全国大会2019 Round 7:おんそく(千葉県) vs. イヌ科(大阪府)
ライター:伊藤 敦(まつがん)
撮影者:後長 京介
対戦テーブルに行ってみると既に何やら喚いている。確かにここまで4勝2敗同士、勝った方がトップ8進出に望みをつなぐという重要なバブルマッチで、しかも「GP王者対決」というのは実際とてもフィーチャーしがいのあるマッチアップに違いはないのだが……同じラウンドでZweiLance対マ・ヒーローという、こちらもバブルマッチであり大変に見応えのありそうな対戦カードがあっては仕方がない。
そういうわけで、カバレージライター経験者であるイヌ科にはむしろ相応しいだろうテキストカバレージで、この対戦の模様をお送りすることになったわけである。
……繰り返すが、日本一決定戦のトップ8をかけたバブルマッチである。なのにこんなに空気が緩いのはどういうことか、と思われるかもしれない。
だが、それは私の描写の仕方が悪いのではない。間違いなく、実際に緩いのだ。
イヌ科「何せ僕たち、永遠のライバルです。古くは5~6年……いや7年前……」
おんそく「え?そんな前やったっけ?」
イヌ科「そんなもんでしょ。7年前のCSの帰りに……」
おんそく「いやいやそれは絶対違うよ。CSじゃなくて日本橋かどっかのラーメン屋さんの帰りだよ」
イヌ科「……7~8年くらい前の日本橋かどっかのラーメン屋さんの帰りに、うさんくさい友達から紹介されて『うさんくさいやつだな』と思ったのが付き合いの始まりでした!たぶん相手もそう思ってたと思います!!!(早口)」
おんそく「まあw 当時は知り合ったばかりの人に紹介された知り合ったばかりの人だったんで『へー』としか思ってなかったけど、そこからなんだかんだ仲良くなって……僕が関東に出てくる前、大阪にいた間は、調整したり仲良く遊んだりしたメンバーの一人です」
GP8thDay1王者のおんそくはGP9th王者のイヌ科と、それも双方がGPで勝つ遥か以前から、互いに親友とも呼べるほどに交友を深めていた。そんな二人がいま、日本一をかけた最高峰の舞台で、ギリギリのバブルマッチで、これから激突しようというのだ。
これはもう、シチュエーションがおいしすぎて逆に笑わない方がおかしい。そんな心境なのだろう。
確かに、これほど重要なマッチにおいてもいつも通りの緩さで気負いも余計な雑念もなく、ただ素直に実力を相手にぶつければいいというのは、もしかするとこの上なく幸せなことかもしれない。
二人は自分のデッキをそれぞれシャッフルし終え、これをどのような処理で無作為化するかを対戦相手に委ねる。
イヌ科「3束に分けて、右から1、2、3の順」
おんそく「はい。で、何枚(を上から下に送る)?」
イヌ科「0枚!」
おんそく「……これ、(おんそくが自身でシャッフルした)そのままじゃない?」
イヌ科「喜べ、信頼の証(?)やぞ」
おんそく「あ、そう……(苦笑) じゃあ、そっちは8枚切りしてください。僕はルーティーンで枚数だけは確認するって決めてるんで……」
普段はジャッジとしてCS主催などの活動もしているおんそくのやり方は、知り合いだからと徹底的にわちゃりにいくイヌ科とは対照的だ。イヌ科の暴走を、おんそくが優しく(もしくはある意味厳しく)受け流す。そんな当時の関係が想像できるようだ。
しかしそんな緩い空気も、対戦の開始が近づくにつれて徐々に霧散していく。
どれだけ気のおけない間柄でも、いやそんな間柄だからこそ、試合が始まれば遠慮も手加減もない。
勝つためには、友人を自らの手で蹴落とさなければならない。それが現実だ。
そして、だからこそ。
イヌ科「見ててください。これが世紀の名勝負です」
強敵を乗り越え、その先へ。予選最終戦が、始まった。
Game
先攻のおんそくが《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》チャージでエンド。オリジナルフォーマットなので、よもやドラグナーではない。当然火単でもJO退化でもない。だとしたら何なのか?デッキ内容を推測させないマナチャージでターンを終える。それに対して返すイヌ科は、1ターン目に《ブンブン・チュリス》をマナチャージでエンドという高度なプレイ。火単ブランドといえど、対戦相手のデッキタイプに応じて最適な打点展開の仕方は変わってくる。焦って1点を刻む必要はない、むしろ軽々に《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》のマッハファイター先を作るべきではない……という判断か。
ともあれ先攻2ターン目に移り、少し首を傾げたおんそくは《バサラ》チャージでターンを返す。《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》と《バサラ》……一見意味不明な組み合わせだが、導き出される結論は一つしかない。
4C邪王門。この大会の1~2週間ほど前から一部のCSでにわかに流行し研究が進んでいた最新のアーキタイプを、おんそくは45人の参加者中ただ1人だけ持ち込んでいたのだ。
一方のイヌ科は《ブンブン・チュリス》チャージからの《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》召喚がファーストアクションとなる。おんそくの能動的な動きを封じにいった格好だ。
だが、おんそくは構わず《奇天烈 シャッフ》チャージからの《天災 デドダム》でしっかりと準備を整える。
返す後手3ターン目のイヌ科は《こたつむり》チャージからの《こたつむり》召喚。そして、返しで5マナに到達するおんそくに対して手札を与えることのリスクと天秤に、《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》で1点を刻むか刻まないかを慎重に検討する。
はたして、導き出した結論は。
イヌ科「……1点」
おんそく「ここ(デッキ側)でいいですか?」
イヌ科「はい」
おんそく「……はい、通ります」
だが、その1点が明暗を分けたか。ここで4ターン目を迎えたおんそくの動きによって、ゲームは急展開を迎える。
すなわち、《単騎連射 マグナム》チャージから召喚したのは《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》。しかも見た5枚から《バサラ》を回収して《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》を手札に返すと、マッハファイターで《こたつむり》に対してアタックする際に、この舞台にこれ以上なくふさわしいカードを宣言する。
すなわち、「革命チェンジ」《蒼き団長 ドギラゴン剣》!
「ファイナル革命」によって手札に戻った《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》が出し直され、《百鬼の邪王門》までをも手札に加わる。
おんそく「《こたつむり》、まだパワー2000ですよね?」
なおもおんそくは《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》自身を手札に戻す余裕ぶり。
それとは対照的に、想像しうる限り最悪のパターンを踏んでしまったイヌ科は《こたつむり》を力なく墓地に送ることしかできない。
おんそく「手札、いま4枚ですよね?」
さらにおんそくは《天災 デドダム》でシールドをブレイクし、あえてイヌ科の手札を増やすことで《我我我ガイアール・ブランド》+《“轟轟轟”ブランド》による超打点ができるわずかな可能性をもしっかりとケアしにいく。
まさに盤石……そう思われた。
だが、これで終わるだけの男ならイヌ科もこの舞台に立ってはいない。
すなわち、《カンゴク入道》をチャージしたイヌ科のアクションは、《凶戦士ブレイズ・クロー》《我我我ガイアール・ブランド》《“罰怒“ブランド》!おんそくのシールド4枚に対し、しっかりと致死打点を形成する。
ここを逃がせば、二度とチャンスは訪れない。イヌ科は決死の覚悟で、まずは《“罰怒“ブランド》でW・ブレイクを敢行しにいく。
おんそく「……はい、通ります」
続いて《我我我ガイアール・ブランド》が残る楯2枚をW・ブレイクし……そのうち1枚を、おんそくが表向きにする。S・トリガーなら大体何であっても厳しい。すなわちゲームエンドか……と思いきや、公開されたのは《フェアリー・Re:ライフ》!
おんそく「《我我我ガイアール・ブランド》の下、なんですか?」
だがそれでも、イヌ科にとっては限りなく追い込まれた格好に変わりはない。《“罰怒“ブランド》が「G・ストライク」で止められ、《我我我ガイアール・ブランド》が攻撃後に自壊すると、下に敷いてあった《凶戦士ブレイズ・クロー》は急には止まれない。しかも公開情報で、おんそくの手札には《百鬼の邪王門》が1枚あることが確定しているのだ。
イヌ科「勝ち筋これしかねーよなー……奇跡よ起これ!」
思い起こされるのは、GP9thの決勝戦。あのときイヌ科は、「勝者の引きなら俺も勝者!」という謎の決め台詞とともに《知識と流転と時空の決断》2枚をS・トリガーでめくって見せた。確率を乗り越えた男。この男ならば、あるいは。そう思わせる何かが、イヌ科にはある。
だが。
おんそく「5%を2回やなw」
おんそくの手札から公開されたのは、《百鬼の邪王門》2枚!
さすがにこれで《凶戦士ブレイズ・クロー》を倒せないなんて奇跡は起こるはずもなく、無情にも《一王二命三眼槍》と《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》が着地。それどころか《一王二命三眼槍》の「鬼エンド」効果で《一王二命三眼槍》が登場、さらに「鬼エンド」効果で《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》、あれよあれよと盤面が横に広がり、あまつさえ効果で《一王二命三眼槍》が手札に戻る。
そして力なくターンを返したイヌ科に対し、おんそくは《生命と大地と轟破の決断》で《単騎連射 マグナム》《奇天烈 シャッフ》をマナから呼び出すと、《切札勝太&カツキング ー熱血の物語ー》の攻撃時に《時の法皇 ミラダンテⅫ》に「革命チェンジ」を宣言し……。
イヌ科「負けです!ありがとうございましたー!!」
食い気味の投了が、世紀の名勝負終了の合図となった。
Winner:おんそく
おんそく「ありがとうございました!」
バブルマッチでの勝利……それはすなわちトップ8進出に望みをつないだことを意味する。2敗同士のオポネント争い次第だが、勝算は十分ある。いつものにこやかな表情以上に晴れやかな笑顔のおんそくとは対照的に、イヌ科の表情は複雑だ。
イヌ科「……まあでもよく知らんやつを上にあげるよりは、相手がお前で良かったよ」
おんそく「まあ確かにお前じゃなかったら、もし負けてても笑えんかったかもしれんしな」
確かに、ベストは自分が勝つことだ。だが、この戦いに負けはなかった。なぜなら、友人が勝つこともまた喜ばしいことだからだ。
ともに勝利を喜び、分かち合うことができる。そんなかけがえのない友人に出会うことができるのも、デュエル・マスターズの醍醐味と言えるだろう。そのことを端的に表したこの戦いは、誰が何と言おうと確かに、まさしく世紀の名勝負だった。
イヌ科「……はいはい、トップ8進出おめでとうございます~(投げやり)」
……やっぱりこの男、絶対本心では「友人が勝って嬉しい」よりも「めっちゃ悔しい!!!チクショー!!!!!」が先に来てると思うのだが……まあそれは心の内ならぬ筆の内に、秘めておくことにしよう。
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