DMGP2023-1st Day2(オリジナル) 決勝戦:デデ vs. いっぺこ
ライター:伊藤 敦(まつがん)
撮影者:後長 京介
グランプリは頂点に近づくにつれ、孤独な戦いが待ち受けている。
予選ラウンドの5回戦、6回戦くらいまでは「どう、勝った?」「負けたー」という風に友人同士で勝敗を報告し合うことがあるかもしれない。
だが7、8、9回戦にもなると既に強制ドロップとなっているプレイヤーも多く、そうなるとサイドイベントに参加したり有名プレイヤーにサインをもらいに行ったりとバラバラの個人行動が増える。
それがさらに決勝ラウンドまで来ると、勝ち残ったプレイヤーは基本的に対戦エリアを離れられなくなるため、エリアの外から見守ることで一方的な応援をするしかできない。128名の決勝ラウンド進出プレイヤーたちは、いつ手が離れるともしれない過酷な崖のぼりに独り立ち向かうしかない。
ただ唯一、相棒となるデッキだけが、その孤独な戦いに寄り添ってくれる。
鳥取からの遠征勢であるデデが相棒に選んだのは、「水魔導具」。半年前に開催された前回のDMGP2022 Day2の優勝デッキではあるものの、1ヶ月前に《ガル・ラガンザーク》が殿堂入りしたことで、オリジナル・フォーマットにおける使用率は激減すると思われていたデッキタイプだ。
そしてその対戦相手。奇しくも同じ中国地方、広島からの遠征勢であるいっぺこの相棒は「火単我我我」。とはいえ3キル特化の最速型ではなく、《パイセン・チュリス》《烈火大聖 ソンクン》を採用したビートジョッキー型であることが躍進の秘訣となったであろうことは想像に難くない。
19時半を回り、プレイヤーたちもほぼ掃けてそれまで聞こえていた喧騒が嘘のように静まりかえったフィーチャーマッチエリアで、互いのデッキをシャッフルする音だけが響く。
デデもいっぺこも、ここまで計15回戦を戦い抜き、その1試合1試合ごとにそれぞれ唯一無二の物語を抱えてきた。
だが彼らが背負っているのは、彼ら自身の物語だけではない。
この大会に参加した約4000名が体験したすべての対戦と、それによって紡がれたすべての物語が、一つ所に交錯する地点。
それが。
DMGP2023-1st Day2、決勝戦。
これから紡がれるのは、この日最後の物語だ。
Game 1
じゃんけんで値千金の先攻を取ったのはいっぺこ。《我我我ガイアール・ブランド》チャージでターンを終えると、対するデデは《DG-パルテノン ~龍の創り出される地~》チャージでターンエンド。続いて2ターン目を迎えたいっぺこは、《烈火大聖 ソンクン》をマナチャージしてから、ビートジョッキー型において最高の初動となる《一番隊 チュチュリス》を送り出す。
デデ「手札3枚?」
いっぺこ「3です」
だが、返すデデも《堕呪 エアヴォ》チャージから《卍 新世壊 卍》を設置! これにより、S・トリガー持ちの魔導具呪文によるカウンターも現実味を帯びてくる。
といって、もちろん攻めに時間をかければデデの側から能動的に《卍 新世壊 卍》を起動しにもいけるため、勝負の焦点はいかに早く、そして必要十分な打点をいっぺこが作れるかに絞られた。
そんないっぺこの3ターン目のアクションは《こたつむり》チャージからの《パイセン・チュリス》で、《U・S・A・BRELLA》《烈火大聖 ソンクン》《ダチッコ・チュリス》から後者2枚を回収すると、さらにいっぺこは《一番隊 チュチュリス》に手をかけて考える。
悩んでいるのは、ここでデデのシールドを1枚割っておくかどうか。《堕呪 カージグリ》や《堕呪 エアヴォ》を踏めば致命傷となりかねないが、通せれば次のターンの打点形成が一気に楽になる。
少考ののち、意を決してブレイクする……そして、これが無事通る!
一方、シールド4枚で後攻3ターン目を迎えることとなったデデは、まず《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》チャージから《堕呪 バレッドゥ》を唱えると、《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》を捨てつつ《卍 新世壊 卍》の下に敷いて1ドロー。さらに引き込んだ《堕呪 ゾメンザン》を唱え、ほぼほぼ次のターンには《卍 新世壊 卍》が起動できる見通しを作る。
しかしそれも、ターンが返ってくればの話だ。
できることはすべてやり終えたデデは、あとは祈ることしかできないと言わんばかりに両手を合わせてターンを返す。
はたして、いっぺこの4ターン目。先ほど加えていた《烈火大聖 ソンクン》をもはや不要とばかりにチャージすると、《ダチッコ・チュリス》から《U・S・A・BRELLA》、さらに《ダチッコ・チュリス》……そしてその上に《我我我ガイアール・ブランド》をスター進化! 十分以上の打点に、思わず苦しそうに頭が傾くデデ。
そんな対戦相手の様子を意に介さず、いっぺこはまず《一番隊 チュチュリス》でブレイク……すると、ここで《堕呪 エアヴォ》がトリガー!
デデ「考えます……このターン出したのが《ダチッコ・チュリス》と《U・S・A・BRELLA》?」
いっぺこ「です」
だが、肝心の《我我我ガイアール・ブランド》はコストが8のために戻せない!やむなく《パイセン・チュリス》を戻し、唱えた《堕呪 エアヴォ》を《卍 新世壊 卍》の下に敷いて1ドローするのだが、残りシールド3枚に対して6打点も残ってしまっているという状況。
そして、ここでいっぺこはきっちり《堕呪 カージグリ》《堕呪 ギャプドゥ》をケアし、まずは《我我我ガイアール・ブランド》でW・ブレイク。
デデ「通ります」
こうなると《我我我ガイアール・ブランド》の効果で4体のクリーチャーがすべて攻撃可能となる。しかもその中には《U・S・A・BRELLA》も含まれており、もはや《堕呪 カージグリ》や《堕呪 エアヴォ》でどうにかなるような状況ではない。
唯一残された可能性があるとすれば、最後のシールドブレイクで3枚採用の《終末の時計 ザ・クロック》がトリガーすること。
最後のシールドを、いっぺこが《ダチッコ・チュリス》でブレイクする。
その、シールドの中身は。
デデ「……通ります」
いっぺこ「ダイレクトで。ありがとうございました」
デデ 0-1 いっぺこ
デッキ相性だけで言えば、「水魔導具」は「火単我我我」相手に勝率3割も出せれば良い方だろう。
《ガル・ラガンザーク》が殿堂になったことによって《DG-パルテノン ~龍の創り出される地~》に差し替わっているのだから、それも無理はない。
だがそれでも、デデは準々決勝でとりの駆る「火単我我我」を2-0で下している。
グランプリでの一戦一戦は、練習での100本組手での想定通りにはいかない。イレギュラーは起きるし、アドリブも求められる。
再現できない一回きりの対戦は、どんな確率も超越しうる。
だからプレイヤーにできるのは、今出せる全力を尽くすことだけだ。
Game 2
初手の5枚を見て少し苦しそうな表情から《堕呪 エアヴォ》をマナチャージしたデデに対し、いっぺこは《ダチッコ・チュリス》チャージでターンを返す。すると2ターン目、《堕呪 エアヴォ》をチャージしたデデはカードを横向きのままバトルゾーンに出そうとする仕草を見せる。
……だが、そのカードは《堕呪 ゴンパドゥ》。表情が優れない理由……《卍 新世壊 卍》が、引けていない。
対し、いっぺこは《こたつむり》チャージから《一番隊 チュチュリス》を召喚と順調そのもの。
返す先攻3ターン目。3枚の《堕呪 エアヴォ》をマナゾーンに並べたデデは《堕呪 ゴンパドゥ》を唱え、ここでようやく《卍 新世壊 卍》と巡り合う……だが、当然設置まではいけない。
そして、いっぺこはその隙を見逃すようなプレイヤーではなかった。
マナチャージしての3マナをフルに使い、《ダチッコ・チュリス》、《U・S・A・BRELLA》……そして《我我我ガイアール・ブランド》!
1ゲーム目と違ってジャスキルだが、《卍 新世壊 卍》がなくシールドブレイクにほとんどリスクがない状況ということを考えると、これでも十二分だ。
その勢いのままにいっぺこが《一番隊 チュチュリス》でブレイクする。通る。《我我我ガイアール・ブランド》でW・ブレイク。通る。《ダチッコ・チュリス》でブレイク。通る。《一番隊 チュチュリス》で最後のシールドをブレイク……通る!
かくして《U・S・A・BRELLA》のダイレクトアタックが、デデを介錯したのだった。
デデ 0-2 いっぺこ
Winner: いっぺこ
勝利の余韻も冷めやらぬうちに、いっぺこが放送席でのインタビューに呼ばれていく。
その間に、デデに話を聞くことができた。
--「デデさんはグランプリに出るのは何回目なんでしょうか?」
デデ「CSで3回優勝したことがあるくらいで、グランプリに出たのは昨日と今日が初めてです。昨日は鳥取勢のみんなでリストをシェアした『4c邪王門』を使って7-2オポ落ちでした」
--「それはすごいですね。今日もシェアしたデッキを?」
デデ「いや、オリジナルに通ったのは僕だけだったので……」
--「なるほど。『水魔導具』という選択ですが、どういった理由からだったんでしょうか?」
デデ「このデッキはメタられなかったら強いっていうのがあって、『殿堂後だからちょっとしかおらんやろ』って割り切った構築にしたりする人がいることを期待して選択しました。実際には殿堂発表で《ガル・ラガンザーク》が消えたとしても全然戦えるし全然強い山でもあるし、環境の通りも良かったので」
--「ちなみに今日一日で《卍 新世壊 卍》を何回くらい割られましたか?」
デデ「闇入りガイアッシュ覇道に1回当たって負けたんですけど、《ボイル・チャージャー》を2回打たれて。3枚目を貼るところまではいったんですけど、《ロスト・Re:ソウル》からの《とこしえの超人》で蓋されて無理でした。でもそれ以外は全然割られませんでしたね」
デデ「2ターン目に置いた回数も、実は予選は2回くらいしかなくて。本戦で火単と当たった時だけは2ターン目に置けて、必要な対面にだけ置けたのでツイてるなーという感じでした」
--「この結果を誰に一番伝えたいですか?」
デデ「『デュエマ部屋』という鳥取勢の調整グループのみんなに、ですね。10人くらい所属してるんですが、CSの前の夜とかに誰かが声かけると、リアルで友達の家に集まって書庫みたいな部屋で調整するんです」
デデ「今回、2日目は僕以外出る予定なかったんですけど、オリジナルの調整もみんなが手伝ってくれて。すごくありがたかったです」
そして、放送席から帰ってきたいっぺこにも話を聞いてみた。
--「今の気持ちを聞かせてください」
いっぺこ「本当に調整仲間に感謝の気持ちしかないです」
--「所属されている『柳葉会』というのは、最強位決定戦に出場されていたDAIDORAさんや、準決勝で当たられていた札剣さんも名前をあげられていましたが、どういったグループなのでしょうか?」
いっぺこ「Discordの調整グループで、少なくとも50人は所属してると思います。アドバンスとオリジナルの各デッキごとのスペシャリストがいて、『この人に聞けばこのデッキのことがわかる!』みたいな感じで。もちろんそれ以外の人もたくさんいて、みんなでワイワイやってる鯖です」
いっぺこ「全国各地の人がいるので、リモート対戦したり各地方のメタの情報交換ができたりして、同じく全国から人が集まってくるグランプリのメタ模様を知るのにとても役立っています」
いっぺこ「今回はしんつ、さんのリストを3人でシェアして、彼も128にあがっていましたし、すごく良いデッキだったと思います」
--「今回選択されたビートジョッキー型の『火単我我我』にはどういった強みがあったんでしょうか?」
いっぺこ「グランプリだと特に環境外や自分が知らないデッキが多いというのが大前提としてあって、そういったデッキに対してもトリガーがなければ勝てるというのが明確な強みとしてまずあります。また、トップメタである『サガループ』や『水闇自然ジウォッチ』に対しても、それぞれメタカードがありますし速度的にも有利がとれると考えました」
いっぺこ「加えて、受けデッキが環境を見てどういうカードを採用するかと考えた時に、《九番目の旧王》が主流だろうなと考えました。そこで《烈火大聖 ソンクン》なら、除去されてもシールドブレイクに変換することができてワンチャンス作れますしね」
--「最後に、この勝利を誰に一番伝えたいですか?」
いっぺこ「ZweiLanceさんのコミュニティで知り合った人たちで作った『ぺこちゃんず』というグループのみんなで、一週間のうち5日間も同じデッキを延々とやりこむとかの経験が今回すごく生かせたんで、とても感謝しています。ありがとうございました!」
グランプリは頂点に近づくにつれ、孤独な戦いが待ち受けている。
だがそれでも、積み重ねてきた練習や友人との日々は、心を照らす灯として山道を行く身体を温めてくれる。
互いにリスペクトし合い、互いの勝利をともに喜び合える。デュエル・マスターズで出会ったそんな貴重な関係こそが、ただ一戦の勝ちよりも価値のあるものであるということを、2人は教えてくれた。
放送席でのインタビューを、いっぺこは感極まりながらもこう締めくくっていた。
いっぺこ「友達と一緒に調整すれば結果は絶対についてくると思うので、皆さん頑張りましょう」
その言葉はこのDMGP2023-1stという物語の結末に、何よりも相応しいと私は思うのだ。
DMGP2023-1st Day2、優勝はいっぺこ!おめでとう!!
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