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超CSⅣ宮城 準決勝:ひんた vs. ジャフェット

ライター:清水 勇貴
撮影者:堀川 優一

 ひんたは現DMPランキングにて総合1位を戴く、押しも押されもせぬ強豪だ。

 特に直近のCSでの上位入賞数は目覚ましく、現在のオリジナル環境に日本一精通した男と言ってもいいかもしれない。

 そんな彼が超CSⅣ宮城の大舞台に持ち込んだのは【水闇自然ハンデス】。ここに至るまでにも様々な大会で幾度となく使い、心から信頼する40枚を携え、今ここにいる。

 対するジャフェットは地元宮城のプレイヤー。

 競技的な大会に慣れているわけではないようで、対戦開始前にはジャッジや対面に座るひんたからデッキシャッフルの仕方を教わる和気藹々とした場面も見られた。

 キャリアや境遇はまるで違う2人だが、こと戦いの場に至ってはどちらも単なるひとりのプレイヤーであることに変わりはない。

 シールドを5枚並べ、手札を5枚伏せ、浮き立つ心を押さえ込んだら。

 準決勝戦の開始を告げるコールが響いた。

Game1

先攻:ひんた

 ゲーム開始直後。公開されたひんたの1マナ目を見て、早くもジャフェットは苦い顔を見せる。
 《魂晶 リゲル-2》。融通の効くカード回収能力とパワー4000マッハファイターの合わせ技で高い汎用性を持つクリーチャーだが、現在のオリジナル環境においてこのクリーチャーを使うのは、ほぼ【水闇自然ハンデス】で間違いない。

 対するジャフェットの1マナ目は《鬼面妖蟲ワーム・ゴワルスキー》。【墓地退化】系デッキ、特に光・水・闇の3色で構成されたものでは《死神術士デスマーチ》に次ぐ軽量墓地進化獣としてよく採用されるクリーチャーだ。

 ジャフェットが渋面を見せたのも無理はない。豊富なトリガーでビートダウンに対して強く出られる【光水闇墓地退化】だが、【水闇自然ハンデス】は環境内でも希少な「天敵」である。
 ひんたは先んじて《悪魔妖精ベラドンナ》を召喚。そのまま破壊し、早くもジャフェットの手札を狙いにかかる。

 《∞龍 ゲンムエンペラー》が落ちたのを見届けて、ジャフェットのターン。通例であればコスト2の手札入れ替えをプレイするタイミングだが、ジャフェットがマナに埋めたのは《オリオティス・ジャッジ》。水マナが用意できない。

 プレイするカードがないと見るや、ひんたは追い討ちをかけるように《特攻人形ジェニー》
召喚、爆破。手札を次々と削っていく。

 対するジャフェットもようやく水マナ源を引きこみ、《エマージェンシー・タイフーン》をプレイ。コンボのキーパーツとなる《竜魔神王バルカディア・NEX》を墓地に落とす。

 次のターンには4マナ、「全部ある」ならコンボに入れてしまうマナ帯だ。

 なんとしてでも退化コンボは阻止したいひんた。《悪魔妖精ベラドンナ》でハンデスを仕掛けて手札を2枚まで削るが、残り2マナでプレイできるハンデスも、メタクリーチャーもない。こわばった顔を見せるひんただが……。

 果たして、ジャフェットの手札にコンボは揃っていなかった。手札枚数をキープするかのように、手札をマナを置かないままに《アストラルの海幻》をバトルゾーンへ。

 選択肢は狭まりに狭まっているジャフェットだが、相手の場に《若き大長老 アプル》はなく、手札の枚数もまだ枯れきっていない。愚直に勝利を目指し、手札を整えていく。退化パーツが手札に駆けつけ、あとは墓地進化クリーチャーを引き込むだけだ。

 そして、ジャフェットにとっては幸運にも、ひんたの攻め手が折よく緩む。

 《生命と大地と轟破の決断》をマナから唱え、選択するのは1マナ加速と踏み倒し。《魂晶 リゲル-2》を出して《特攻人形ジェニー》を回収するが、このターンにはハンデスが撃てない。

 ジャフェットにとって絶好のチャンス、山札の1番上のカードは……!
 《白騎士の精霊HEAVEN・キッド》

 コンボパーツではあるが、今この時に求めていた墓地進化クリーチャーではない。仕方なくマナを伸ばして、ジャフェットはターンを渡す。

 返すひんたの6ターン目、ここから怒涛のハンデスラッシュが始まった。《有象夢造》《悪魔妖精ベラドンナ》を2体蘇生し、2回ハンデス。

 続くターンも《悪魔妖精ベラドンナ》でハンデス、さらに次のターンには《天災 デドダム》でアンタップマナを埋めて4マナを確保し、流れるように《有象夢造》を唱え、《悪魔妖精ベラドンナ》《若き大長老 アプル》を蘇生してハンデス。

 この3ターンの間、ジャフェットはカードを引いては捨てることしかできていない。

 墓地進化を封殺する《若き大長老 アプル》を立ててひと心地着いたひんたは、この隙を見計らってリソース拡充へと踏み込んだ。

 彼の次のターンには《天災 デドダム》を召喚し、さらにマナから《Disジルコン》をプレイ。ひんたの手札の「質」がみるみるうちに高まっていく。

 直前のターンにハンデスを受けなかったため、ジャフェットの手札は3枚と少し余裕のある枚数に戻る。……が《若き大長老 アプル》がどうしようもなく重い。

 せっかくのトップ《死神術士デスマーチ》も、出せないようでは意味がない。展開を作れず、《竜魔神王バルカディア・NEX》を埋めてターンを返すばかりのジャフェット。

 ターン開始時のドローを見つめるひんた。わずかに瞑目し、一呼吸を置き、ここを鉄火場と決め込んだ。

 《若き大長老 アプル》を追加で2体、もひとつおまけに《飛ベル津バサ「曲通風」》を1体。盤石の体勢を築き上げ、ひんたは一気にジャフェットのシールドを削り始める。

ひんた《若き大長老 アプル》が複数体並んだ状況を作ると、相手が返しに勝つためには、打点要員を止めたうえで《若き大長老 アプル》を全て退かすだけのS・トリガーが必要になります。相手の手札やマナ、これまでに見えた除去カードの枚数から、シールドの中身がどれだけ強くとも必要枚数には届かず、余程のことがなければ戦況を返されない、安全な状況だと判断しました。

 さらに言えば、下手にゲームを伸ばそうとすると、あとあと思いもよらない要因で戦況が危うくなって、無理やり攻め込まなければいけなくなるかもしれません。そんなギリギリで《終末の時計 ザ・クロック》を踏んで負け筋を作るぐらいなら、安全を確保できたタイミングで早く踏みに行きたかったんです」

 「鉄壁」で知られる【ドロマー退化】なればこそ、攻め込むタイミングが鍵になる。マッチを戦い終えたのち、ひんたは1ゲーム目の最終盤をこう述懐した。

 《若き大長老 アプル》で1点、《天災 デドダム》《SSS級天災 デッドダムド》に侵略して2点、さらにもう1体の《天災 デドダム》が侵略して2点。シールドを全て削り取ったうえで、ひんたには攻撃できるクリーチャーがまだ複数体残っている。
 
 ジャフェットは最後のW・ブレイクで手札に加わるシールドを見てしばし考え込むが、その先に勝ちの目はないと見たか、すぐにカードを畳み始めた。

ひんた 1-0 ジャフェット


 先述したとおり、【光水闇墓地退化】というデッキにとって【水闇自然ハンデス】は天敵にも等しい存在だ。

 【光水闇墓地退化】がバトルゾーンに何もない状態からコンボに入るには、特定のカードを2枚手札に揃えなければならない。ハンデスによってコンボパーツが落とされると大きくタイムロスし、そもそも手札が1枚以下になってしまえば、コンボパーツをまともに揃えることすらおぼつかない。

 新たに仲間に加わった《若き大長老 アプル》も問題だ。墓地進化にフタをされてしまえばコンボはまともに機能しない。突破するにはメタクリーチャーを排除しなければならないが、最も有用な除去である《白騎士の精霊HEAVEN・キッド》はコンボパーツでもあるため、使えば使うほど退化コンボが遠のいていく。

 ハンデス+墓地利用対策という【墓地退化】ギミック攻略の基礎を、【水闇自然ハンデス】はコンセプトのレベルで組み込んでいるのだ。

 準決勝にして大きな壁にぶち当たったジャフェット。激しい包囲網をくぐり抜けられるか。


Game2


先攻:ジャフェット
ひんた《若き大長老 アプル》を召喚します」

 後攻ひんたの2ターン目。起こりうる限りもっとも早いタイミングで、ジャフェットにとって最悪の事態が起きてしまう。

 他のデッキとのマッチアップであれば嬉しい先攻だが、【水闇自然ハンデス】を相手取るに限っては、どう考えるべきか難しいところだ。先攻は手札が1枚少ないため、ハンデスを1枚撃たれるだけでもコンボから大きく遠ざかりかねないのだ。

 ターンを請けたジャフェットの取れる選択肢は、《白騎士の精霊HEAVEN・キッド》《エマージェンシー・タイフーン》か。

 《白騎士の精霊HEAVEN・キッド》を召喚すれば、《若き大長老 アプル》は除去できる。しかしこのアクションは手札が3枚まで減ってしまう選択肢だ。ハンデスを2回も受ければコンボの達成は絶望的だろう。

 さらに悪いことに、ジャフェットはまだ退化先となるフィニッシャーを引き込めていなかった。
 ジャフェットは苦慮の末に《エマージェンシー・タイフーン》を唱え、カードを2枚ドロー。フィニッシャーはまだ来ない。《アストラルの海幻》を捨ててターンを渡す。

 ひんたは落ち着き払って2マナをタップし、《悪魔妖精ベラドンナ》を召喚。即座に破壊して選ぶのは、もちろんハンデスだ。

 目の前に提示された4枚から1枚を選び出し、ジャフェットがそれを表向きにする。

 《白騎士の精霊HEAVEN・キッド》《若き大長老 アプル》を除去するカードを的確に抜き去る、値千金のランダムハンデスだ。

 ターンはジャフェットに渡り、ドロー。1ゲーム目では間に合わなかった《死神術士デスマーチ》だが、今度は到着が早すぎる。

 《若き大長老 アプル》を除去する手段を失い、そもそも退化コンボの出し先もまだ用意できていない。せっかくのコンボパーツだが、マナに埋めざるを得ないジャフェットだ。

 追い討ちをかけるように、ひんたは戦場に2体目の《若き大長老 アプル》を追加。ジャフェットも思わず天を仰ぎ見る。

 ジャフェットはどうにかトップデックした《白騎士の精霊HEAVEN・キッド》《若き大長老 アプル》のうち1体を除去するが、戦況は完全にひんたのペースだ。

 続くターンには手札から《絶望と反魂と滅殺の決断》を唱え、呪文の効果でセルフハンデスさせ、《悪魔妖精ベラドンナ》でランダムハンデス。

 さらにジャフェットがカードを引いてエンドしたところに、墓地から《絶望と反魂と滅殺の決断》をアンコール。ついにジャフェットの手札がすべてなくなってしまう。

 それからしばらくは膠着したままターンが進み、満を持して《有象夢造》を唱えたひんたが《アクア・ベララー》を戦場に着地させると、いよいよゲームは最終局面を迎えた。
 
 相手のリソースを完全に奪い尽くしたひんたにとって、警戒に値するのは《若き大長老 アプル》を除去するカードのみで、それさえ引かれなければ憂いはない。そして、《アクア・ベララー》が登場したということは、もはや憂いはなくなったに等しいのだ。

 同時に登場した《悪魔妖精ベラドンナ》を破壊し、ひんたはジャフェットがドローゴーした手札を落とす。さらに《アクア・ベララー》による「検閲」が解決され、ジャフェットにとっては絶望にも等しい「通ってよし」のお達しが下った。

 ジャフェットは引いたカードを一瞥する。コンボが決めればこの上なく頼もしい《竜魔神王バルカディア・NEX》も、今は無用の長物。

 フィニッシュを見据えはじめたひんたは《天災 デドダム》を召喚し、さらに続けて《魂晶 リゲル-2》を召喚。《CRYMAX ジャオウガ》をマナから回収する。

 そうしている間にも《アクア・ベララー》の能力は2度誘発し、ジャフェットのデッキトップは固定される。ひんたに都合よく改変されたトップデックは、ひたひたと迫る鬼の刻限への回答になりえない。

 なおも冷徹に戦況を整えるひんた。《有象夢造》を唱えて、2体目の《若き大長老 アプル》《悪魔妖精ベラドンナ》を戦場に復活させ、《悪魔妖精ベラドンナ》でマナ加速。

 《アクア・ベララー》でまたしてもジャフェットのデッキトップを固定すると、いよいよジャフェットに出来ることはなくなってしまった。

 何度めかもわからない、ジャフェットのドローゴーから続くひんたのターン。7マナのタップとともに召喚された《CRYMAX ジャオウガ》の慟哭が、いよいよもってゲームのクライマックスを告げる。
 ジャフェットが詳細を知らず、テキストを確認したこのクリーチャーは、登場時にお互いのシールドが3枚になるように墓地に置かせる能力を持つ。

 手早く3枚のシールドを墓地に置いたひんたに促され、自身のシールドを上から2枚墓地に置いたジャフェット。《終末の時計 ザ・クロック》が墓地に落ちたのを見届け、ひんたは力強く頷いた。

 攻撃できるクリーチャーは十分に確保できているのだから、《CRYMAX ジャオウガ》でT・ブレイクするようなリスクは犯さない。

 ひんたは冷静に2体の《若き大長老 アプル》で打点を刻み、《CRYMAX ジャオウガ》がシールドブレイクによって増えた2枚の手札までもを墓地に送りながら、最後のシールドを叩き割る。

 詰めの局面まで一切過たず、終始ゲームをコントロールし続けたひんたが決勝戦へと駒を進めた。

ひんた 2-0 ジャフェット

Winner:ひんた


ジャフェット「お別れ回です!」

 「【水闇光墓地退化】を選んだ理由はなんですか?」という筆者の質問に、ジャフェットは声高に答えてくれた。

ジャフェット《竜魔神王バルカディア・NEX》が再録された時(「デュエキングMAX」)にパーツを集めて、それからずっと使ってましたね。その時は水闇2色の、昔ながらの構築でした。アナカラー(水/闇/自然の3色)が流行ったときは、あんまり自然要素が手に合わなかったんですけど……ドロマー(光/水/闇の3色)はすごく手に馴染んだので、今回の殿堂入りは少し寂しいです」

 対戦中の緊張した面持ちとは打って変わって、楽しそうに相棒との歩みを語ってくれたジャフェット。

 対するひんたは、穏やかながらも怜悧に、デッキ選択の理由を述べた。

ひんた「今個人的にオリジナルで流行っていると思うデッキ、特に【モモキングダム退化】と【アポロヌス】にかなり戦える……というよりも十分な勝率を出せるところが一番の魅力だと思ってます」

 「【水闇自然ハンデス】は【アポロヌス】に対してそれほど有利ではない、という認識が一般的かとは思いますが……」という筆者の浅薄な質問についても、ひんたは澱みなく答える。

ひんた「そんなことはないですよ。《飛ベル津バサ「曲通風」》でサーチを妨害すればかなり時間は稼げますし、そのうえでハンデスでパーツを落とせばグッと勝ちが近付きます。

 もし《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》のメテオバーンに成功されても、単騎でのアタックには《有象夢造》を踏ませて《堕魔 ドゥポイズ》《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》の能力を使わせることなく返せます。とても有利、とまではいかないにしても、十分に勝てる相手だと思ってますよ」

 明快な答えに返す言葉もない筆者。向かいに座っていたジャフェットすらもなるほど、と頷いている。

 本環境において……とは大言壮語にしても、少なくとも本大会においては「ソリューション」だったといえる【水闇自然ハンデス】。ひんたは決勝で、その強さを証明できるか。

 答え合わせの時は、もう間も無く。

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