全国大会2024 関西エリア予選:メタゲームブレイクダウン
ライター:河野 真成(神結)
撮影:後長 京介
令和六年十二月二十一日、応天門より午の方にありしみやこめっせにて、つはもの集ふ。よき晴天なれば、鴨川の流れも穏やかなり。
この日は悪魔神復活の日なれど、此れ使ふにはあたわず。即ち北方より続く戦ひの終焉の地といへるなり。
九州を征しプレジヰル、その勢ひ衰へることなし。この日、京にも上洛す。それはまさに多々良浜の尊氏が如し。
しかし、なにゆえプレジヰルは勝てり。
「プレジヰルの強きこと、鬼神の如し。九州よりいで、天下を平定す。その軍勢、無上なれば、強さゆめゆめ疑ふことなし」
かように思ふは、早計にはあらざむや。
以下に、その所以を記すなり。
なぜ、火水闇プレジールは勝ったのか
……さて、どうして【火水闇プレジール】は勝てたのだろうか。この疑問に答えるには、まずは今大会の全体分布を確認しようと思う。
13 光闇(水)メカ
12 火水闇プレジール
10 水自然ジャイアント
8 火水アグロマジック
6 火水ゼロ水晶マジック(ターボマジック)
5 水闇ボウダン
4 闇自然アビス
4 光水自然ゼニス・セレス
3 光水闇コンプ
2 光水闇エルボロム
2 闇自然ゼニス・セレス
1 水闇COMPLEX
1 水自然ゼニス
1 火水闇ハイパーモード
1 光水自然ビッグマナ
1 光闇自然メカ
九州を勝利した【火水闇プレジール】は最強デッキとして名乗りを挙げ、京都の戦役に於いても優勢を築き、そのまま制した。
全体分布でも最上位に君臨しており、それがそのまま優勝を果たすことにさして疑問はなさそうに思う。
だが、それはやや早計であろう。
その所以を語るべく、まずは優勝した25のデッキリストについて確認してみたい。
25 全国大会2024 関西エリア予選 2ブロック構築 |
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そして、九州エリアを制した【火水闇プレジール】のリストはこうである。
えいりゅー 全国大会2024 九州エリア予選 2ブロック構築 |
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おわかりいただけるだろうか。リストの差異が結構あるのだ。
具体的に言えばえいりゅーが使用したリストから《超楽識 フミビロム》や《死神覇王 ブラックXENARCH》といったカードが抜けており、計9枚のカードが異なっている。
全体の4分の1も違うとなれば、それは思想の異なるデッキと評して差し支えないだろう。
特に《死神覇王 ブラックXENARCH》や《超楽識 フミビロム》といったカードは、相手の盤面を制圧するのに必要と考えられる、いわばコントロール寄りのカードだ。
対して25がそれらの枠に採用したカードとなると、追加の《鬼火と魍魎の決断》や、《超化秘伝アビスアサルト》、そして《パシフィック・ヒーロー》に《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》たちだ。
これらはより攻撃力に特化し、相手を前で抑え込むカードだ。
こうなると、どうも「九州で制覇し、そのままの勢いで上洛」というストーリーは、やや現実に則してないように思う。
そのため、まず一旦は他のデッキたちを整理し、その後【火水闇プレジール】の勝因について改めて考えてみたい。
なぜ、メカは増えたのか
正直なところ、【火水闇プレジール】以上に気になるのは【光闇メカ】が最大数だったことだ。
megafonia 全国大会2024 関西エリア予選 2ブロック構築 |
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上記のリストは、3位となったmegafoniaのものであるが、本大会で使われたメカのリストは千差万別であった。
水文明を入れて《爆藍月 スケルハンター》や《同期の妖精 / ド浮きの動悸》を採用したもの、《聖カオスマントラ》を4枚採用したもの、《鎧機天 シロフェシー》入りのもの……。
Vのもれ 全国大会2024 九州エリア予選 2ブロック構築 |
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それが示すことは、何か。
メカというデッキの幅広さもさることながら、これはつまり複数以上の個人・調整グループが「今大会はメカが強いと考えた」ということだろう。
基本的に、同一の調整グループで持ち込むとすれば、リストは完全一致とは言わないまでもかなり方向性が近しいものになる筈だ。
実際、話を聞いたところだと、megafoniaは同じく予選を抜けたWRSH部長からメカを提案されたということであった(これも2人のリストは違うのだが)。
またけみくろ放送局でお馴染みVのもれは、本大会には(既に全国大会の権利を持っているため)不参加の紅蓮よりメカを勧められ使用したという。
では何故、複数のグループが【光闇メカ】に至ったのか。
megafonia、Vのもれはいずれも共通して「【火水アグロマジック】への相性の良さ」を挙げた。
例え九州エリアで【火水闇プレジール】が勝ったと言えど、東北から東海・北陸に掛けて【火水アグロマジック】は三連覇を達成している。このデッキを無視することは出来ない。
そして《死神覇王 ブラックXENARCH》絡みの制圧力やブロッカーが複数並ぶ強固なボード、《鎧機天 シロフェシー》や《聖カオスマントラ》といった要素が【火水アグロマジック】に対してかなりやれる、という評価を下しているようだった。
また【水自然ジャイアント】の数が下降気味だったことも、追い風となった筈だ。
最初のエリアとなった北海道で全体の4分の1、ベスト8に至っては8分の4を占めた【水自然ジャイアント】だったが、以降のエリアでは2種のマジックや【光水自然ゼニス・セレス】の台頭を受けて、後退していた。
【光闇メカ】にとっての【水自然ジャイアント】は、不利を免れない相性である。これはmegafoniaもそのように話しており、その上で「不利ではあるが、決してノーチャンスという訳ではない」という観点から使用に至った、とのことである。
突如の【光闇メカ】の流行には、こうした背景があったと考えていいだろう。
そしてこの【光闇メカ】の流行という特殊な環境で、大きな恩恵を受けたデッキがある。
それが【火水ゼロ水晶マジック】、いわゆる「ターボマジック」と呼ばれるデッキたちであった。
環境の勝者、ターボマジック
ではここで、TOP8のデッキ分布を紹介しよう。3 火水ゼロ水晶マジック(ターボマジック)
1 火水闇プレジール
1 水自然ジャイアント
1 光闇メカ
1 水闇ボウダン
1 光水自然ゼニス・セレス
流石にこれは、環境の勝者は【火水ゼロ水晶マジック(ターボマジック)】と言っても過言ではないだろう。全体での使用者数は、上記にあるように6名。誠に天晴れな予選突破率である。
Sabaki 全国大会2024 関西エリア予選 2ブロック構築 |
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では何故ここまで勝ったのだろうか。それはやはり、【光闇メカ】の台頭というのは無視出来ないだろう。
メカの主軸である《DARK MATERIAL COMPLEX》や《アーテル・ゴルギーニ》、そして《死神覇王 ブラックXENARCH》といったカードは地上戦に於いてその威力を最大限に発揮する。
相手がボードでまともに戦おうとすれば、《DARK MATERIAL COMPLEX》のカウントは溜まり、《死神覇王 ブラックXENARCH》の効果が刺さり、《アーテル・ゴルギーニ》が盤面を作り続ける。
これに対して【火水ゼロ水晶マジック(ターボマジック)】というデッキは、相手の盤面とは戦わない。ひたすらにマナの確保とドローを進め、そして山札の枚数が減ってきたところで《芸魔王将 カクメイジン》を通していく。
本来ならばブロッカーを並べれば《芸魔王将 カクメイジン》の攻撃は止められる筈なのだが、《グレート・流星弾》や《芸魔龍王 アメイジン》といったカードがブロッカーたちを無力化していくことが出来る。
「ボードで勝てないなら、プレイヤーを倒してしまえばいい」の体現したようなデッキで、最終的には≪♪必殺で つわものどもが 夢の跡≫から追加ターンを複数獲得し、あらゆる防御ギミックを突破してしまうのだ。
使用したsabakiに話を聞くと、【光闇メカ】にはかなり有利であると認識しているとのことだった。実際、本戦に上がった3人の【光闇メカ】は、全員が最後【火水ゼロ水晶マジック(ターボマジック)】に敗れたのである。
また、九州で結果を残したタイプの【火水闇プレジール】についても、「先攻ならば充分勝てる」との認識のようだ。
勿論《楽識神官 プレジール》からの強襲ギミックはメカのそれを大きく上回ってはいるものの、【火水闇プレジール】が目指す盤面制圧に対しては、それこそ対メカと同じく相手にする必要がないのだ。
またいずれにデッキについても、S・トリガーの《グレート・流星弾》からの《芸魔龍王 アメイジン》蘇生というギミックには対応出来ず、後攻からでもワンチャンスを作りやすいのも大きいだろう。
【水自然ジャイアント】に対しては元々有利を付けており、今大会で使用者数を伸ばしていた【水闇ボウダン】についても、“「ゴールド・オブ・ハイパーエンジェル」時点では”こちらも盤面制圧デッキになってしまうため、このデッキならばすり抜けてしまうことも可能なのである。
他のエリアではトーナメントの何処かで当たった【火水アグロマジック】に敗れてしまっていた【火水ゼロ水晶マジック(ターボマジック)】だったが、今大会は【火水アグロマジック】に対しては多数の【光闇メカ】が睨んでいたことで、非常に戦いやすかったことだろう。
sabakiは予選を全勝で通過すると、先攻の利も生かしながらメカ、同型、メカを次々と粉砕していき、決勝まで辿り着く。
しかしそこで待っていたのが、ずっと2人で調整していたという【火水闇プレジール】を使う25だった。
改めて、なぜ火水闇プレジールは勝ったのか
このように振り返ってみると、25の【火水闇プレジール】が勝利した所以が少しずつ見えてきた。25の【火水闇プレジール】が、非常にアグロに寄せていることは先にも述べた通りである。
そしてこのリストが、【火水アグロマジック】の弱点を上手く補ったことで【火水アグロマジック】では対処出来ない相手にも勝てるように組んでいたからではないだろうか。
25曰く、《死神覇王 ブラックXENARCH》を採用しない理由は次の通りであった。
「殴りにいって、あと一押し打点が欲しいという時に上から降ってくる《死神覇王 ブラックXENARCH》に困っていた」
《鬼火と魍魎の決断》に加えて《瞬閃と疾駆と双撃の決断》まで採用しているこのリストは一貫して相手を殴る。
本戦1回戦の【闇自然アビス】戦は、早々に殴り始めて勝利。
準決勝の【火水ゼロ水晶マジック(ターボマジック)】戦も、水晶マナを作られないうちに殴り切って勝利。
これだけを目指すのであれば、【火水アグロマジック】の方が再現性は高いかもしれない。
しかし【火水闇プレジール】には《DARK MATERIAL COMPLEX》があり、メタクリーチャーがあり、《終止の時計 ザ・ミュート》がある。
特に《DARK MATERIAL COMPLEX》はゲームが長引いたり、序盤躓いた試合をひっくり返したりするには最高の1枚であった。 【光闇メカ】についても、《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》が相手の革命チェンジを牽制しつつ、嫌な状況も《終止の時計 ザ・ミュート》からの《DARK MATERIAL COMPLEX》が何とかしてくれる。
またこれらのカードは【火水アグロマジック】と対戦した場合も有効に働き、「トリガーの差で五分以下になることはない」というのも25は主張してくれた。
広く弱点を作らないことで、25は予選を全勝し全体1位で通過を決めた。
これも非常に大きかった。
現2ブロック環境は、他のレギュレーション以上に先攻が非常に強力である。
本戦はベスト16から決勝戦まで計15試合を実施しているが、この中で後攻が勝った試合は幾つあるかご存じだろうか。
答えはなんと1試合。
ベスト8において、オガワの【火水ゼロ水晶マジック(ターボマジック)】が無名人の【水闇ボウダン】に勝利した、僅か1試合なのだ。
ここから求められる先攻勝率は、脅威の93%。
予選最上位であった25はその恩恵を最大限に享受した。sabakiも予選全勝であったものの、オポネントの僅かな差で予選順位は2位となり、それが決勝にまで響くこととなった。
そして決勝では、先攻をもった25が調整中に何度もやってきたであろうプレイで殴り続け、勝利を決めた。
決勝戦終了後、2人の間で「オポネントが逆だったら結果は違っていただろうね」といった会話が生じたのも、ある意味で必然だったのかもしれない。
デッキの再解釈、環境への適合、そしてルールの恩恵。
これらを見事にこなしてみせた25の【火水闇プレジール】が勝ったことは、今後のエリア予選突破を目指す上で、大きなヒントになるのではないだろうか。
おわりに
以上が、関西エリアにおけるメタゲームブレイクダウンである。最後になるが、このエリアで光るものを感じたデッキリストたちを紹介してお別れしたい。
ハチワン 全国大会2024 関西エリア予選 2ブロック構築 |
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ハチワンのリストは、【光水自然ビッグマナ】と呼べるようなもので、ゼニス・セレスや水晶マナに頼らない形の構築となっている。
デッキの要となっているのは《閃光の精霊カンビアーレ》や《範丸の超人》といった大型クリーチャーたちで、これらを《光開の精霊サイフォゲート》や《輝跡!シャイニングロード・マンティス / 輝跡の大地》といったカードたちで踏み倒せるようになっている。
これらのトリガーを有効に使い続けられるよう、楯を埋めるギミックを持つ《超光喜 エルボロム》も採用されている。
光水自然と言えば「悪魔神、復活」にて《五輪の求道者 清永》という新カードが登場した。新カードと組み合わせることで、今後のエリアで活躍するデッキとなるかもしれない。
無名人 全国大会2024 関西エリア予選 2ブロック構築 |
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また今後のポテンシャルという話で言えば、《超暴淵 ボウダン=ロウ》を使ったデッキは今後も含めて楽しみが大きい。
《魔誕の斬将オルゲイト》などがすんなり搭載されやすいデッキであり、以降のエリアに参加するプレイヤーはチェックしておきたいところだ。
エリア予選の勝者は、参加者に比べてごく僅かでしかない。
またGPのように、それを見守る多くの人から称賛を受ける訳でも無い。故に、その思い出は時に儚く、影のように消えてしまうかもしれない。
だからこそ、勝者も勝者以外の記録もまた、こうやって記し残すべきなのだと思う。古典とは、そういうものなのだから。
身はかくてさすらへぬとも君があたり 去らぬ鏡の影は離れじ(『源氏物語・須磨』より)
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