デュエル・マスターズ

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DMGP2024-1st Day1(アドバンス) 決勝戦:あーるん。vs. 試験管

ライター:林 直幸(イヌ科)
撮影:後長 京介

 デュエマの楽しさに目覚めたきっかけはなんだったかな、とふと思い出す。

 たぶん最初のターニングポイントは11年前、小さな大会でのとある対戦。
 そこで対面した彼は、後に別のゲームで日本代表になるほどの超強豪として有名だった。
 そんなことを何も知らなかった当時初心者の私は、【闇自然超次元】の"ライフマナクラリュウセイキルキル"で彼をボコボコにしてしまった。
 言ってしまえば運がよくてたまたま勝てただけ。今思えば全く驚くようなことではない。
 けれど、彼の強さを知ったとき、畏怖と同時に得も言われぬ感情が芽生えたことを思い出す。

 私でも強い人に勝てた。きっとそれが始まりだった。


 準決勝にて、前年度全国大会出場者である強豪、みみみ、dotto両名が敗れた。
 強豪同士による全国大会の権利を賭けた3位決定戦が行われる中、あーるん。は横向きのスマホで3位決定戦の映像をじっと見つめ、試験管もSNSをチェックして気を紛らわせている。

 正直、私は彼らのことをよく知らなかった。あーるん。は地元群馬でコンスタントにCSに参加しているし、試験管は直近のCSで優勝などの成績を残している。決勝まで勝ち進んでいることから、新進気鋭ながらどちらも十分な実力者であることは疑いようがない。
 とはいえ、彼らが準決勝で戦った界隈を代表するほどの強豪に比べると、認知度という観点からは見劣りしてしまうことは認めざるを得ない。

 けれど、彼らに話を聞いてわかったことがある。
 この両名と決勝の席を賭けるまで勝ち上がったのも、この両名を下したのも、彼らの創意工夫によって、辿り着いたデッキだった。 《芸魔獅子 レオジンロ / ♪限りなく 透明に近い このワタシ》が本戦では大活躍してくれました」

 流行の構築では見向きもされないこのカードが、あーるん。をここまで導くキーカードとなった。
 通常の構築にない搦め手は時に有効に作用し、《Forbidden Sunrise ~禁断の夜明け~》など対処しづらいカードを処理してきた。
 環境によって最適解が異なるメタカードの枠もドンピシャにハマり、準決勝は《ファイナル・ストップ》を絡めた猛攻でみみみに何もさせなかった。 《復活の祈祷師ザビ・ミラ》をフィニッシュに据えた形はまだあまり出回ってなかったんですよね。だからこの形を使うと決めたとき、枚数配分には結構こだわりました」

 前週の優勝で自信を深めた試験管は、その構築をより深く研究することになる。
 人によって採用枚数が分かれる《超霊淵 ヤバーダン=ロウ》の枚数を妥協せず、1枚だけ入った《フォック=ザ=ダーティ》などからその構築には相当なこだわりが伺える。
 土俵際で粘るdottoを《ア:エヌ:マクア》の連打でかわし、≪勝利の頂上 ヴォルグ・イソレイト6th≫が勝負を決め切った。

 彼らが選んだデッキは、確かにこの瞬間、誰もが知る強豪を上回った。
 私の初期衝動と似たようなものが、確かにここにある気がしてならなかった。

 きっと私にとっての【闇自然超次元】の"ライフマナクラリュウセイキルキル"は。
 あーるん。にとっての【水火マジック】の"バーシファイアカクメイジン"だし。
 試験管にとっての【闇自然アビス】の"ライフ欲しいかジャガジャガ"なんだろう。

 あとは、この日どちらが強いかを決めるだけの試合だ。
 全国大会に出場が決まったとか、今だけはどうでもいい。
 最後の対戦相手に勝って、自分の選択が間違いじゃなかったことを証明したい。

 かつての自分を重ねつつ、彼らの雄姿を見届けていこう。

Game1

先攻:試験管

 あーるん。の初手《氷柱と炎弧の決断》セット。
 試験管は顔に出やすいタイプだ。「絶対(2枚目を)持っとるやん」としかめっ面でぼやきながら、《ドミー=ゾー / 「倒したいか?」》の呪文側で初動に成功する。
 あーるん。の2ターン目。ここでは初動となる《AQvibrato》を、あえてマナセットして終了する。

《ア:エヌ:マクア》革命チェンジ《アビスベル=覇=ロード》が嫌で、的を作る動きをしたくなかったんですよね」

 3ターン目にアクションがなかった試験管に対して、《氷柱と炎弧の決断》で手札を整える。なるほど、《ア:エヌ:マクア》の当て先を作らないことで常に《アビスベル=覇=ロード》をケアする動きが一貫されている。
 オリジナル環境でも【水火マジック】を使い慣れているあーるん。だからこそ、決勝戦でもそのプレイングは一貫していた。

 一方、試験管にとってそのプレイングは不可解なものであった。実際マナに埋められた《AQvibrato》を見たとき、思わず「ん?」と言ったような表情をしていた。
 その理由は、対戦相手であるあーるん。も試合後に理解することとなる。

「あの2ターン目《AQvibrato》セットはダメでしたね」

「結局相手のデッキに《アビスベル=覇=ロード》入ってなかったし」  オリジナル環境で【闇自然アビス】を使い慣れているわけではないという試験管。翌日のオリジナル環境のGPに出場しないこともあり、今日に向けてアドバンス環境の【闇自然アビス】をひたすらに研究していた。
 その結果、《アビスベル=覇=ロード》で制圧するプランを廃し、《復活の祈祷師ザビ・ミラ》からのワンショットで確実なフィニッシュを狙う構築に至った。
 だからこそ《アビスベル=覇=ロード》を警戒されていることが一瞬頭から抜けていたのだろう。《AQvibrato》を出された方が苦しいゲーム展開を強いられていた試験管にとって、このプレイは僥倖であった。

 後攻3キルを気にすることなく、自らのアクションターンである先攻4ターン目が回ってくることに他ならないのだから。  満を持して4ターン目に現れた、【闇自然アビス】が環境トップたる所以である最強のエンジン、《邪幽 ジャガイスト》
 これがメクレイドで《邪幽 ジャガイスト》を捲り、これら2枚の蘇生効果がそれぞれ誘発。
 1回目で≪ドミー=ゾー≫、これがデッキを5枚掘り進める。
 2回目で失った手札を回復しつつ妨害も兼ねる《謀遠 テレスコ=テレス》

 わざとらしく手札の向きを1枚だけ変えて《謀遠 テレスコ=テレス》のハンデスに応じるあーるん。心理戦を仕掛ける程度には余裕を持っているものの、眼前には大型のブロッカーが3体。
 ここから攻撃を通すには《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》の呪文側などを上手く使う必要があったのだが、アドバンスの環境を考慮したこの構築からはこのカードが抜けている。
 それでも勝利のために、あーるん。は歩を進めることを決めた。

 《灼熱の演奏 テスタ・ロッサ》で手札を回し、攻撃時《芸魔隠狐 カラクリバーシ》
 その効果で攻撃時《瞬閃と疾駆と双撃の決断》踏み倒し2回、《灼熱の演奏 テスタ・ロッサ》《単騎連射 マグナム》踏み倒し。
《灼熱の演奏 テスタ・ロッサ》攻撃時、もう1度《芸魔隠狐 カラクリバーシ》にチェンジ。
 直近2ターンで追加10枚もの山札を掘り進めてきた。【水火マジック】のこの再現性こそが、あーるん。を決勝まで導いた原動力だ。

 しかし、それでさえも、眼前にそびえるブロッカー3面を超える術がない。
 どちらの攻撃も防がれ、シールドに触ることはできなかった。Game1の決着は近い。

 ターンが渡った試験管の手札から、3枚目の《邪幽 ジャガイスト》が放たれた。
 ≪ドミー=ゾー≫で山札を掘り進め、《超霊淵 ヤバーダン=ロウ》のハイパーモードを起動し、《復活の祈祷師ザビ・ミラ》からの≪勝利の頂上 ヴォルグ・イソレイト6th≫。

 その効果を交えたループが証明される。《無双恐皇ガラムタ》の効果を起動させつつ、ブレイクしたシールドを《深淵の壊炉 マーダン=ロウ》が墓地に落とし、《ア:エヌ:マクア》が墓地を空にする。
 実際のところ《無双恐皇ガラムタ》が起動した時点であーるん。に勝ち目はなかったのだが、試験管の詰め筋は徹底していた。何一つ間違いが起きないよう、1枚ずつブレイク、ハンデス、墓地リセットを繰り返す。
 頂上までの階段を一歩一歩踏み外さずに、丁寧に登っていくように。

あーるん。 0-1 試験管

Game 2

先攻:あーるん。

 Game1で2ターン目をパスしたときの試験管の反応、そしてソリティア中に見えた相手のデッキ情報。
 これらを通して相手の《アビスベル=覇=ロード》が入っていないことには薄々勘づいていたであろうあーるん。は、先のゲームとは打って変わって《イシカワ・ハンドシーカー / ♪聞くだけで 才能バレる このチューン》のクリーチャー側を2ターン目にプレイする。
「絶対次走ってくるやん……」とぼやく試験管。≪「倒したいか?」≫でマナを伸ばすが、マイナス思考から入る彼の表情にはどこか諦観が見られる。  そして、実際に今回のあーるん。は強気の勝負に出た。
 攻撃の強度を保証する《同期の妖精 / ド浮きの動悸》のクリーチャー側が横に添えられ、≪イシカワ・ハンドシーカー≫が《芸魔隠狐 カラクリバーシ》にチェンジ。≪♪聞くだけで 才能バレる このチューン≫によって手札が整えられる。
《芸魔隠狐 カラクリバーシ》のドローが解決された段階で、もはや試験管の意識は最終戦に向かっていただろう。

 けれど。

「呪文使いません」

 その声を聞いた試験管の目は、まるで寝坊で飛び起きたような驚きに満ちていた。
「えっ、いいんだ」
 そんな心の声が聞こえたような気がする。力強い所作でシールドを手札に加えていく。

 この反応から察するに、試験管の手札にはすでに≪「力が欲しいか?」≫があっただろう。最低限《ア:エヌ:マクア》あたりを捲り、相手の攻勢を止めれば有利な展開を作れる。
 とはいえデッキトップ3枚にこのゲームの行く末を託すのは、いくらここまで来た試験管にもいささかの不安が残っただろう。

 決勝戦、王手、後攻3ターン目。
 試験管の想いに呼応するように、【闇自然アビス】は全ての力を出し尽くす。

≪「力が欲しいか?」≫で見た中には《邪幽 ジャガイスト》
 メクレイド、勝利を決定づける2枚目の《邪幽 ジャガイスト》
 蘇生1回目、≪同期の妖精≫を破壊する《超霊淵 ヤバーダン=ロウ》
 メクレイド2回目、万が一すらもケアする3枚目の《邪幽 ジャガイスト》
 蘇生2回目、《芸魔隠狐 カラクリバーシ》を攻撃する《ア:エヌ:マクア》
 蘇生3回目、次ターンの行動を保証する《フットレス=トレース / 「力が欲しいか?」》を召喚。
≪フットレス=トレース≫効果、ダメ押しの《邪幽 ジャガイスト》4枚目を回収。
 "ライフ欲しいかジャガジャガ"。
 必殺の一撃が、この大舞台で炸裂した瞬間だった。

 あーるん。の苦笑いが状況を物語っている。
 盤面は壊滅し、≪ド浮きの動悸≫で追加1ドローを行ったその手札には、何もプレイするカードがなかった。
 唱える色がない《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》がマナセットされ、最後のターンエンドが宣言される。

 ターンが渡った。最後にもう1回だけ、これまで通りにゲームを終わらせる。
 4枚目の《邪幽 ジャガイスト》、一連の処理で《超霊淵 ヤバーダン=ロウ》、そして《復活の祈祷師ザビ・ミラ》の姿が見え――― あーるん。 0-2 試験管


「ヌルッと勝っちゃいましたね、なんか」

 王者は今日1日を振り返ってそう話した。

「あんまり勝ったって実感ないんですよ。ギリギリの試合で勝ったみたいなのもないし」

「予選で1試合だけギリギリの場面でG・ストライクを捲って勝ったくらい。それだけかなぁ」

 そんなものだろう。ゲームとはいえ、現実の世界にドラマはそうそう起きるものではない。
 SNSで喜ぶ友人らをよそに、お調子者の本人は、思ったよりも落ち着いていた様子だった。

「でもインタビュー受けて、いつも画面の向こうにいる人たちに会えたのは嬉しかったですね」

「ここまで勝ち上がったのに1回もフィーチャー卓に呼ばれなかったんですよ」

 今まで何者でもなかった自分が、ちょっとした有名人になる。
 そんな夢物語を叶えてくれるのが、このDMGPという大舞台なのだろう。

 その表情は試合前に比べて、ちょっぴり誇らしげに見えた。

Champion:試験管!!

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