DMGP7th 決勝戦:えんがわ vs. ぎらさき
GP7thも、いよいよ最後の試合を迎える。
その晴れある試合を行う権利を得たのはえんがわとぎらさき。
えんがわは準々決勝でGP3rd王者のWを、準決勝で2017年日本一のdottoをそれぞれ撃破した。強豪とのマッチを制した実力に疑いの余地はない。頂点はすぐそこ、手の届くところまで見えていた。
それでも最後にはやはり強敵が待ち構えている。
2017年度全国ランキング2位ぎらさき。CSを制した回数で、彼を超える者はいないだろう。あのZweiLanceをして「怖い」と言わせたこの男は、その実力を見せつけ決勝の舞台に到達した。
2人のデッキは『白ゼロ《煌世主 サッヴァーク†》』。なんとその内容は39枚まで同じだ。もちろん、その作成に関わっていたのは共通の人物である。東のtaisei、西のよざくら、ナツメ……。ビルダーとしても、プレイヤーとしても名を馳せる者たちが生み出した珠玉のデッキは、なんと決勝の椅子を独占してみせた。
いよいよ試合が始まる。緊張の空間に、「デュエマ、スタート」の合図が響いた。
Game 1
先攻:ぎらさきこの同型の到達点について、予め記しておきたい。
勝利のセオリーは≪ジャミング・チャフ≫を唱えた後に、《煌龍 サッヴァーク》や《煌世主 サッヴァーク†》の攻撃時に《天ニ煌メク龍終ノ裁キ》を唱えて殴るというものだ。もちろん、相手の《煌世主 サッヴァーク†》を考えると《天ニ煌メク龍終ノ裁キ》は多ければ多いほどよい。そのための4枚採用なのだろう。《》も同様に4枚採用されている。
さて、先攻を取ったのはぎらさき。ゲームは2ターン目、後攻のえんがわが《憤怒スル破面ノ裁キ》を唱えて動き出す。
ぎらさきは《剣参ノ裁キ》を唱え、«奇石 ミクセル»を回収し、ターンを終える。えんがわも同様に《剣参ノ裁キ》を唱えて慎重に吟味すると、ここで《煌龍 サッヴァーク》を回収し、終了。
この《煌龍 サッヴァーク》には含みがある。
2人のリストは39枚まで共通だったが、唯一違っていたところはこの《煌龍 サッヴァーク》の枚数だった。
ぎらさき「彼(えんがわ)のリストは同型を重視して二枚目の《煌龍 サッヴァーク》を採用していました。自分はそこに《戦慄のプレリュード》の4枚目を採っています。ただ同型の腐り札にはなりやすいので、リストで言えば彼の方が1枚分有利でしたね」
4ターン目、ぎらさきは《憤怒スル破面ノ裁キ》、≪奇石 ミクセル≫とプレイする。一方のえんがわはやや時間を使い、《転生ノ正裁Z》を打ち、シールドに溜め込んでいた2枚の裁キの紋章を回収する。
5ターン目をチャージエンドのみで終えたぎらさきに対し、えんがわは回収した《憤怒スル破面ノ裁キ》、《剣参ノ裁キ》と唱えていく。地味なリソース勝負が続いているが、それは嵐の前の静けさだ。えんがわは《サッヴァークDG》を回収し、いよいよ続くターンのビッグアクションを見据える。
手札が7枚のえんがわに対し、ぎらさきはチャージして3枚。リソースの量でやや押されている。
手札が少ない上に先に《サッヴァークDG》まで立たれてしまったなら、たまったものではない。
ここで長考の末に《サッヴァークDG》を着地させ手札を3枚増やすと、ターン終了時に《剣参ノ裁キ》を唱える。ここで《サッヴァークDG》は爆発させない。
返しのターンのえんがわ。こちらも当然《サッヴァークDG》を召喚する。手札を3枚補充した後、ターンの終了時に唱えたのはこちらも《剣参ノ裁キ》。《天ニ煌メク龍終ノ裁キ》を加えると、《サッヴァークDG》を破壊し、《煌龍 サッヴァーク》が着地する。《サッヴァークDG》を飛ばすと、«奇石 ミクセル»効果を今シールドに送った《サッヴァークDG》で置換し、当然バトルゾーンに留まった。
ぎらさきのターン。再度《サッヴァークDG》を召喚し手札を整えると、終了時に《隻眼ノ裁キ》で《煌龍 サッヴァーク》の動きを止め、続けていよいよ《煌世主 サッヴァーク†》を降臨させる。
この《煌世主 サッヴァーク†》をどうするかは、やや難しいところだ。
えんがわは慎重に考える。彼はこうした際どいプレイングでミスをしない。それはこの大舞台でも変わらない。
まずは6マナで《サッヴァークDG》を召喚すると、終了時に《天ニ煌メク龍終ノ裁キ》を唱え、ぎらさきの≪奇石 ミクセル≫、《煌世主 サッヴァーク†》をフリーズ。さらに《サッヴァークDG》を破壊し、《煌世主 サッヴァーク†》が着地。盤面の質を高めていく。
ぎらさきもまた、こういった場面で最善のプレイを見極められるプレイヤーだ。
まずは《転生ノ正裁Z》、続けて≪ジャミング・チャフ≫を唱え、えんがわの裁きの紋章を封じる。
だが、えんがわの次の動きは強かった。
7マナで《煌龍 サッヴァーク》の2体目が着地し、≪奇石 ミクセル≫をシールドへと退けてみせたのだ。えんがわのバトルゾーンには《煌龍 サッヴァーク》が2体と、《煌世主 サッヴァーク†》が1体。
ぎらさき「あれで勝負が決まりましたね」
一見すると決着の行方が分かりにくかったこの試合。分水嶺はここだった。ぎらさきはこの2体の《煌龍 サッヴァーク》を止め続けることができない。
えんがわもここにきて有利を確信できた。
互いの山札も徐々に減っていき、シールドの表向きのカードはそれぞれ5枚ずつ。
返しのターン、ぎらさきは《剣参ノ裁キ》を唱えると、山札の枚数を確認した。
ぎらさき「何枚ですか?」
えんがわ「11枚です」
ぎらさき「こちらも11枚ですね」
この後じっくりと手札を見つめ、ぎらさきはターン終了を宣言する。
≪ジャミング・チャフ≫から解き放たれたえんがわは、今度は≪ジャミング・チャフ≫を打ち返すと、《煌龍 サッヴァーク》を攻撃に向かわせる。もちろん《天ニ煌メク龍終ノ裁キ》を添えて。
これがこの『サッヴァーク』というデッキの必勝パターンだ。この攻撃に対して、ぎらさきは表向きのシールド6つを裏返し、2体の《煌世主 サッヴァーク†》をバトルゾーンに送り込む。
だが彼らは救世主足りえなかった。
えんがわは後続としてさらに《天ニ煌メク龍終ノ裁キ》を持っている。2体のサッヴァークが再び攻撃態勢を整えると、ぎらさきにはこれを防ぐ術はなかった。
えんがわ 1-0 ぎらさき
えんがわが初戦を制し、優勝に王手をかけた。
――――
ベスト4に残った4人に大きな実力差はないだろう。
それでも知名度という点で先入観無しに比較した場合、えんがわが彼らより一歩劣っていたのは事実だ。大型大会の成績や積み上げたポイントでいうと、どうしても彼らには敵わなかった。
dottoと並び勝ち方を知っているであろうぎらさきに対し、えんがわはまだまだ粗削りな部分があった。
もちろん、考え方の違いこそあれど、先にも書いたように2人の間に大きなスキルの差はない。
だがメンタルとなると話は別だ。
えんがわのメンタルは決して強靭なものではなかった。もっとも、「緊張して試合中にミスを犯す」タイプではない。もしそうであったなら、彼は魔王dottoに潰されていただろう。
彼が苦しいんでいたのは「継続的なモチベーションの持続」だ。
好んで使っていた『ジョーカーズ』は、環境で間違いなく強かった。プレイも詰めた。
しかし、勝てなかった。
何故自分より技量の劣る『ジョーカーズ』が優勝するのか、何故自分の対面に座るプレイヤーは、10%もないような確率を通してくるのか。えんがわはそういった点を割り切ることが不得手だった。
もちろん、プレイが良ければ良いほど、負けるときは低い確率を通されたものばかりになっていく。しかし、そうした一敗が精神的にダメージが大きいのも事実だ。
トッププレイヤー故の悩み。
これに苦しみ、デュエル・マスターズとやや距離を置いた日もあった。それも決して過去の話ではない。つい最近の出来事だ。
口癖となっていた「どうして、俺?」は彼の本音だっただろう。
えんがわが拘りのあった『ジョーカーズ』を傍に置き、『サッヴァーク』を使うと決めたのはつい10日前。リストは同じ本厚木のtaiseiからもらった。taiseiはいい奴だ。リストの使用を快諾してくれた。そこから少ない時間で、自分のプレイを積み上げた。
予選を抜けた後も順調に勝ち進み、Wをフルマッチで破り、「負けを覚悟した」と振り返ったdottoとの試合も制し、彼はようやくここまで辿り着いた。
それでも苦難は終わらない。それは、ここが決勝であるから。目の前に座るのがあのぎらさきであるから。
彼からあと1回、勝たなくてはならない。
――――
Game 2
先攻:ぎらさき再度ぎらさきの先攻だったが、先に動いたのはやはり後攻のえんがわだった。2ターン目、《憤怒スル破面ノ裁キ》を唱えて上々の立ち上がり。
ぎらさきは動きが悪い。《剣参ノ裁キ》は手札に無く、《転生ノ正裁Z》を打つ格好となった。対するえんがわも《転生ノ正裁Z》と唱える。ここでは《憤怒スル破面ノ裁キ》は回収せず、シールドに裁きの紋章を溜める動きを取った。
4ターン目のぎらさき。《戦慄のプレリュード》から《サッヴァークDG》を召喚。《煌世主 サッヴァーク†》を2枚回収したものの、やはり《剣参ノ裁キ》はない。ひとまずターンの終了時に《煌世主 サッヴァーク†》を着地させる。
対するえんがわも負けじと《戦慄のプレリュード》からの《サッヴァークDG》を召喚。こちらはしっかり《剣参ノ裁キ》を唱えて≪奇石 ミクセル≫を回収すると、《煌龍 サッヴァーク》が姿を現す。ぎらさきの虎の子の《煌世主 サッヴァーク†》はシールドへと送られてしまった。
苦しいぎらさきは返しのターンで≪ジャミング・チャフ≫を唱えてターンを返す。えんがわは≪奇石 ミクセル≫を召喚し、ここは小休止。
《サッヴァークDG》の回収が思うようではなかったぎらさきは、続くターンはチャージのみで終了せざるを得なかった。
これがぎらさきのこの日のラストターンだった。
「セオリーに拘らず、そのセオリーを自分で打ち破る強さがある」
イヌ科がそう評したぎらさきの圧巻のプレイスタイル。
彼は間違いなく強かった。それでもこの日はあと一歩、届かなかった。
無傷でターンを貰ったえんがわが唱えたのは、当然≪ジャミング・チャフ≫。
そして《煌龍 サッヴァーク》の攻撃時に《天ニ煌メク龍終ノ裁キ》を見せる。《煌龍 サッヴァーク》は、再度攻撃の態勢を整えた。
目標とするぎらさきのシールドは4枚。これを見越した≪奇石 ミクセル≫の着地でもあったのだろう。
《煌龍 サッヴァーク》が2度の攻撃を終えた時、ぎらさきにこれを覆す手段はなかった。
えんがわにとって、長い長い道のりであった。
勝ち切れず苦しかった日々に、ようやく終止符を打てるのだ。
最後は≪奇石 ミクセル≫のダイレクトアタックが通り、えんがわは新王者の称号をその手で掴み、栄光とともに掲げた。
えんがわ 2-0 ぎらさき
GP7th、頂点に立ったのは『白ゼロサッヴァーク』と共に時に耐え、そして裁き切ったえんがわだった。
――――
歓喜の瞬間である。
フィーチャー卓を囲むプレイヤー、ジャッジが惜しみない拍手で両者を称えた。
不思議な戦いではあった。デッキは39枚まで同じ。当然、作った人も同じ。勝負はどちらにも転がる可能性があったが、それを手繰り寄せたのはえんがわだった。
「ボスラッシュ」とも形容された強敵との連戦、最後まで集中を切らすことなく戦い抜いてみせた。
仲間とともに喜びを分かち合うえんがわ。それでも、目標は次を見据えていた。
「全国大会も、やるぞ」
もちろん、その場にはぎらさきもいるはずだ。
彼らが再び相まみえる日は、そう遠くないのかもしれない。
終
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