全国大会2023 Round 1:セキボン vs. ミノミー
ライター:伊藤 敦(まつがん)
堀川 優一(アノアデザイン)
マンガ「デュエル・マスターズ」内の話でもないのに大袈裟な、と思うかもしれない。だがこの日本一決定戦というイベントに限っては、参加者の多くが誇張なくそういうモチベーションで臨んでいることだろう。
とりわけ2023年度は、次年度からの復活が予告されているエリア予選が開催されなかったため、この場にいる48名はそのほとんどがDMPランキングの前期あるいは後期を走りきった猛者ばかりだ。
思いは、蓄積した時間が長ければ長いほど強くなる。大型イベントの勝者を除けば、半年あるいは4ヶ月分の生活をデュエル・マスターズに捧げた者たちのみに出場が許された大舞台。
ゆえに、ただ「勝ちたい」というだけでは言葉が安い……彼らが胸中に宿しているのは、それほどまでに強い思いなのだ。
そして、そんな大舞台の開幕となる1回戦目で、早くも今大会随一のドリームマッチが実現した。
かたや延期に延期を重ね、2022年の6月にようやく開催された全国大会2019の日本一決定戦で「JO退化」を駆り、見事優勝したディフェンディングチャンピオン、セキボン。
他方、DMPランキング前期において48410ポイントという前代未聞の数字を叩き出し、注目選手として事前インタビューにも応じてくれた、超CSⅢ王者にして魔導具マスター、ミノミー。
すなわち、王者と王者の激突。だが夢のように熱い対戦組み合わせの裏側には、約20分後にはこのどちらかが崖っぷちにまで追い込まれることになるという残酷な現実もまた、厳然として存在している。
なぜなら今日のストラクチャーはアドバンス3回戦、それからオリジナル3回戦を経て、トップ8が決勝トーナメントに進出となるというもの。決勝トーナメントはオリジナルだが、2敗上位がボーダーと考えると、オポネントを少しでも上げるためにアドバンスの重要度が高いのがこの日本一決定戦の特徴と言えるわけだが、1回戦負けはオポネントの観点からは最悪であり、以降の5回戦で1敗も許されなくなるからだ。
そんな現実から来る緊張感に包まれながらもフィーチャーマッチテーブルに座ったセキボンとミノミーは、アドバンス仕草として対戦前にまず互いの超次元を確認する。
セキボン「……わかんねー、天門か?」
ミノミーの超次元は「《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》用と考えても差し支えない」もの。ただそれが実際にそうなのかあるいはブラフかは、マナチャージを見るまでは結局わからない。超次元は可能性を排除する材料にはなっても、デッキを特定する材料までにはなりえない。
対してセキボンの側は、超次元以外にもデッキ内容を主張する存在があった。 《滅亡の起源 零無》だ。アドバンスでゲーム開始時に設置できる3種のカードのうち、現状のメタゲームでは《禁断 ~封印されしX~》≪終焉の禁断 ドルマゲドンX≫はいずれもトップTierのデッキで使用されているが、《滅亡の起源 零無》が使用されているデッキはない。
そこから導き出される結論は、メタゲーム外のデッキ……つまり地雷だ。
セキボン「こっちはわかんないでしょー」
ミノミー「……わからないな」
セキボンの超次元は、《頂上の精霊 ミラクルスZ》4枚、《轟く覚醒 レッドゾーン・バスター》3枚、《頂上龍素 サイクリタ》。これだけではデッキ内容を特定するには至らない。そもそも実質的に超次元を使わない可能性もある……だがそれにしても、《滅亡の起源 零無》を採用するアドバンスのデッキとは何だろうか?
ミノミー「候補はちょっとあるけど……まああるけど……いやーなんだろうなー?」
それでも、デッキは既に選択してしまっている。ミノミーにできることは、プレイ面で最善を尽くすことだけだ。
セキボン「いやー、さすがに緊張するわ」
やがて対戦準備が終わり、そのときが訪れる。 目指すは頂点のみ。2023年度の1年間、積み重ねた思いをかけて。
日本一決定戦の開幕を告げる第1回戦が、いま始まった。
Game
じゃんけんで先攻はセキボン。セキボン「……むずっ。もっと簡単なんだけどなー」
はたして、初手を見てそうこぼしたセキボンがマナチャージしたのは……《堕魔 ザンバリー》! ミノミー「わかるー……」
それを見ただけですべて察したか、デッキ選択への共感を示すミノミー。返すマナチャージは《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》で、環境トップメタの《ヘブンズ・ゲート》デッキであることが明らかとなる。。
セキボンは2ターン目も少考と呼ぶには長すぎるくらいの時間をかけて《堕呪 バレッドゥ》をチャージすると、《龍月 ドラグ・スザーク / 龍・獄・殺》を唱えて《堕魔 ドゥザイコ GR》をGR召喚しつつ、捨てた《堕魔 ドゥベル》を墓地から出して「復活の儀」で2枚墓地を肥やすビッグプレイを見せる。 対するミノミーは《巨大設計図》で《支配の精霊ペルフェクト / ギャラクシー・チャージャー》と《「根性」の頂 メチャデ塊ゾウ / 「大親分、ここにあり!」》の2枚を回収。セキボンのデッキが明らかにコンボ系だけに、どんなに頑張っても始動が4ターン目という《ヘブンズ・ゲート》デッキの性質が重くのしかかる。
それでもセキボンが3ターン目を《堕魔 ザンバリー》チャージのみで終了すると、返すミノミーは《支配の精霊ペルフェクト / ギャラクシー・チャージャー》で《星門の精霊アケルナル / スターゲイズ・ゲート》を回収し、4ターン目のビッグアクションを予告することでセキボンにアクションを強要する。
はたして4ターン目を迎えたセキボンのアクションは……まずは《龍月 ドラグ・スザーク / 龍・獄・殺》。《堕呪 カージグリ》を捨てながら《堕魔 ドゥザイコ GR》を召喚。
……からの《卍夜の降凰祭》! そう、セキボンのデッキは《卍夜の降凰祭》を軸にしたループデッキなのだ。配信なしのテキストフィーチャーに選ばれている◆ドラ焼きも全く同じデッキを使用しているため、おそらく調整チームのチームデッキなのだろう。
だが、ドルスザクと魔導具を探すついでにデッキ内を確認するセキボンの様子が少しおかしい。どうやら《堕魔 ドゥベル》が2枚も楯落ちしている様子。手札にも《堕魔 ドゥベル》が1枚あり、ループまでの道のりは少し遠そうだ。
それでも、ひとまず何でもない魔導具4枚を下敷きに《ガル・ラガンザーク》を着地させ、ミノミーのデッキの能動的なアクションを大部分封じることで、態勢が整うまでの時間を作りにいく。 対し、《星門の精霊アケルナル / スターゲイズ・ゲート》を封じられたミノミーは《支配の精霊ペルフェクト / ギャラクシー・チャージャー》からの《超七極 Gio / 巨大設計図》でマナと手札を拡充しにかかる。
一方、《ガル・ラガンザーク》着地のためにリソースを吐き出したセキボンも決め手に欠けていた。チャージなしからの《堕呪 ゴンパドゥ》を唱えたところで残り試合時間10分の告知がなされ、自ずとせき立てられる2人。 とはいえチャージしてもまだ7マナしかないミノミーにできることは少なく、《閃光の神官 ヴェルベット / フェアリー・パワー》からの《支配の精霊ペルフェクト / ギャラクシー・チャージャー》で手札枚数を維持しながらマナ加速するのみ。
するとここでセキボンはみたび《龍月 ドラグ・スザーク / 龍・獄・殺》から《堕魔 ドゥザイコ GR》をGR召喚。そして今度は捨てた《堕魔 ドゥベル》をあえて出さずに墓地の魔導具カウントとして2度目の《卍夜の降凰祭》!デッキから《龍月 ドラグ・スザーク / 龍・獄・殺》を出して4回のGR召喚は《ツタンメカーネン》と《堕魔 ドゥザイコ GR》3体。
ここからつながるのか。セキボンは山札の枚数を数えて何度も計算する。そうこうしているうちに残り試合時間5分の告知もなされる。「もう少しプレイを早めるように」というジャッジの注意も、もう何度目かわからない。 セキボン「……いやーしょうがない。終了」
ループに入れるルートがなかったか、無念そうにターンエンドを宣言するセキボン。
対するミノミーは残り山札の枚数と超次元を確認し、《巨大設計図》チャージで10マナに到達すると、《支配の精霊ペルフェクト / ギャラクシー・チャージャー》で2枚回収から《神聖龍 エモーショナル・ハードコア》を召喚!《ガル・ラガンザーク》を指定し、ついに踏み倒し制限の呪縛から解き放たれる。 ターンは返ってきたが、時間的にも、盤面状況的にもラストターン。
今度こそ慎重に山札の枚数を確認するセキボン。残り試合時間は2分。
セキボン「大丈夫」
セキボンは、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。 何度もルートを指差し確認したセキボンが《氷牙レオポル・ディーネ公 / エマージェンシー・タイフーン》チャージから宣言したのは《ジョルジュ・バタイユ》!《龍月 ドラグ・スザーク / 龍・獄・殺》と《ツタンメカーネン》含みのGR3体を破壊すると、山札12枚に対して墓地がちょうど11枚。11枚墓地肥やしで山札残り1枚となった状態で「破壊の儀」を解決し、墓地から《暗闇の裏闇市》を回収する。
セキボン「あ、ミスった……いや大丈夫か。大丈夫だ。びっくりした」 そして4マナフルタップで《暗闇の裏闇市》を手打ち。《ジョルジュ・バタイユ》と《ガル・ラガンザーク》を破壊対象にしつつ、《ジョルジュ・バタイユ》の破壊置換で墓地から6枚をデッキの下へ送り、そのまま下に送ったカード3枚を含む4枚をドロー。
……だが、ここでセキボンが驚愕の独り言を漏らす。
セキボン「……違う。これ足んねーじゃん。やば」
あってはならないことが、起こってしまった。
《卍夜の降凰祭》のループは、《龍月 ドラグ・スザーク / 龍・獄・殺》で出した《堕魔 ドゥザイコ GR》を《暗闇の裏闇市》で寝かせつつ《ジョルジュ・バタイユ》に破壊置換を当て、《卍夜の降凰祭》を引き込み直して《龍月 ドラグ・スザーク / 龍・獄・殺》の4回GR召喚を何度も使いまわすことによって成立するものだ。
けれどもセキボンのバトルゾーンに残っているのはこの時点で《ジョルジュ・バタイユ》と《堕魔 ドゥザイコ GR》が1体のみ。魔導具クリーチャーが2体残っておらず、もはや《卍夜の降凰祭》を唱えることができない。
セキボン「……間違えた」
セキボン「間違えた、終了です」
セキボン「うわーやった。最悪だ……」
ターンが返ってきたミノミーは、これ以上見ているのは忍びないとばかりに《ヘブンズ・ゲート》から《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》と《闘門の精霊ウェルキウス》を出す。
そして≪次元のスカイ・ジェット≫と《∞龍 ゲンムエンペラー》が並んだところで、セキボンがもう続ける必要はないとばかりに右手をデッキの上に置いて投了の意思を示したのだった。
Winner: ミノミー
セキボン「やべーめっちゃ間違った!最悪!なんでだ!脳みそバグった!!」
起こった現象だけ見れば、残り山札の枚数に制約があり、《ジョルジュ・バタイユ》召喚のために先に《ガル・ラガンザーク》を破壊できない状態だったことが、最終的に残る魔導具クリーチャーのカウントに齟齬を起こしてしまったのだろう。
あるいは、フィーチャーマッチの緊張もあったのかもしれない。だが、何よりセキボンを追い詰めたのはおそらく時間だ。
コンボデッキを使う以上、練度が求められるのは仕方がない。だが《暗闇の裏闇市》型の《卍夜の降凰祭》ループは、おそらくアドバンスのデッキの中でも超S級のプレイ難度だ。
セキボンがいつこのデッキを使うことを決めたのかはわからないが、一つ一つのプレイに制限時間のある実戦で、しかも全国大会のフィーチャーマッチという極限の緊張状態の中で、最適なプレイを迷わず選択できるほどには、プレイを詰められていなかったのかもしれない。
セキボン「申し訳ない……残り勝ちます」
ミノミー「たぶん負けてましたよね。《神聖龍 エモーショナル・ハードコア》で《ジョルジュ・バタイユ》って言っておかないと即死するっていう……」
セキボン「いや、負けてない。まず《氷牙レオポル・ディーネ公 / エマージェンシー・タイフーン》で《暗闇の裏闇市》を先に探しにいかないといけなかった。先に《ジョルジュ・バタイユ》出した時点で負け確だった……」
そういえばミノミーは事前インタビューで「最強位とかGPではフィーチャー卓で凄いことが起きたので、全国大会ではちゃんと勝ちたいですね」と述べていたが、それはある意味で言葉通りになった……思いもよらない形で。
科学的に実証されたわけではない。だが、その現象を経験したプレイヤーは口を揃えてこう言うのだ。
フィーチャーマッチテーブルには魔物が住む、と。
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