超CSⅣ京都 3位決定戦:セキボン vs. 天馬
ライター:伊藤 敦(まつがん)
撮影者:堀川 優一
そもそも3位という成績に、どれほどの価値があるというのだろうか?
他人は褒めるだろう。友人は羨むだろう。
しかしここに座る彼らは、優勝以外に真に価値あるものはないのだということを、そしてそれにもかかわらず自分たちはこの日それを手にする機会を永遠に失ったのだということを、骨身にまで染みて知っている。
3位決定戦には、いつもそんな諦念と虚しさがある。
決勝戦を戦い、死力を尽くし、その上で負けて準優勝となるならばまだいい。その機会があったのならば。
それならばまだしも、3位決定戦に臨む彼らはいわば、戦う前から決勝負けで準優勝になることが既に確定しているようなものなのだ。
カードゲーム界隈には、「0-2ドロップは実質準優勝」という格言がある。
最速で決勝トーナメント進出の目がなくなりトーナメントから離脱するのと、最後の最後に決勝戦にまで勝ち残ったものの準優勝に終わるのとでは、結局のところ敗者であることに何ら変わりがなく、それならば早く負けて余った時間が有効活用できる実利があるという点で、最速離脱は優勝に次ぐ結果と言える……という趣旨だ。
それはもちろん一種のレトリックに過ぎないものであり、いっそ暴論でさえある。実際には賞品も、実績も、周りの評価も、最速敗退と準優勝とではまるで異なる未来が待ち受けることだろう。
しかしそれでもある種の価値観からすれば、準優勝とは突き詰めれば会場に最も遅くまで残っていた敗者に過ぎない。そして3位決定戦を戦うということは、どうあがいても優勝という果実を得ることはできないのにそれとほとんど同様の立場であるということを、否応なしに突きつけられるということでもあるのだ。
それはまるで、友達がいつの間にかみんな先に帰った後、夕焼け小焼けのサイレンが鳴った小学校の校庭に最後まで居残り、ふと気づけば日が沈んだのちも独りきりで遊び続けていたことを自覚する瞬間のような……そんな寂寥感のイメージが、3位決定戦には付随する。
もちろん、競技の大舞台に慣れていない者にとっては別だ。
しかし、それがこと行住坐臥、競技デュエル・マスターズに身を置く者たちにとってとあっては。
高みに焦がれ、超CSとGP8thという大型イベントで2度の準優勝という「果実を取り逃した」経験を持ちながらも、ついには2019年度日本一という高みに立ったセキボンであっても。
競技に魅せられ、2022年度DMPランキング全国4位 (8月27日現在) にまで上り詰めてもなお、頂点を目指して走り続ける天馬だからこそ。
「本当は決勝で当たりたかったな」という、決して言葉にされることのない後悔の念が、どうしてもにじみ出てきてしまう。
そんな思いをしてまで、3位決定戦をやる必要がはたして本当にあるのだろうか……と、そう問いかけたくもなるだろう。
だが、3位決定戦とは、文字通り「3位」を決めるためにある。
そして3位とは、決勝戦に最も近かったことの証だ。
優勝者と準優勝者にあと一歩のところまで迫り、ややもすると優勝しえたかもしれないことの証左なのだ。
それを決することは、この一日を戦った900名弱の参加者たちに対する、一種のけじめでもある。
いつかこのトーナメントのことを思い出すとき、最も印象深い3名とは誰だったのか……そのように人々の記憶に残るべき優先順位をより客観的な形でつけることが、散っていった彼らから求められているからだ。
だから、3位決定戦は存在する。 セキボンと天馬。超CSⅣ京都において、決勝戦に最も近かった者とははたしてどちらだったのか。
それを決するための3位決定戦が、いま始まった。
Game 1
予選順位で先攻となったのは予選8-0のセキボン。1ターン目は互いに《天災 デドダム》チャージスタートだが、2ターン目はセキボンが《》をチャージしてターンを返したのに対し、天馬は《生命と大地と轟破の決断》チャージから《悪魔妖精ベラドンナ》を召喚して手札破壊。『水闇自然ハンデス』にとって天敵とも呼べる《サイバー・ブレイン》を叩き落とすことに成功する。そのまま3ターン目も《一王二命三眼槍》をチャージしたのみのセキボンに対してなおも天馬は《アクア・ベララー》チャージから《天災 デドダム》を出して展開を先んじるが、返すセキボンが《奇天烈 シャッフ》チャージから唱えたのは《サイバー・ブレイン》! 一度プレミアム殿堂となる前の往時のデュエル・マスターズを思わせるほどの強さに、思わず天馬も首をひねる。
それでも《SSS級天災 デッドダムド》チャージからの《有象夢造》で、《絶望と反魂と滅殺の決断》を捨てながら《若き大長老 アプル》《悪魔妖精ベラドンナ》を蘇生して手札破壊。セキボンが持つ5枚の手札の中から、《鬼ヶ大王 ジャオウガ》を抜き去る。
一方、返すセキボンはノーチャージで《天災 デドダム》を召喚。キーである5マナには確実に到達しつつ、手札枚数を保持する。これを見て天馬はこちらもノーチャージで墓地から《絶望と反魂と滅殺の決断》を唱え、《特攻人形ジェニー》《悪魔妖精ベラドンナ》を蘇生してセキボンの手札からランダムに《豊潤フォージュン》と《天災 デドダム》を抜き去り、セキボンのとりうる選択肢を圧迫していく。
セキボン「墓地確認いいですか?」
だがセキボンは焦らず5マナから《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》を召喚し、5枚のカードを見ながらゲームプランを練る。そして悩んだ末に《鬼ヶ大王 ジャオウガ》を回収し、天馬の《若き大長老 アプル》を手札に戻しながら《天災 デドダム》へと「マッハファイター」でアタック時に《時の法皇 ミラダンテⅫ》に「革命チェンジ」!
それでも、「ファイナル革命」でクリーチャーの召喚が封じられた天馬も《若き大長老 アプル》チャージから《有象夢造》で《若き大長老 アプル》《樹界の守護車 アイオン・ユピテル》を呼び出すと、「マッハファイター」で《天災 デドダム》へと攻撃時に《SSS級天災 デッドダムド》に「SSS級侵略」して《時の法皇 ミラダンテⅫ》を破壊、主導権を渡さない。
盤面的には一進一退の攻防……しかしそれでも天秤は、少しずつセキボンの側に傾いていく。
なぜならセキボンはもはや5マナを超えてさらなるマナチャージをせず、《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》の登場時能力で少しずつ勝利に必要なパーツをかき集めていたからだ。 返すターンも登場時能力で《生命と大地と轟破の決断》を回収しながら《SSS級天災 デッドダムド》を手札に戻し、《若き大長老 アプル》へと「マッハファイター」による攻撃時に今度は《》に「革命チェンジ」して呪文を止める。
《有象夢造》《絶望と反魂と滅殺の決断》が封じられた天馬は《コオニ弁天》チャージから《若き大長老 アプル》《樹界の守護車 アイオン・ユピテル》をやむなく手札から召喚。「マッハファイター」時にまたも《SSS級天災 デッドダムド》を「SSS級侵略」して《》を処理、セキボンの打点を徹底的にゼロに抑え込み続けるが、行動制限の中で盤面を処理するのに必死な代わりにもう2ターンも手札破壊をできておらず、セキボンのプランに干渉することができない。
そんな天馬を尻目にセキボンは《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》チャージからみたび《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》を召喚し、《》回収してまたも《若き大長老 アプル》への攻撃時に「革命チェンジ」して呪文を封じる。
ここで天馬も《天災 デドダム》からの《悪魔妖精ベラドンナ》による手札破壊でようやくセキボンの手札から《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》を奪い去る……だが。
その代償として、致命的すぎる隙が生まれてしまった。 すなわち、天馬の《若き大長老 アプル》が途切れてマナが自由になったタイミングでセキボンが唱えたのは《生命と大地と轟破の決断》!これにより《鬼ヶ大王 ジャオウガ》《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》の2体が一挙にマナから呼び出され、とっくに一周した山札から《百鬼の邪王門》を回収する。
そして《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》でプレイヤー攻撃時に《蒼き団長 ドギラゴン剣》「革命チェンジ」宣言と《百鬼の邪王門》2枚の使用宣言。《鬼ヶ大王 ジャオウガ》《鬼ヶ羅刹 ジャオウガ》が着地後に、《蒼き団長 ドギラゴン剣》の「ファイナル革命」で手札に戻った《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》が再度着地する。
前のターンには本当に一体もクリーチャーがいなかったはずなのに、気づけばT・ブレイクの脇にT・ブレイカー、W・ブレイカー、W・ブレイカー、W・ブレイカーが控えているという圧巻の打点形成。
3枚要求はさすがに返せず、残り山札2枚という状態できっちりセキボンが天馬にトドメを刺しきったのだった。
セキボン 1-0 天馬
「構築のマエストロ」フェアリー/AYNがデザインし、セキボン、Sabaki、カイザ/はっちcsと4人でシェアしてうち2人がトップ8、1人がトップ128と今大会で最優秀の成績を収めたと言っていいであろう《サイバー・ブレイン》入り『4C邪王門』。その趣旨は、アグロデッキと『水闇自然ハンデス』に対する解答を同時に用意することにあった。
まさしくその本懐が、セキボンの手によってもうすぐ遂げられようとしている。会場で最強の『水闇自然ハンデス』使いである天馬すらも寄せつけない様は、一般的な「水闇自然ハンデス対4C邪王門」のマッチアップにおける「4C邪王門不利」のダイヤグラムが塗り替えられたかのように感じるほどだった。
Game 2
先攻となった天馬が2ターン目に《特攻人形ジェニー》による手札破壊でセキボンの手札から《奇天烈 シャッフ》を抜くと、続くターンには《天災 デドダム》で順調に加速。対してセキボンも《天災 デドダム》で追いすがる。だが天馬は4ターン目にきっちりと《有象夢造》を唱え、《悪魔妖精ベラドンナ》2体によるハンデス2回で攻め立てる。早くも4枚となっていたセキボンの手札から、《奇天烈 シャッフ》と《天災 デドダム》という2枚が奪い去られる。
しかしここでセキボンも《豊潤フォージュン》チャージからの《サイバー・ブレイン》! それでも、今回は天馬の動きも相当に強い。《絶望と反魂と滅殺の決断》で再び《悪魔妖精ベラドンナ》2体を蘇生し、4枚の手札から《》《鬼ヶ大王 ジャオウガ》を落とす。
セキボン「《絶望と反魂と滅殺の決断》が墓地ですよね?」
だがセキボンはノーチャージから《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》を召喚し、《鬼ヶ大王 ジャオウガ》を手札に回収しながら《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》自身を手札に戻す堅実なプレイ。こうなるとセキボンの手札は毎ターン2枚ずつ増えていくため、2枚ずつのランダムハンデスも実質帳消しだ。
この状況を脱するにはランダムハンデスで《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》をぶち抜くしかない。天馬は墓地から再びの《絶望と反魂と滅殺の決断》で《悪魔妖精ベラドンナ》2体を蘇生し、変わらず4枚のセキボンの手札を攻め立てるが、落とされたのは《百鬼の邪王門》《天災 デドダム》で、《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》が落とせない。 さらに返すターン、セキボンが再び《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》を召喚すると、見つけたのは《蒼き団長 ドギラゴン剣》!
今まで5択で悩んでいたところを今回はノータイムで選び、自らの《天災 デドダム》を手札に戻すと、天馬の《天災 デドダム》への「マッハファイター」時に「革命チェンジ」、さらに「ファイナル革命」で《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》出し直しから《生命と大地と轟破の決断》を回収しつつ、なおも《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》自身を再び手札に戻すビッグプレイ!
返す天馬も《悪魔妖精ベラドンナ》による手札破壊で《鬼ヶ大王 ジャオウガ》を落としつつ、続けて《樹界の守護車 アイオン・ユピテル》を出して「マッハファイター」時にマナから《SSS級天災 デッドダムド》を「SSS級侵略」してどうにか《蒼き団長 ドギラゴン剣》だけは処理するが、状況的にはもはや焼け石に水だ。
そして。
セキボンが1ゲーム目と同様《生命と大地と轟破の決断》でマナから《鬼ヶ大王 ジャオウガ》《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》を同時に呼び出し、《百鬼の邪王門》を回収すると、あとは先ほどとほとんど同じ展開が待っていた。
すなわち《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》プレイヤー攻撃時《》「革命チェンジ」宣言と《百鬼の邪王門》。《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》が着地し、効果で《時の法皇 ミラダンテⅫ》回収。呪文が封じられながらのW・ブレイク。
ここで天馬も最後の抵抗とばかりに《シラズ死鬼の封》をトリガーさせるが、できることは《悪魔妖精ベラドンナ》2体で手札破壊するくらいしかない。だが公開情報の《時の法皇 ミラダンテⅫ》を抜き去ることができず、《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》が攻撃時に《時の法皇 ミラダンテⅫ》に「革命チェンジ」して「ファイナル革命」を発動させてしまう。
かくして実質「単騎ラフルル」状態のT・ブレイクがそのまま通り、ダイレクトアタックが決まったのだった。
セキボン 2-0 天馬
同じ頃、決勝戦が決着し、「火自然アポロヌス・ドラゲリオン」のすばるなが優勝したことがアナウンスされる。比較的好相性のマッチアップであるはずながらも準決勝で敗れた天馬は、それを苦々しげに聞いていた。
前環境で「グルメ墓地ソース」を使い続けていた天馬が、新環境で「水闇自然ハンデス」を相棒に選んだ理由とは何だったのか。
天馬「『グルメ墓地ソース』が新殿堂で死んじゃって、代わりのデッキを探して色々やったんですけど、何を選んでも比較する先が『ゼーロベン』か『水闇自然ハンデス』になってしまって。それでハンデスなのは、デッキが好きなタイプだったから。どっちも魅力的だったけど、『ゼーロベン』は使っていて《闇王ゼーロ》引けなくて……まあ、深い理由なんてないですよ。グルメも人から『強いデッキあるらしいよ』って言われて、直感で選んでそこから一年間くらい使ってたってだけで……普段のCSもそんなもんです。調整環境があまり良くないので、一個のデッキしか握れません」
一方、ハンデスとのじりじりとしたロングゲームを2回、ほとんどミスなく見事渡りきってみせたセキボンは、フェアリー/AYNからどのような経緯でこの『4C邪王門』をシェアされたのだろうか。
セキボン「フェアリーさんから一週間前くらいに、色々なデッキを回してる中で『4C邪王門』が他のデッキにも勝てるという話を聞いていて。『水闇自然ハンデス』とかいろいろ練ってたけどやるなぁと思って本格的に着手しだしたら生まれた……って言ってました。フェアリーさんの受け売りだと、《サイバー・ブレイン》は唱えて強い、アポロに踏ませて強いってことで、他のデッキにもトリガーして無駄にならないと。このデッキは手札が多いこと自体が受けになるので非常に相性が良いので強いよ……と言われました。とにかくフェアリーには感謝しかない。彼はバケモンです」
セキボン「あとこのデッキを使用した理由の一つに、日本一決定戦の《蒼き団長 ドギラゴン剣》が使えるからというのがあります。感染症対策でセルフシャッフルとのことだったので、大切なカードを相手に触らせずに使える貴重な機会だったので、もし《蒼き団長 ドギラゴン剣》が使えるなら最高だなーと思っていて……そこにきてこのデッキの話が来て、もう飛びつきました」
--「先ほどの対戦でもこなれた立ち回りでしたが、セキボンさんの方ではこの『4C邪王門』というデッキは以前から使用されたりしていたのでしょうか?」
セキボン「いえ、全くないです。初心者です。おかげで準決勝ではボロが出ました……ミス負けでした。いえ、相手の構築も強かったし上手かったけど、やっぱり付け焼刃じゃダメだなと思い知らされました。でも……悔しいなぁ。嬉しいですけどもちろん。欲が出ちゃいましたね……」
勝てば勝つほど、また勝ちたくなる。
だが勝つには最善を尽くしてもなお、神に委ねなければならない。
そんなままならなさもまた、デュエル・マスターズというゲームの魅力の一つなのだろう。
Winner: セキボン
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