デュエル・マスターズ

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全国大会2023 決勝戦:にわか vs. キナリ

ライター:河野 真成(神結)
撮影者:後長 京介


 大会が進むにつれ、会場は静寂さを増していた。

 予選終了後、敗退が確定したプレイヤーは会場を後にせねばならなかった。
 ゆえに3位決定戦が行われている裏には、もう2人の選手しか残っていない。
 
にわか「どうしよう、マジで緊張しています」

 流石のにわかも、落ち着かない様子だった。
 GPで多くの経験をし、つい先ほども配信卓で試合をしてきたばかりの男ではあるが、決勝を前にして重圧を感じているのだろう。
 
 対してキナリの方も、直接は言葉には出さないものの、表情はやや固い。

 2人の前には、ホットコーヒーと幾つかのお菓子が置かれていた。じっと待っているのも辛いだろうということで、スタッフが差し入れてくれたものだった。
 しかしコーヒーには口を付けたものの、お菓子は手付かずであった。
 
にわか「こんなに美味しそうなお菓子があるのに、手が伸びないのは初めてかも……」
 
 緊張をほぐすべく、キナリの後期ランキングの話やにわかと師匠(マイケル)のエピソードなど、幾つかの会話を挟んではみたが、やはり緊張から解放されるのは難しそうだった。
 
 結局、話題はデュエル・マスターズそのものへと戻る。
 2人の前には、1台のスマホが置かれていた。にわかのものだった。壁の向こうで行われている3位決定戦の様子が、そこには映っている。
 
 2人は、試合を見ながらあれやこれやと会話を交わす。
 
 試合は着々と進み、終盤を迎える。
 3本目、一進一退の攻防を経てシムレイの《芸魔王将 カクメイジン》が走り、決着が付いた。まさに逆転からの再逆転といった内容だった。
 
 そして、ちょっとした安らぎの時間もここまでだ。
 いよいよ、その時が来た。
 
「それでは、移動の方をお願いします」
 
 スタッフからの声が掛かり、両選手がフィーチャー卓へと赴く。
 
 決勝ともあって、そこは異様な雰囲気だった。空気がおかしい。
 
 だが、それでいいのだ。それくらいの価値が、この勝負にはある。

 さぁ、日本一を決めようではないか。

Game1

先攻:キナリ  先攻のキナリは2ターン目の《堕呪 ウキドゥ》からのスタート。対してにわかは初手に《鬼寄せの術》を埋めている。既に3ターン目以降の動きは見据えているだろう。
 
 キナリは3ターン目は《堕呪 ゴンパドゥ》。ここまで《卍 新世壊 卍》はない。にわかとしては、ホッとしたところだろう。
 
 にわかの3ターン目、《鬼寄せの術》からの《謀遠 テレスコ=テレス》を繰り出していく。《卍 新世壊 卍》がないなら、じわりと手札を奪ってテンポを落とし、その間に展開しながら《ア:エヌ:マクア》を用意して勝つ。これがにわかの基本的なプランだ。
 
 そしてこの狙いは、一見通りそうに見えた。
 
 だが、にわかにとっても予想外のカードが、ゲームを大きく変えていく。
 《謀遠 テレスコ=テレス》の効果で墓地へと捨てられたのは、《「無月」の頂 $スザーク$》だったのだ。
 
 そしてキナリの4ターン目。《堕呪 ウキドゥ》のお陰で、墓地には既に3枚の魔導具が存在している。そしてこのターン、《凶鬼98号 ガシャゴン / 堕呪 ブラッドゥ》の呪文側から《堕呪 バレッドゥ》と唱えたことで、無月の門・絶が宣言される。  このゲームを牽引する筈だった《謀遠 テレスコ=テレス》は、《「無月」の頂 $スザーク$》によって破壊された。
 
にわか「さすがにつええなぁ……」

 にわかの口から、そんな言葉が漏れた。このターンに大きな動きはなく、ターンを終了。

 キナリ《好詠音愛 クロカミ》を召喚すると、横に《卍 新世壊 卍》を設置。早くも勝利が近付いてきた。
 にわかはこの《好詠音愛 クロカミ》《「必然」の頂 リュウセイ / 「オレの勝利だオフコース!」》の呪文側で対処はするものの、結局《卍 新世壊 卍》は残ってしまった。  こうなれば、あとはほぼ一方的な展開だった。
 
 キナリは魔導具呪文を連打し、手札を次々と増やしていく。にわかに出来る行動は、《ア:エヌ:マクア》の召喚のみ。
 
 やがてキナリの2基目の《卍 新世壊 卍》まで設置され、更に山札は残り2枚。
 ここで《der'Zen Mondo / ♪必殺で つわものどもが 夢の跡》の呪文側を唱え、追加ターンを確定。
 
 終始落ち着いたプレイを見せたキナリが、1本目を先取した。
 この天才には、緊張など無縁なのだろうか?

にわか 0-1 キナリ


にわか「いやぁ、流石につよいなぁ」

 にわかは、決定打となった《「無月」の頂 $スザーク$》を恨めしそうに眺める。

にわか「全然関係ないけど、アンケートの好きなカードの項目、とりあえず《月光電人オボロカゲロウ》って書いたけど《「無月」の頂 $スザーク$》のこと忘れていたわ」

 にわかの全国大会出場を支えたのは、間違いなく【水魔導具】だった。
 マイケルという師からデュエマを学ぶ過程で【水魔導具】に出会い、そしてこのデッキを通してデュエマへの理解を深めていった。
 言うならば、にわかにとっての原点であり、実家なのだ。
 
 彼と【水魔導具】については、マイケルがこんな話をしていたのをふと思い出す。
 
 今回使用している《邪幽 ジャガイスト》のデッキ……この【闇火自然ジャガイスト】というデッキはマイケルがGP2023-2ndのために用意したものであるが、ことメクレイドというギミックについては、曰く「魔導具で《堕呪 ゴンパドゥ》を唱え続けてきたにわかの方が、飲み込みが早かった」という。
 
 要するに《堕呪 ゴンパドゥ》を使って2枚単位でデッキを固定してきたにわかにとって、メクレイドは覚えがあるギミックだった、というわけだ。

 それを本人が意識しているかは不明だが、少なくともここまで大きな結果を残してきている。GPではベスト4。
 そして今回もオリジナルでは《邪幽 ジャガイスト》を選択し、まず予選を突破。
 準々決勝ではおなかいたいのマジックに喉元まで刃を突きつけられたものの、なんとか払いのけて勝利。続く準決勝では、シムレイのマジックを圧倒した。

 だが迎えた決勝で、待っていたのは自分の原点でもある【水魔導具】。
 そして、それを操る若き天才であった。


Game2

先攻:にわか  いきなり初手埋めが《堕呪 バレッドゥ》キナリ。2ターン目も《堕呪 ゴンパドゥ》を埋めてからの《卍 新世壊 卍》を見せられ、思わず口をあんぐりさせるにわか
 
 このまま、【水魔導具】が圧倒する展開となるのだろうか。
 
 にわかは3ターン目に《鬼寄せの術》からの《フットレス=トレース / 「力が欲しいか?」》を召喚し、リソース源を求める。
 悠々と《卍 新世壊 卍》のカウントを溜めにいくキナリに対して、続くターンに再び《鬼寄せの術》からの《謀遠 テレスコ=テレス》を繰り出して、なんとか時間を作りにいく。  この《謀遠 テレスコ=テレス》《卍 新世壊 卍》を撃ち抜いたことで、少しゲームの様子は変化していく。

 キナリの4ターン目は2コスト魔導具を順に唱えていき、《卍 新世壊 卍》のカウントは3。日本一まで王手だ。
 
 だがゲームはここで終わらなかった。
 にわかは三度の《鬼寄せの術》から、《アビスベル=覇=ロード》を召喚する。そしてターン終了時に《ア:エヌ:マクア》を繰り出すと、《卍 新世壊 卍》を剥がして続くターンの《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》から免れた。  とはいえ、キナリのマナは大きく伸びた。手札も潤沢にある。
 
 しかし、少し様子がおかしい。

 まず《好詠音愛 クロカミ》を召喚すると、次いで魔導具呪文を唱えていき、《好詠音愛 クロカミ》の効果で盤面を止める。
 しかし《卍 新世壊 卍》はなく、最後は《好詠音愛 クロカミ》の2枚目を召喚してターンエンド。先に《卍 新世壊 卍》を撃ち抜かれたのが響いたのだ。
 
キナリ「この2枚目の《好詠音愛 クロカミ》召喚はミスでした。必要なかったですね」

 あとからそう振り返っていたキナリ
 《卍 新世壊 卍》を失ったことで、やや動揺したのだろうか。

 にわかはここに≪「オレの勝利だオフコース!」≫を当て、並んだ《好詠音愛 クロカミ》を破壊する。更に《謀遠 テレスコ=テレス》を繰り出し、《卍 新世壊 卍》のないキナリの手札を減らしていく。
 
 こうなるとキナリはいよいよ苦しい。
 
 やがてにわか《邪幽 ジャガイスト》が満を持して駆け付け、更に更に《アビスベル=覇=ロード》も降り立つ。  最後は《深淵の壊炉 マーダン=ロウ》《「無月」の頂 $スザーク$》をボトムへと沈めると、反撃の隙を与えずそのまま倒しきった。
 
 さすがは【水魔導具】をよく知る男か。序盤の劣勢を見事に覆してみせた。
 
にわか 1-1 キナリ


にわか「最後、気持ちよくやろう」

 デッキをカットする中で、にわかキナリにそう語り掛けた。キナリは一度応じたあと、一言溢す。

キナリ「緊張した……」

 やはり、この天才も緊張していたらしい。

 キナリについて、ふと思うことがある。
 
 それはある日のことだった。じゃきーせいなといった日本一プレイヤーを生み出してきた中部地方から、1人の若き天才が現れた。
 そのプレイヤーは次から次へと勝利を重ね、あっという間にランキング争いに参戦する。
 だがそのプレイヤーのことを、誰も知らなかった。これまで聞いたことのないプレイヤーだったのだ。
 
 その名はキナリ。しかも聞けば、まだ中学生だという。
 結局そのまま勝ち続け、後期ランキング16位とし、全国大会への出場を決めた。
 
 もちろん、これだけでも恐ろしい話だ。
 ……だが、真に恐ろしいのはここからだった。
 
 他のランキングプレイヤーたちが、2月以降は“休憩”に入る中、キナリはCSへの出場を続けていた。そして当然のように勝ち続け、なんと気付けば2位にいた。
 
 CS優勝回数は16回。後期プレイヤーで、ダントツの数字だ。
 
 この状況を見て、「もしかして彼だけはランキングを『走っていた』というつもりはなかったのでは?」という疑念が湧いた。つまり、本人としてはただただ好きでCSに参加し続けただけで、全国大会への出場はその副産物的なものなのでは? という疑念である。加えて彼は、遠征等もしていない。
 
 が、当の本人に確認したところ、この説は少し笑いながらそれは否定された。
 
キナリ「CSに出続けていたのは、腕を落としたくなかったからですね」

 だとしても、とは思うのだが。
 全国確定後の彼の成績を追ってみると、なんと優勝4回。

 そして今日ここで、5回目の優勝にリーチを掛けている。

 会場の雰囲気は、やはり独特だった。空気そのものが張り詰めているように感じる。皆が緊張していた。
 その空気を吸い、そして溜め息を吐く。
 
にわか「最後だ……」

 いよいよ、最終決戦。

Game3

先攻:キナリ

 キナリはまずは《卍 新世壊 卍》からのスタート。対してにわかは、マナを溜めて終了。
 
 キナリ《堕呪 ゴンパドゥ》を唱え、手札の質・量を稼いでいく。
 
 にわかは覚悟を決め、《鬼寄せの術》からの《邪幽 ジャガイスト》
 勝負の命運を託す、メクレイド。 にわか「頼むよ……」

 まずは《邪幽 ジャガイスト》のメクレイドで《邪幽 ジャガイスト》が捲れ、更にそこから《謀遠 テレスコ=テレス》が登場し、更に更に《ア:エヌ:マクア》が出てきて《卍 新世壊 卍》を引き剥がし、盤面には5体のクリーチャーが並ぶ。
 
 そして《謀遠 テレスコ=テレス》《好詠音愛 クロカミ》を撃ち抜き、キナリのターンが始まる。
 
キナリ「ちょっと考えます」

 まずは《堕呪 ゴンパドゥ》からスタート。そして3マナで《好詠音愛 クロカミ》を繰り出し、《凶鬼98号 ガシャゴン / 堕呪 ブラッドゥ》の呪文側へと繋ぐ。まずは目の前の打点を止めなくてはならない。

にわか《好詠音愛 クロカミ》さえなければ、返しのターンに詰めにいくつもりだったんですよ」  対水魔導具のセオリーは、早期決着だ。にわかはそれを、痛いほど知っている。
 だが《好詠音愛 クロカミ》がいると事情が変わる。キナリのマナは現在6。ここで殴ってトリガー等で止まってしまった場合、2コストの《卍 新世壊 卍》から、一気に《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》まで到達してしまう。
 
 この状況をどうするか、にわかもやや困った。
 
 しかし、ここでのドローが強い。
 
 思わず、「おっ」という顔をすると、4マナを捻って≪「力が欲しいか?」≫。そこから《邪幽 ジャガイスト》を繰り出し、≪フットレス=トレース≫も蘇生。一気にリソースを伸ばす目処が立ったのだ。
 
 これならば、将来的に《好詠音愛 クロカミ》を除去し、更に《卍 新世壊 卍》を剥がしてから安全に詰めにいく、なんていうことも視野に入る。よって、ここはターンエンド。
 
 対してキナリもまた覚悟を決め、手を進める。
 まずは《堕呪 バレッドゥ》。つづいて《堕呪 ゴンパドゥ》。ここで《卍 新世壊 卍》に辿りつくと、呪文を重ねて《ガル・ラガンザーク》を宣言。  だがこの時のにわかは、強すぎる。
 《鬼寄せの術》からの場にでたのはなんと《アビスベル=覇=ロード》  マッハファイターで《ガル・ラガンザーク》を亡き者にすると、ターン終了時に≪フットレス=トレース≫の効果を宣言。
 
 そしてここで落ちたのはなんとなんと《ア:エヌ:マクア》

 まるでこのまま勝てといわんばかりに、デッキが次々とにわかに応えていく。《アビスベル=覇=ロード》の効果で当然《ア:エヌ:マクア》が登場し、《卍 新世壊 卍》を引き剥がした。
 
 返しのキナリは、《卍 新世壊 卍》を貼ったのみでターン終了。
 
 いよいよ、盤面の自由を得たにわか
 まずは《鬼寄せの術》からの《アビスベル=覇=ロード》の2体目を召喚すると、マッハファイターで《好詠音愛 クロカミ》を処理。
 
 ……すぐに《卍 新世壊 卍》を剥がせる見込みはない。
 キナリが返しに《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》まで到達するのは2コスト魔導具がある程度連鎖する必要があるものの、決して不可能ではないし、仮に途中で止まってもにわか《卍 新世壊 卍》を剥がせる保証はなく、むしろ状況が悪化する可能性も高い。
 
 ではあれば、詰めるならここか。  まずは《堕呪 ウキドゥ》で確認した楯に行く。1点。
 
 キナリは悩んだ末に、《堕呪 ギャプドゥ》をトリガー宣言。同時に夢幻無月の門によって、《ガル・ラガンザーク》も帰還した。
 
 《卍 新世壊 卍》のカウントも進んだ。《ガル・ラガンザーク》がいると《アビスベル=覇=ロード》の効果も使えない。もう退くことは出来なそうだ。
 
 《アビスベル=覇=ロード》の攻撃宣言はブロックされたものの、構わない。《ア:エヌ:マクア》でW・ブレイク。トリガーはない。
 残る楯は2枚。  これを全て割れば、遂に日本一だ。
 そして《ア:エヌ:マクア》で、W・ブレイク。
 
 キナリは、1枚ずつシールドを確認する。
 ……1枚目を見ても、表情は変わらなかった。  だが2枚目の楯を見た瞬間、明らかに様子が変わった。
 
 生気を取り戻した様に手が動き、やがて宣言される。
 シールド・トリガー、《堕呪 ボックドゥ》。そして……。 にわか「それはヤッバい!」
 
 《邪幽 ジャガイスト》たちを問答無用で止める、最強のシールド・トリガー。いや、正確に伝えよう。スーパー・S・トリガー。

「次の自分のターンの終わりまで、相手のクリーチャーは攻撃もブロックもできない。」
 
 にわかに出来ることは、もうない。

 帰ってきた、キナリのターン。
 まずは《卍 新世壊 卍》を完成させると、《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》を唱えて追加ターンを獲得する。
 同時に、歴史を作ってきたドルスザクたちがバトルゾーンへ揃った。
 
 1枚になってなお、魔導具を支え続けてきた《ガル・ラガンザーク》  《ガル・ラガンザーク》殿堂後の魔導具を支え続け、そして栄光をも勝ち取った《「無月」の頂 $スザーク$》  新たな力を手に、魔導具デッキへと帰ってきた《卍月 ガ・リュザーク 卍 / 「すべて見えているぞ!」》  そして魔導具の輝かしい歴史の証明そのものである《頂上混成 ガリュディアス・モモミーズ’22》  4体のドルスザクに見守られ、キナリの追加ターンが始まった。
 そしてそれは、キナリの、にわかの、そして2023年度デュエル・マスターズの、最後のターン。
 
 唱えられたのは、≪♪必殺で つわものどもが 夢の跡≫。

 にわかは、右手を差し出した。

 値千金のシールド・トリガー、そして逆転。
 これが、デュエル・マスターズ。 にわか 1-2 キナリ
CHAMPION:キナリ


 デュエル・マスターズが生み出した、シールド・トリガーの概念。
 誕生から長い年月を経って今なお、シールド・トリガーはデュエル・マスターズの醍醐味であり続けている。
 
 そのゲームで頂点に立ったのは、大人も子どももひっくり返した、デュエマよりも若い1人の少年だった。
 彼の名はキナリ。2023年、突如現れた若き天才。最後を締めるに相応しい最高の逆転劇で、その座を掴み取った。
 
 そして時は、2024年度へと進む。
 
 では、新しいゲームを始めよう。
 デュエル・マスターズが、最高のゲームであると信じて。

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