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全国大会2024 東海エリア予選決勝戦:かにかまぼこ vs. taka

ライター:伊藤 敦(まつがん)
撮影:後長 京介

 完全に挑む不完全な姿こそが美しいものだ。

 レオナルド・ダ・ヴィンチの幻の作品を再現した、愛知国際会議場の中庭に面して立つスフォルツァ騎馬像。それを前にすると、自ずと気が引き締まる思いがする。美を追求した500年前の偉人に対し、我々は文化を前に進められているのだろうか、と。  エリア代表決定戦の東海大会といえば、2017年度、2018年度、2019年度と、そんな愛知国際会議場で行われるのが定番だった。三大都市圏の一つである名古屋を中心とした東海エリアは、毎年おおよそ3ブロックに分かれるほどの人数が参加し、優勝した3名が通過していたものだった。

 だがコロナ禍による休止期間を経て久しぶりの開催となった今年のエリア予選は、開催地こそ同じ愛知国際会議場ではあるものの、制度変更もあり参加者は70名で、日本一決定戦の権利を得られるのはそのうちのたった1名。往時の賑わいを知る者からすると、少し寂しい光景となった。

 それでも、過去のエリア予選に負けずとも劣らないほどの激闘に次ぐ激闘があった。アーチー/はっちcsせいなよこくら/岩田組クサヤナギといった日本一決定戦出場経験者たちがこぞって予選落ちする番狂わせが起きる中、勝ち残った16名の中に2ブロック環境のトップメタとされていた「水自然ジャイアント」はわずか1名という事態。前々週の北海道エリア予選や前週の東北エリア予選の結果を受け、メタゲームは複雑に進展していた。

 決勝ラウンドに入ってからはさらに過酷だった。1回戦、BitMEXnobuoの「火自然ゼニス」は、《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》をタップするための《ボルシャック・ハイパー・アークゼオス》という極致にたどり着きながらもゼニス同型に敗れ会場を去った。

 牧瀬《「狡智」の頂天 レディオ・ローゼス》入り「ターボマジック」は、会場に向かうタクシーの中で私がソリューションとして朧気に思い描いたそのままを偶然にも現実に形にしてみせてくれていたものだったが、それでも《聖霊超王 H・アルカディアス》を乗り越えることはできなかった。

 2回戦ではあるがの「火水闇プレジール」が苦杯をなめた。トップ16の中でも最も先鋭的なリストだったが、時代の先を行き過ぎたのかもしれない。

 準決勝、Canopusの「水単ローゼス」が志半ばで散った。「ターボマジック」に注目が集まる中、《芸魔王将 カクメイジン》を絡ませずとも中速でループが可能という差別化が果たされた素晴らしいデッキ選択だった。

 70名それぞれが、自分だけの完全を目指してあがいた大会だった。そしてその果てに、かにかまぼこtakaの2名だけが勝ち残った。

taka「予選で勝ってるんで勝たなきゃ……」

かにかまぼこ「リベンジマッチだー」

taka「悔いのないようにお互い楽しみましょう」

かにかまぼこ「はい」

 そんな2人は、予選最終5回戦で一度激突していた。その際の勝者はtaka。おかげで、かにかまぼこは16位ギリギリでの予選通過となり、決勝トーナメントでの全後手が確定してしまった。

 だがそれでも、かにかまぼこはすべての不利を乗り越え、いま再びtakaの前に座っている。

taka……勝ちてぇー。でもこういうときに限って負けるんだよなー、予選と同じようにいかなくて……」

かにかまぼこ「さっき(準決勝)も、予選で負けた人に勝ってるんで」

 takaのデッキは、前週の東北エリア予選☨カナタ☨がトップ4に入った「光水自然ゼニス」。今大会でも「ターボマジック」と並んで決勝トーナメントに最多進出を果たしたアーキタイプとなったところを見ると、権利には結びつかなかったとはいえ東北勢の研究が2ブロックのメタゲームを一気に進めたことは間違いない。

 一方のかにかまぼこは「火水マジック」東北エリア予選での王者だが、今大会では「水自然ジャイアント」の没落がさらなる呼び水となり、メタゲームの出発点が終着点となって再び絶好の立ち位置を取り戻した格好だ。

 グランプリや超CSなどと違って、エリア予選の決勝戦はマッチ制などはなく、純粋な1本勝負。たった1回きりの、後戻りのできない対戦。すなわち。

 勝った方が、日本一決定戦に出られる。

 運命の分水嶺が、自分の力でレバーを引ける分岐点が、まさに目の前にある。

 だから。  決勝戦。完全へと向かう2つの意志が、頂点で激突した。

Game

 先攻は予選順位でtaka。《ニアピン・モスキート》をチャージしたのに対し、かにかまぼこは《AQvibrato》をチャージする。

taka「今度はちゃんと持ってますね」

かにかまぼこ「ちゃんと引いてます」

 おそらく予選ラウンドでの対決では2コストを欠損したのだろう……そんなやりとりを挟みつつtakaは《der'Zen Mondo / ♪必殺で つわものどもが 夢の跡》チャージから《戦攻のシダン アカダシ / 「いいダシがとれそうだ」》を呪文側で唱え、《プリンセス・パーティ ~シラハの絆~》を捨てつつ《ニアピン・モスキート》を裏向きマナにする順調な立ち上がり。

 そして対するかにかまぼこも《アシスター・Mogi林檎》チャージから予告通りの《AQvibrato》で、互いにフルスロットル。

 だがなおもtakaは《清浄のカルマ インカ / オキヨメ・水晶チャージャー》チャージから《シャングリラ・クリスタル》を唱える。水晶マナでのカウントは、次にマナチャージして12マナにまで達する。《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》はギリギリまだ出ないとはいえ、かにかまぼこにとっては後攻なのがこれ以上なく響きそうな展開。

 それでも、やれることをやるしかない。返すかにかまぼこは《調律師ピーカプ / ♪音速で 本番中に チューニング》チャージから《氷柱と炎弧の決断》を唱える。

かにかまぼこ「1枚捨てて2枚ドロー2回で」

  《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》を切って2枚ドロー。さらにそののちに、 《AQvibrato》を切って2枚ドロー……そしてその引き込んだ2枚が、手札に足りていなかった《芸魔隠狐 カラクリバーシ》《瞬閃と疾駆と双撃の決断》僥倖とばかりに《AQvibrato》での攻撃時《芸魔隠狐 カラクリバーシ》「「革命チェンジ」から効果で《瞬閃と疾駆と双撃の決断》を使用する。 taka「……うーむ」

 唐突な殿堂カードの登場に少し不満げなtakaを尻目に、バトルゾーンには《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》《アシスター・Mogi林檎》が着地する。《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》がタップすることだけは、何がなんでも避けなければならない。そのために《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》を先んじて定着させることには大きな意味がある。

 そして、《芸魔隠狐 カラクリバーシ》がシールドをブレイクしにいく。

taka「考えます……もらいます」

 デッキ側から2枚目のブレイクを指定する。だがそれによって、結果として運の天秤はtakaの側に傾いた。  S・トリガー、《「この私のために華を咲かすのだ!」》今度はかにかまぼこが厳しそうに首を傾げる。何もなければ12マナ換算だったのが、一気に15マナ換算にまで伸びる。

 そしてターンが返ってきたtakaは《「この私のために華を咲かすのだ!」》をチャージすると、本来このターン着地するはずのなかった《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》を送り出す。とはいえ、《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》がいるのでマッハファイターは機能しない。まだ慌てるような時間じゃない……そう思われた。だが。

taka3枚全部裏で」

かにかまぼこ「……マジかー」

 登場時能力で伸ばした水晶マナ3枚を使い、さらに《「狡智」の頂天 レディオ・ローゼス》が着地する!  4ターン目にゼニス2面展開。これにより《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》《芸魔隠狐 カラクリバーシ》が手札へと戻り、かにかまぼこは《アシスター・Mogi林檎》のみにまで後退した盤面から戦線を作り直さなければいけなくなってしまう。しかもその上で、《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》がタップしないよう立ち回らなければならないのだ。

 ドローしてチャージ前、手札の7枚は《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》2枚、《AQvibrato》《芸魔隠狐 カラクリバーシ》《Napo獅子-Vi無粋 / ♪オレの歌 聞けよ聞かなきゃ 殴り合い》《氷柱と炎弧の決断》《ゴルパガーニ-A7 / ダウンフォース・サーキュラー》という内容。ここからは、一手のミスも許されない。

かにかまぼこ「ちょっと考えます……手札1枚ですか?」

taka「はい」

 《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》の攻撃を止めることは絶対要求。だがクリーチャーを出せば《「狡智」の頂天 レディオ・ローゼス》でドローされる。それでもしもアンタップインの光マナでも引かれようものなら《聖霊超王 H・アルカディアス》が着地し、「ハイパー化」で《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》がタップされて一気にゲーム終了という可能性もある。

かにかまぼこ「っふー……」  極限状況。両手で顔面を覆って思考をリセットしたかにかまぼこは、ついに意を決する。

かにかまぼこ「……よっし」

 《AQvibrato》チャージから、軽減含めて4コストを支払い素出し《芸魔隠狐 カラクリバーシ》……そして、そのドローが《芸魔王将 カクメイジン》

 まずは《芸魔隠狐 カラクリバーシ》効果で《氷柱と炎弧の決断》を唱え、《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》の攻撃を止めつつ《Napo獅子-Vi無粋 / ♪オレの歌 聞けよ聞かなきゃ 殴り合い》を捨てて2ドロー。takaに《「狡智」の頂天 レディオ・ローゼス》の1ドローが入るが、これは仕方がない。

かにかまぼこ「アタック入ります」  続けて《芸魔隠狐 カラクリバーシ》攻撃時、《芸魔王将 カクメイジン》へと「革命チェンジ」。「通りますか」と聞くと、takaがその前にと1ドローを入れてから答える。

taka「ちょっと考えます。手札何枚ですか」

かにかまぼこ「6枚です」

taka「……通します」

かにかまぼこ「まず対象指定します。ここ2枚で」

 デッキ側2枚のブレイクが指定され、続けて《芸魔王将 カクメイジン》の呪文使用に入る。

かにかまぼこ「呪文使っていきます」

 1枚目は《瞬閃と疾駆と双撃の決断》《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》を出しつつ、攻撃中の《芸魔王将 カクメイジン》にアンタップ効果を付与。

 さらに2枚目。《ゴルパガーニ-A7 / ダウンフォース・サーキュラー》  《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》を離れなくしたことで、万が一ターンが返っても2体目の《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》による詰みは発生しなくなる最大限のケア。

 そして、《芸魔王将 カクメイジン》のW・ブレイクが解決する。そこには……《シャングリラ・クリスタル》。takaは、どうにかこのターン中の決着だけは防ぐ。

taka「「G・ストライクで《芸魔王将 カクメイジン》を指定します……あっ!

 だが、そこで気づいた。《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》が着地した際の《「狡智」の頂天 レディオ・ローゼス》の1ドローを忘れていたことに。

taka「ミスったー……」

 もしそれが光単色のカードだったなら、悔やんでも悔やみきれない。

かにかまぼこ「ターン返します」

 takaのターン、マナチャージははたして……《聖霊超王 H・アルカディアス》。アンタップでの光マナが作られなかったことで、かにかまぼこは「ふぅ」と一安心。一方、takaは生き残れる道を模索する。

 ……その果てに、《戦攻のシダン アカダシ / 「いいダシがとれそうだ」》で2ドロー。結果トップは光単色ではなかったため、結果は変わらなかった……とは誰が言えるだろうか?……やがて、ほぼ意味のない《シャングリラ・クリスタル》を唱えたtakaは、力なくターン終了を宣言する。 かにかまぼこ「ターンもらいます」

 対し、目前に勝利が迫ったかにかまぼこは、それでも万が一にも間違いが発生しないよう慎重にプランを検討する。

 そしてノーチャージから《芸魔隠狐 カラクリバーシ》を召喚すると、効果で《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》の呪文側で「13」を宣言して《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》を止めつつ戦闘に入り、《芸魔王将 カクメイジン》へと「革命チェンジ」する。

かにかまぼこ「このままプレイヤー2点いきたいです」

taka「……はい通ります」

 1枚目の呪文、《氷柱と炎弧の決断》《同期の妖精 / ド浮きの動悸》《歌舞音愛 ヒメカット / ♪蛙の子 遭えるの何処?好きと謂ひて》を展開。さらに2枚目、《調律師ピーカプ / ♪音速で 本番中に チューニング》《歌舞音愛 ヒメカット / ♪蛙の子 遭えるの何処?好きと謂ひて》にスピードアタッカーと攻撃後アンタップを付与。今にもブレイクされようとしている残りたった2枚のシールドに対する要求は、ほぼ《プリンセス・パーティ ~シラハの絆~》2枚縛りだ。

 そして。

かにかまぼこ「W・ブレイクお願いしたいです」

taka「……通りました」

 2枚のシールドを確認したtakaが、悩む素振りもなくそれを手札に重ねる。やがてダイレクトアタックが、かにかまぼこの勝利を決定づけたのだった。


Winner: かにかまぼこ


taka「光マナ引けてれば……」

かにかまぼこ《聖霊超王 H・アルカディアス》で終わってましたよね」

taka「ずっと持ってたんですよ」

かにかまぼこ「こっちも光単色引かれないよう祈ってました。でも攻撃のたびに『考えます』って言ってくれたおかげで、まさか《光牙忍ハヤブサマル》あんのかなーってドキドキでした」

 終わってみれば結果は変わらなかったとはいえ、《「狡智」の頂天 レディオ・ローゼス》のドロー1回分の不完全さがtakaにはあった。決勝という最後の最後で集中を切らしてしまったことが、山札の2枚目を、あるいはシールドの中身を変えたのかもしれない。

 それに対してかにかまぼこは、5回戦で一度敗れたことでむしろ、「光水自然ゼニス」とのゲームの要点をつかむことができたという。その意味で決勝に立ったかにかまぼこは、予選という経験によって不完全だった自分を完全に近づけることができていたのだ。

 現在という瞬間を切り取れば、人は誰しも変化の途中にある。今はまだ不完全だとしても完全を目指すその過程の、一瞬一瞬にこそ美しさは宿る。

 だからこそ、日本一決定戦という完全な舞台に立つべく優勝を勝ち取った意志は、こんなにも美しく輝くのだ。  東海エリア予選、優勝はかにかまぼこ!おめでとう!!
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