デュエル・マスターズ

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超CSV新潟 準決勝:ユウキング/わいきん vs. そん

ライター:伊藤 敦(まつがん)
撮影者:堀川 優一(アノアデザイン)

 ループデッキというのは、一つの芸術作品だ。

 DMGP-1stで優勝した垣根の「イメンループ」やDMGP-2ndで優勝したせいなの「マーシャルループ」、DMGP-9thで優勝したイヌ科の「カリヤドネループ」など、デュエマの大型イベントの歴史を語るのにループデッキの存在は欠かせない。

 競技シーンのデュエマにおいて特に複雑な判断を要する最終盤の駆け引き。どのクリーチャーで、どんな順番で、どのシールドをブレイクするのか……相手のデッキの種類数まで考えれば現出しうるパターンは数万にも及ぶであろう、それらすべての局面ごとの判断を一切省略して、事前に家で練習した通りの手順を踏むだけで、対戦相手のデッキにかかわらず一方的な勝利を収めることができる。それがループデッキの最大の強みだ。

 だが、そこには当然代価もある。ループ証明だ。

 手順が増え、局面ごとの分岐と対応が盤石になればなるほど、ループ証明を過つリスクは高くなる。

 だから一流のループ使いたちは、時にループ証明だけに絞って繰り返し研鑽を積む。どんな相手にも、そしてどんな状況でも、丁寧かつ正確にループ証明を行うために。

 気づけば、最初は2087名いたプレイヤーも、今や残すところあと4名のみとなった。

 この準決勝で実現したのは、現代最強のループデッキ同士の同型対決

 トップ8に残っていたたった2名だけの「サガループ」使いは、そのどちらもが、ループ証明が最も難解とされる「ダンタルサガ」型の使い手だった。

 フィーチャーテーブルに座る、その対戦者2人。準々決勝でループ証明に手こずり、疲労困憊といった様子のユウキング/わいきんに対し、一足早く準々決勝の試合を終えていたそんが話しかける。

そん「よくTwitterとかでお名前拝見するんですけど、やっぱり疲れます?」

ユウキング/わいきん「……疲れます」

そん「良かったです (?)」

 噛み合わないやりとりはおそらく、当たり前のことをわざわざ聞いてくるなよと疲れのあまりに塩対応のユウキング/わいきんを見て、そんが気を遣って引いただけなのだろうが、省略された言葉まで想像すると、もしかすると次のような意味だったのかもしれない。

そん人間で良かったです

 超CSでは、年度末に行われその年度の総決算となる招待制の少人数大会である日本一決定戦の権利が、優勝者1名のみに授与される。

 2019年の東海エリア予選を突破したユウキング/わいきんは、度重なる延期の果てに2022年6月に開催された日本一決定戦2019で、オリジナル・アドバンスともに当時活躍していたループデッキを独自にチューンした「キリコ・グラスパー」を使用したものの、無念の予選敗退という結果に終わった。

 その残り火が、置いてきたトロフィーの幻影が、今もまだ心の中で燻っている。

 だからユウキング/わいきんはここまで勝ち上がってきた。《絶望神サガ》の発売後に間もなく開発された「ダンタルサガ」を4ヶ月もの間CSで使い続けた結果、もはやその精度は誰もたどり着けない領域にまで至っていた。

 今度こそ、トロフィーを勝ち取るために。  優勝まで、日本一決定戦まで、あと2勝。

 最強のループ使いを決めるための一戦が、静かに幕を開けた。

Game 1

 予選順位差で先攻となったユウキング/わいきんの初手は驚愕の内容だった。

 《絶望神サガ》2枚に《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》3枚という、ポーカーならフルハウスとなる手札。だが、もちろんデュエマはこれを公開して即勝利というようなルールではないため、ここからマナチャージの2択を考える必要がある。

 とはいえ、何千回何万回と試行したであろう一人回しと対戦の中には当然既にこれも含まれていたはずだ。それに《絶望神サガ》がデッキの中に4枚しかない以上、ここで1枚手放して3枚目に出会える保証はない。加えて2ターン目《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》スタートなら、連続でのクリーチャー落としと水文明ドローが条件だが、先攻4ターン目にサガループに入れる可能性がある。

 宙を見上げながら行ってこいで指を動かし、4ターン目の開始時には墓地にクリーチャーが2枚溜まりうることを頭の中で丁寧に確認したユウキング/わいきんは、《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》をチャージしてターンを終える。

 対するそんはサガループ同型で確実に不要であろう《“乱振”舞神 G・W・D》をチャージしてターンエンド。

ユウキング/わいきん「……考えますね」

 続く先攻2ターン目のドローは《龍装者“JET”レミング/ローレンツ・タイフーン》。水文明はありがたいものの、多色は痛い。この時点で《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》を3枚も使ってしまうことにはリスクもある。どうするか。  ここでユウキング/わいきんは悩んだ末に、当初のプラン通り《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》チャージからの《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》召喚を選択。ターン終了時の効果で落ちたのは《疾封怒闘 キューブリック》で、あとは次のターンに《龍装者“JET”レミング/ローレンツ・タイフーン》をマナチャージしつつ再びクリーチャーが落とせれば、先攻4ターン目の勝利も狙えるという状況だ。

 ……いや、もう一つクリアしなければならない条件があった。それは「そんに後攻3キルされないこと」だ。

 後攻2ターン目を迎えたそんは《氷牙レオポル・ディーネ公 / エマージェンシー・タイフーン》チャージから《龍装者“JET”レミング/ローレンツ・タイフーン》を唱えて《邪神M・ロマノフ》を落とす。1ターン目のチャージが《“乱振”舞神 G・W・D》だったことから、闇単色に《絶望神サガ》2枚という手札内容になっている可能性は薄いとはいえ、ユウキング/わいきんにとっては依然安心できない展開に変わりはない。

 それでも先攻3ターン目を迎えたユウキング/わいきんは、前のターンの予定通りに《龍装者“JET”レミング/ローレンツ・タイフーン》をチャージすると、引き込んだ《ドアノッカ=ノアドッカ / 「…開けるか?」》空打ちし・・・・《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》の効果を使用せずに・・・・・ターンを終える。

 はたして、後攻3ターン目を迎えたそんは《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》をチャージし……タップしたのは、3マナではなく2マナ。

 唱えたのは、《》

 だが公開されたユウキング/わいきんの手札2枚はどちらも《絶望神サガ》であり……それは、そんにとって逃れられない絶望を意味していた。  かくして先攻4ターン目、手札1枚の状態で予定調和のサガループが開始する。

 ユウキング/わいきんはループを省略せず、1枚ずつ確かめるように《絶望神サガ》蘇生→引いて捨てる→《絶望神サガ》蘇生→引いて捨てる→……を律儀に繰り返す。《蒼狼の王妃 イザナミテラス》《龍素記号wD サイクルペディア》《サイバー・K・ウォズレック / ウォズレックの審問》とループに必要なパーツが墓地に集まっていき、さらに《邪神M・ロマノフ》蘇生を挟むと、《勝熱と弾丸と自由の決断》までもが墓地に落ちる。  ここから《邪神M・ロマノフ》攻撃時の「メテオバーン」で手札から《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》を唱え、《絶望神サガ》を蘇生してサガループを再始動。そして残り山札が4枚まで来たところで《蒼狼の王妃 イザナミテラス》に変換し、加えた《蝕王の晩餐》をそのまま唱えて《邪神M・ロマノフ》を破壊。攻撃キャンセルをしながら《サイバー・K・ウォズレック / ウォズレックの審問》を蘇生、さらに効果で《蝕王の晩餐》《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》を選ぶ。

 《蝕王の晩餐》《蒼狼の大王 イザナギテラス》《龍素記号wD サイクルペディア》に変換。《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》効果で《絶望神サガ》蘇生。残り山札2枚の状態で《蒼狼の大王 イザナギテラス》にしつつ、手札から《蝕王の晩餐》《龍素記号wD サイクルペディア》効果で2回使用。《ドアノッカ=ノアドッカ / 「…開けるか?」》《サイバー・K・ウォズレック / ウォズレックの審問》を蘇生。そして。

 ついに宣言する。

ユウキング/わいきん《龍素記号wD サイクルペディア》ストック、ループ証明します」

 だがそこに、そんが口を挟んだ。 そん墓地見てもいいですか?

ユウキング/わいきん「いいですよ。《機術士ディール / 「本日のラッキーナンバー!」》《勝熱と弾丸と自由の決断》はもうあります」

 そんもこの準決勝まで勝ち上がったほどの「ダンタルサガ」の使い手だ。ループに入れることは既に自明ながらも、ユウキング/わいきんの墓地のカードを丁寧に確認していく……何かを確かめたいかのように。

ユウキング/わいきん「……ああ、2本目か」

 その意図が、ユウキング/わいきんにもようやく察せられた。どのカードが何枚入っているか、想定していないカードはあるのか……2本目以降に備え、ユウキング/わいきんのデッキリストを把握しておきたかったのだ。

 そして、この段階でそれをする理由は一つしかない。

 そんが告げた。

そん投了で大丈夫です」

そん 0-1 ユウキング/わいきん

 釈迦に説法……お互いに不毛なループ証明はしない。証明ができる状態ならば、証明はできる。ならば時間は節約するに限る……そういった合理的な判断をそんは下したのだろう。

 もちろん、2本目にそんが同じ状況になった際に、ユウキング/わいきんが同様の判断をしてくれるとは限らない。

 だがその上でも、そんは投了を選択した。それが同じループ使いとしての矜持であり、信頼と敬意の表れなのだ。

Game 2

 待望の先攻となったそんだが、初動2ターンのマナチャージが《百鬼の邪王門》《龍素記号wD サイクルペディア》という事故そのものだったのに対し、後攻のユウキング/わいきんは《》《ドアノッカ=ノアドッカ / 「…開けるか?」》とチャージしてからの《龍装者“JET”レミング/ローレンツ・タイフーン》《》を捨て、3ターンキルの可能性も十分にあるこの上なく順調な立ち上がりを見せる。

 だが、なおも返すそんの3枚目のマナチャージは《百鬼の邪王門》のみで、水闇含む2マナがあっても何もアクションがないという有り様。

 他方、それを尻目に《氷牙レオポル・ディーネ公 / エマージェンシー・タイフーン》をチャージしたユウキング/わいきんは、無情にも《絶望神サガ》を召喚する。

 そしてカードを引き、手札から捨てたのは……《蒼狼の王妃 イザナミテラス》ですらない、《絶望神サガ》  そんにとっては、あとはループパーツの楯落ちを祈ることくらいしかできない。

 《龍素記号wD サイクルペディア》は見つかった。《》も、《蒼狼の大王 イザナギテラス》も。

 対戦相手のループをただ見守るというこんな時間も、デュエル・マスターズの歴史の中で無数に繰り返されてきた。楯があるから、ループはまだわからない。楯があるから、デュエマはまだわからない。

 だが、それでも。

 ユウキング/わいきんは途中で《蒼狼の大王 イザナギテラス》蘇生からの《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》を挟むと、山札の底をケアしつつ《機術士ディール / 「本日のラッキーナンバー!」》も発見する。

 残るループパーツは《蝕王の晩餐》だけとなった。山札は残り7枚。底4枚は《蒼狼の王妃 イザナミテラス》で見ている。つまり非公開の山札は3枚。

 《絶望神サガ》を蘇生したユウキング/わいきんはカードを引き……ついに、確信・・を得る。

 そして、なおも《絶望神サガ》を蘇生し続ける。目指すべきゴールに向けて、迷う素振りもない。

 その時点で、そんには結末が見えていただろう。

 やがて、残り山札2枚の状態から《蒼狼の大王 イザナギテラス》蘇生。1枚を加え、手札から見せたのは……。  《蝕王の晩餐》

 その瞬間。

そん「負けですね。ありがとうございました!」

ユウキング/わいきん「ありがとうございました!!!」


そん 0-2 ユウキング/わいきん


ユウキング/わいきん「しゃーないっすね。どうしようもないっす」

そん「何も持ってないです……《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》すらない」

 そんの側だけ火文明をタッチしているとはいえ、同じ「サガループ」、同じ「ダンタルサガ」だというのに、あまりにも一方的な決着となった。

 その明暗を分けたものを運と言ってしまえばそれまでだが、命を懸けても勝ちたいという思いが導いたならば、それはもはや運命と呼ぶべきだろう。

そん「全国、決めちゃってください!」

ユウキング/わいきん「いやーマジで!みんなめっちゃ応援してくれてるんで。たぶん勝ったら泣いちゃうんで……本当に」

そん「これで2位だったら関東のランカーが怒っちゃいますよw」

ユウキング/わいきん「うわー、あと1回。本当に決勝かー」

 途中、横で見ていてどうしてもわからないプレイがあった。

--「すみません、1点だけ……1ゲーム目の先攻3ターン目、《ドアノッカ=ノアドッカ / 「…開けるか?」》を空打ちして、《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》効果を使用しなかったのはなぜでしょうか?」

ユウキング/わいきん「ああ、あそこでもしうっかり《蝕王の晩餐》が落ちて楯にもう1枚の《蝕王の晩餐》が埋まってると、5マナとか6マナで《》を絡めないといけなくなったりするんで、そのケアですね」

そん「そうそう。でも、正直あれは手札が透けますね」

ユウキング/わいきん「ですよね。でも4枚目の《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》が楯落ちしてたらやばいけど、《邪神M・ロマノフ》があればなんとかなるなと思って……」

 そのプレイは、2人にとっては言わずもがな自明だった。矢継ぎ早の解説から2人だけの「サガループ」トークに花が開いた様子から、負けはしたもののそんの練度も間違いなくユウキング/わいきんと同じレベルの高みにあったであろうことが窺えた。

 もしかすると、この準決勝という極限の舞台でありながらもそんがユウキング/わいきんに2ゲームともにループ証明を求めなかったのも、同じ「サガループ」使いとして疲労困憊のユウキング/わいきんの体調を慮ったがゆえのものだったのかもしれない。

 そうであるとすれば、練度はもちろん人格的にも優れたプレイヤーであることを、そんもまた証明したのだ。

そん「頑張ってください!」

ユウキング/わいきん「頑張ります!」

 そして、ついに「ループの王」は決勝の舞台へと向かう。

 己の存在を、今度こそ証明するために。


Winner: ユウキング/わいきん
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