全国大会2023事前メタゲーム総括記事:アドバンス編
ライター:高橋 穂(北白河)
「日本一デュエマが強いのは誰か?」ともすれば不毛なものにもなりかねないこの問いに明確な答えをもたらすのが、今回の「全国大会2023」だ。
日々熾烈な争いが繰り広げられるDMPランキングのトップランカー達に加え、各大型大会の上位入賞者。そして何より、前年度の優勝者たちが一堂に会して勝負を決める…いわばこの一年の総決算となるイベントが、ついに始まろうとしているのだ。
当記事は、来たる全国大会2023を観戦する読者諸賢に向けて、現在のアドバンス環境におけるメタゲームと注目すべきデッキに向けて簡単に解説したものとなる。
超次元ゾーンや超GRゾーン、各種「ゲーム開始時にバトルゾーンに存在するカード」の類も合わせて(殿堂レギュレーションに沿った)全てのカードが使用できるこのアドバンスというフォーマット。
高いデッキパワーによる派手なゲーム、そしてそれに伴う対策の激化やメタゲームの相克等も魅力となるアドバンスの現在のあらましを、手短ではあるが紐解いていきたい。
現メタゲーム総括
あらゆるカードが使用可能…というアドバンスではあるが、実際のところ環境の最上位層は概ね4つのデッキで構成されている。すなわち、【水火マジック】【光自然巨大天門】【光闇火ドルマゲドン】そして【闇火バイク】である。
局所的に強みを押し付けてこれらに勝てるデッキがないわけではないが、総合力で見ればこの4つがやや抜けている……というのが正直なところだ。
いつもなら環境に激変を巻き起こす殿堂改定も、今回の「アドバンス4強」に影響があったのは僅かに1枚のみ。
むしろ【水闇自然ジャオウガ】や【水闇ヴォゲンム】といった「4強」に次ぐ立ち位置のデッキが大ダメージを受けたこともあり、「4強」環境は激化したと言える。
今大会でも、引き続きこの4種のデッキの相克がゲームの焦点となることだろう。
デッキ紹介
水火マジック
「4強」の筆頭となるのが、ARev(アビス・レボリューション)の5種族からの刺客となる【水火マジック】。軽量の「マジック」クリーチャーから、3ターン目の《芸魔隠狐 カラクリバーシ》&《瞬閃と疾駆と双撃の決断》そして《芸魔王将 カクメイジン》への流れるような連続チェンジに繋げ、怒涛の連撃と多彩な封殺札で即座にゲームを終わらせる…という、超攻撃型デッキである。
3〜4ターンキルのスピードと押し付け性能はもとより、高い山札掘削性能による再現性・柔軟性の高さやロングゲームにも堪えうるアドバンテージ性能など、各方面においてビートダウンデッキの最高峰と言えるだろう。
オリジナルでも活躍中のこのデッキだが、アドバンスにおいては《禁断 ~封印されしX~》の存在と「ゲーム・コマンド」を兼ねるキーパーツたちにより墓地が肥えやすく、《芸魔王将 カクメイジン》から踏み倒す呪文をより探しやすいのは見逃せない。 その対処しづらさから「4強」の中でも最強格……と言われてきたこのデッキだが、先日の殿堂改定により封殺の要である《機術士ディール / 「本日のラッキーナンバー!」》を失ったのは痛いところ。
「3ターン目に《単騎連射 マグナム》と≪本日のラッキーナンバー≫を両方用意し、応手となる呪文・クリーチャーの両方を止めて駆け抜ける」という理不尽なムーブは不可能となった。
失われたのは殿堂→プレミアム殿堂となったたった1枚ながら、その強さに綻びが生じたのはまぎれもない事実。デッキの強さの根幹は健在とはいえ、最強デッキに付け入る隙が発生したことは大会結果にも影響がありそうだ。
光自然巨大天門
【水火マジック】と並んで「4強」の最上位を争うのが、根強い人気のブロッカーデッキ【光自然巨大天門】。《巨大設計図》《支配の精霊ペルフェクト / ギャラクシー・チャージャー》という超強力なアドバンテージ源から、4ターン目の《星門の精霊アケルナル / スターゲイズ・ゲート》の呪文側→《闘門の精霊ウェルキウス》と繋いで更なる巨大ブロッカー展開に繋げるムーブは安定感抜群。
最終的には《∞龍 ゲンムエンペラー》や《神聖龍 エモーショナル・ハードコア》などで相手を完封しつつ封殺して圧殺する……というムーブは、まさに横綱相撲といったところだ。 特に追加フィニッシャーとして《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》を獲得し、超次元ゾーンを存分に操れるようになって以降の強化は著しい。
《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》による追加展開はもとより、《邪帝斧 デッドアックス》による盤面処理+追加ドラグハート展開や≪爆炎覇龍 ガイフレア≫による踏み倒しメタなど、超次元ゾーンの構成次第であらゆる局面に対応できるようになったのは見逃せないところである。
《ヘブンズ・ゲート》と《水雲の聖沌 5u170n》という「踏ませたら勝つ」レベルのトリガーを擁することもあり、安定感や対ローグデッキ性能においては【水火マジック】をも凌いでトップクラス。
殿堂改定でダメージを受けなかったこともあり、その立ち位置はさらに向上していると言えそうだ。
光闇火ドルマゲドン
アドバンスの特権である≪終焉の禁断 ドルマゲドンX≫を最も活かせるのが、【光闇火ドルマゲドン】だ。《Forbidden Sunrise ~禁断の夜明け~》のバックアップのもと、優秀なコマンドを展開しつつ禁断爆発でちゃぶ台返し…という黄金パターンは健在。
ドラグハートを活かしてフィニッシャーにもなりうる《最終龍覇 ボロフ》や、「カウンター禁断爆発」の権化たる《終断χ ベガスランチャー》など駆使して重厚に受けて切り返す王道パターンはもちろんのこと、光文明の加入でその完成度はさらに強化されている。 特に《魔光神官ルドルフ・アルカディア》の採用により、高速で《魔の革命 デス・ザ・ロスト》による全ハンデスや《アルカディアス・モモキング》によるロックをかけるというムーブを手に入れ、やや苦手とする速度勝負にも追い付けるようになったのは見逃せない。
《Forbidden Sunrise ~禁断の夜明け~》経由なら最速3ターン目に決まるこのギミックは、決まれば概ねあらゆる相性差をひっくり返して勝ちに行けるというまさに「必殺技」。
封印を剥がしつつ相手の展開を1ターン遅らせる《頂上連結 ロッド・ゾージア5th》の登場もあり、デッキの強みの押し付けやすさが激増した形だ。
文明バランスやドローの少なさの関係で序盤の安定感が今一つという大きな弱点もあるが、回りさえすればどんな相手にも勝てる爆発力はそれを補って余りあると言えるだろう。
闇火バイク
最近になって急激に研究が進み4強の一角に上り詰めたのが、【闇火バイク】だ。【バイク】といえば侵略を絡めた速攻…というイメージ通り、《覇帝なき侵略 レッドゾーンF》《禁断の轟速 ブラックゾーン》の多重侵略に《龍装者 バルチュリス》を絡めての受け封殺&致死打点形成ギミックが目立つこのデッキ。だが、このデッキでの速攻は一つの武器に過ぎない。
もう一つの武器となるのが、《ヴィオラの黒像》や《ドキンダムの禁炎霊》といったタマシードによる対策しにくい受け札たち。
これらに《影速 ザ・トリッパー》などのメタクリーチャーや追加のトリガーである《終末の時計 ザ・クロック》を交えることで、相手の攻めをいなしつつ禁断開放までゲームを引き延ばすプランも現実的になっているのだ。
ゲームレンジを自在に操ることで、「序盤からシールドを削りつつ封印を剥がす」→「相手に殴らせてカウンター」→「増えたリソースで封殺や禁断開放を行いつつ悠々と残りの盾を割り切り勝つ」といった折衷案のような動きも可能であり、相手に合わせて速度を変えていくようなパターンも狙えるのも大きな魅力と言えるだろう。 また、最新パック『邪神と水晶の華』にて登場した《偽りの希望 鬼丸「終斗」》を運用できるのも見逃せないところ。
実はアドバンスの上位デッキにはいわゆる単色デッキがほとんど存在せず、相手のマナゾーンに多色カードがあると本領を発揮するこのカードが活きる公算も高い。
3マナで盤面を処理しつつドローし、スピードアタッカーとして侵略にまで持ち込めるのはさすがに強烈で、環境にこのデッキとこのカードがあるというだけでマナ置きが変わってくる……というパターンもありそうだ。
その他有力デッキ
ここまで「4強」となるデッキを紹介してきたが、もちろんアドバンスはそれだけではない。手短ではあるが、この項ではそれらに次ぐ立ち位置のデッキにも触れていきたい。 最近の入賞数などでは「4強」にやや劣るが、実力で言えばそれらにも匹敵し得るのが【4cドラグナー】。
《メンデルスゾーン》と《ボルシャック・栄光・ルピア》による多色ドラゴン基盤から繰り出される《最終龍覇 グレンモルト》をはじめとするドラグナーにより、ドラグハートをガンガン振り回して圧倒する威力と柔軟性は健在だ。
アドバンスの顔とも言えるデッキだけに、《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》等を絡めた受けの強さや《時の法皇 ミラダンテⅫ》《頂上連結 ロッド・ゾージア5th》といったロック持ちを使用できる決定力なども十分だが、その分選択肢が広くプレイ難度が非常に高いのは見逃せないところ。
また、【水火マジック】の《同期の妖精 / ド浮きの動悸》のクリーチャー側などで武器である選択肢の広さを削られると厳しくなる……など、決して万能とは言えなくなっているのも向かい風だ。
とはいえここさえプレイヤー性能(言わずもがな、全国大会には最強のプレイヤーが集まるのだ)でカバーすれば、十分「4強」と渡り合えるデッキであると言えるだろう。 同じくアドバンスの顔と言えるのが、【モルトSAGA】だ。
一体でも強力なドラゴンを無尽蔵に呼びまくる攻撃力は、おそらくオリジナル界でも最強クラス。多種多様なパワフルなドラゴンによる攻めは、「4強」をも越えると言えるだろう。
しかし、速度や受けの強さ、絡め手なども含めた総合力となると、「4強」と互角に渡り合うにはやや苦しいところ。
攻撃力以外の要素も決して弱いということはなのだが、攻めるデッキとして見た時にこちらよりキルターンが速く受け封じまでやってのける【水火マジック】がいるのも、押さえつけられている点と言えるだろう。
とはいえ、それでもひとたび攻める側に回ればどこまでもぶち抜いて行けるのが魅力のデッキであるのも確かだ。
他にも得意とする長期戦のレンジにさえ持ち込めれば強い【ガイアッシュ覇道】や、理不尽な一撃死を狙える【マーシャルデリート】など、強みを押し付けることで「4強」に勝つチャンスのあるデッキは複数存在する。
前述の殿堂改定で大打撃を受けた【水闇自然ジャオウガ】や【水闇ヴォゲンム】も、環境に適合したリペアに成功すれば(理論上)復活も不可能ではないはずだ。
しかし、「最強のプレイヤーが使う」「最強格のデッキ」からそれ以外のデッキで勝ちをもぎ取るには、尋常ではない研究と練度、そして的確なメタゲームの予測が必要になるのは言うまでもない。そこも含めて、プレイヤーの選択が試されることとなるだろう。
おわりに
総じて「4強」が、全国大会におけるアドバンスの主役となる……というのが現時点での筆者の想定となる。……とはいえ、(想定材料となった)通常の大会環境と明確に違いをもたらす要素が、この全国大会には存在する。
一つは、「アドバンスで試合が行われるのは予選の半分のみ」という点。
決勝戦でも使用されるオリジナルと違って予選のみのアドバンスでは、「いかに勝ち星を稼ぐか」よりも「いかに負けないか」が要求される。
そうなれば、高いアベレージを出せるデッキを選ぶ利点は上昇し、環境はさらに特定のデッキの比率が高くなるだろう。こうなれば、デッキ選択の上で「メタ外の雑多なデッキに強い」などの利点は薄れていくことにもなる。
そしてもう一つが、「プレイヤーが全員最強であること」。
言わずもがな、この全国大会は「全プレイヤーが何らかの輝かしい実績を持つ」という超特殊な環境。全試合が決勝戦と言わんばかりのカードになることもあり、「相手のミスに付け込む」ようなムーブはほとんど期待できないだろう。
ここまでの条件であれば上位デッキにしかチャンスがない……と思いきや、そういうわけでもないのが面白い所。
ここまでやってきたプレイヤーは環境考察やデッキ構築力についてもトップクラスのはずなので、全ての裏をかいて周りをあっと言わせるソリューションデッキを持ち込むプレイヤーもいるかもしれない。
一年に一度しか見られない、強者のみの手で形作られる小さく煮詰まった環境。それが、全国大会という場なのだ。
それぞれのプレイヤーが何を考えてそのデッキを選んだか、そのカードを採用したかなど、今から開催を楽しみにしつつ、筆を置かせていただきたい。
この記事が、読者諸賢が日本一決定戦当日の生配信やテキストカバレージをご覧になる際の一助となれば幸いである。
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