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超CSⅣ宮城 決勝戦 :ひんた vs. シーチキンP

ライター:伊藤 敦(まつがん)
撮影者:堀川 優一

 長かった旅の、その終着点。頂上からの景色が、眼下に広がっている。

 決勝戦という山頂でばったり出くわしたのは、奇しくも関東からの遠征勢同士となるひんたシーチキンP

 決勝トーナメントという名の異なる登山コースを進み、異なる対戦相手を倒しながらそれぞれ勝ち上がってきた2人は、対戦テーブルを両側から挟み込むような形でフィーチャーエリアに入ってくると、互いに顔を見合わせるなり苦笑した。

シーチキンP「うわぁひんたさんやー、なんでひんたさんなんや……」

 と思わずこぼれ出たシーチキンPの言葉が表すとおり、どうやら2人は既に面識がある様子なのだ。

シーチキンP「月曜日に当たって負けてるんですよね……」

ひんた「そうですよね、ちょうどやりあったばかり……」

 それもそのはず、ちょうど5日前に関東のCSで対戦したばかりだという。そんな2人が遠く離れた宮城の地で600人超が参加した大型大会の決勝戦という場に立ち、優勝を争っているというのは、偶然にしても何らかの因縁を感じざるをえない。

 そう、あとたったの2ゲームを先取すれば優勝なのだ。

 優勝というのは、感慨としては無論格別なものだ……だが2022年8月13日現在DMPランキング1位のひんたは、同時に実利的にもまた格別であることを確認するべく、「ランキング上位報酬のByeと超CS優勝者のByeとを土日両日開催のグランプリで1日ずつ別に使えるのかどうか」といった事務的な事項をジャッジに質問する。

ひんた「再来週の京都は出られないんで、Byeが別に使えるならここで頑張らないといけないですね」

シーチキンP「うわー、勝ちたい……あと、これ終わったらTwitterフォローしてくださいw」

ひんた「いいですよw」

 2人の視点で互いのデッキは割れているため先に公開しておくと、ひんたのデッキが「水闇自然ハンデス」なのに対しシーチキンPは「JO退化」。殿堂施行によりアーキタイプごと消滅することがほぼ確定している現状、大型大会で「JO退化」が暴れられるのはこれが最後となる。

 そしてそれはちょうど、原作コミックの三代目主人公である切札ジョーとともにデュエル・マスターズの世界で我々が旅をした、5年半という歳月の終わりとも重なっている。

 この5年半の旅路の中で、幾多のデッキがあり、幾多の出来事があった。そしてまた、誰にとっても幾多の出会いがあったことだろう。

 旅の本質とは、異なる様々な環境に己が身を置くことで、それらの環境の影響を受けながら相対的な自己の在り方を確認することだ。

 ならばもはや、デュエルをすることすらも旅と呼べるのかもしれない。

 目まぐるしく移り変わるゲーム展開の影響を受け、我々は一秒ごとに新しい自分へと変わっていく。

 1ターンごとに変わるシチュエーション。判断によって幾重にも分岐する未来。デュエルをするということは、その一瞬一瞬を渡り歩くことで、己自身を次々と更新し続けるようなものだからだ。

 ではデュエルを旅に見立てたとき、それは結局何を意味することになるのだろうか?
 その答えを出すべく、いままさに最後の旅が始まろうとしている。  やがてデッキのシャッフルを完了し、シールドと手札を展開し終えた2人は、もはやジャッジによる対戦開始の合図を待つのみとなった。

 超CSⅣ宮城、決勝戦。

 向かい合うのは、大舞台であればこそ努めて冷静であろうとするひんたと、強敵を相手にここ一番とばかりに己を奮い立たせようとするシーチキンP。

ジャッジ「それでは、対戦開始してください」

ひんた「……お願いします」

シーチキンP「お願いしまーす!」

 2人の対照的な声とともに、頂上の戦いが幕を開けた。

Game 1

 予選ラウンドの順位で先攻を取ったひんたが《若き大長老 アプル》チャージでターンを終えたのに対し、シーチキンPは《禁断のモモキングダム》をチャージする立ち上がり。

 だが、早くも2ターン目からひんたが攻め立てる。《特攻人形ジェニー》をチャージして召喚したのは《悪魔妖精ベラドンナ》。手札破壊のモードでシーチキンPの手札から《》を奪い去る。

 さらに後攻2ターン目も《無双龍騎 ボルバル・モモキング》のチャージのみでターンを終えたシーチキンPに対し、《生命と大地と轟破の決断》をチャージしたひんたはなおも2体目の《悪魔妖精ベラドンナ》で今度は《アルカディアス・モモキング》を奪い去る。

シーチキンP「今ハンドって……?」

ひんた「2枚です」  返すシーチキンPはアクションに悩んでおり、どうやら《禁断英雄 モモキングダムX》《進化設計図》も引けていない様子。そして検討の結果、ノーチャージでターンエンド《禁断英雄 モモキングダムX》《進化設計図》を引くまでとにかく手札枚数を維持しようという、「水闇自然ハンデス」との対戦を相当数こなさないとたどり着かない玄人のプレイだ。

 だが一方のひんたは《飛ベル津バサ「曲通風」》をチャージして《魂晶 リゲル-2》《悪魔妖精ベラドンナ》を回収すると、続くターンも《新世界王の闘気》をチャージするのみだったシーチキンPを尻目に、返すターンには《特攻人形ジェニー》チャージからの《生命と大地と轟破の決断》でマナから《飛ベル津バサ「曲通風」》を出しつつ1マナ加速!  これにより、シーチキンPが喉から手が出るほど引き込みたかった《禁断英雄 モモキングダムX》《進化設計図》すらも封じられた格好となってしまう。

 こうなるとシーチキンPは《バッドドッグ・マニアクス》からでなければ動くに動けないため、ひたすらひんたのアクションを見守るターンが続く。《》チャージのみでエンドに対し、《Disジルコン》チャージからの《悪魔妖精ベラドンナ》で手札の《禁断のモモキングダム》が抜かれる。なおもシーチキンPがノーチャージでエンドに対し、《アクア・ベララー》をチャージしたひんたがマナから《Disジルコン》を召喚して手札を整える。

 そして続くターンもノーチャージでターンを返したシーチキンPに対し、ひんたがついに「絶望」を突きつける……すなわち、《絶望と反魂と滅殺の決断》 シーチキンP「引かれちまったかー……」

 《悪魔妖精ベラドンナ》の2体蘇生で2ハンデスが走り、ついにノーチャージ戦略によってすらも手札枚数を維持することが不可能となってしまう。

 さらに続くターンも墓地からの《絶望と反魂と滅殺の決断》で2ハンデスを受け、それでもノーチャージでターンを返してわずかな希望にかけるシーチキンPだったが、ゲームの「クライマックス」は突然に訪れる。  すなわち、《CRYMAX ジャオウガ》

シーチキンP「……かー!」

ひんた「3点。……ダイレクトで」


ひんた 1-0 シーチキンP


シーチキンP「どこ行ったー?」

ひんた「そうですね……」

シーチキンP「超行方不明だったんですけど……」

 《禁断英雄 モモキングダムX》《進化設計図》の失踪。「JO退化」を使う以上は何ゲームかに1回は必ず起きるものとはいえ、「何もこんな決勝戦という場で起こらなくてもいいのに」というシーチキンPの嘆きはもっともだ。

 だが、それ以上に驚嘆すべきはひんたのプレイスピードと精度だ。

 「水闇自然ハンデス」という、長期戦を前提としている上にマナ置きからプレイの判断までいちいち微差の正解プレイを求められるデッキで今日ここまで15ゲームほどをこなしておきながら、プレイのリズムに一切の乱れがない。

 一体何をどうすれば、ここまでの領域に至れるのだろうか。

 ともあれ、あと1ゲーム勝てば優勝。ひんたが、先に王手をかける。

Game 2

 シーチキンPが《》をチャージしたのに対し、ひんたは《有象夢造》をチャージしてターンを終える立ち上がり。ひんたはポーカーフェイスを保っているが、さすがにこの時ばかりは神に祈っていたかもしれない。

 何せ、「JO退化」には不可侵の先攻2ターン目がある。今ならば《禁断英雄 モモキングダムX》《進化設計図》も、出し放題唱え放題だ。

 その2ターン目。《キャンベロ <レッゾ.Star>》をチャージから2マナをタップしたシーチキンPが公開したのはしかし《エボリューション・エッグ》で、楯確認ののちに《禁断英雄 モモキングダムX》がサーチされる。  「JO退化」が始動するには「1. 《禁断英雄 モモキングダムX》 2. 退化札 3. 進化クリーチャー」の3種のカードが必要となる。それに加えて、3ターン目に更地で始動するには「4. 3マナ目のアンタップインマナ」も要求される。《禁断英雄 モモキングダムX》の先出しでなければ、あるいは《進化設計図》が絡まないならば、ランダムな手札破壊でこれらの要求パーツのうちのどれかを挫ける勝算は相当ある。

 そう判断したであろうひんたは、返しで《若き大長老 アプル》チャージから《特攻人形ジェニー》で手札破壊。目論見通り、退化札かつ単色である《バッドドッグ・マニアクス》を落とすことに成功する。

 だが返すターン、《新世界王の闘気》をチャージしたシーチキンPは《禁断英雄 モモキングダムX》を着地させて《未来王龍 モモキングJO》を下に敷くと、さらに1マナをタップする。  シーチキンPにとっては最高の、ひんたにとっては最悪の《》退化と手札補充を兼ねたアクションにより、《未来王龍 モモキングJO》の攻撃態勢が整う。

 すなわち、まずは攻撃時《禁断のモモキングダム》。W・ブレイクが通り、「シンカパワー」で1ドローしながらアンタップ。再度の攻撃時に《キャンベロ <レッゾ.Star>》へと「侵略」してW・ブレイク。これも通り、「シンカパワー」ののちにみたび攻撃して《キャンベロ <レッゾ.Star>》を「侵略」して最後のシールドをブレイク……通る。

シーチキンP「ダイレクトで」

 それはわずか、先攻3ターン目の出来事だった。


ひんた 1-1 シーチキンP シーチキンP「は~、1-1か~」

 1本目のロングゲームが嘘のような、あまりに鮮やかな瞬殺。コンビ殿堂も納得のこの理不尽さが、「JO退化」最大の魅力だ。

 加えてシーチキンPは会場で最もノリにノっている、今日最強の「JO退化」である。そんなシーチキンPが、先攻で開始したゲームでみすみす星を落とすはずもない。

 かくして泣いても笑っても、決着まであと1ゲーム。超CSⅣ宮城の正真正銘最後のゲームが、開始する。

Game 3

 《天災 デドダム》《コオニ弁天》とチャージして先攻2ターン目《飛ベル津バサ「曲通風」》という最高のスタートを切ったひんたに対し、「ジャストダイバー」で触れないシーチキンPは《禁断のモモキングダム》《新世界王の闘気》とチャージのみでターンエンド。ひんたはこの隙に《Disジルコン》を召喚して手札を整える。

 返すシーチキンPも《新世界王の闘気》チャージからの《バッドドッグ・マニアクス》《飛ベル津バサ「曲通風」》を除去しつつ鬼のいぬ間に《進化設計図》を唱えるのだが、ここでヒットしたのは不運にも《キャンベロ <レッゾ.Star>》1枚のみ

シーチキンP「……え~。……1ヒットです……」

 露骨に不満げだが、やむなくターンを終えるしかない。  一方のひんたは《有象夢造》《悪魔妖精ベラドンナ》で手札を締め上げつつも《飛ベル津バサ「曲通風」》を蘇生し、《禁断英雄 モモキングダムX》《進化設計図》を再度ロックすると、《禁断のモモキングダム》をチャージだけしてターンを返すしかないシーチキンPを尻目に、続くターンにはさらなる《有象夢造》《悪魔妖精ベラドンナ》《特攻人形ジェニー》を蘇生して手札を攻め立てる。

 そうして気づけば、シーチキンPの手札はドローまで含めて残り2枚にまで削られてしまっていた。

シーチキンP「きっちーなーこれ……」

 それでも、意を決して召喚したのは《禁断英雄 モモキングダムX》

 《飛ベル津バサ「曲通風」》がいる状況だが、可能性は0%ではない。1枚目で《未来王龍 モモキングJO》を素めくりする可能性にすべてを託す。  だが、公開されたのは《進化設計図》。約5%の奇跡は、起こらない。

シーチキンP「……終わりで」

 他方、これを見てひんたのプレイが加速する。《CRYMAX ジャオウガ》チャージからの《絶望と反魂と滅殺の決断》によって蘇生した《学校男》《悪魔妖精ベラドンナ》で引き続き手札を締め上げながら盤面に残った《禁断英雄 モモキングダムX》もきっちり排除し、逆転の可能性を徹底的に摘み取りにいく。

 さらに《キャンベロ <レッゾ.Star>》をチャージのみでターンを返したシーチキンPに対し、《天災 デドダム》《生命と大地と轟破の決断》をマナに送りつつ、墓地から《Disジルコン》を蘇生。盤石なまでのリソース差を築き上げる。 ひんた「っふー……」

 もはや予想外の大事故さえ起こらなければ逆転されないという安全圏まで来たひんたが、ここまで張り詰めていた緊張の糸を少し解いて呼吸を整える。頂まではあと少しだ。

 ほどなくして《アクア・ベララー》が着地し、シーチキンPのドローまでをも検閲しはじめる。

 そして。ついに。

 長かったゲームに終止符を打つべく、「あのカード」が降臨する。  《CRYMAX ジャオウガ》

シーチキンP「負けです!」

ひんた 2-1 シーチキンP

Winner: ひんた

シーチキンP「さすがです!2ハンデス連打してくるの、ひんたさん以外いなかったですよ。みんなよくマナ加速を選択してくるんで」

ひんた「運が良かったです」

シーチキンP「よくわかってんなー『JO退化』のこと、と思いながら対戦してました。にしても、超CS優勝でDMPランキング1位って格好良すぎません???」

ひんた「めちゃくちゃ嬉しいです!」

シーチキンP「良いな~~!!!」

 感情豊かに悔しがりつつも、仕方ないといった様子のシーチキンP。DMPランキングでのポイント上の目標は達成したことで、ひとまず満足なのだという。

シーチキンP「5日前のリベンジでしたが、またしても敵いませんでしたね……『水闇自然ハンデス』には不利だとあらかじめ割り切ってのデッキ選択だったんですが、決勝トーナメントではひんたさんが勝ち上がってそうなのを横目で見ながら、言い方は悪いですが『どっかで負けててくれー!』って死ぬほど思ってましたw」

シーチキンP「DMPランキング一緒に走ってる身内のメンバーと一緒に参加しましたが、自分としては出来過ぎかなと。ひんたさんと比べて無名なので、ここまでこれたなら上出来かなと思うけど……でも正直、死ぬほど悔しいですね。自分は最後、主人公になれなかったですね……再来週の超CSⅣ京都も出るので、ひんたさんがいない間に空き巣させてもらいます!w」

 一方、DMPランキング暫定1位の貫録を見せつけたひんた。さらに圧倒的なプレイ精度の裏付けとして、驚くべきことに6月と7月はそれぞれ約30回ほどずつCSに参加していたというのだ。1日1CSペース、まさしく旅人である。

ひんた「どうしてもDMPランキング1位が取りたくて……」

 それはともかく、今回の優勝の立役者となったのは、間違いなく《CRYMAX ジャオウガ》だろう。一般的な《》ではなくこのカードにしたのは、どのような理由があったのか。

ひんた《》だと相手のリソース全部潰してから出せたら強いけど、道中がとても弱くて4000というサイズが《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》に踏まれたりしてすぐ処理されてしまう。そこを《CRYMAX ジャオウガ》にすることによって、メタを断ちながらワンショットできる。また、小型クリーチャーでつついてから殴ると手札破壊で実質楯焼却、ボルメテウスみたいな動きもできる。結果《》とやってることが変わらないなということで、《》よりカードパワーが高いのが採用理由です」

 そんなひんたに、デュエル・マスターズが強くなった上達のきっかけについて尋ねてみた。

ひんた「CSに出続けていくにつれて、『周りがすごく大事だな』って感じるようになったんです。調整環境だとか強い人に教わるのが大事だと思っていて、そのためにはとにかく周りがいないと強くなれないなと。それもあって、周りとの関係を大事にするようになりました。特別誰かに教わったりしたわけではないけど、良い関係のライバルたちがいるおかげで強くなれたと思います」

ひんた「あとは昔は好きなデッキで勝てればいいなっていうプレイヤーだったんですけど、『色々試した結果これが強いからこれにするよね』っていうデッキ選択ができるようになってから勝ちはじめたなと思います」

 超CS優勝という、一つの大きな実績を達成したひんた。次なる目標として見据えるものはあるのか。

ひんた「GP優勝と、今年はないかもとは思うんですけど全国に出たいですね」

 最後に、今回の優勝を一番誰に伝えたいか?という締めの質問には、こう答えてくれた。

ひんたCSのみんなと親っすね



 デュエルが旅だとするならば、旅には友の存在が不可欠だ。

 独りきりで凝り固まった考えは容易く先鋭化し、極端な結論へと着地しがちである。一見回り道に見えても、コミュニケーションによって意見を統合しようとする試みこそが上達への近道なのだ。

 なぜなら他者に対して思考を言語化することで新たな気づきが生まれる場合もあるし、それよりもっと根本的に、友がいた方が勝ったときの喜びも2倍3倍になるからだ。

 とかく、「旅は道連れ」と相場は決まっているのだから。  超CSⅣ宮城、優勝はひんた!おめでとう!!

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