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最強位決定戦 準々決勝 :西高/じゃんぜ界隈 vs. けっしー

ライター:伊藤 敦(まつがん)
撮影者:後長 京介


 「最強」とは何か。

 「強さ」とは、思うに他者の思考をレベル別にトレースした上で、そのときのフィールドの必要に応じてそれらを上回れることだ。

 1対1の対人ゲームでは、プレイヤーの戦略は時間軸tの進展によって次々と更新されていく。ある段階では強力な戦略も、時間が経てばそうではない。

 では、特定の時間t1において勝てる戦略を選択するためにはどうすればいいのだろうか?

 それにはまず、対戦するプレイヤーたちのレベルを定義する必要がある。一般プレイヤーを相手にするだけなら、t1において1段階だけ競技的な戦略、すなわち1段階目のメタ戦略を用意すればいい。だが競技プレイヤーを相手にする場合は、相手も1段階目のメタ戦略を用意してくるので、それだと五分である。

 では2段階目のメタ戦略を用意したらどうなるか?1段階目のメタには勝てるだろう、だがフィールドには同じことを考えているやつがいるかもしれない。では3段階目は?……と無限にメタ戦略が登場していく。そしてどこかの段階で0段階目の戦略に立ち戻り、メタの連鎖は終わることがない。

 ゆえに競技プレイヤーだけの、しかも少人数のフィールドでは、時折想像もしないようなデッキが生まれてくる。

 今回「サガループ」が巻き起こしたのは、そうした連鎖の究極形だ。

 予選ラウンド6回戦が終了し、大会開始時には31名いたプレイヤーもついに8名にまで絞られた。

 開催前に最強と話題になっていた「サガループ」は、確かにトップメタではあったものの、アドバンスでは全体の6名、オリジナルでは全体の7名という、どちらのフォーマットでも19~23%というほぼ同様の使用率にとどまった。

 それはなぜか?

 全国クラスのプレイヤーたちが、メタゲームを先の先まで読んでいたからだ。

西高/じゃんぜ界隈「まさか当たるとはね。Bee本舗でよく見る光景」

 西高/じゃんぜ界隈けっしーも、DMPランキング上位枠で参加権を獲得した強豪。関西のCSでは何度も対戦したであろう、上位入賞の常連同士だ。

 だが彼らが環境に対して導き出した解答は、アプローチがまるで異なっていた。それでも同様に勝ち上がり、奇しくもこのトップ8で激突することとなった。

 西高/じゃんぜ界隈は自信のあるデッキタイプに《絶望神サガ》殺しの秘策を搭載した。

 けっしーは《絶望神サガ》をメタりつつも、自身だけはサガ殺しを乗り越える《絶望神サガ》を目指した。

 互いに、裏の裏。メタゲームの第3段階や第4段階に到達したデッキ同士の対決。  2本先取の準々決勝。対戦相手の思考を上回るのは西高/じゃんぜ界隈か、それともけっしーか。

Game 1

 予選ラウンド上位の西高/じゃんぜ界隈が先攻となるが、マナチャージが2連続で《》となってしまい、《天災 デドダム》受けがなく《フェアリー・ミラクル》も2マナ加速はどうやっても運次第になるという芳しくない立ち上がり。

 対するけっしーは《テック団の波壊Go!》《霞み妖精ジャスミン》チャージからの《悪魔妖精ベラドンナ》でマナ加速と上々の回り具合。

 3ターン目を迎えた西高/じゃんぜ界隈は《闘争類拳嘩目 ステゴロ・カイザー / お清めシャラップ》チャージからの《フェアリー・ミラクル》で火闇多色落ちに期待するが、マナに落ちたのは《ロスト・Re:ソウル》で1マナ加速のみ。

 一方返すけっしーは《超神星DOOM・ドラゲリオン》チャージから《天災 デドダム》《絶望神サガ》を墓地に落とすと、さらに《若き大長老 アプル》も展開して、ループと盤面の両面でプレッシャーをかける。  ここで西高/じゃんぜ界隈も《灰燼と天門の儀式》チャージからの《闘争類拳嘩目 ステゴロ・カイザー / お清めシャラップ》でけっしーの墓地をシャッフルし、ループの脅威をひとまず排除する。

 けっしーはこれを受けてノーチャージ《霞み妖精ジャスミン》でマナ加速。《生命と大地と轟破の決断》がマナに落ちてターンエンド。

西高/じゃんぜ界隈「ハンドいま何枚ですか?」

けっしー「3枚です」

 けっしーの手札内容を想像した西高/じゃんぜ界隈は少考し、この先のゲーム展開を読みにいく。そして意を決して、チャージなしで《天災 デドダム》を召喚する決断をする。  すると3枚の中には《DG-パルテノン ~龍の創り出される地~》が!即座に設置し、サガループの脅威から逃れた安堵からか、ひとまずふぅーっと息を吐く。

 だが安心したのも束の間、ここでゲームは突然のクライマックスを迎える。  すなわち、けっしーが召喚したのは《CRYMAX ジャオウガ》

 西高/じゃんぜ界隈がデッキ側のシールド2枚を落とすと《希望のジョー星》《天災 デドダム》で一安心だが、脇に添えられた《天災 デドダム》《若き大長老 アプル》の2打点は、トリガー1枚では受けられない。

 すぐさま走ってきたT・ブレイクに対し、西高/じゃんぜ界隈はブレイクされた3枚のシールドを重ね、1枚1枚少しずつズラして引き絞るようにトリガーの有無を確認する。

 頼む、あってくれ……!

西高/じゃんぜ界隈「……はい、通ります」

けっしー「ダイレクトで」

 その3枚の中には、《DG-パルテノン ~龍の創り出される地~》の姿があった。

西高/じゃんぜ界隈 0-1 けっしー

 サガループを対策するために西高/じゃんぜ界隈が選択したのは、5Cコントロールへの《DG-パルテノン ~龍の創り出される地~》の採用だった。

 純正の水闇サガループでは置かれればほぼ即詰みの1枚。サガループを選択するプレイヤーは3キル率が圧倒的な純正に結局は落ち着くだろうという読みが的中し、西高/じゃんぜ界隈をトップ8まで導いた。

 だがそれは、トリガー率や《フェアリー・ミラクル》の達成率とのトレードオフの決断だ。

 けっしーの水闇自然サガループはそうした「サガ殺し」の先を見据え、ループを封じられても《CRYMAX ジャオウガ》による強襲がある2段構えのデッキとなっている。1ゲーム目の展開は、まさしくけっしーのデッキ構築の狙い通りと言っていいだろう。

 しかし、多少トリガー率や安定性が下がったところで元が5Cコントロールである以上、受けの堅さが折り紙付きであることに変わりはない。

 相性的には決して悪くはないはず。気持ちを切り替えた様子の西高/じゃんぜ界隈は、再び先攻の初期手札5枚を手に取ってゲームを開始する。

Game 2

 2ゲーム目の初動は、西高/じゃんぜ界隈のプラン通りの展開となった。

 すなわち、《ドンドン火噴くナウ》《ロスト・Re:ソウル》チャージから設置したのは《DG-パルテノン ~龍の創り出される地~》早くも2ターン目にけっしーのメインプランを挫くことに成功したばかりでなく、3ターン目には《闘争類拳嘩目 ステゴロ・カイザー / お清めシャラップ》でマナ加速という理想的なムーブだ。

 それでも対するけっしーも《霞み妖精ジャスミン》でマナ加速から3ターン目に《キユリのASMラジオ》しかもめくれたのが《悪魔妖精ベラドンナ》《霞み妖精ジャスミン》《ダンディ・ナスオ》《黙示賢者ソルハバキ》という大盤振る舞いで、どの2枚を選択するかが悩ましい。

けっしー「……考えます」  少考ののち、《悪魔妖精ベラドンナ》《霞み妖精ジャスミン》で手札破壊+マナ加速を選択。西高/じゃんぜ界隈の3枚の手札から《フェアリー・ミラクル》を奪い去る。

 ここでマナに《DG-パルテノン ~龍の創り出される地~》が落ちている弊害か、火マナと水マナが同時に出せない西高/じゃんぜ界隈は5マナ目として《ドンドン火噴くナウ》をチャージするのみでターンエンド。

 一方、後攻スタートな上に《DG-パルテノン ~龍の創り出される地~》を貼られてしまってはいるものの、リソースをとりながらのマナ加速で展開としては先行している格好のけっしーは《B.F.F. モーメント》をチャージすると、マナから《生命と大地と轟破の決断》を唱え、マナ加速と出す効果で《天災 デドダム》をマナから出し、さらに《若き大長老 アプル》を戦線に加えてターンエンドする。

 この時点でけっしーのマナは6枚、さらに手札も十分あるため、そのままターンを返すと1ゲーム目と同様の展開になりかねない西高/じゃんぜ界隈は、チャージなしで5マナから《ドンドン火噴くナウ》を唱え、《若き大長老 アプル》を破壊してターンを返す。

 はたしてけっしーのアクションは……7マナ、《CRYMAX ジャオウガ》 西高/じゃんぜ界隈「ファンキーやのう……」

 西高/じゃんぜ界隈がそう漏らすのも無理はない。何せ《CRYMAX ジャオウガ》の脇にいるのは1ゲーム目と違って《天災 デドダム》のみ。つまりG・ストライクでも何でも、3枚のシールドの中に1枚でも受けがあれば止まってしまう

 だが、逆に言えば1枚も受けがなければけっしーの勝ちなのだ。2ターン目の《DG-パルテノン ~龍の創り出される地~》から始まり、《龍風混成 ザーディクリカ》のレンジに入りそうな展開になったことで、追い詰められたけっしーはこれ以上ゲームを引き伸ばしても勝つ可能性は1%も上がらないと判断した……だが。

 《灰燼と天門の儀式》3枚、《ドンドン火噴くナウ》4枚、《ロスト・Re:ソウル》4枚、《》4枚、《大地門ライフ・ゲート》1枚。

 西高/じゃんぜ界隈のデッキには、総数16枚の受けが入っている。

 無謀、とデュエル・マスターズを少し触ったことがある者ならばそう言うだろう。

 それでも、これは最高峰の戦いなのだ。西高/じゃんぜ界隈とて、分が良いだけで負ける可能性も決して低くはないと肌で知っている。

 だから3枚のシールドを、やはり引き絞るように1枚ずつ確認する。 西高/じゃんぜ界隈「いやガチでそろそろ頼む……」

 そして。

 唐突に。

 思わず頭を抱えて立ち上がる西高/じゃんぜ界隈!

西高/じゃんぜ界隈「……!!!」

 まさかのノートリに、言葉にならない悲鳴が漏れる。それでも大声をあげなかったのは最後の矜持か。

 やがてけっしーがダイレクトアタックを宣言したい旨を仕草で伝えようとすると、落ち着いて座り直した西高/じゃんぜ界隈が、息も絶え絶えに宣言したのだった。

西高/じゃんぜ界隈「大丈夫です……負けで……」

西高/じゃんぜ界隈 0-2 けっしー

 どんなに人事を尽くして天命を待っても、見ていないシールドの中身だけはコントロールできない。それがデュエル・マスターズだ。

 けれども、準々決勝で当たったのがけっしーでさえなかったら。《DG-パルテノン ~龍の創り出される地~》を越えられない純正のサガループと当たってさえいたなら。西高/じゃんぜ界隈の構築は、あるいは王者にさえ輝いていたかもしれない。

 シールドの他にも、初手やマナ落ちのどうしようもない不運もあった。

 しかし、今回はけっしーの戦略がわずかに上回った。それが覆しようのない結果だ。

 かくして、見事なデッキ構築で対戦相手を上回ったけっしーが準決勝へと駒を進めると同時に、2022年4月から2023年2月まで1ヶ月に平均20回以上のイベントに参加し続けた西高/じゃんぜ界隈の、デュエマに捧げた熱い1年がようやく終わったのだった。

Winner: けっしー

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