デュエル・マスターズ

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全国大会2019 東北エリア予選 Aブロック決勝戦:オヤシュー(青森) vs. マ・ヒーロー(新潟)

撮影者:後長 京介
ライター:河野 真成


 決勝卓から漂う深い霧のような重圧は、プレイヤーたちの臓腑までをも押し潰している。重力が、磁場が、狂ったようなこの特異点。これを「重い苦しい雰囲気」とだけ記すのは、やや言葉が不足しているだろう。決勝卓というのは、それくらい違うのだ。
 テーブルから既にそうなのだから、選手達が纏う雰囲気も高い緊張状態にあった。

 オヤシューは大きく深く、一度息を吐いた。マ・ヒーローはじっと膝に手を置き、試合開始の時を待っている。共にリラックス状態とは、ほど遠いような表情をしていた。

 オヤシューの使うデッキは九州大会で優勝を果たした『カウンタージョーカーズ』。それを、自身なりに工夫を加えて使用していた。その成果か、予選を1位で通過した後そのまま勝利を積み重ね、決勝に辿り着いている。

 対して今年で中学1年生というマ・ヒーローが使うのは、『火単B-我』だ。2年前に彼が甲信越予選で決勝を戦ったとき、使用したのは『火単ブランド』だった。その際に最も活躍したカードとして《一番隊 チュチュリス》を挙げたのだから、納得の選択である。

 それぞれ準決勝は激闘だった。
 オヤシューは『シータ(水火自然)ミッツァイル』を相手に耐えて耐えて《オラマッハ・ザ・ジョニー》で勝利を掴み、マ・ヒーローは《一番隊 チュチュリス》が二度の≪7777777≫を躱した結果、《龍星装者 “B-我”ライザ》が着地し駆け抜けた。

 2人に共通していたのは、勝利の後の姿勢だった。派手なガッツポーズのようなものはなく、だた静かに「ありがとうございました」と挨拶をしていた。それが彼らにとっての、対戦相手への敬意の示し方なのだろう。

 そんな彼らに歓喜の瞬間が訪れたとき、そして「重圧」から解き放たれたとき、どんなことを表情をするのだろうか?どんな言葉を口にするのだろうか?

 さて、時は来た。
 ヘッドジャッジのコールに合わせて互いに小さく一礼し、試合が始まった。


先攻:オヤシュー


 先攻を取ったのはオヤシューだ。
 本来《ジョラゴン・オーバーロード》等でブーストしたいところだが、2ターン目、3ターン目とマナを置いたのみで終了。
 対してマ・ヒーローは、《こたつむり》から《ダチッコ・チュリス》《HAJIKERO・バクチック》と展開をしていく。加えて《HAJIKERO・バクチック》《ロッキーロック》をGR召喚したことで、ターン終了時に追加の《ドドド・ドーピードープ》を呼び込み、盤面のクリーチャーの数を維持してみせた。


 盤面の数が多いというのは、それは即ち《龍星装者 “B-我”ライザ》の着地が容易になるということだ。この時、マ・ヒーローは《龍星装者 “B-我”ライザ》を引いていなかったものの、もちろんそれはオヤシューの知るところではない。

 オヤシューはようやく引いた《ジョラゴン・オーバーロード》を唱えてマナを伸ばし、続けて《龍星装者 “B-我”ライザ》の着地を阻止すべく、≪7777777≫を宣言する。コスト2のクリーチャーを2体退けたことで、一端は脅威を脱した……かに見えた。

 状況を整理しよう。
 マ・ヒーローは盤面を除去された上で、次にオヤシューが6マナに到達する。そこで《ソーナンデス》が着地してしまうと致命的だ。盤面の壊滅は免れない。

 しかし手札も薄く、盤面も減っている。だが、準備の猶予を貰えているのはこのターンまでだ。
 非常に厳しくも見えるが、そんな状況をも打開するカードが……ある、あるのだ。文字通り、たった1枚だけ。

 そう、マ・ヒーローがプレイしたのは《“轟轟轟”ブランド》


 ビートジョッキーの総大将は、火単を愛するマ・ヒーローを全国の舞台へと連れて行くべく、この決勝に駆け付けたのだ。

 マ・ヒーローは迷わず《HAJIKERO・バクチック》《ドドド・ドーピードープ》、そして《“轟轟轟”ブランド》を動かす。もちろん目指すはオヤシューのシールドだ。更に《HAJIKERO・バクチック》から出てきたのはなんと《ソニーソニック》。遂にその喉元まで届く打点を形成したのだ。

 だがオヤシューも簡単には膝を折らない。
 最後のシールドから飛び出たのは、≪7777777≫だった。コスト3を捲って《ソニーソニック》を弾き飛ばし、マ・ヒーローに傾いた流れを食い止める。


 これはマ・ヒーローもターンを返さざるを得ない。もう一押しが、僅かに足りなかった。

 だがターンを貰ったオヤシューも、大きな問題を抱えていた。
 なんと《ソーナンデス》が手札にないのだ。

 手札を見つめ、オヤシューは熟慮する。
 現状を打破すべく、彼が唱えたのは《ジョラゴン・オーバーロード》だった。手札の枚数を鑑みると、ここで《The ジョラゴン・ガンマスター》ならまだ盤面を取り返せる……そんな祈りを込めてのGR召喚。


 だが出てきたのは《ポクタマたま》だった。
 オヤシューは1つ、息を吐く。それは間違いなく溜め息であった。
 続けて再度《ジョラゴン・オーバーロード》を撃ったものの、《バイナラシャッター》では状況を打開出来ない。
 
 オヤシューはターンの終了を宣言し、自らの首を差し出した。

 さぁ、マ・ヒーローにウイニングランの時間が巡ってきた。

 思えば2年前、小学生での全国大会を目指し挑んだ甲信越予選は、決勝でばんぱくに力の差を見せられて敗北。涙を飲む結果となった。あの時届かなかった後一歩、全国大会への扉。今まさにその扉に手を掛け、未来へ向かって押し開けようとしている。

 弟が、そして彼の“師”であるGidoouが見守る中で、マ・ヒーローはダイレクトアタックを宣言した。


 それはまさに2年越しの歓喜の、そして若き戦士が達成した快挙の瞬間であった。

Winner:マ・ヒーロー


 気付けば、決勝卓を覆う深く重い霧は晴れていた。

 マ・ヒーローはやはりマ・ヒーローだった。オヤシューと握手を交すと、静かに自身の勝利を噛み締めていた。或いは、歓喜の実感が湧かないのかもしれない。それもそうだろう。ここから先の景色を見たことある人など、そう何人もいないのだから。


 そんな彼に「全国大会に向けての意気込みがあれば、是非を教えてください」と質問してみた。
 今日のヒーローは少し考えたあと、こう答えた。
「今日勝った人たちにしっかり感謝をして、戦いたいです」

 東北大会Aブロック、そのトーナメントを制したのはどこまでも誠実な、若き戦士だった。
 優勝おめでとう、マ・ヒーロー!


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