプル超もみ人》をも破壊。
そして≪水晶の記録 ゼノシャーク≫のアタックを皮切りに、《終末の時計 ザ・クロック》《“轟轟轟”ブランド》が次々とギラサキのシールドに襲い掛かる!
トリガーもなく、あれよあれよという間にシールドを1にまで減らされてしまった。
思わず「きっつ」と呟くギラサキだったが、次のアクションには淀みが無かった。
《ソーナンデス》を召喚し、アタックしながらマナゾーンにある《ジョット・ガン・ジョラゴン》にJチェンジ。
離れた時の効果で手札の《ガヨウ神》を捨てつつマナゾーンの《》を回収し、そして《ガヨウ神》効果ですぐさま捨てる。これで強いクリーチャーが出ないと一転窮地に追い込まれるが……
そんな心配は1本目を圧倒的な主人公っぷりで乗り越えたギラサキには無用だった。バトルゾーンに出たのは満を持しての《ジョット・ガン・ジョラゴン》2体目!!
そのまま《“轟轟轟”ブランド》を討ち取り、2体目の《ジョット・ガン・ジョラゴン》が動きだすと、ここでも捨てられた《ガヨウ神》から《アイアン・マンハッタン》、そしてこのドローで引いた《燃えるデット・ソード》が捨てられる。
思わず唇を噛みしめるいわな。
効果により盤面が吹き飛び、マナゾーンが1になったせいで次のターンに殴りこむこともできなくなった。そこまで詰めてから解決される《アイアン・マンハッタン》の3枚ブレイク。
祈るように3枚のシールドを捲るが、そこに「Sトリガー」の文字はなく。
そこから先はもう、やりたい放題だった。溜め続けられるストック。奪われる手札とマナ。増えるギラサキの盤面。
完全なループになどなっていなくても、元々リソースの薄いいわなを締め上げるのは簡単なのだ。
そして最後に《ジョット・ガン・ジョラゴン》のWブレイクが通ると、いわなは自分という主人公を倒したもう一人の「主人公」を讃えるのだった。
ギラサキ 2-0 いわな
「大きい大会で1位を取った事、まだないんですよね。」
試合後の感想戦でギラサキはそう語る。
第1弾が出てからの15年といういわなにも引けを取らない膨大なキャリアの中で、その「1位」の最大のチャンスが今訪れているのだ。
「いい加減勝ってください」と激励するいわな。「いい加減勝ちます」と返すギラサキ。
そこには、「あなたにとって、デュエマとはなんですか?」との問いに、2人とも「人生」と答えたというその情熱に共感する部分があったように思う。
次の試合が始まるアナウンスが流れた時、いわなは清々しい笑顔で「頑張ってください、応援してます」と、ギラサキを次の戦いへ送り出した。
日本一まで、あと2回。
Winner:ギラサキ
2ブロックレギュレーション、殿堂レギュレーションによる予選を経て、今年の日本一を決める戦いに残るプレイヤーも8人にまで絞り込まれた。
そこにかかっている重みとデュエマへの真摯さは、普段のCSの比ではない。
そして、その内の2人が今、日本一の頂を目指すべくこの卓に座っている。
一人はギラサキ。前年度王者dottoと共に「関西の双璧」と並び称される、関西を代表するトーナメントプレイヤーだ。
もう一人はいわな。最大の激戦区である関東大会を見事勝ち抜いてここまで来た、古くから戦い続ける関東の古豪だ。
日本一が現実的に見えてきたここにきて、この面子。流石にヒリついているかと思ったが、筆者が卓に向かうとそんなことは全くなかった。
「ここまで勝てているのは完全にちゃそさん恩恵なんだよね」と、前年度準優勝のちゃそ激推しで意気投合する二人。
そこから暫くプレイヤー談義であったり、会場に遊びに来ていた当のちゃそを見つけて呼びかけたりしていたが、先手後手のアナウンスを合図にそこまでの和やかな雰囲気が一気に静まり返る。
日本一まで、あと3回。
Game1
先攻:ギラサキ予選順位上位のため先手となるギラサキは、素早いテンポで《名犬機 ワンコピー/ 101匹コピット大冒険》《》をマナチャージし、《ヤッタレマン》を召喚する。『自然ジョーカーズ』だ。
対する後手のいわなは逆に少考を挟みつつ《奇天烈 シャッフ》《水晶の記録 ゼノシャーク/クリスタル・メモリー》をマナチャージするのみ。こちらは青しか見えていないが『火水覇道』らしい。
3ターン目になり、軽快だったギラサキの手がピタッと止まる。ここからのプランを模索するように少し手札を見つめ、マナチャージから《メイプル超もみ人》を召喚し、ターンを返した。
それに対していわなは自分のペースを崩さない。またも少考した後、マナチャージし≪マグナム・ルピア≫を召喚。
次の4ターン目《ジョット・ガン・ジョラゴン》こそ封じられたものの、ギラサキは我関せずとばかりに《ガヨウ神》《ヤッタレマン》を召喚し、更に手札と盤面を伸ばす。
いわなもまた今後を見据え≪クリスタル・メモリー≫を発動し、山札を1回見返すのみのあっさりした動作でカードを1枚手札に加えた。
5ターン目、《メイプル超もみ人》を召喚したことによってギラサキのマナがついに7マナに届いた。
……が、どうやら《ジョット・ガン・ジョラゴン》は無いらしい。そして「ならば探しに行けばいい」と言うように次に召喚したのは《ソーナンデス》。
ノータイムで≪マグナム・ルピア≫に殴りに行き、《》にJチェンジする。
効果で出てきたのは《ポクチンちん》。一番嫌ではないにしろ、これはこれで『赤青覇道』にとっては厳しい。
更に指で机を叩き今後のプランを考えるギラサキ。長考の末《ソーナンデス》の効果で手札を捨てつつもう1枚あった《》を回収、≪マグナム・ルピア≫を討ち取り《ガヨウ神》でシールドを1枚ブレイクした。
《ジョット・ガン・ジョラゴン》に頼らず殴り切る構えだ。
この時点でいわなの盤面は0、対してギラサキの盤面は《ヤッタレマン》《ヤッタレマン》《メイプル超もみ人》《メイプル超もみ人》《ガヨウ神》《ポクチンちん》≪キング・ザ・スロットン7≫、と絶望的に開いている。ギラサキが「これなら殴り切れる」と踏んだのも道理だろう。
だが、その圧倒的な戦力差故のほんの僅かな慢心がギラサキにはあった。今タップされているのはパワー“4000”の《ガヨウ神》なのだ。
そしてそれを見逃すいわなではなかった。ターンが帰ってきたいわなはマナチャージし、すぐさま≪ゴリガン砕車 ゴルドーザ≫を召喚!
そのまま《ガヨウ神》に突撃し相打ち破壊、そのラストバーストにより≪ダイナマウス・スクラッパー≫を発動し、目下処理が必須だった《ポクチンちん》を含めて《ヤッタレマン》《メイプル超もみ人》と、半分以上のクリーチャーが吹き飛ぶ。
これにはギラサキも堪らずターンが戻った後も何度も「ミスった」と呟いているが、まだ攻め手は切れていない。
6ターン目、先程回収した≪キング・ザ・スロットン7≫を召喚、効果で《ソーナンデス》を出しもう一度殴り切るだけの打点を確保した。
そしてその《ソーナンデス》でWブレイク。トリガーはない。
更に元居た≪キング・ザ・スロットン7≫で残りのシールド2枚をブレイクしにいく。
《ドンドン吸い込むナウ》程度じゃ足りない。絶対の窮地だったが、ここまで追い詰められてもいわなは全くもって冷静だった。
4ターン目にデッキを確認した時点で、これさえ知っていればよかったのだ。そうすれば≪マグナム・ルピア≫で時間を稼ぎ、≪ダイナマウス・スクラッパー≫でメタクリーチャーを処理し、先に殴られる所まで“全てを見通すことができる”。
その綿密なプランニングの結果がここにあった。Sトリガー、《終末の時計 ザ・クロック》!
時が止まり、いわなにターンが渡る。目の上のたんこぶだった《ポクチンちん》もいない。反撃開始だ。
マナチャージをし、まずは《異端流し オニカマス》を召喚。
そして3マナを支払い手札を1枚捨て、「これでもくらえ」とばかりに《“必駆”蛮触礼亞》をB.A.D!そして出てくるのは当然《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》!
捨てたカードが≪ゴリガン砕車 ゴルドーザ≫のため後続を抱えているのは確定的に明らか。
そして、この後出てくるであろうスピードアタッカー達を含めた過剰打点を止め切る事は、受けの薄い『自然ジョーカーズ』には絶望的に難しい。
こうなること全てを予想して動いていたのであろうハンドキープだ。日本一を決めるこの大会でもきっちり予選を勝ち抜いて来れる実力を持っている。
そして動き出す《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》。Wブレイクされるギラサキのシールド。
この2枚でなんとかするしかない。
その強い意志を現わすかのように、ギラサキは捲ったカードの内1枚を勢いよく叩きつけた。
《》だ。
相手のデッキを3枚表向きにして、その中にあるカードのコストのクリーチャーをデッキの下に送るSトリガーだが、処理しなければならない《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》は既に2枚が見えている。デッキはまだ厚い上、勿論そんな高コストのカードはこれ以外に入っていない。
捲れる筈がない、と訝しむだろうか。普通無理だろと笑い飛ばすだろうか。
だが、“時に強い意志はその希望すら引き寄せる”。
いざ、勝負の時。
いわながカードを3枚表向きにする。
その中には、赤くて左上に「10」とあるカードが確かにあり。
ギラサキが力強く「よしっ」と呟くのを受けて、いわなは天を仰いで投了を宣言した。
ギラサキ 1-0 いわな
自分のデッキをシャッフルしながら「あぶな」と胸を撫で下すギラサキと、しきりに「まじか」と呟くいわな。
それもそのはず、盤面だけ見るなら3枚目の《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》だったが、いわなは更にもう1枚を手札に握っていたのだ。
そしてこの時見えていた《》も全部合わせて3枚。
つまり最後の1枚の《》を盾から引き当て、最後の1枚の《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》を捲ってみせたことになる。
自身がインタビューで語る通り正に「主人公」としか言いようのない逆転の仕方だ。
もっとも、彼らの言葉を借りるならばこれも「ちゃそ恩恵」という程度のものなのかもしれないが。
だがギラサキを主人公と呼ぶのなら、いわなにとってもまた自分自身が主人公なのだ。
普段からあまりCSなどに出られない彼は、エリアを優勝してからこの日本一決定戦一本に的を絞って関東の古豪グループでずっと調整を重ねてきた。
そして最後にその仲間である東北のあーに託されたリストを手にして、top8唯一の『火水覇道』として今、この場所に座っている。
仲間たちに報いるためにも、負けられない。
その想いからだろうか。先程までの不運を嘆く呟きは、シールドを並び終わる頃にはピタリと止まっていた。
Game2
先攻:いわな先手となるいわなは1、2ターン目をマナチャージで終え、3ターン目も≪水晶の記録 ゼノシャーク≫召喚という静かな立ち上がり。
対して後手のギラサキは、2ターン目に《タイク・タイソンズ》召喚からの3ターン目《メイプル超もみ人》チャージ《ポクチンちん》召喚、さらに《タイク・タイソンズ》でアタックしながら、先程埋めた《メイプル超もみ人》にJチェンジし2ブーストを決めるというロケットスタートだ。
ブレイクしたシールドから《終末の時計 ザ・クロック》がSトリガーするが、些細な問題でしかない。
だが、ここにきていわなの動きにもアクセルがかかる。4ターン目、3マナでB.A.D《“必駆”蛮触礼亞》を発動、《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》を呼び出し効果によって《ポクチンちん》を破壊。
《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》はデッキ下に送られてしまうが、それも只のお膳立てでしかなかった。最後の1枚の手札からG.G.G、《“轟轟轟”ブランド》が降臨する!
1枚ドローして逡巡した後、それを捨てて《メイプル超もみ人》をも破壊。
そして≪水晶の記録 ゼノシャーク≫のアタックを皮切りに、《終末の時計 ザ・クロック》《“轟轟轟”ブランド》が次々とギラサキのシールドに襲い掛かる!
トリガーもなく、あれよあれよという間にシールドを1にまで減らされてしまった。
思わず「きっつ」と呟くギラサキだったが、次のアクションには淀みが無かった。
《ソーナンデス》を召喚し、アタックしながらマナゾーンにある《ジョット・ガン・ジョラゴン》にJチェンジ。
離れた時の効果で手札の《ガヨウ神》を捨てつつマナゾーンの《》を回収し、そして《ガヨウ神》効果ですぐさま捨てる。これで強いクリーチャーが出ないと一転窮地に追い込まれるが……
そんな心配は1本目を圧倒的な主人公っぷりで乗り越えたギラサキには無用だった。バトルゾーンに出たのは満を持しての《ジョット・ガン・ジョラゴン》2体目!!
そのまま《“轟轟轟”ブランド》を討ち取り、2体目の《ジョット・ガン・ジョラゴン》が動きだすと、ここでも捨てられた《ガヨウ神》から《アイアン・マンハッタン》、そしてこのドローで引いた《燃えるデット・ソード》が捨てられる。
思わず唇を噛みしめるいわな。
効果により盤面が吹き飛び、マナゾーンが1になったせいで次のターンに殴りこむこともできなくなった。そこまで詰めてから解決される《アイアン・マンハッタン》の3枚ブレイク。
祈るように3枚のシールドを捲るが、そこに「Sトリガー」の文字はなく。
そこから先はもう、やりたい放題だった。溜め続けられるストック。奪われる手札とマナ。増えるギラサキの盤面。
完全なループになどなっていなくても、元々リソースの薄いいわなを締め上げるのは簡単なのだ。
そして最後に《ジョット・ガン・ジョラゴン》のWブレイクが通ると、いわなは自分という主人公を倒したもう一人の「主人公」を讃えるのだった。
ギラサキ 2-0 いわな
「大きい大会で1位を取った事、まだないんですよね。」
試合後の感想戦でギラサキはそう語る。
第1弾が出てからの15年といういわなにも引けを取らない膨大なキャリアの中で、その「1位」の最大のチャンスが今訪れているのだ。
「いい加減勝ってください」と激励するいわな。「いい加減勝ちます」と返すギラサキ。
そこには、「あなたにとって、デュエマとはなんですか?」との問いに、2人とも「人生」と答えたというその情熱に共感する部分があったように思う。
次の試合が始まるアナウンスが流れた時、いわなは清々しい笑顔で「頑張ってください、応援してます」と、ギラサキを次の戦いへ送り出した。
日本一まで、あと2回。
Winner:ギラサキ
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