全国大会2024 関西エリア予選決勝戦:25 vs. Sabaki
ライター:林 直幸(イヌ科)
撮影:後長 京介
様々な言葉が脳裏によぎったが、もうそう表現するしかない。そうやって半ば呆れながら、私は今この文章を書いている。 まず関西エリア予選の会場が、今まで数々のエリア代表を輩出した聖地「みやこめっせ」であったことがそうだ。
この日出場したプレイヤーは74名……大阪市内のカードショップの規模感でも開催できる関西エリア予選は、何の因果か、例年200人以上を収容していたこの会場で行われることとなった。
例年通りのイベントホールで行われた本大会は、予選1回戦からやけに机の間隔が広く……明らかに普段の大会に比べて閑散としていた。
10年以上前、エリア予選の対戦中に鳴り響いたデュエマ公式オリジナルのBGM。それはいつからだったか、静寂に置き換わった。イベントホールの無機質さと相まって、より張り詰められたエリア予選特有の緊張感が、「みやこめっせ」が74名のプレイヤーを飲み込んでいたようだった。
決勝トーナメントまで大会が進んで、会場から人が消えていくごとに、空気が重く、苦しくなっていくようだった。 その空気をぶち壊すように……ウキウキしながら25とSabakiが決勝戦のフィーチャーテーブルにやってきたこと。これもまた引力としか言いようがないのだ。
なんというか……不思議な2人である。
公式カバレージライターを務めたことがあるほどに高い言語化能力、理論に裏打ちされたデッキビルディング能力……を取り除いたとき、変人と称することしかできないような大量の奇行エピソードが語り草となっている25。
かつて《超次元ホワイトグリーン・ホール》入り【刃鬼】最強の使い手と称され、その頃から当時20代にも関わらずすでに還暦を迎えていたような……年齢不相応すぎる貫禄を備えたSabaki。
10年以上……それこそエリア予選にBGMが流れていた頃から切磋琢磨してきた仲だ。関西どころか全国で名を轟かせる古豪2人は、2019年から共に「マラかっち」で調整を行うようになった。
DMGP9thで突如として環境に現れた【カリヤドネ】、2019年度全国大会で細部の1枚に至るまで最適化された【JO退化】、最強位決定戦で《絶望神サガ》を乗り越えた【火単速攻】といった「マラかっち」が残してきた歴史において、25はチームのブレーンとして積極的に意見を出し、Sabakiは自ら進んで壁役を務めるなど調整の屋台骨を支えてきた。
チーム内での都合がつかず、今大会に向けてたった2人で調整を進めたという彼らは、曰く「無理矢理理由をつけて」候補内から2つのデッキを選び出した。
新弾リリース前最終日にも関わらずこの環境におけるソリューションを求め続けた25は、前週の九州エリアを制した【火水闇プレジール】をより攻撃的にチューニングした構築。
調整相手としてあらゆる環境デッキを使ってきたSabakiは、今日この日のメタゲームにピッタリ合い、候補デッキの中で最も使い慣れていたという【ターボマジック】。
結果として、2人とも予選を全勝で折り返し、25が1位、Sabakiが2位。この決勝戦に至るまで、残る72人全員に1度の不覚も取ることがなかった。
「規模は小さいけど、【カリヤドネ】を超えたな」
DMGP9thで1位、3位、ベスト16を成し遂げた【カリヤドネ】以来の快挙。ワンツーフィニッシュが確定したこの時点で、Sabakiは思わず笑みを零した。
「このマッチアップは先攻有利なんだけど【ターボマジック】側を後手でも捲れるようにチューニングしたんだよな……なんで自分で自分の構築に苦しめられているんだ」
僅かなOMW%の差で順位先攻を勝ち取った25にとって、最後に立ちはだかったのはSabakiに託した、自分自身が研いだ刃だった。
もうお分かりだろう。運否天賦が絡むカードゲームにおける今大会の結末がこの2人のマッチアップとなったこと……これはもう各々の努力で辿り着ける範疇をとうに超えた出来事―――まさに、引力としか表現のしようがないのだ。
引力の源たる「みやこめっせ」が最後に求めたのは、長年を共にした戦友同士の一騎打ち。
デュエマ・スタート。ジャッジによるその号令とともに、2人は何も言わず、グータッチを交わした。
先攻:25 25は2ターン目《同期の妖精 / ド浮きの動悸》クリーチャー側、3ターン目《パシフィック・ヒーロー》から≪同期の妖精≫でテンポよくシールドを詰める。
後攻、かつ唯一の2コスト初動と言える《戦攻のシダン アカダシ / 「いいダシがとれそうだ」》を引けず、【ターボマジック】を操るSabakiにとっては苦しい展開。《救済のカルマ ミルク / リリーフ・水晶チャージャー》の呪文面で≪同期の妖精≫に対処。
メガ・ラスト・バースト≪ド浮きの動悸≫でデッキを回転させた25は《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》のクリーチャー面を投下、引き続き《パシフィック・ヒーロー》でシールドに向かう。 クリーチャーを出しては攻撃に向かわせる……一見無暗とも取れる25の原始的な戦略だが、これはSabakiの操る【ターボマジック】の性質がそうさせている。
2ブロックではおなじみとなったこのデッキがビートデッキを相手取るにあたってまず目指すのは裏向きマナを4枚作ること……すなわちこのデッキ最強の切り返し札、《グレート・流星弾》水晶武装4の条件達成だ。
そして、Sabakiがそのタイムリミットを突きつける瞬間が来た。≪「いいダシがとれそうだ」≫+水晶武装達成《シャングリラ・クリスタル》によって、後攻4ターン目に4枚の裏向きマナを作り出す。
こうなると手札からの《グレート・流星弾》ですらゲームが終わりかねない。原始的なビートダウンを徹底した25がついに勝負手を打つ。
それはすなわち…5マナ《アーテル・ゴルギーニ》、4枚墓地肥やし+蘇生による更地からの《楽識神官 プレジール》!!
……のはずだった。デッキトップから落ちた4枚の中に《楽識神官 プレジール》はない。
「よっわ……」と呟きながら≪同期の妖精≫を出そうとするが、思い直して《終止の時計 ザ・ミュート》を蘇生し手札を整える。まだデッキトップから《楽識神官 プレジール》が駆けつけてくるチャンスはある。
それに向けて≪ボン・キゴマイム≫でシールドをブレイク……ここでトリガー《氷柱と炎弧の決断》ドロー効果2回。ひとまず目標となるシールドを2枚まで削る段階に至った25はこれ以上の攻撃を加えずターンエンド。
しかし、3枚のブレイク、追加6枚のドロー、裏向き4枚を含む7マナまで伸ばしたSabakiを相手取るにあたって、ここで勝負を決めきれなかったのは非常に致命的。ターンが渡ったSabakiの手には《グレート・流星弾》も《芸魔龍王 アメイジン》も、《芸魔王将 カクメイジン》もあったはずだ。
が、25がプレッシャーをかけ続けた意味がここで生きる。
Sabakiはここまで潤沢なリソースを抱えたにも関わらず、目の前の≪ボン・キゴマイム≫+《アーテル・ゴルギーニ》の布陣を乗り越えてフィニッシュすることができない。
こういった盤面の解答となるべく25がこのデッキに投入した隠し玉、《「狡智」の頂天 レディオ・ローゼス》も手札に来ていない。
ならばとドローを進めようとすると……2枚まで減らされたシールドに、眼前の5打点が睨みを利かせている。
ここで窮地に立たされたSabakiは、水晶ソウルで軽減した4マナ《偽りの名 システイス》+《氷柱と炎弧の決断》ストップ+ドローで4体のクリーチャーの動きを封じる。《芸魔王将 カクメイジン》攻撃という確かなゴールに向け、1度守りを固めるのが最善と判断した。
九死に一生を得た25が力を込めてドロー。
ここでは《楽識神官 プレジール》には辿り着けず「くっ……」と悔しそうな表情を浮かべたが、すぐに光明を見つけて表情を変える。
もう1度、勝負を仕掛ける。すなわち、《アーテル・ゴルギーニ》墓地肥やし+蘇生を宣言。
そして、25の「神!!」という号哭が鳴り響いた。
それが意味するところは……この勝負を決着に導く、《楽識神官 プレジール》が墓地に落ちたということ!
すかさず蘇生し、そのハイパーモードを解放する。 ここ一番で最高の輝きを放ったのが、ここまでただのビートダウンの頭数として機能していなかったように見えた25のシークレットテクニック、《パシフィック・ヒーロー》。
《楽識神官 プレジール》が出たことによって発動されたバラバラエティ3、その能力は……【ターボマジック】のほぼ全ての防御手段を封じる、疑似ジャストダイバー付与!!
「受かってるの《グレート・流星弾》からの《芸魔龍王 アメイジン》だけだよな……ならば俺は最大値を狙う男!」
極限状態にも関わらず軽口を飛ばした最大値を狙う男による《楽識神官 プレジール》攻撃時《瞬閃と疾駆と双撃の決断》。
アンタップ効果+手札から《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》踏み倒し。もはや《グレート・流星弾》があったとしても、ジャストダイバーが付与された《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》を超えることが難しい。
そして何より……生半可な受け札では、このジャストダイバー付き《楽識神官 プレジール》が止まらない。 2枚のシールドを見て、全てを悟ったSabakiは「ありません」と告げた。それは盟友を送り出す、激励の言葉だった。
数多のデッキを競技シーンの第一線に送り込んだ「マラかっち」。そのブレーンたる25が、ついに全国大会への切符を掴み取った瞬間だった。
WINNER:25
敗れたSabakiにとって、これは全国大会への3度目の挑戦。特に2ヶ月前のDMGP2024-2ndオリジナルで【光水闇マーシャル】を操りトップ8まで到達したものの、あと一歩というところで敗れてしまったことは記憶に新しい。
直近で2度続いた失敗に堪えていてもおかしくない場面だが……このあとが歴戦の皇帝、SabakiがSabakiたる所以だった。
「一緒にやってた25くんに負けるなら全く悔いはない。むしろ誇らしいわ」
一点の曇りもない表情でそう言い切ったSabakiは、引き続き後期DMPランキングでの全国出場を目指す。その一歩先で、すでに全国大会出場を決めた仲間たちが待っている。
その輪に一足先に加わったのは、いつ全国大会に来てもおかしくないと言われていた関西きっての古豪、かつ変人……。
5年の歳月を経て、再び「みやこめっせ」に引き寄せられた74名の代表にまさしくふさわしい、稀代のデッキビルダーだ。 2024年度全国大会、関西代表は25!!おめでとう!!
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