超CSⅥ群馬 決勝Round 4:楽line vs. みぞれ
ライター:伊藤 敦(まつがん)
撮影者:瀬尾 亜沙子
DMPランキング上のポイントや、CS優勝プロモなどの賞品の違いというだけではない。単に事実として、それら2つは栄誉の重みというただ1点においてそれくらいの差があるのだ。
現に、トップ8はプロフィールが掲載される。集合写真が公式アカウントでポストされる。デッキリストも一際特別扱いだ。
だから決勝ラウンドの4回戦目は、ややもするとその次の準々決勝よりもプレイヤーの緊張度合いが強まるものだ。
フィーチャーマッチに選ばれ、対戦テーブルに移動してきた楽lineも、特にフィーチャーマッチであるからといって対戦相手と言葉を交わそうとしたりはしなかった。会話によって対戦相手の緊張を解す必要がないというのもあるだろうが、今の自分の程よい緊張と、何よりゾーンに入りつつある集中を解きたくないのだろう。
対するみぞれ_は、2023年度DMPランキング下期9位で日本一決定戦の参加権利を獲得したリキセキタクジンと親交があるプレイヤーとのことだが、ここまで勝ち上がれる以上みぞれ_自身も確かな実力を持っていることは間違いない。
トップ128からの3回戦は、乗り越えるのに必死で、周りのことなどとても見ている暇はなかっただろう。楽lineもみぞれ_も面識はなさそうだし、使っているデッキのことなど知るよしもないに違いない。だが、2人は互いに全く別のルートから、決勝トーナメントという同じ山を登ってきた者同士だ。デッキタイプはわからなくても、考えていることはわかる。
高まりきったテンションは、闘争に不要な情報を削ぎ落とす。アドレナリンが視界を狭め、冷静になれと自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、早鐘を打つ心臓の鼓動が邪魔で仕方なくなる。
そうして残るのは、たった一つの純粋な思いだ。
「「ぶっ倒す。」」 プライドも、思いも、存在も、全部をチップにして。トップ8進出をかけた大一番が、始まった。
Game
予選順位の差で先攻のみぞれ_が《完全水中要塞 アカシック3》をチャージして【フィオナアカシック】であることを早々に明かしたのに対し、楽lineのマナチャージは《瞬閃と疾駆と双撃の決断》。ストレートに読めば【水火マジック】といったところ。だがみぞれ_はそれを意に介さず、《「根性」の頂 メチャデ塊ゾウ / 「大親分、ここにあり!」》チャージからの《巨大設計図》で、《超七極 Gio / 巨大設計図》《ブルー・インパルス / 「真実を見極めよ、ジョニー!」》《魔刻の斬将オルゼキア / 訪れる魔の時刻》の3枚を回収という理想的な立ち上がりを見せる。
一方、後攻2ターン目の楽lineが《蒼狼の大王 イザナギテラス》をチャージして使用したのは……《アストラルの海幻》! 「水火アポロヌス・ドラゲリオン」。「水火マジック」の台頭で存在を忘れ去られていたが、これも一時代を築いたほどのポテンシャルがあるデッキには違いない。《禁断の轟速 ブラックゾーン》を捨ててターンを返す。
しかし3ターン目を迎えたみぞれ_は《ブルー・インパルス / 「真実を見極めよ、ジョニー!」》チャージから順調に《八頭竜 ACE-Yamata / 神秘の宝剣》を唱え、シールドの内容を消去法で確認する。もし返しで《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》に走られたらどうなるか。己の運命は、この瞬間わかってしまっている。受かるのか。受からないのか。その前提でマナ置きを決める……はたして、山札からマナに置いたのは《ドアノッカ=ノアドッカ / 「…開けるか?」》。あとは委ねるしかない。
そして楽lineの後攻3ターン目。走れるのか。《瞬閃と疾駆と双撃の決断》をチャージし、3マナをタップした楽lineがバトルゾーンに送り出したのは……《ネ申・マニフェスト》。まだ、走れない。 となれば、今度はみぞれ_のターン。返しでコンボが決まるのか。4ターン目。手札を慎重に確認し、行動を決める。《レレディ・バ・グーバ / ツインパクト・マップ》チャージから……5マナではなく2マナをタップし、《超七極 Gio / 巨大設計図》。《レレディ・バ・グーバ / ツインパクト・マップ》《竹馬の超人 / テイクバック・チャージャー》《森夢龍 フィオナ・フォレスト》の3枚を回収する。
みぞれ_「《ネ申・マニフェスト》の効果見ていいですか?」
さらに余った3マナから《竹馬の超人 / テイクバック・チャージャー》の呪文側で《ネ申・マニフェスト》をマナ送りにしつつ、チャージャーで浮いた1マナで《レレディ・バ・グーバ / ツインパクト・マップ》を唱え、《天命龍装 ホーリーエンド / ナウ・オア・ネバー》を回収。相手の軽量メタなどをどかしながらマナ加速できてかつ《レレディ・バ・グーバ / ツインパクト・マップ》とくっつきの良いカードの採用に、みぞれ_の構築センスが光る。
しかもこの時点で公開情報だけで、次のターンの《完全水中要塞 アカシック3》設置からの《魔刻の斬将オルゼキア / 訪れる魔の時刻》でほぼループ突入が確定しているという状況。すなわち正真正銘、次が楽lineにとってのラストターンだ。 カードを引いた楽lineは、慎重に指差し確認でプランを検討する。もはや道筋は一つしかない。《ダイナボルト <ドギラ.Star>》チャージから《蒼狼の大王 イザナギテラス》を召喚し、1枚を加えてからの《瞬閃と疾駆と双撃の決断》で《カチコミ入道 <バトライ.鬼>》《単騎連射 マグナム》!
そして《カチコミ入道 <バトライ.鬼>》の攻撃時に「侵略」宣言。
楽line「墓地から《禁断の轟速 ブラックゾーン》。手札から《禁断の轟速 ブラックゾーン》と《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》」 クリーチャー3体、それ以前に《単騎連射 マグナム》がいる以上、もはや《天命龍装 ホーリーエンド / ナウ・オア・ネバー》からの《魔刻の斬将オルゼキア / 訪れる魔の時刻》でも受けにならない。みぞれ_は苦笑しつつも先を促す。
まずは《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》の登場時効果で《アストラルの海幻》《禁断の轟速 ブラックゾーン》《禁断の轟速 ブラックゾーン》が墓地送りとなり、《カチコミ入道 <バトライ.鬼>》を下敷きにした《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》が残りつつ、みぞれ_のシールドが全てブレイクされる。
はたして、トリガー宣言は《ブルー・インパルス / 「真実を見極めよ、ジョニー!」》のみ。これでもひとまずこのターンはしのげるものの、返しでループに入れなければほぼ負けという状況に見える。 だがそこで、みぞれ_は安易に3体すべてのバウンスを宣言せずに考える。《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》だけは戻さないといけないので、マナが6マナから4マナに減ることが確定している状況。《蒼狼の大王 イザナギテラス》や《単騎連射 マグナム》を戻して勝ち目があるのか。次のターン、《瞬閃と疾駆と双撃の決断》を5枚から見つけられたらその瞬間に負け確だ。
ゆえに。みぞれ_は起死回生の一手を見出した。
みぞれ_「3体『まで』なので……《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》だけを選んで、《単騎連射 マグナム》と《蒼狼の大王 イザナギテラス》は選びません」
《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》が選ばれたことによる効果で、みぞれ_のマナゾーンの《完全水中要塞 アカシック3》と《ブルー・インパルス / 「真実を見極めよ、ジョニー!」》が墓地送りとなる。攻撃できるクリーチャーがいなくなり、楽lineはターンエンド。そして。 5マナ目をチャージしたみぞれ_が宣言したのは、《天命龍装 ホーリーエンド / ナウ・オア・ネバー》からの《魔刻の斬将オルゼキア / 訪れる魔の時刻》!
これにより、先ほど《ブルー・インパルス / 「真実を見極めよ、ジョニー!」》で選ばなかった《単騎連射 マグナム》と《蒼狼の大王 イザナギテラス》をバウンスで再利用されることなく破壊することに成功する。
ただそれでも、《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》と合わせて《カチコミ入道 <バトライ.鬼>》が楽lineの手札に戻っているので、進化元の2コストタマシードを引かれた瞬間負けとなる。それは割り切りだ。
最善は尽くした。あとは祈るしかない。
そして返す楽lineのアクションは……。 《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》チャージ、《終末の時計 ザ・クロック》召喚のみ!みぞれ_は首の皮一枚、つなげることに成功する。
とはいえ、それでもみぞれ_のループまでの道筋は細い。マナゾーンに置かなければならないはずの《完全水中要塞 アカシック3》は、1枚が《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》の効果で墓地、1枚が4ターン目に《超七極 Gio / 巨大設計図》を使用した際に山札の底に行ってしまっている。それでも。
なおもみぞれ_はマナチャージからの《レレディ・バ・グーバ / ツインパクト・マップ》で《黒豆だんしゃく / 白米男しゃく》を回収しながら、再び《天命龍装 ホーリーエンド / ナウ・オア・ネバー》からの《魔刻の斬将オルゼキア / 訪れる魔の時刻》で《終末の時計 ザ・クロック》を処理する。
譲らない。譲れない。積み上げた思いがある。そのためにもこの窮地を切り抜ける。そしてこの手に、栄光を--。
だが、返すターン。
引き込んだカードを見つめてわずかに固まった楽lineは、やがてその意味を理解すると、安心したように迷わず5マナをタップした。
そのカードは。 楽line「《龍装者 バルチュリス》を出して、ダイレクトアタックです」
夢の終わりを察したみぞれ_は、諦めたように声を絞り出した。
みぞれ_「……ありがとうございました!」
Winner: 楽line
--「どのような理由から【水火アポロヌス】を選択されたのでしょうか?」
楽line「もともと【火自然アポロヌス】を使いたかったけれども、直近のCSで環境の通りが悪くて。ただ《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》は強いとは思っていたので、どうにかして『止められないアポロ』を作ろうということで、《ネ申・マニフェスト》の『シンカパワー』で選ばれないブロックされない《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》にしようと。あと《単騎連射 マグナム》も出せたら環境的に刺さるということで、試行錯誤しているうちに水火で行こうとなりました」
--「最大母数と目されていた【水火マジック】に対してはどうなのでしょうか?」
楽line「キルターンが同じですし、こちらも《終末の時計 ザ・クロック》と《終止の時計 ザ・ミュート》で受け札も積んでいるので、悪くはないですね。あと【水火マジック】はもちろん多いですが、それによって【水火マジック】を狩るための【水闇COMPLEX】が増えていて、そこに対しては《禁断の轟速 ブラックゾーン》の『封印』で強く出られます。同じ水火だったらマジックでいいんじゃね?とも言われましたが、選ばれないところがやはり強みで通りが良いんじゃないかと思って使ったら、思った以上に強かったです」
--「《龍装者 バルチュリス》の採用が珍しいですね」
楽line「もともと《氷柱と炎弧の決断》だったんですけど、一人回ししてるうちに《瞬閃と疾駆と双撃の決断》入れてるなら3ターン目に《カチコミ入道 <バトライ.鬼>》+《禁断の轟速 ブラックゾーン》や《カチコミ入道 <バトライ.鬼>》+《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》しかないときに、出し+アンタップ付与に《龍装者 バルチュリス》を抱えているだけで3キルプランがとれて便利だなーと思いまして。【水闇自然ジャオウガ】と【水火マジック】の受け札を貫通できるのが決め手でしたね。あとこのデッキ自体が初見殺し要素が強いので、さらに《龍装者 バルチュリス》は完全に意識外だろうなと。案外活躍してくれました」
トップ8進出という一つの壁を乗り越えた楽lineは、対戦中の緊張した表情が嘘のように朗らかに語った。
ここまでたくさんの敗者が生まれた。報われなかった思いが無数にあった。
だからこそ、大型イベントの勝者は輝くのだ。
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