最強位決定戦 Round 1:UMEBA vs. どんよく
ライター:伊藤 敦(まつがん)
撮影者:後長 京介
「強さ」とは、思うに「上手さ」とは全く別次元のパラメーターだ。
「あの人はプレイが上手い」と言うとき、それはおそらく「上手なプレイの頻度が高い」という観察結果から想定される、幅広い選択肢を検討に含める「視野角の広さ」や、その中から最適な一手を選び取れる「リスクリターンに関するバランス感覚の良さ」などを、大雑把に捉えたものとして形容している。
対して「あの人は強い」と言うときは、そうした個別具体的な要素を当然のごとくすべて包含した上でなお他のプレイヤーと差別化されうる、「勝利という結果をもぎ取る勝負強さ」を指している。
勝負事には、確率やオカルトといった概念を超越したあやが付き物だ。
互いの緊張。興奮からくる脳内物質の分泌。その結果現れる決して「いつもどおり」ではない一瞬一瞬を、それでも「いつもどおり」に処理することができるか。そしてその中で起こる例外を、それはそれできちんと例外として捌くことができるのか。
機械ではなしえない、人間だからこそ行えるそうした極めて微細な判断を、極限まで突き詰めた者たちがいる。
デュエル・マスターズ。
その競技としての頂点。2022年度の「最強」を決めるべく、いまここに31名のプレイヤーが集った。
予選ラウンドは6回戦。決勝ラウンドに進出できる上位8名の椅子までの、生き残りをかけた熾烈な戦い。
その第1回戦のフィーチャーマッチで、いきなり優勝候補筆頭とも呼べる「最強」同士が激突した。
UMEBAはあのZweiLanceも認めるほどの東北の雄。今回のDMPランキング枠で唯一、東京・大阪というCS開催頻度が高い2大都市圏あるいはその周辺に居住していないというハンデを背負ってなお今大会の出場権を勝ち取ったプレイヤーというだけでも、そのアベレージの高さが窺える。
対するどんよくは2022年度DMPランキング前期2位、後期1位、全体でも現時点で暫定だがほぼぶっちぎりで1位になるだろうという、名実ともに関西最強のプレイヤーだ。
どんよく「 (対戦するの) 2回目っすよね」
UMEBA「前にチームのときに当たりましたよね」
東北と関西。拠点としているエリアが異なるため、ランキング上位勢同士でも直接対戦する機会はこうした大舞台でしか訪れない。
どんよく「当たりたくなかった……」
UMEBA「ちょうど昨日みんなと、当たりそうだなーって話してたんですよ。前のチーム戦のときのリベンジができる」
どんよく「前のときはあまりにも引きが良すぎて……」
UMEBA「いや、自分の練度の弱さが出たなーと思っていて……にしても、いやすごいっすね。1位ぶっちぎりじゃないですか。行動力もそうだしなんというか……」
どんよく「ありがとうございます。いやー、勝ちたいっすねこの1回戦は……」
深く息を吐くどんよく。強者ばかりが集うこの会場においてなお自身が「最強」のプレイヤーの一人であることは疑いようがないが、しかし「最強」だけが集まるこの大会においては、当たる相手もまた全員が「最強」なのだ。普段のCSとは違い、予選ラウンドの1回戦から気が抜けない。
極限の勝負を前にした緊張と昂揚。楽しさと怖さがないまぜになった胸中をしまい込んだまま、2人はゲームの準備を進める。
開幕3回戦は超次元・超GRが使用可能なアドバンス・フォーマット。互いに超次元を「どうせブラフだろう」と思いながらも提示し合うお決まりの時間帯が挟まるが、UMEBAの側にはブラフではありえない《滅亡の起源 零無》がある。 アドバンスは最速3ターンで決着しうる高速環境。そこにおいて対戦相手に手札を1枚多く献上するというのはとてつもなく大きなリスクだが、それを上回るメリットがあれば問題はない。ゆえにアドバンスにおける《滅亡の起源 零無》の採用は、事実上「今からお前を3ターンキルするぞ」という宣言にも等しい。
ここからの1ターン1ターンが、ここからの1秒1秒が一瞬で永遠。何よりも濃密な一日が、いよいよ幕を開ける。 真に「最強」なる者を決めるために。
UMEBAとどんよく。勝利という結果をもぎ取ることができるのは、はたしてどちらか。
Game
1ターン目のマナチャージは互いのデッキが明らかになる緊張の瞬間だ。じゃんけんで先攻を取ったのはどんよく。《滅亡の起源 零無》で6枚スタートの手札からマナチャージしたのは、《ガル・ラガンザーク》! 環境のデッキでこのカードを採用しうるのは「水魔導具」。しかも《滅亡の起源 零無》を採用したデッキ相手に立てたいパターンも多いこのカードを、6枚中1枚しかないのにいきなりマナチャージするような手札の組み合わせはほぼ存在しないと考えられるため、確実に2枚目を持っていることが透けている。
対し、そのくらいのことは当然脳内で一瞬で処理したであろうUMEBAのマナチャージは《蒼狼の大王 イザナギテラス》。 このカードを採用した3ターンキルデッキといえば、「ヒーローズ・ダークサイド・パック」の発売以降SNS上での話題を席捲している「サガループ」でほぼ間違いないだろう。2体の《絶望神サガ》による無限コンボによってほぼすべての「儀」を達成できるため、《滅亡の起源 零無》の採用にも矛盾はない。
となればどんよくに残されたターンは、最悪のパターンではあと2ターンしかない。先攻3ターン目までに何らかの干渉となるアクションが起こせなければ、サガループに入られてそのままゲームエンドとなってしまう。 そんなどんよくの先攻2ターン目は《ゴゴゴ・Cho絶・ラッシュ》チャージからの《堕呪 バレッドゥ》。少なくとも完全に制圧した後でなければ《卍 新世壊 卍》の起動など望むべくもないこの対面では、想定される最上の動きだ。3ターン目に《ガル・ラガンザーク》を立てられれば一気に楽になるからだ。
だが2ドローの後、少考ののちに捨てたのは《ガル・ラガンザーク》。こうなると3ターン目に「夢幻無月の門」で墓地から立てるには《堕呪 バレッドゥ》+《堕呪 ゾメンザン》が必要で、何らかの魔導具を捨てていた場合よりも要求値が上がってしまう。つまり《堕呪 バレッドゥ》は引けておらず、魔導具も抱えておきたいものばかりということなのだろう。
一方、後攻2ターン目のUMEBAは《冥界の不死帝 ブルース /「迷いはない。俺の成すことは決まった」》をチャージすると《氷牙レオポル・ディーネ公 / エマージェンシー・タイフーン》を唱え、「サガループ」であることをもはや隠そうともしない。
UMEBA「ちょっと考えます」 そして、ここで捨てたのがシークレットテクとおぼしき《スベンガリィ・クロウラー》で、採用理由が気になるところだがこのマッチアップでは機能しないカードだし、何よりこの局面では「クリーチャーである」ということだけが最も重要だ。
すなわち《氷牙レオポル・ディーネ公 / エマージェンシー・タイフーン》でクリーチャーが墓地に送り込まれたこの時点で、UMEBAの手札内容次第によっては3ターンキルの可能性が生まれてしまっているのである。
《氷牙レオポル・ディーネ公 / エマージェンシー・タイフーン》を挟んだ後攻3ターン目までの10枚で《絶望神サガ》を2枚引ける確率は、おそらく約20%。たかが5回に1回……されど5回に1回は確かにゲームがその時点で決着してしまうのである。その1回を、自分だけが引かないと誰が言いきれるだろうか。 かくして喉元に刃を突きつけられた格好のどんよくは、しかし先攻3ターン目に平然と《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》をチャージすると、《堕呪 ゴンパドゥ》を唱えたのみでターンを終える。
この判断力と胆力が、どんよくをDMPランキング1位たらしめた。切っ先を首の皮1枚でかわし、踏み込む。そうやって勝ってきた。これまでの対戦相手はそれで十分だった。
だが。
返すUMEBAは淀みない手つきで《一なる部隊 イワシン》をマナチャージすると、3マナに手をかける。このデッキで3マナのアクションは1つしか考えられない。《絶望神サガ》。それはいい。
しかし、なおもUMEBAは悩む様子なく1枚を選んで墓地に送る。そのカードは。
まさか。ありえない。
UMEBA「《絶望神サガ》捨てます」 一転、絶望。
「マジかー……」と小さく漏らしながらのけぞるどんよく。20%が、よりにもよってここで来るとは。
そんなどんよくを尻目に、無限コンボが始動する。《水上第九院 シャコガイル》と《一なる部隊 イワシン》、《蒼狼の大王 イザナギテラス》も次々と墓地に落とされていき、あとは《超神星DOOM・ドラゲリオン》もしくは闇のアンタップマナ生成要員がすべて楯落ちしていることを祈るくらいしかできない。
だが、残り6枚で《蒼狼の大王 イザナギテラス》を蘇生したUMEBAは、待望の《終断γ ドルブロ / ボーンおどり・チャージャー》にたどり着く。山札下を固定しながら唱え、待機していた《一なる部隊 イワシン》のストック2回も解決し、残り山札1枚の状態にして準備完了。 そして、満を持して手札から《超神星DOOM・ドラゲリオン》を召喚。攻撃時、進化元にしていた《一なる部隊 イワシン》を落としながら《水上第九院 シャコガイル》を蘇生。シャッフル効果前に《一なる部隊 イワシン》効果を解決。
UMEBA「エクストラウィンです」
どんよく「ありがとうございました」
Winner: UMEBA
言葉もなく沈んだ様子のどんよく。だがUMEBAの後攻2ターン目《氷牙レオポル・ディーネ公 / エマージェンシー・タイフーン》の返し、実は《凶鬼98号 ガシャゴン / 堕呪 ブラッドゥ》を手札に持っていたように見えた。 もちろんそれでも《堕呪 ゴンパドゥ》を選んだのは、UMEBAが《絶望神サガ》を2枚抱えている確率と、《凶鬼98号 ガシャゴン / 堕呪 ブラッドゥ》を唱えてしまった場合に第2波をしのげる確率を天秤にかけての選択だっただろう。
加えて、《氷牙レオポル・ディーネ公 / エマージェンシー・タイフーン》で《絶望神サガ》が捨てられていなかったこともあったに違いない。「もし《氷牙レオポル・ディーネ公 / エマージェンシー・タイフーン》を唱えた時点で《絶望神サガ》を2枚持っていたのであれば、《絶望神サガ》は捨てるはず」というのは合理的な推論のように思えるからだ。
であれば、UMEBAはただ返しのドローで《絶望神サガ》の2枚目をトップデッキした「幸運な対戦相手」だったのだろうか?
だがもし、「《凶鬼98号 ガシャゴン / 堕呪 ブラッドゥ》の可能性を念頭に入れたUMEBAが、2枚目の《絶望神サガ》を山札に混ぜ込まれないためにも、また《凶鬼98号 ガシャゴン / 堕呪 ブラッドゥ》をあえて打たせないためにも、《絶望神サガ》2枚をキープしていた」としたら?
真相はわからない。結果は変わらない。
ただそれでも、無言のフィーチャーテーブルにはどんよくの声にならない慟哭がいくつも響いているようだった。
勝利という結果をもぎ取ったのはUMEBAだったとしても……手放したのはあるいは自分だったのかもしれないという、やり場のない感情が。
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