DMGP2023-1st Day1(アドバンス) 決勝戦:すずの音 vs. TJM
ライター:河野 真成(神結)
撮影者:瀬尾 亜沙子
などという都合のいい話はなっていない。
この日は終日の雨で、大会のフィナーレを迎えるにあたってもそれは変わらなかった。
総勢3825名が集まったDMGP2023-1stのday1も、いよいよ終わりを迎える。
その決勝まで駆け上がってきたのは、共に関東エリアで活動するすずの音とTJMだ。
両者ともにCSへよく通うプレイヤーということもあり、実際に何回も対戦したことあるとのことだった。
使用デッキはすずの音が【光水火ライオネル】で、TJMは【水闇サガ】。
サガが数々のライバルやメタデッキとの戦いを制して勝ち残ったのは想像に難くないが、ライオネルはかなり意外な印象を受ける。
実際、使用者のすずの音自身が「本番はオリジナルで、アドバンスは(どちらかといえば)練習のつもりで参加した」といった旨の発言をしていたくらいだ。
ところがメタゲームの隙間というものは面白いもので、皆が《絶望神サガ》やドラグハート対策に注力する中「手札からクリーチャーを踏み倒す」このデッキは、《とこしえの超人》といった流行のメタカードに引っ掛かりにくい。 ライオネルは、メタカードがひしめく環境で伸び伸び試合をすることが出来ていたのだ。
対して、大抵のデッキからメタカードが飛んできただろう【水闇サガ】にとっては、伸び伸びと出来た試合はほぼなかっただろう。
《とこしえの超人》のようなカードがない【水火自然モルトSAGA】でさえ、《メンデルスゾーン》次第では自分より早く倒してくるのだ。
言うならば、この日の天気に近しい。
スコールとは言えないが、じとじと雨が降り続けている。
しかしそんな天候の中でも、何とか傘を差しながら、何とか屋根の下を歩きながら、時に3ターンサガを決めて、ここまでやってきたわけだ。
そんな両者の対面だが、話を聞く限り五分のマッチアップだろう。
このライオネルは爆発力・決定力にリストを割くため、メタカードは《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》のみと現環境にしてはやや薄い。同じ光水火でも、《「正義星帝」 <鬼羅.Star>》を主軸としたデッキとは明確に違ってくる。
しかしこのテスタでターンをもらえれば、《「正義星帝」 <鬼羅.Star>》及び《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》からの展開で、一気に勝勢に持ち込める、というのも強みである。TJMが「あまり当たりたくない対面」と言っていたのも、頷ける。
もちろん、《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》を立てられることなく《絶望神サガ》が2枚揃えば、サガ側に勝利が転がり込む。
つまるところわずかな隙間を、雨の当たらない瞬間を、どちらが捉えてものにするのか。
この決勝戦は、そういう戦いなのだ。
※撮影時のみマスクを外しています。
Game1
先攻:TJM初手のマナチャージはTJMが《ブラッディ・タイフーン》なのに対し、すずの音は《エヴォ・ルピア》。互いにデッキに必要なマナの色を置いていく。
2ターン目、まずは≪エマージェンシー・タイフーン≫から、《一なる部隊 イワシン》をディスカードするTJM。
ただ手札を回しているだけだが、その圧は凄まじい。絶望はすぐ目の前までやってきているのだ。
しかしすずの音に《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》はなく、《超次元の王家》をチャージしてのターンエンドとなる。
3ターン目。
「3サガ」で次々と対戦相手を葬ってきていたTJMだったが、この試合はそうもいかなかった。ここは一旦ルーターを撃って、サガを引き込みにいく。
間隙を捉えきれなかったが、それでもまだ「王手」の状態だ。
対してすずの音は、その王手を受けつつも《T・T・T》を唱えて3ドローを決めた。返しのサガループは仕方ない、しかしターンが返ってきたら仕留める。
4ターン目からの爆発に託すプランで、ターンを渡した。
頼む、とすずの音。
そしてすずの音に絶望は……訪れなかった。
返しのTJMがプレイしたのは、《蒼狼の大王 イザナギテラス》。墓地に《絶望神サガ》はいない。とりあえずこのターンの敗北はないと、ホッとした様子のすずの音。
ターンは返ってきた。
すずの音は《エヴォ・ルピア》から《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》と繰り出し、《カーネンの心絵》を展開する。しかしそこから追加の進化は捲れなかった。
それでも《T・T・T》のドローが効いて、まず《「正義星帝」 <鬼羅.Star>》への進化が決まると、1ドローから《超次元の王家》へと繋がっていく。
一気に勝負を決めにいこう……というよりも、行くしかないという構えだ。
《「正義星帝」 <鬼羅.Star>》の攻撃時に手札から《奇天烈 シャッフ》を繰り出し、宣言は熟慮の末に……4。
≪「迷いはない。俺の成すことは決まった」≫のトリガーは止むを得ない。盤面の《蒼狼の大王 イザナギテラス》にブロックされては、そもそもが元も子もないからだ。
自分の勝ちのために、割り切ったのだ。
そしてTJMは、ここで値千金のトリガーを引き当てて――
……などという話は存在しなかった。
このシールドにいたのは……≪「迷いはない。俺の成すことは決まった」≫でもなく、《終末の時計 ザ・クロック》でもなく、欲しくてたまらなかった《絶望神サガ》だった。しかも2枚。
そう、彼は気まぐれ。
試合が始まれば必ず絶望を与えるが、それがどちらのプレイヤーにかまでは……わからないのだ。
すずの音 1-0 TJM
すずの音のデッキの使用理由は「使い慣れている」というものであった。
筆者の記憶が正しければ、このタイプのデッキが環境に現れたのは、最強位決定戦よりも後のことである。3面で使用し優勝した、というチーム戦CSがあった。
だとしたら、短期間で凄まじい使い込みをしていることになる。
実際、南関東圏のCSにいけば、すずの音の名前を見掛けるケースが多い。一時は就活関連でCSから離れていたものの、結局戻ってきた。なんなら、100位圏内に滑り込んでいる。
実戦に勝る練習なしと、クローズな場所よりもむしろCS会場などで練度を積んだ。
二人が「既に何度も対戦した」という背景は、こういった経緯なのだ。
準決勝のあの激戦を経て、なお平静。どの勝ち筋を通すか、経験から冷静に導き出す。
決して派手さはない。
煌々と照らし続ける真夏の太陽ではないだろうし、あらゆるものを吹き飛ばすような大嵐でもないだろう。
梅雨に降り続ける雨のような、淡々と、しとしとと。
しかし着々と、少しずつ積み重なっていく。
《絶望神サガ》が3ターンで倒す。
《爆炎龍覇 モルトSAGA》が4ターンで倒す。
そんな環境で勝ち進んできたのには、理由があるわけだ。
Game2
先攻:TJM再び先攻となったTJM。まずは《》の呪文側からスタート。
対してすずの音は、今度は《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》の召喚に成功する。一旦は3ターン目サガの脅威を逃れた。
しかしサガとしても、この展開はある程度想定済みだ。
TJMは《コダマダンス・チャージャー》を唱えと、後ろにマナを伸ばす。
サガの3→5ルートは特に強く、5マナあれば、サガがメタクリーチャーを1枚超えてからのループが出来る。
すずの音からしても、もちろんそれは承知。
しかしここでは《T・T・T》でドローを重ね、次のターンが返ってくるプランに託す。
4ターン目、TJMはまず《「敬虔なる警官」》を繰り出し《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》を飛ばすと、《絶望神サガ》を召喚。
この時点で、TJMの手札に追加の《絶望神サガ》はいなかった。
だがここで運命が急転、デッキトップからサガが駆け付けてきて―― ……などという話は存在しなかった。
2枚目のサガは現れず、《蒼狼の大王 イザナギテラス》もなかったTJMは、少考の後に《黙示賢者ソルハバキ》を蘇生してターンを終えた。
すずの音に、4ターン目が訪れた。
まず《エヴォ・ルピア》を召喚すると、《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》を乗せ、次々と進化を連鎖していく。
《エヴォ・ルピア》から繋がるときの、このデッキは強い。《「正義星帝」 <鬼羅.Star>》が次々と並んでいき、最後の締めに《奇天烈 シャッフ》を添える。
今度の宣言は、もちろん3。
≪「迷いはない。俺の成すことは決まった」≫が止まった。
襲いかかる大群を前に、TJMの残る回答は《終末の時計 ザ・クロック》のみ。
だがこの唯一の回答が、命を繋いで―― ……などという話には、やはりならなかった。
《「正義星帝」 <鬼羅.Star>》が、《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》が、《絶望神サガ》に正義の裁きを下したのだった。 すずの音 2-0 TJM WINNER:すずの音
都合のいいことは、そうそう起こらない。
ある日突然デュエマの真理が気付くわけでもないし、どんなに調子のいい日だからといって、全て3ターンサガで決められるわけでもない。
極地的なスコールなど、そうそう起こるわけではない。
だったら大会に出続けて、練習して、地道に実力を付けていくしかないのだ。
雨が少しずつダムを溜めていくように、土砂が少しずつ堆積していくように、一足飛びで強くはなれないのだ。
すずの音は、それをやってみせた。
そして結果、見事に頂点を掴み取ったのだ。
もちろんTJMもまた、ギリギリまで勝ち筋を求めて追いすがった。その実力は、活躍は、決してフロックなどではない。彼もまた、積み重ねを経たプレイヤーなのだ。
DMGP2023、アドバンス。
降りしきる雨の中で頂点に輝いたのは、確かな積み重ねを経て強くなった1人のプレイヤーだった。
おめでとう、すずの音!
その雄姿を、きっと全国大会でも見せてくれることだろう。
※撮影時のみマスクを外しています。
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