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全国大会2019 ジャッジ大会 決勝戦:畳(神奈川) vs. ダイゴロー(千葉)

撮影者:後長 京介
ライター:伊藤 敦(まつがん)

 静かな会場で、二人のシャッフルする音だけが響く。

 予選敗退を喫し、騒がしくフリープレイに勤しんでいたジャッジやライターたちも、決勝戦のタイミングともなるとさすがに手を止め、最後の一戦がこれから始まろうとしているのを固唾をのんで見守っていた。

「僕が今日、誕生日だっていうエピソードいります?」

 カバレージを書くために構えていたこちらに対して気を遣ってくれたのだろう、対戦者の一人であるがふと話しかけてくる。

 対戦前に選手たちの会話がないと、試合前の描写が書きづらくなるかもしれない……公式カバレージでのライター経験があるからこその、そんな配慮が窺えた。

 だが自分にとって何よりも大きなものがかかった試合の前だというのに、この落ち着きよう。もちろん場慣れしているというのもあるのだろうが、どちらかといえばある種の"職業病"が畳をそうさせているのではないか……と、そんな風にも思われた。

 勝負の世界で「裏方に携わる」ということは、勝ち負けのレイヤーを一つ上にのぼる代わりに、競技者としての純粋さを失うということだ。

 競技者は、とりわけ個人競技なら、基本的には自分一人の勝利しか喜べない。だが裏方なら、友人や応援しているプロが勝つことも「勝利」となる。あるいは参加者たちの感謝の言葉はもちろん、自らが携わったイベントの成功そのものですら、ある意味で「勝利」にあたるものと捉えられるようになるかもしれない。

 しかし同時に、一度裏方を経験してしまうと、競技者としての自分を良くも悪くも客観視するようになってしまう。

 無論、ここ一番の大勝負でも空気に呑まれることなく冷静に立ち振る舞えるのは良いことだ。だがその一方で、「優勝」の二文字をあれほど切実に、焦がれるように求めていた自分が、まるで嘘であったかのように感じられるようになる。

 その変化は不可逆的だ。競技者と裏方、二つのレイヤーを行き来できてしまうからこそ、情熱というモチベーションだけをひたむきに信じることができなくなってしまうのだ。

ダイゴロー「え、誕生日なんですか?……いやー、でもこのバースデープレゼントはあげられないなー」

「ばっちりいただいていきますw」

 もう一人の対戦者、千葉を中心にジャッジ活動を行う一方でCSにも時折出場しているダイゴローも、緊張はしている様子だったが、それでもこの一戦を最後まで楽しもうという余裕が感じられた。

 このジャッジ大会に参加できているという時点で、誰もが純粋な競技者ではありえない。そしてそれゆえに、メタゲームを読むのが最も難しい大会でもあった。

 だがそんな中で、畳とダイゴローは誰よりも競技者としての自分を出しきることに成功したと言えるだろう。何せ二人が選んだデッキは、奇しくも全く同じアーキタイプだったからだ。

 4色ドッカンデイヤー同型戦。すべてのエリア代表決定戦の中で唯一、新殿堂の施行後に行われたこの大会で、何でもありの混沌としたメタゲームを潜り抜けて勝ち上がったのは、超GRを最大限に悪用することで相手のデッキタイプや動きに関係なく勝ちきることのできるループコンボだった。

 裏方であろうと、否、裏方だからこそたどり着きたい舞台がある。

 友人や応援する選手の勝利を会場の隅で見送る。賞賛の拍手でもって喜びを共有する。普段ならそれだけでも、十分満足できる。

 でも、たまには。

 裏方だって、主人公になりたい瞬間がある。

 だから情熱は、今ここにあった。客観は消え、炎のような主観だけが残った。押し殺してきたエゴを剥き出しにしながら、優勝という成果を独占するために。

 日本一決定戦。最高峰の舞台への挑戦権をかけ、畳とダイゴローとが激突した。


先攻:畳

 ジャンケンで先攻は畳。互いに《》をマナに置くと、畳は《MEGATOON・ドッカンデイヤー》チャージからの《霞み妖精ジャスミン》《》を、ダイゴローは《*/弐幻キューギョドリ/*》チャージからの《霞み妖精ジャスミン》《零星アステル》を、それぞれマナに落とす互角の立ち上がり。

 だがここで畳が先んじる。《零星アンバラン》チャージから《κβバライフ》の使用を宣言すると、GR召喚されたのは《サザン・エー》

「よし!」

ダイゴロー「くー、強い!」

 《テック団の波壊Go!》をマナゾーンに落としてマナを伸ばしつつ、即座に自壊させての2ドローで手札を補充することに成功する。

 他方、後手番が重いながらもどうにか展開で追いつきたいダイゴローも、《フェアリー・ライフ》チャージからの《κβバライフ》で食い下がる。

ダイゴロー「オレもサザエで追いつきたい!」

 言葉にする。思いは現実を変える。そう信じて、ダイゴローは超GRの一番上をバトルゾーンへと叩きつける。

 しかし、GR召喚されたのは《天啓 CX-20》。マナドライブが達成していないため能力は発動せず、《κβバライフ》の効果で《BAKUOOON・ミッツァイル》がマナに落ちるのを見ながらターンを返すしかない。


 そして、いよいよマナドライブが真骨頂を発揮する。《MEGATOON・ドッカンデイヤー》をチャージして6マナに到達した畳は、《霞み妖精ジャスミン》《*/弐幻キューギョドリ/*》をマナに落として7マナにまで伸ばすと、「無月の大罪」で《解罪 ジェ霊ニー》の使用を宣言する。GR召喚は……《ヨミジ 丁-二式》

 《零星アステル》《“魔神轟怒”万軍投》《テック団の波壊Go!》というダイゴローの手札内容を確認してまずは《“魔神轟怒”万軍投》を捨てさせた畳は、続けて《ヨミジ 丁-二式》の自壊能力で墓地に落ちたばかりの《解罪 ジェ霊ニー》を釣り上げて能力を再度使用し、《零星アステル》をも捨てさせる。さらにここでのGR召喚が《天啓 CX-20》で、「無月の大罪」でバトルゾーンに定着こそしないものの、このターンまさかの1:5交換を実現する。

 手札の有効札を2枚も刈り取られたダイゴローは、マナチャージしてターンを返すことしかできない。

 なおも畳は《霞み妖精ジャスミン》チャージから《κβバライフ》《ポクタマたま》をGR召喚しつつマナを伸ばすと、再び「無月の大罪」で《解罪 ジェ霊ニー》を使用し、ダイゴローの手札を空にしつつもまたしてもめくれた《サザン・エー》を自壊させて手札を補充する。


ダイゴロー「何だ、何だったらいいんだ……」

 この状況を打ち破れるカードは何か。ドローする前に、ダイゴローは必死に自問する。

 今だけは、主人公でありたい。だから一度だけでいい。望んだカードを、この手に。

 その情熱が、奇跡を引き寄せた。

 ダイゴローが引き込んだのは、《“魔神轟怒”万軍投》


 マナゾーンにはちょうど6マナ。ここからのGR召喚次第では大逆転もありうる。ダイゴローは祈るように3枚の超GRを手に取り、1枚ずつ表向きにしていく。

 めくれたのは、《ダダダチッコ・ダッチー》《サザン・エー》……そして、マナドライブの発動にはわずかに1マナ足りない、《ヨミジ 丁-二式》

 だがまだチャンスがある。《ダダダチッコ・ダッチー》《霞み妖精ジャスミン》がめくれるか、《》がめくれて《クリスマⅢ》につながるなどすれば、《ヨミジ 丁-二式》の能力が発動できる。

 はたして山札の一番上は。

 ……《フェアリー・ライフ》。奇跡は、二度起きなかった。

ダイゴロー「……ヨミジは発動しないんでターン終了です……」

 有り余るほどの手札を抱えた畳に、ついにターンが返ってくる。

 これまでテーブルの脇で、何人ものガッツポーズを見送ってきた。友人が決勝戦を勝つ瞬間を、幾試合も目撃してきた。

 だが今だけは、他の誰かに譲る気はない。

 畳の情熱は、今ここにある。


 《MEGATOON・ドッカンデイヤー》

 5枚の手札がすべてGRクリーチャーへと変換される。めくれたのは《ヨミジ 丁-二式》《クリスマⅢ》《クリスマⅢ》《アカカゲ・レッドシャドウ》《マリゴルドⅢ》で、適当に手札が補充された後に《マリゴルドⅢ》が2体目の《MEGATOON・ドッカンデイヤー》をマナから呼び出す。さらにめくれた《天啓 CX-20》《サザン・エー》が補充した手札を、2体目の《マリゴルドⅢ》によって呼び出された3体目の《MEGATOON・ドッカンデイヤー》がストックに変換する。

 そこからの手順は間違えようもなかった。

 やがて超GRを出しきった後、《ヨミジ 丁-二式》の自壊能力を利用することで《》《ラルド・ワースピーダ/H.D.2.》《零星アンバラン》を無限に破壊し続けられるループに入ったことが畳によって証明される。

 それはダイゴローにとって、勝利を独占することがもはや許されないということを意味していた。主人公には、なれなかった。

 だから、せめて。

「100回繰り返します」

ダイゴロー「200枚ですね……ありがとうございました!」

 その敗北を、自分だけのものとして受け入れたのだった。


Winner: 畳


 もしも、先手だったなら。そうでないにせよ、あそこで《ヨミジ 丁-二式》がめくれていなければ。あるいは、《ダダダチッコ・ダッチー》のめくれが強かったなら。

 自分のミスの結果とは言いがたい、やりようのない負け方をダイゴローはなかなか消化できずにいるようだった。

 それでも対戦後、畳が右手を差し出したのを見て、ダイゴローも遅れて右手を差し出し、固い握手を交わした。そしてすぐさま開始した表彰式で畳が優勝を祝われるのを、拍手とともに笑顔で祝福することができた。

 なぜなら、これだけの情熱を生み出せる土壌がデュエル・マスターズにはある。ゆえに、自らがジャッジとしてそれを支えてきたのは間違いではなかったと知れたからだ。

 対し、最高の誕生日プレゼントを自ら勝ちとった畳は、ジャッジ大会の優勝者、裏方の代表として日本一決定戦に出場する。

 純粋な競技者としてではなく、二つのレイヤーの経験者として最高峰の戦いに臨むというのは、畳にとって不利な事情となるだろうか?

 否。きっとそうはならないだろう。二つのレイヤーを行き来してなお、畳の情熱はまるで裏方としての自分を忘れたかのように燃え盛っていたからだ。

 そう、だから。

 情熱は、今ここにある。そしてこれからも、静かに熱を放ち続ける。


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