リモートデュエマスペシャルトーナメント 決勝戦:畳 vs. dotto
ライター:Daisuke Kawasaki
物語を紡ぐ事とデュエルをする事は同じだ。
人と人との意志のぶつかり合いが物語を紡ぐとすれば、デュエルをする事も物語を紡ぐ事と同意といっても大げさではないだろう。
人の意志とは突き詰めて言えば選択だ。
そして、デュエルをする事ではなく、それを物語として綴る事を選択するものもいる。
それがカバレージライターという人種だ。
カバレージライターには、素晴らしい戦いを特等席で見る特権を持つ代わりに、その素晴らしい戦いを読者に届ける。だから、自分がその最高の戦いの当事者になることはできない。
そんな素晴らしい戦いを目の前で見ていて、自分がデュエルをしたくならないわけがない。
対戦をせずにライターをやるということも選択だし、対戦をするためにライターをやらないということも選択だ。すべての選択には裏表がある。
史上初めて、公式側が主催するオンラインイベントとなった、今回のリモートデュエマスペシャルトーナメント、略してRDST。
招待選手のみのクローズドなイベントとして開催されたこのイベントの招待条件は、2019年の全国大会への参加権を持っていることだった。
決勝の席に座るふたりのうち、2017年の全国王者でもある「魔王」dottoはDMPランキングによる招待選手だった。
一方の畳はジャッジ大会の代表、とされているが、実際は畳はジャッジとしてジャッジ大会に参加したわけではない。
ジャッジ大会には、シーズン内に公式大会でジャッジをしたプレイヤー以外に、もうひとつ招待条件がある。
それは、シーズン内の公式大会で、カバレージライター、もしくは生配信の解説者をやったプレイヤーだ。
畳はそこでカバレージライター枠として大会に参加し、そして権利を獲得した。
Game 1
先手は畳。1ターン目に《勝熱英雄 モモキング》をマナチャージする。対するdottoは《燦燦-ザサン》をチャージ。畳が2ターン目に《桜風妖精ステップル》を召喚してマナを伸ばすのに対して、dottoも《U・S・A・NIKER》を召喚と共にベストな動き。リソース面では畳がリードしている形だが、《U・S・A・NIKER》のスピードアタッカー付与能力には先手後手を入れ替えるポテンシャルがある。
続くターンに畳は、dottoの《U・S・A・NIKER》が機能する前にマナのリソース差を次ターンの勝利に直結させるべく《ウマキン☆プロジェクト》を召喚。これで次のターンのマナチャージで6マナとなり、パワー6000となった《ウマキン☆プロジェクト》でWブレイクを決めつつ、キリフダッシュ6で《勝熱英雄 モモキング》を召喚、そのままダイレクトアタックまで決めるという火水自然モモキングの必殺ムーブを決める準備が整った。
そして、畳の1ターン目のマナチャージは《勝熱英雄 モモキング》。すなわち、畳の手札に《勝熱英雄 モモキング》が抱えられている可能性は限りなく高い。
自身のターンを迎えたものの、何もせずにターンを返してしまえば敗北がほぼ確定、そんな状況を畳のマナゾーンを改めて確認し認識したdottoがとれる選択肢はふたつ。このターンに勝利するか、畳の必殺ムーブをなんとかして妨害するか、だ。
しかし、前者はまだ3枚目のマナをチャージしたばかりのdottoにとっては難しく、後者も相手のマナや手札に干渉する能力が少ない火光デッキでは止めるのは難しい。現状は八方ふさがりに見える。
だが、唯一の光明、それは畳が2ターン目にマナ加速のために使用したカードが《桜風妖精ステップル》だったという事だ。つまり《U・S・A・BINTA》を召喚するなり、《巡巡-スター》でタップキルするなりの方法で《桜風妖精ステップル》を破壊し、その破壊された時の能力で畳のマナを減らすという選択肢がとれるのだ。
とはいえ、それで稼げるのも所詮は1ターン。どちらにしろ自身の次のターンには勝てるビジョンを用意しつつこのターンは《桜風妖精ステップル》を破壊する、そんな選択肢を取らなければただ、1ターンを稼いだだけになってしまう。例えば、このターンに《巡巡-スター》を召喚して《桜風妖精ステップル》をタップし《U・S・A・NIKER》で相打ちをすればこのターンにdottoが抱えるリスクはゼロだし、次のターンには負けないが、それはそれだけでしかない。結局、リスクを恐れて次のターンに勝てるビジョンがない選択肢をとってしまえば、その次のターンに負けるだけなのだ。
でも、リスクをとれば次のターンに負ける可能性もその分増える。とにかく殴る、そんなシンプルなデッキに見える火光マジボンバーの、しかも3マナしかない状況でありながら選択肢は無限にある。このターンのゴールは《桜風妖精ステップル》を破壊する事。でも、シールドブレイクをするリスクと次のターンのトリガーケアの安心をどれだけこのターンと次のターンに振り分けるか。
ましてやdottoは《瞬閃と疾駆と双撃の決断》を抱えている。これによって選択肢はさらに増える。答えのない選択を前にdottoは長考に長考を重ねる。
長考の末、まず《瞬閃と疾駆と双撃の決断》をプレイすると、3マナ以下を手札から出す能力と、攻撃後のアンタップ付与を宣言する。そして、手札から《U・S・A・ELEKI》を呼び出し、その《U・S・A・ELEKI》へとアンタップを付与する。
結果、dottoの選んだのはこのターンの最大バリューを取る選択だった。
《U・S・A・NIKER》でシールドをブレイクしつつ《U・S・A・ELEKI》へとスピードアタッカーを与え、《U・S・A・ELEKI》のマジボンバーで今度はおそらく手札にあるであろう《巡巡-スター》をバトルゾーンに出して、《桜風妖精ステップル》をタップする。そしてアンタップした《U・S・A・ELEKI》で《桜風妖精ステップル》すれば、このターンの絶対条件である《桜風妖精ステップル》の破壊を達成しつつ、さらに1体を追加できる。手札か山札のトップに《U・S・A・BINTA》であれば《ウマキン☆プロジェクト》をも破壊する事ができるので、2ターン稼げる可能性すらあるのだ。
dottoは《U・S・A・NIKER》でスピードアタッカーを与えた《U・S・A・ELEKI》でアタックし、マジボンバーで出した《巡巡-スター》で《桜風妖精ステップル》をタップした。
あとはアンタップした《U・S・A・ELEKI》で《桜風妖精ステップル》へとアタックすれば、ほぼ勝利できる。
はずだった。
オンライン対戦でdottoの表情は見えないはずなのに、空を仰いだのが見えた気がした。
《U・S・A・ELEKI》は《「青空の大波」》をトリガーし、そして、《U・S・A・ELEKI》を手札へと戻す。
マナも、《桜風妖精ステップル》も、《ウマキン☆プロジェクト》も。すべてを残して自身のターンを迎えた畳は、6枚目のマナをチャージした。
畳 1-0 dotto
2018年の全国大会の会場。そこに、参加権はないが、大会を見学するためにあーくんが来ていた。
あーくんは、2017年の超CSで自ら立候補し、カバレージライターとなった。
それまでの、DMGP4thまでのテキストカバレージは基本的にライター経験のある公式関係者が主であり、あーくんは実質的に「はじめて立候補してプレイヤーからカバレージライターになったプレイヤー」だった。
とにかく、デュエマに関わる何かをやりたかったんです、と後日、立候補を選択した理由を語ったあーくんは、その後、カバレージライターに限らず、デュエマの裏方に多くかかわっていった。ライター自体をやる機会は減ったにせよ、その後、立候補や募集などでプレイヤーに公式カバレージライターをやる選択肢を切り開いたのはあーくんで間違いない。
そんなあーくんだったが、ちょうど二日制のDMGP8thでカバレージライターの人手が足りないことが予測されていたのもあって「久々にテキストカバレージの方を手伝ってくれないか」と声をかけた。他の裏方には根回し済みだったので、てっきり引き受けてもらえるものだと思っていた。
しかし、その返答は、予想と違った。
「いえ、僕は8thではライターはやりません」
「え!?なんで!?」
「8thというか、来年は本気で大会を回って、そして、全国大会の権利を取ります。その気持ちを確認するために、今日ここに来たんです」
素晴らしい戦いを目の前で見ていて、自分がデュエルをしたくならないわけがない。
自らカバレージライターの道を切り開いたあーくんが、今度はライターではなくプレイヤーとして出たい、物語を紡がれる側になりたいと願い、選択した。
「がんばれ、応援してるよ」と声をかけ、心からその選択が報われてほしいと願った。ライターがプレイヤーをやりたい時、応援しなければ僕のすべての選択が嘘になってしまう。
そして、あーくんは有言実行し、DMPランキング5位として全国大会の出場権を獲得し、そしてこのRDSTにも参加している。
Game 2
Game 1を落としたdottoは先手で《音奏 プーンギ》をマナチャージ、一方の畳は《珊瑚妖精キユリ》をチャージする。そして、dottoはGame 1と同じく《U・S・A・NIKER》を2ターン目に召喚する。畳の2ターン目はマナ加速ではないが、それ以上の爆発力を秘めたスノーフェアリー、《葉鳴妖精ハキリ》。Game 1同様後手であれば、この《葉鳴妖精ハキリ》への対処を講じなければならない所ではあったが、このゲームではdottoは先手番。むしろ相手に回答を要求する側の立場だ。まずは《瞬閃と疾駆と双撃の決断》をプレイすると《U・S・A・ELEKI》をバトルゾーンに出しこれにスピードアタッカーを与え、そしてアタックする。
このアタックによるマジボンバーでは《BIRIBIRIII・ビリー》をバトルゾーンに出しシールドをブレイク。ここではトリガーはなし。《U・S・A・NIKER》でのアタックで《BIRIBIRIII・ビリー》へとスピードアタッカーを与え、さらなるブレイクと展開を重ねる事も可能だったが、それは踏み込みすぎかと考えてかdottoは長考の末、ターンを終える。
時にして相手を追い詰めすぎる事は、結果的に相手を「とれる選択肢をとるしかない状況」に追い詰めることとなる。相手の選択肢を狭めるのは対戦ゲームの基本だが、しかしそれは、正解のプレイを選ぶ可能性を高めさせてしまう危険性もはらんでいる。そう考えてかはわからないが、dottoは自分は負けず、相手には対処されにくく、それでいて次のターンに勝てる可能性もあるリスクの少ない選択肢を取った。
一方で、今度は自分が対処しなければ負ける可能性の高い状況に追い詰められてしまった畳。だが、手札に相手に対処できる手段はない。とはいえ、トリガーの厚みはdottoのデッキにはない畳のデッキのアドバンテージポイントだ。続くターンに勝てる状況、つまり、相手に対処か一気の勝利の二択を押し付けるべく、まずは《モモダチ モンキッド》でマナを増やし、そして《葉鳴妖精ハキリ》でアタックする。
この《葉鳴妖精ハキリ》のアタックは《BIRIBIRIII・ビリー》にブロックされてしまう、捨て石のアタックだ。だが《葉鳴妖精ハキリ》の攻撃時能力で手札から《ウマキン☆プロジェクト》を出せば次のターンには6マナ、つまり《勝熱英雄 モモキング》のキリフダッシュが可能になるマナとなる。次ターンに自分が勝てる状況を相手に押し付けるためであれば《葉鳴妖精ハキリ》の犠牲はやむなしという所だろう。
だが、このアタックに対してのdottoの行動は予想を超えたものだった。
dottoは、一方的に討ち取れる《葉鳴妖精ハキリ》をブロックすることなく、シールドをブレイクさせたのだ。
《ウマキン☆プロジェクト》が出てきてしまい、そして6マナに到達してしまう以上は、1枚のブレイク差は大して変わらず、そしてdottoは次のターンに勝つしか選択肢がなくなってしまっているのだ。そうなのであれば、次のターンの自分の選択肢を少しでも多くし、勝てる可能性を増やすために手札を1枚多く持ちたいのは、言われてみればそうだ。
いわば追い詰められた状況だから「とれる選択肢をとるしかない状況」だったというだけなのかもしれないが、この決勝の舞台で目の前に一方的アドバンテージの交換ができる選択肢があるのに、その選択に思い至るのもそれを実行するのも、ものすごい胆力だ。実況の小林の言葉を借りれば「その胆力こそがdottoの強さ」なのだろう。
互いにあと一手で相手を倒せる状況は整った。
だが、今回、先に動けるのはdottoの方だった。
入念に長考に長考を重ね、最も打点が高い選択を探す。そして《瞬閃と疾駆と双撃の決断》をプレイすると、《BIRIBIRIII・ビリー》と《U・S・A・NIKER》へ攻撃後のアンタップを付与する。まずは《BIRIBIRIII・ビリー》での攻撃。
マジボンバーで呼び出された《正義の煌き オーリリア》は、このブレイクでラビリンスを発動させ、畳の呪文を封じる。
あとは順々にクリーチャーで殴っていくだけ。能力を使いたい《U・S・A・NIKER》で先に殴って《正義の煌き オーリリア》へとスピードアタッカーを与えると、最終的にはその《正義の煌き オーリリア》がダイレクトアタックを決めるのだった。
畳 1-1 dotto
デュエマのカバレージライターの中での業界用語に「石板に刻む」という言葉がある。
端的に言えば「いい試合だったから、いいカバレージ書けよ」くらいのニュアンスだ。
その始まりとなったのが、このマッチを対戦しているdottoが全国王者となった2017年の準決勝のカバレージだ。
ミラーマッチによる屈指の名勝負が書かれたカバレージ。これを見て奇行士こと塚本が「石板に刻んで残したい」と言ったのがすべてのはじまりである。
そして、このカバレージを書いたのが、イヌ科だ。
ヤス・鐘子・プレイン・クロイ・神結といった現在でも公式イベントのカバレージで主力となっているカバレージライター達。彼らは2017年のエリア予選で突然募集されたカバレージライターたちであり、イヌ科もその中のひとりだった。
そんなイヌ科ではあるが、多くの人が知っているように、DMGP9th覇者であり、2019全国大会権利者であり、当然、このRDSTにも参加している。
彼もまた、あーくん同様に熱戦を観る側から届ける側になりたいと感じ、DMGP9thではライターを辞退して本戦に出場する選択をしたのだ。そして、その選択は報われたことは読者諸兄もご存じの通りだ。
だが、このDMGP9thでイヌ科と志を同じくしてカバレージライターを辞退し、本戦参加を選択した男がいた。
それが、畳だ。
同じ選択をしたイヌ科と畳だったが、畳は報われぬ結果となり、覇者の称号はもちろん、全国大会の権利を得ることもなかった。
しかし、シーズン中にすでにカバレージライターをしていた畳には最後のチャンスがあった。
ジャッジ大会だ。
畳はそこでカバレージライター枠として大会に参加し、そして権利を獲得した。
Game 3
再び先手となった畳は《ウマキン☆プロジェクト》を1ターン目にチャージすると、2ターン目には《葉鳴妖精ハキリ》を召喚する。先ほどは後手だったので本領を発揮できなかった《葉鳴妖精ハキリ》だが、先手の《葉鳴妖精ハキリ》は後手の《葉鳴妖精ハキリ》の10000倍強い。一方のdottoも三度《U・S・A・NIKER》を2ターン目に召喚する。2ターン目の《U・S・A・NIKER》は大体強いが、dottoが使う《U・S・A・NIKER》は通常の3倍は強い。
だが、畳はなんと3ターン目にマナをチャージするのみでアクション出来ない。3マナのアクションが無いという事は、3マナの状態で《葉鳴妖精ハキリ》を攻撃させる意味もないわけで、畳はノーアクションでターンを終える。10000倍強かったはずの《葉鳴妖精ハキリ》はただの《葉鳴妖精ハキリ》になってしまったが、元々《葉鳴妖精ハキリ》は強い。「ただ、先手と後手が入れ替わっただけだ」、畳はそう気持ちを切り替えてターンを返した。
むしろ、予想外に先手に回る事になったのはdottoの方だったのかもしれない。本日、最長とも言える長考によって改めて戦略を組み上げる。そして《U・S・A・ELEKI》を召喚した。
ここで《U・S・A・NIKER》のアタックによって《U・S・A・ELEKI》へとスピードアタッカーを与え、マジボンバーへとつなげれば一気に盤面で先手を取ることができる。だが、それは不用意な踏み込みではないのか?Game 1で踏んだ《「青空の大波」》が頭にちらつくのか、何度も《U・S・A・NIKER》を手にとっては置き、そして考える。
しかし、そもそもこのマッチアップは圧倒的に先手が有利なマッチアップだ。繊細なプレイの妙で彩られていても、Game 1もGame 2も先手が先手の有利を活かして勝利した、そういう内容のゲームではあった。
そして、ここで望外に先手を取れるチャンスがやってきた。ここで後手に回って妨害に頭を悩ますよりは、相手に盤面を押し付けるべきではないか。
dottoがそう考えたかまではわからないが、意を決したかのように《U・S・A・NIKER》をタップし、《U・S・A・ELEKI》にスピードアタッカーを付ける事を宣言する。このブレイクではトリガーはない。
続く《U・S・A・ELEKI》でのアタック時、マジボンバーで山札の上を確認すると小さく「どうしようかな」とつぶやく。単純に見えて無限に選択肢があるのがマジボンバー。そして、小さなアドバンテージと打点の積み重ねで勝利を目指すこのデッキでは、たったひとつのミスで大きなチャンスをすべて無にしてしまう可能性もあるのだ。考えた結果、手札から《巡巡-スター》をだして《U・S・A・ELEKI》をアンタップすると、再び攻撃し、今度は山札の上から《U・S・A・ELEKI》をマジボンバーした。次のターンに絶対に負ける心配のないdottoは、次のターンに勝てる可能性の最大値を取る。
畳は1ターン目に《ウマキン☆プロジェクト》をチャージしている以上、もう1枚《ウマキン☆プロジェクト》を持っている可能性は高く、そして、そうであれば次のターンに勝てなかった時に、負けてしまうのは自分なのだ。
畳は2回目の《U・S・A・ELEKI》の攻撃でブレイクされたシールドを見ると、《U・S・A・NIKER》のパワーを確認する。そして、値千金の《「青空の大波」》をトリガーすると、マジボンバーで出てきた《U・S・A・ELEKI》を手札に返す。
続くターン。実は畳の手に《ウマキン☆プロジェクト》はない。その後、畳のマナゾーンを確認したdottoも気が付いたとは思うが、この時点で畳のマナゾーンには自然のカードが《ウマキン☆プロジェクト》しかなく、つまり、自然マナ確保のために仕方なく《ウマキン☆プロジェクト》をチャージしたのだ。それくらい畳の手札の状況は芳しくなかったのだ。
次のターンに自分が勝つビジョンがありつつ、相手のが勝てる可能性を限界まで下げる手を押し付ける。
それの繰り返しだったこの決勝戦、最後にその選択をすることになったのは畳の方だった。
手札は何度見ても変わらない。でも、その手札の内容の悪さに腐ることなく、長考した末、畳は《ドンドン吸い込むナウ》をプレイする。そして、運命の5枚の山札トップ、そこから《U・S・A・CAPTEEEN》を選択すると《U・S・A・ELEKI》を手札に戻す。そして《「青空の大波」》で《U・S・A・NIKER》と相打ちをして盤面の見た目上は負けていない状況を作り出すと、今度は自分が勝てるビジョンを作るべく《葉鳴妖精ハキリ》で攻撃する。
だが、手札から出せたのはやはり《ウマキン☆プロジェクト》ではなく《珊瑚妖精キユリ》。2ターン目に出せた《珊瑚妖精キユリ》は普通の《珊瑚妖精キユリ》の100倍強いが、この状況でも続くターンに5マナで《勝熱英雄 モモキング》のキリフダッシュへとアクセスできる以上、1000倍強い。
すでに見えている《U・S・A・CAPTEEEN》によって、畳も次のターンに勝利するチャンスがあることは重々承知のdotto。だが、偶然によって入れ替わった先手の利を活かして、先に勝利へのチャレンジができるのはdottoの方なのだ。ここで勝ちをもぎ取っておかなければならない。悩んだ末、短く声を出すとdottoは《正義の煌き オーリリア》をチャージして《GOOOSOKU・ザボンバ》を召喚する。
そして《GOOOSOKU・ザボンバ》がバトルゾーンに出た時の能力で見た山札の上、それは《BIRIBIRIII・ビリー》だった。
現時点で1打点足りないdottoにとって、山札の上は打点を増やす《巡巡-スター》であってほしかった。
だが、畳の打点も現時点ではかなりギリギリだ。ブロッカーを持つ《BIRIBIRIII・ビリー》は、もしかしたら次の1ターンを生き延びるのに貢献してくれるかもしれないのだ。そして、次のターンが回ってくれば、dottoの勝利はほぼ確実だろう。
《BIRIBIRIII・ビリー》を山札の上に残して、マジボンバーが外れるリスクをなくし、代わりに畳が《BIRIBIRIII・ビリー》を乗り越えてダイレクトアタックを決めてくるリスクをとるか。
《BIRIBIRIII・ビリー》を山札の下に送り、《巡巡-スター》が来てこのターンに勝利する可能性を手に入れる代わりに、来なかった場合は相手に素直にターンを与えるリスクをとるか。
きっと、これがdottoの今日最後の選択だろう。
デュエマは選択の連続だ。
先手後手も、手札も、シールドも、山札の中身も選ぶことはできないが、自分のプレイだけは自分で選ぶことができる。
相手に選ばせることも、相手に選ぶ余地を与えないことも、可能性だけは自分で選択できるのだ。
結果、dottoは、山札のトップを下に送る事を選択した。相手の選択ではなく、自分の選択でゲームを決める強い意志の選択肢だ。
この選択をした以上《GOOOSOKU・ザボンバ》の攻撃先に選択の余地はない。
畳のシールドへの攻撃を宣言し、《GOOOSOKU・ザボンバ》のマジボンバーでまだ見ぬ山札の上を見る。
そして、手札から1枚のカードを出す。
これで、dottoのターンは終わりだ。
畳は《閃閃-ダセンゼ》の能力でこのターン、自分が2体までしかクリーチャーを出せない事を確認すると、《瞬閃と疾駆と双撃の決断》で攻撃後アンタップをバトルゾーンにいる《葉鳴妖精ハキリ》と《珊瑚妖精キユリ》に与える。
そして《葉鳴妖精ハキリ》の攻撃によって《U・S・A・CAPTEEEN》をバトルゾーンに出すと、シールドをブレイク。この攻撃によって《U・S・A・CAPTEEEN》は攻撃できるようになる。《U・S・A・CAPTEEEN》の攻撃は、手札から2枚目の《U・S・A・CAPTEEEN》を呼び出す。《閃閃-ダセンゼ》の能力で畳はこのターンこれ以上クリーチャーを出せないが、畳のバトルゾーンにはもう十分すぎる打点がある。
《U・S・A・CAPTEEEN》が最後のブレイクをするとき、バトルゾーンに残った選ばれないアタッカーである《珊瑚妖精キユリ》は何よりも強い。
《BIRIBIRIII・ビリー》を山札の上に置いていても結果は同じだったが、自分の選択をdottoは貫いた。
これがオンラインの対戦でなければ、ここでdottoは握手を求めていただろう。
畳 2-1 dotto
試合後のインタビューで畳は、筆者にこう言った。
「神結さんも、今回書きたがってましたよ」
畳をカバレージライターの世界に引き込んだのは、カバレージライターである神結だ。
彼が、人生でライターであることを選択し、今も貫いている事は、畳も筆者もよく知っている。
「そうだな……ちょうど今、発表されてるけど、2019年全国大会が行われる方向で調整されてるから、そこではれもん(神結)に書いてもらいたいよ、オレも」
ゲームの中にも外にも山ほど選択肢がある。
選択が常に確かで報われるとは限らないが、「報われてほしいと願う」選択をすることはできる。畳の発言は、そういう意志で、そういう願いで、そういう物語だと筆者は受け取った。筆者も、次は畳の選択が報われる選択をしたい。
人と人の意志が紡がれていくのは、カバレージライターだって同じなのだ。
初めてのオンラインの大会でも、数々の物語が綴られた。
物語を紡ぐ事とデュエルをする事は同じだ。
デュエルは選択の連続で、その選択が常に確かで報われるとは限らない。
だから、そこに物語が生まれる。
だが、ひとつだけ確かなことがある。
デュエルをし続けること、デュエマに関わり続けることを選択してさえいれば、物語も綴られ続けるのだ。
おめでとう、畳。初代RDSTチャンピオン!
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