全国大会2024 東北エリア予選決勝戦:いけ vs. さちぼう
ライター:山口 海斗(ジャイロ)
撮影:後長 京介
「夏草や 兵(つわもの)どもが 夢の跡」
かの英雄、源義経に思いを馳せ、すっかり田園地帯となった東北の地を詠んだ哀愁の句である。
時は変わって、令和6年。同じく岩手県にて、とある俳句……もとい、マジックソングが唱えられまくっている。
≪♪必殺で つわものどもが 夢の跡≫ 環境を定義する【水自然ジャイアント】やそれに強い【ターボマジック】で唱えられる、まさに「必殺」の呪文。直近の2ブロック環境を振り返っても、この呪文を見ない日は無かった。
東北エリアの代表を決める本大会でも、このマジックソングによる決着が見られるのではなかろうか。そんなことを考えながらふと気付く。この句が詠んでいるのは「夢の跡」なのだ。あくまで過去のお話。
準決勝において、それぞれ《der'Zen Mondo / ♪必殺で つわものどもが 夢の跡》が採用されたデッキを制した2人の兵(つわもの)が決勝に立っていた。
いま、決勝卓に≪♪必殺で つわものどもが 夢の跡≫と唱える者はいない。
さちぼうは水晶マナに頼らない、純正の【火水マジック】にて決勝の卓につく。特筆すべきは3枚しっかり採用された《詠み人-シラズ-Machine / 招水呪文「マジックル」》。これにより【火水マジック】の動きに足りない「あと1枚」にアクセスしやすくなり、これまでにない安定性の確保に成功した。
対するいけは彼独自のデッキ、【火水ガラワルド】にて決勝の卓につく。水文明主体のメタクリーチャーの通りの良さに着目し、赤い《飛翔龍 5000VT》こと、《ボルシャック・ガラワルド》による盤面の制圧にてゲームを決める。予選・本戦を通して、いけの攻めるタイミングの的確さは目を見張るものがある。リスク・リターンの見極めが秀逸であり、乗り手とデッキの相性もバツグンだ。 予選7位のさちぼうに対していけは予選8位。タッチの差で先攻後攻が決まった決勝戦に思わず顔をしかめるいけだが、その行方やいかに。
先攻:さちぼう 早速さちぼうは重たい2択を迫られる。1ターン目のマナチャージ、《芸魔王将 カクメイジン》を埋めるか《氷柱と炎弧の決断》を埋めるか。対面にもよるだろうが、セオリー通りなら《芸魔王将 カクメイジン》を埋めて3ターン目の《氷柱と炎弧の決断》のプレイを優先させるだろう。何より手札に《芸魔隠狐 カラクリバーシ》も《Napo獅子-Vi無粋 / ♪オレの歌 聞けよ聞かなきゃ 殴り合い》もいない。チェンジ元のいない《芸魔王将 カクメイジン》を抱えて戦えるのだろうか。
しかし、さちぼうのデッキに《芸魔王将 カクメイジン》は3枚採用と若干控えめ。《詠み人-シラズ-Machine / 招水呪文「マジックル」》の呪文側による掘削能力の高さで少ない採用枚数でも立ち回れるのが強みではあるが、いざ引いてしまうとそれを手放すのには勇気がいる。
1ターン目からの小考の末、《氷柱と炎弧の決断》をマナチャージしてターンを終えた。いけもマナチャージを終え、続くさちぼうの2ターン目……。
さちぼうはターン開始時に、値千金の《芸魔隠狐 カラクリバーシ》をドロー!ここにきて先ほど《芸魔王将 カクメイジン》を手札に残したことが大きなリードを産む。《AQvibrato》を召喚してターンを終えた。
対していけは《同期の妖精 / ド浮きの動悸》のクリーチャー面を召喚するのみとvs【火水マジック】へのプレイとしては若干心許ない。
【火水マジック】は《瞬閃と疾駆と双撃の決断》の殿堂入りに伴い、3ターン目の爆発力を大きく落とした。
2ブロック環境ゆえ、《灼熱の演奏 テスタ・ロッサ》の採用ができない【火水マジック】。
そんな前評判を覆すさちぼうの3ターン目、とくとをご覧いただきたい。
《イシカワ・ハンドシーカー / ♪聞くだけで 才能バレる このチューン》の下面を唱えると準備完了。《AQvibrato》の攻撃時に《芸魔隠狐 カラクリバーシ》へ革命チェンジ!
《芸魔隠狐 カラクリバーシ》の登場時能力により《調律師ピーカプ / ♪音速で 本番中に チューニング》の下面を唱えるといけにも緊張が走る。このタイミングの«♪音速で 本番中に チューニング»は「《芸魔王将 カクメイジン》に繋げるぞ」という予告と同義だ。
藁にも縋る思いでシールドを捲るが、そこに解答は存在しない。
いけの【火水ガラワルド】は「攻められる前の対応」に重きを置いている。最速で走り出したさちぼうを喰い止める手段は少ない。加えて唯一のS・トリガーであった«ド浮きの動悸»は既に3枚引いており、それすらも絶望的だ。
起き上がった《芸魔隠狐 カラクリバーシ》は攻撃と共に《芸魔王将 カクメイジン》へ革命チェンジ!
《芸魔王将 カクメイジン》のシールドブレイクが確定すると、このターンに唱えたばかりの≪♪聞くだけで 才能バレる このチューン≫と«♪音速で 本番中に チューニング»を唱えて攻撃終了後のアンタップを《芸魔王将 カクメイジン》に取り付ける。いけのシールドには……やはりS・トリガーは無い。
続く《芸魔王将 カクメイジン》の攻撃、新たな《芸魔王将 カクメイジン》へ革命チェンジし、「最初の攻撃」としていけへ向かう。1度目に唱えた«♪聞くだけで 才能バレる このチューン»で捨てたのは……《イシカワ・ハンドシーカー / ♪聞くだけで 才能バレる このチューン》。
墓地からも呪文を唱えられる《芸魔王将 カクメイジン》において、このタイミングでは次に唱えたい呪文を墓地に落とすべきである。つまり、この時点でさちぼうの攻撃は終了することを意味していた。
やはり、2度目に唱えたのは捨てたばかりの«♪聞くだけで 才能バレる このチューン»であり、攻撃は止んだ。さちぼうの長い長い3ターン目が終わる。
このターンの決着こそ出来なかったが、いけを守る全てのシールドを奪ったさちぼう。
いけ「決勝なんだけどな……。」 思わず苦い笑みをこぼすいけ。無理もない。僅かな順位の差で後攻になり、その結果先行3ターン目に最悪にかなり近い形で攻められている。
だが、これで折れるいけではなかった。母数1のオリジナルデッキをエリア予選に持ち込んだ慧眼、この窮地すらも想定済みだったというのか。今度はいけの怒涛の切り返しをご覧いただきたい。
まずは《瞬閃と疾駆と双撃の決断》を唱えて「コスト3以下のクリーチャーを1体、自分の手札から出す。」効果を2回選択、《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》の上面と《文藍月 スナイパー》をバトルゾーンに送り出す。割られたシールドを出力に変換しての応戦だ。
更にさちぼうの《芸魔王将 カクメイジン》に向けて≪同期の妖精≫が攻撃、ラスト・バーストで≪ド浮きの動悸≫を唱えてさちぼうのバトルゾーンを更地にして返した!
攻め手を失い、≪ボン・キゴマイム≫によって攻撃を咎められたさちぼう。しかし、直前の≪♪聞くだけで 才能バレる このチューン≫の連打によってさちぼうの手札は潤沢だ。
《アシスター・Mogi林檎》を召喚し、その軽減を使って《AQvibrato》を召喚。更に余った1マナで≪招水呪文「マジックル」≫を唱えて《調律師ピーカプ / ♪音速で 本番中に チューニング》を回収。いけに王手を突きつけた。
この状況、いけにとってかなり重たい。
大前提、いけを守るシールドはもうない。また、ブロッカーはいけのデッキに存在しない。つまり、このターン中にさちぼうのクリーチャーを全て処理しなくてはいけないのだが、直前に召喚された《アシスター・Mogi林檎》のジャストダイバーによってそれも難しい。仮にそれらを全て成功させたとして、≪招水呪文「マジックル」≫によって回収されたスピードアタッカーの≪調律師ピーカプ≫を咎め続けなくてはいけない。
増えた手札からこの状況を打開する手段を模索するいけ。
まずは除去の起点となる《ロック・ポロン》を送り込み、ハイパーエナジーを活かして2マナで《爆藍月 スケルハンター》も召喚。《ロック・ポロン》の強制バトルにて《AQvibrato》を破壊する。《爆藍月 スケルハンター》をタップして《文藍月 スナイパー》をハイパー化させると全ての準備は整った。
いけは《文藍月 スナイパー》で攻撃しなければならない。されど、ここでS・トリガーを踏まなかったときのリターンは甚だ大きい。いけには見えていない景色だが、さちぼうは《詠み人-シラズ-Machine / 招水呪文「マジックル」》の枠を捻出するために《歌舞音愛 ヒメカット / ♪蛙の子 遭えるの何処?好きと謂ひて》の採用枚数を2枚にまで絞っている。つまり、≪ボン・キゴマイム≫と《爆藍月 スケルハンター》がバトルゾーンにいるこの状況、いけが思っているよりは堅牢なのだ。
意思を固めたいけ。ハイパー化した《文藍月 スナイパー》でさちぼうに攻撃を宣言、数字はもちろん「2」。
1枚、2枚とシールドを確認するさちぼう。そのうち1枚と目が合った。
そのカードは、2ブロックならではの防御性能を発揮していた。
そのカードは、ただの受けに留まらず、攻撃の起点としても活躍した。
そのカードは、エリア戦の権利をとった時もさちぼうの近くにいた……! 《偽りの名 システイス》!!
これだけはどうしようもできなかった。≪ボン・キゴマイム≫《爆藍月 スケルハンター》の行動制限を掻い潜り、《偽りの名 システイス》のダイレクトアタックにて勝敗は決した。
Winner:さちぼう
東北の地で、新たなヒーローの誕生だ。
さちぼう「引きが強かっただけなので……。」
エリア優勝。全国大会への出場。そんな栄誉を手にしても、「謙虚」の二文字が常に横に在る。
控えめなヒーローは全国大会に向けて歩き出した。
決勝戦を終え、がらんとした会場には哀愁すら漂っていた。着々と進む片付け、つい数時間前まで84人の兵が夢を目指して戦っていたこの地こそまさしく……。いや、締めの言葉はこれではない!まずはこの台詞を述べなくては。
おめでとう、さちぼう!!
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