DMGP2025-1st Day1(アドバンス)決勝Round 3:sword vs. サラー
ライター:林 直幸(イヌ科)
撮影:後長 京介


一縷の望みを託して盤面に繰り出した《配膳犬のトレス》と《森夢のイザナイ メイ様》、《料理長のラビシェフ》……これもまた《アリスの突撃インタビュー》が難なく処理。同一ターンに「バルピアマーチ」まで完成し―――

一言で言ってしまえば、swordの【ドリームメイト】が初動事故を起こしてなす術なく敗れた試合だった。
Winner:サラー
昨年にはDMGPでのカバレージライターを経験したこともあり、プレイヤーとしてフィーチャーテーブルで戦うことに対する思いというのは、他のプレイヤーに比べても特別なものがあったはずだ。初めてのそれがこんな形とは……。
正直試合の後、本人に声をかけるのも憚られたのだが……。
「まあ仕方ないです。【ドリームメイト】を使った以上、こういう負けはどこかで起きるものだったし……それがたまたまここだっただけです」
……まるで何日も前から負けを受け入れる準備ができていたかのような、穏やかな口ぶりだった。
神戸在住のswordだが、コミュニティの軸は学生時代を過ごした関東圏にある。
今回の調整に関してもトップ8入賞を果たした本家が設立し、関東のプレイヤーがコアメンバーであるDiscordサーバーを中心に進めてきたという。
そんな本家の使用デッキは【ヘブンズ・ゲート】。同じように調整を進めたのであればswordも同じデッキタイプを持ってくるのが自然ではあるが、結局使ったのは【ドリームメイト】。
そこには彼なりの葛藤があった。
「どうしても値段が高いカードを使えないんですよね」
競技デュエマをする上でどうしても避けては通れない道……その一つが経済的負担。
カードショップでは《真気楼と誠偽感の決断》に5000円前後の値段がつけられている。それが4枚も必要、しかも【ヘブンズ・ゲート】や【フシギバース】の周辺パーツにまで手を出すとなると……計算するのも嫌になるほどの莫大な費用がかかってしまう。
必然的にこれらのデッキはswordの選択肢から外れてしまうのだ。同じような悩みに苦しむプレイヤーは少なくはないのではないだろうか。
彼はこの状況を「ベストな準備という概念が自分にはない」と語る。
どこか諦念にも似た口ぶりだったが、それは決して投げやりな言葉ではなかった。
むしろそれは、諦めずに戦うための哲学だった。
「最強のデッキを握る、という発想じゃないんです。今ある中で、自分が出せる最大出力を探す――それが自分のやり方ですね」
限られたカードプールの中で、仮説を立て、検証を重ね、構築を磨いていく。
Discord内では何度も意見を交わし、ときに【水闇自然グリッファ】のような地雷デッキにも挑んだ。
そうして、調整をともにした弥生町との相談の末にたどり着いた――それが、【ドリームメイト】だった。

アドバンス環境において特有の強化要素があるわけではないものの、【ヘブンズ・ゲート】などの強化によって相対的にメタゲーム(ゲーム環境)内でのポジションが上がる傾向にある。それに目を付けたプレイヤーが全国大会のアドバンスレギュレーションにこのデッキを持ち寄ったのは記憶に新しいところだ。
sword自身も練習を重ねており、半年前のDMGPでも使用候補に挙げていたほどの得意デッキ。難解なプレイングを極めた自信こそないものの、デッキの特性はよくわかっている。
「先攻を取って事故らなければあらゆる対面に勝ちうる」―――それは奇しくも、今回チーム内で予想した、雑多環境を攻略するのにお誂え向きだった。

【ドリームメイト】に付きまとう初動事故による敗北は、このデッキを持ち込んだ時点でどこかで起きうる―――このリスクはswordの中にすでに織り込まれていた。
それがたまたまフィーチャーテーブルの舞台で起きただけ。それだけの話なのだ。
「自分にとって、こういう大型大会における最大の目標は予選抜けなんですよね。その点で言えば今回のGPではその目標をちゃんと達成できたし、自分の中では正解の選択肢を選べたんじゃないかなって思います」
本戦での敗北――その一戦だけを切り取れば、無念という言葉が先に立つかもしれない。
けれど、そこに至るまでの積み重ねと、自ら選び取った結果を、彼は静かに誇っていた。
この試合の敗北以上に、大会全体を通してこの結果を持ち帰れたこと。それこそが、彼にとっての最大の収穫だった。
「自分は常にチャレンジャー。自分より強く、競技に取り組んでいる人はいるし自分は彼らに及ばないとは思っているんですけど……そんな中でどこまで上を目指せるかっていうのを、ずっと考えながらやってますね」
敗北を受け入れることは、終わりを認めることではない。
むしろそこから、自分がどこまで遠くへ行けるのかを問い直す―――これがswordの戦い方なのだ。
理想の準備が叶わなくても、最高の構築が握れなくても、今ある選択肢の中で最善を尽くす。
その積み重ねの先にある結果ならば、たとえ表彰台に届かなくても、胸を張れる。
頂点だけが、すべてじゃない。現実を受け入れながらも、それでもなお前へと進む姿――そこにも、競技の中にある“かっこよさ”は宿る。
DMGP2025-1st Day1、ベスト32。
あっけない散り際だったかもしれない。けれど、swordが示した背中は、きっと誰かの進む道を照らしたはずだ。
©ANYCOLOR, Inc.
TM and © 2025, Wizards of the Coast, Shogakukan, WHC, ShoPro, TV TOKYO © TOMY