DMGP2023-2nd :TOP5カード紹介
ライター:伊藤 敦(まつがん)
約4000名ものプレイヤーが愛知県は常滑市、中部国際空港のある人工島に存在するAichi Sky Expoに集い、オリジナル・フォーマットで開催されたDMGP2023-2nd。ここでは、そんなDMGP2023-2ndで活躍したカードのうち5枚をピックアップし、トーナメント決着までの道のりを振り返っていこう。
ただしその前に、共有しておくべき前提がある。それは今大会の事前メタゲームが抱えていたとある歪さ……「水闇自然ジャオウガ」の一強環境と目されていた部分についてだ。
その主たる原因は、アビス・レボリューション第3弾「魔覇革命」で登場した2種の新カード、《同期の妖精 / ド浮きの動悸》と《アーテル・ゴルギーニ》にある。 《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》に代表される、相手の行動を制限するいわゆる「メタクリーチャー」を展開しながら《CRYMAX ジャオウガ》で勝つコンセプトにおいて、《同期の妖精 / ド浮きの動悸》はメタクリーチャーを守る役割を、《アーテル・ゴルギーニ》は除去されたメタクリーチャーを再展開する役割をそれぞれ果たす。
これにより「水闇自然ジャオウガ」は、「魔覇革命」以前とは比べ物にならないほどのメタクリーチャーの定着化が可能となった。
その結果、《キユリのASMラジオ》《CRYMAX ジャオウガ》《飛翔龍 5000VT》といったもともと搭載されていたパワーカードもさらに強く使えるようになり、完全無欠のボードコントロールデッキとしてメタゲームに君臨するに至ったのだ。 ……ただし、それはあくまでも「魔覇革命」発売直後の話だ。
今回のグランプリは、「魔覇革命」の発売から約1ヶ月後の開催となる。そしてその1ヶ月は、「水闇自然ジャオウガ」の一強環境という事実を、グランプリが始まる前から誰しもが知っていた、もはや公知の前提にまで変えてしまった。
だから今回は、予選9回戦を戦い抜くならばほぼ確実に2回以上は当たるであろう最強デッキ、「水闇自然ジャオウガ」に対してどう立ち向かうか?が問われた大会となったのだ。
ゆえに、これから語るのはその結果としてのトップ5カードであるということを、念頭に置いて読んで欲しい。
第5位:《神聖牙 UK パンク》
まず立ち向かったのは、勇気ある一本の槍だった。
YouTubeチャンネル「紳士的な俺たちのデュエマ!」で動画を投稿しているあごもんが持ち込んだのは、7月に発売された「大感謝祭 ビクトリーBEST」で強化された種族、アウトレイジを主軸に据えたデッキだった。
とはいえ、それだけ聞くとそこまで意外な選択には思えないかもしれない。アウトレイジといえば、《灼熱連鎖 テスタ・ロッサ》の復権も比較的最近の話だからだ。
だが、真に驚くべきはあごもんのデッキがちょうど10年前、2013年度の「エピソード3 ウルトラVマスター」で登場したものの、それほど強力ではないギミックとして今まで注目されることのなかった能力、「ドロン・ゴー」をフル活用したものであることだ。 「ドロン・ゴー」といえば小型クリーチャーの破壊時に条件を満たす大型クリーチャーへとタダで変換できる能力だが、破壊時というのがまず限定的で、しかも「革命チェンジ」のように小型が手札に戻るわけでもなく、かつ条件通りの大型クリーチャーを手札に抱える必要があるため、要求値が高いギミックとしてスマートフォンアプリ「デュエル・マスターズ プレイス」では小型と大型が実質一体として使えるという歴史修正を受けたほどの、言葉を選ばずに言えば弱小ギミックである……否、そのはずだった。
あにはからんや、予選7回戦を終えた時点で、あごもんの成績は何と6勝1敗。満を持して呼ばれた8回戦のフィーチャーマッチで高知勢の◆リュウが使用するトップメタの一角「水火マジック」と激突すると、全視聴者が驚嘆したほどのムーブを見せる。
《神聖牙 US パンク》を《制服槍 ブータン》で相手のクリーチャーごと自ら破壊し、《俺神豚 ブリタニア /「カツキング、俺とお前の勝負だ!」》を「ウルトラ・ドロン・ゴー」。さらに続くターン、回収した《制服槍 ブータン》で《俺神豚 ブリタニア /「カツキング、俺とお前の勝負だ!」》を自ら破壊し、《神聖牙 UK パンク》を「ドロン・ゴー」! その光景は、エピソード3時代のプレイヤーならばきっと感動したに違いないほどに、あまりにも美しく、かつあまりにも鮮烈だった。《終剣連結 アビスハリケーン》の強制破壊効果を駆使しての2枚の《俺神豚 ブリタニア /「カツキング、俺とお前の勝負だ!」》による無限攻撃も含めて、視聴者たちが受けた衝撃のあまり、「UKパンク」の文字列が一時Xのトレンド入りしたほどだ。
その後、あごもんは予選ラウンド最終戦も勝利して8勝1敗でトップ128に入り決勝ラウンドに進出。惜しくもベスト64のフィーチャーマッチで苦手な水魔導具と当たり敗れてしまったものの、彼が稀代のデッキビルダーかつプレイヤーであることは、その活躍を目撃したすべての視聴者の胸に刻まれたことだろう。
「ドロン・ゴー」がこれでもかというほど活躍したフィーチャーマッチでの対戦は必見だ。
第4位:《禁断の轟速 ブラックゾーン》
続いて立ち向かったのは、速度の向こう側に挑む禁断の使徒だった。
決勝ラウンド第4回戦、トップ8進出をかけた大一番で、みぃむは決勝ラウンド進出者128人中1人だけの「光火サムライ」、すなわち「ラストサムライ」の使用者であるSEA-Kと激突する。
そして予選順位で先攻を取ったSEA-Kの渋回りとは対照的に後攻2ターン目から《異端流し オニカマス》を出すと、その勢いのまま3ターン目の《影速 ザ・トリッパー》から「侵略」《覇帝なき侵略 レッドゾーンF》、さらにアンタップ後に「侵略」《轟く侵略 レッドゾーン》! そう、みぃむもまた128人中1人だけのいわば「ラストバイク」だったのだ。
手札補充なしで2ターン目に水のアクション、3ターン目に火闇のアクションという暴挙を可能にするほどに安定したマナベースの3文明「侵略」デッキが成立している背景には、みぃむが《轟く侵略 レッドゾーン》よりも優先してフル採用している新時代の切り札、《禁断の轟速 ブラックゾーン》の存在が大きいであろうことは想像に難くない。 トップ8の他のデッキの内訳は「水闇自然ジャオウガ」×2、「水闇魔導具」×2、「水火マジック」×2、「闇火自然アビス」というもので、闇自然アビスに火が入った形が少しマイナーなものの、大枠としてのアーキタイプ自体はいずれもグランプリ開始前から上位メタと予想されたものばかり。
そんな中にあって「水闇火レッドゾーン」は明らかに異質であり、メタゲームに抗った選択の果ての快挙と言えるだろう。
鮮やかすぎる後攻3キルでトップ8進出を決めたみぃむの会心のフィーチャーマッチをお見逃しなく。
第3位:《アビスベル=覇=ロード》
さらに立ち向かったのは、深淵を統べる邪神の帝王だった。
トップ8に進出したにわかは、準々決勝でたつどらの駆る「水闇自然ジャオウガ」と激突する。
そう、環境最強のデッキとついに雌雄を決する時が来たのだ。
通常の「闇自然アビスロイヤル」では先攻3ターン目の《キユリのASMラジオ》からの展開や《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》+《同期の妖精 / ド浮きの動悸》の布陣にはどうしても抗いがたい部分があるところ、にわかが調整グループとシェアして持ち込んだ「闇火自然アビスロイヤル」には、速度を補完する攻めの《鬼寄せの術》と、対処力を補完する守りの《「必然」の頂 リュウセイ / 「オレの勝利だオフコース!」》がある。
さらには、この大会までほとんど注目されていなかった《信眼!ジェンゲガーvs.シェケダン》で《邪幽 ジャガイスト》用の手札を補充しつつ《百鬼の邪王門》を墓地から回収する動きは、ただでさえ多いアビスのブロッカー軍団をまさしく鉄壁の布陣へと塗り替えた。 そしてそれらすべてをまとめ上げるのが、「魔覇革命」で登場した最新のオーバーレア、《アビスベル=覇=ロード》なのだ。 「革命チェンジ」の力を得て相手のクリーチャーの攻撃を自身に引きつけながら味方アビスを強化、それに加えてマナと墓地をも自在に操れるようになった邪神の前では、《CRYMAX ジャオウガ》すらもまるで赤子のよう。
もちろんそれも調整チームの手による細部まで調整の行き届いた珠玉の40枚と、何よりマナ管理・手札管理・墓地管理・シールド管理・山札管理のすべてが要求されるこの難解なデッキを使いこなせるにわかの卓越したプレイヤースキルあってこそだ。
2本先取となり、さらに激闘ぶりに拍車がかかった準々決勝の白熱した好試合は、間違いなく一見の価値ありだ。
第2位:《芸魔王将 カクメイジン》
なおも立ち向かったのは、俳句を操る時代の革命児だった。
準々決勝でカイザ/はっちcsとの「水火マジック」同型対決を制した青木瑠璃は、準決勝で敗れてしまうものの、「闇火自然アビスロイヤル」を駆るにわかとの3位決定戦に臨む。
そう、ここに「魔覇革命」のオーバーレア同士が激突したのだ。
1ゲーム目はにわかの《アビスベル=覇=ロード》が着地し、クリーチャーが残らない展開。青木瑠璃は「ジャストダイバー」の《飛翔龍 5000VT》で切り返しを狙う。 だがシールド3枚に攻撃できるW・ブレイカーが4体という状況。1体目の攻撃によるW・ブレイクは《芸魔隠狐 カラクリバーシ》の「G・ストライク」で《アビスベル=覇=ロード》を止めるが、まだ2体が攻撃できるためジャスキルがある。
そして最後のシールドブレイク。そのシールドは。 《芸魔隠狐 カラクリバーシ》!
九死に一生、ラス楯「G・ストライク」でダイレクトアタックを防いだ青木瑠璃は、満を持して《飛翔龍 5000VT》を攻撃に向かわせる。
そして降臨するのはもちろん。 《芸魔王将 カクメイジン》!
デュエル・マスターズには2002年の発売から21年にわたるカードプールがある。だから活躍しているデッキは、どれも21年蓄積された歴史の結晶だ。
そんな中にあって3ターンキルだけでなく手札を貯めてからの切り返しも可能な「水火マジック」は、7月の「大感謝祭 ビクトリーBEST」と9月の「スタートWINデッキ 革命・アメイジン・マジック」「魔覇革命」の3つの商品に収録されたカードだけで大部分が組めてしまうというほぼ最新カードのみで構成されたデッキながらも、今大会では「水闇自然ジャオウガ」に次ぐ環境トップTierの位置に躍り出るというポテンシャルの高さを、まさしく革命児のごとき勢いでいきなり示したのだ。
そのままの勢いで青木瑠璃が2ゲーム目も勝利し、見事日本一決定戦の出場権利を勝ち取った3位決定戦。復活した「革命チェンジ」が飛び交うスピーディかつ豪快な戦いは、見逃し厳禁だ。
第1位:《秩序の意志》
最後にすべてを制したのは、たった一つの意志だった。
決勝戦に勝ち上がったのはおなかいたいとmonokuro。そして2人が使うデッキは、ともに「水闇魔導具」だったのだ。
それも昨年10月のDMGP2022 Day2で優勝した「水魔導具」のような《卍 新世壊 卍》と《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》のコンボを生かした従来の形とは異なり、《堕∞魔 ヴォゲンム》と《「無月」の頂 $スザーク$》とのコンボを主軸に据えたコントロールである。 ただ、他のデッキ相手なら《「無月」の頂 $スザーク$》で無難にコントロールしていればいいこのデッキも、こと同型対決となると事情がいきなり変わってくる。
《「無月」の頂 $スザーク$》を出せば相手の《「無月」の頂 $スザーク$》の的になる。
《「無月」の頂 $スザーク$》を出さなければ《凶鬼98号 ガシャゴン / 堕呪 ブラッドゥ》で墓地を掃除される。
互いに互いの手の内を知り尽くしているがゆえのゴールの見えない間合いの測りあいは、永遠に終わらないかのように思われた。
それでも、おなかいたいは《「無月」の頂 $スザーク$》を2体立てつつmonokuroの墓地も掃除して、《「無月」の頂 $スザーク$》による切り返しも《神の試練》からの反撃も封じることで、一気にmonokuroを追い詰める。
だが、monokuroは12枚ものカードがたった2枚のクリーチャーの下に敷かれているという混沌とした状況に対し、最適解でもって応えたのだ。 《秩序の意志》2連打!
その一手で、すべてが引っくり返った。2枚の「封印」は3枚しかないおなかいたいの山札を1枚にまで削り、そのままmonokuroはターンエンド。かくして突然の山札切れが決まり手となったのだ。
そして続くゲームもまた、《秩序の意志》が勝敗の決め手となった。
思えばこの大会は「水闇自然ジャオウガ」の一強環境と目されながらも、結局プレイヤーの数だけ答えはあった。
アポロヌスが。グラスパーが。5Cロマノフが。アウトレイジが。レッドゾーンが。アビスロイヤルが。マジックが。ジャオウガが。そして、水闇魔導具が。
それぞれが頂上に立つために決断した約4000もの選択。それらが入り組み、ぶつかり合い、絞られ、戦い抜いた果てにグランプリの決勝戦がある。
だから。
無月を頂に据え、無数の魔導具でもってそれらすべての混沌を一手に平定しようとしたmonokuroの秩序を求める意志こそが、優勝という結果に結びつく原動力となったのだ。
monokuroの意志が、劇的な決着をもたらした決勝戦。その始まりから終わりまでを、ぜひ自分の目で確かめて欲しい。
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