DMGP2023-1st Day1(アドバンス):メタゲームブレイクダウン
ライター:林 直幸(イヌ科)
多くのカードゲームにおいて、全てのデッキは以下3つに分類されることが多い。高速で殴り切る「ビートダウン」。
強力なコンボで相手を倒す「コンボ」。
試合を長引かせて確実に勝てる状況をじっくり作る「コントロール」。
(ビートダウンとコントロールの中間速度のデッキ「ミッドレンジ」も存在するがここでは敢えて取り上げないこととする)
さらにこの3つは、概して三角形のような相性表が組まれることになる。
ビートダウン⇒コンボ⇒コントロール⇒ビートダウン……
この三角関係はデュエル・マスターズも例外ではない。
ビートダウンはコンボが成立する前に殴り切るし、コントロールの堅牢な受けを突破する1番簡単な方法は強力なコンボだし、どっしりと構えたコントロールはビートダウンをまるで子供のようにあしらっていく。
DMGP2023-1st Day1、アドバンスの部は、まさしくこの三角関係が形成されるようなメタゲームが形成されることとなった。
ただし、デュエル・マスターズ最大の特徴。
それは、この三角関係を力技で破壊していくほどにそれぞれのデッキパワーが高いことだ。
TOP128の分布から、メタゲームを紐解いていこう。
使用者数 | デッキ名 |
---|---|
26 | サガ系統 |
19 | バイク系統 |
15 | モルトNEXT系統 |
13 | 5Cコントロール |
10 | ドルマゲドン系統 |
7 | アポロ系統 |
7 | 万軍投コントロール系統 |
6 | 水闇自然コントロール系統 |
5 | 水魔導具 |
5 | 光抜き邪王門 |
2 | ガイアッシュ覇道 |
2 | ライオネルStar |
2 | モモキングRX |
2 | ギャラクシールド |
1 | 光抜きコントロール |
1 | オービーメイカー |
1 | マーシャルデリート |
1 | ジョーカーズ |
1 | 火単速攻 |
1 | ヘブンズ・ゲート |
1 | 落城退化 |
そして、母数5以上のデッキをそれぞれ「ビートダウン」「コンボ」「コントロール」の3つに分類してみる。
ビートダウン
19 バイク系統
15 モルトNEXT系統
7 アポロ系統
合計41
コンボ
26 サガループ系統
5 水魔導具
合計31
コントロール
13 5Cコントロール
10 ドルマゲドン系統
7 万軍投コントロール系統
6 水闇自然コントロール系統
5 光抜き邪王門
合計41
なんと、ビートとコントロールの数が見事に同数となった。
かといってコンボが数を大きく落としているわけではない。コンボ筆頭の【サガループ】系列はデッキタイプ単一で見れば最多母数だ。
それだけ各陣営に所属しているデッキの力関係が拮抗している表れだろう。
そして、それぞれがいかにして三角関係を破壊していくのか。
デッキの中身に注目して、この環境を紐解いていこう。
ビートダウン
ビートダウン最大勢力の2つは、奇しくもともに8年前からの刺客だった。
sumire DMGP2023-1st 1日目 TOP32 闇火バイク |
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ビートダウンデッキの中でTOP128の段階で最も成果を挙げたのは【闇火バイク】となった。
バイクとはソニック・コマンドのモデルであるバイクからもじったデッキ名。
8年前の《轟く侵略 レッドゾーン》リリースからたびたび強化を受け続け、今回はアドバンスメタデッキの一角に食い込むほどの躍進を見せた。
特に2月に発売された、「ヒーローズ・ダークサイド・パック ~闇のキリフダたち~」による強化は著しいものとなった。
そこで獲得した《禁断の轟速 ブラックゾーン》、《ドキンダムの禁炎霊》によって、速さ、強さ、再現性全てのステータスが高水準にまとまった強力なビートダウンが誕生したのだ。
リリース時から変わらぬ相手の面を除去しながらの高速ビートダウンは依然として強力。
それに加えて、侵略元+《覇帝なき侵略 レッドゾーンF》+《禁断の轟速 ブラックゾーン》+《龍装者 バルチュリス》のトリガーをケアした3キルプランを獲得したこと。
そして、《禁断の轟速 ブラックゾーン》の墓地侵略、《ドキンダムの禁炎霊》を絡めた《禁断 ~封印されしX~》禁断解放の再現性が上がったことによって、一の矢をいなされてもすぐに二の矢を準備できる継戦能力の高さを獲得したのだ。
継戦能力の高さはすなわちビートダウンが苦手とする長いゲームへの耐性である。
これこそが【闇火バイク】がコントロールに立ち向かう強さの源ともいえるだろう。
しかし、1回の攻めに対して使うリソース量が多いという、バイク系統最大の弱点を完全に解決するには至っていない。
コントロール系統の防御を崩し切ることが不可能であったために、三角関係の中からはみ出すことができなかったデッキでもあると分析できる。
結局TOP16で完全に姿を消してしまった以上、今大会における勝ち組デッキからは一歩遠ざかっていたというのが現実であろう。
るるる DMGP2023-1st 1日目 TOP8 水火自然モルトNEXT |
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続いて、本大会で活躍したもう1つのビートダウンである【水火自然モルトNEXT】。
【闇火バイク】の速さを少し落として、その分攻めの力強さを獲得したような立ち位置に存在する。
《超戦龍覇 モルトNEXT》のリリースも8年前。かつての環境トップは、「レジェンドスーパーデッキ 龍覇爆炎」のリリースによって爆発的な強化を受けた。
このデッキ最大の特徴もかつて環境トップだったときから変わっていない。
まずはドラゴン版《スクランブル・チェンジ》ともいえる《炎龍覇 グレンアイラ / 「助けて!モルト!!」》の呪文側による高速の仕掛け。
そして圧倒的な攻撃力。《爆熱天守 バトライ閣》は失ったが《爆銀王剣 バトガイ刃斗》から繰り出される強力ドラゴンによる突破力は未だ健在だ。
その圧倒的な攻撃力がコントロールの防御力を真正面から突き破っていくのも、かつて環境トップだったころから変わっていない。
三角関係をいとも簡単に破壊していく、ある意味デュエマのカードパワーの高さを象徴したデッキでもあるだろう。
ただし、一般的なビートダウンの範疇には収まっているものの、【闇火バイク】に比べて少し速さを落としたこと。
デュエマのコンボデッキを相手取るとき、それはあまりにも致命的だった。
コンボ
《暗黒鎧 ザロスト》の殿堂によって【水闇ゼーロ】などのコンボデッキは消滅。となれば、コンボデッキを選択しようとするとき、プレイヤーの選択肢はほぼ1択。絶望神と手を組むことだ。
TJM DMGP2023-1st 1日目 2位 水闇サガループ |
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ある意味現代デュエマの顔ともいえる《絶望神サガ》。同名カード2枚を揃えるだけで無限ドローができる最凶のカード。
《一なる部隊 イワシン》の殿堂によって弱体化したとはいえ、その凶悪さは健在だ。
このコンボに限らず、デュエマのコンボデッキ最大の特徴は"成立までが速すぎる"こと。
対策カードを引けないコントロールデッキはもちろん、少し遅いビートデッキすら食い物にしていくほどだ。
特に最速3ターンでループする【サガループ】は、【モルトNEXT】のような正統派ビートデッキすらも「お客様」にしてしまうのだ。
速度で超越する。これが現代デュエマのコンボデッキが三角関係を破壊する仕組みでもある。
【闇火バイク】 のような対策カード+高速ビートダウンには屈するものの、それ以外を防御手段を封殺しながら倒すことはやはり魅力的だ。
これだけを聞けば【サガループ】は最強のデッキに思えるだろう。
だが、これだけの強さを持つが故にヘイトを集めすぎた。そして現代デュエマのもうひとつの特徴。
高速コンボを対策するカードが大量に用意されていることだ。
コントロール
多種多様なコントロールデッキが勝ち上がっているが、今回はその中から5Cコントロールをピックアップして紹介したい。
シュガーフラワー DMGP2023-1st 1日目 3位 5Cコントロール |
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現代の5Cコントロールは「ザーディロスト」コンボと《最終龍覇 グレンモルト》をはじめとする強力多色カードによる制圧を目的としたデッキとなっている。
トリガー《ドラゴンズ・サイン》による早出し《龍風混成 ザーディクリカ》《最終龍覇 グレンモルト》は生半可なビートダウンを1枚で制圧しきるほどのカードパワーを持っている。
このデッキに限らず、現代デュエマのコントロールデッキは7マナのカードを終着点としてそれまでを優秀なメタカードで遅延するような構築になっていることが多い。
上記リストでは《とこしえの超人》と≪お清めシャラップ≫がメタカードの役割を果たしている。
特に《とこしえの超人》はアドバンス環境の特徴である外部ゾーンのカードを全て封殺してしまうため、自然が入るコントロールデッキならほぼ必ず入っているといっても過言ではないだろう。
優秀なメタカード、それはまさしくコンボに不利を被る三角関係に抗う手段である。
墓地に依存したコンボである【サガループ】には、《とこしえの超人》と≪お清めシャラップ≫がクリティカルに刺さる。
稼いだ時間で切り札級のカードを叩きつければ、いくら最強の【サガループ】といえど勝つことはそこまで難しいことではないのだ。
また、【サガループ】にヘイトが向きすぎていたことで【サガループ】を使わない選択をしたプレイヤーも少なくはない。
その結果、若干ビートダウンとコントロールに寄った環境。三角関係の範疇で考えるのであれば、コントロールを使うのが賢い選択だろう。
コントロール同型においてもカードパワーの高さで上回ることができる【5cコントロール】は、唯一TOP8に2人を輩出したアーキタイプとなった。
2つの <ライオネル.Star>
最後に、今大会を象徴するカードの1枚である《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》を使ったデッキを2つ紹介しよう。
フンババ♪ DMGP2023-1st 1日目 4位 光水ライオネル.Star |
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《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》リリース時から存在する「コントロール」デッキ。
多種多様なシールドトリガーで相手の攻め手を挫き、さらに《MAX・ザ・ジョニー》や《ジョーカーズの心絵》によるシールド大量回復で相手の攻撃を真正面から受け止めるデッキとなっている。
超強力システムクリーチャー《アルカディアス・モモキング》を展開するパターンも強力なものとなっている。
【サガループ】に対するガードこそ他の入賞デッキより下がっているものの、防御力に全振りしたこのデッキを貫通することは並大抵のデッキでは難しい。
【モルトNEXT】の攻め手すら受け切ってしまえそうなこのデッキは、三角関係を破壊しようとするデッキを上からねじ伏せる正統派コントロールとしてベスト4まで勝ち進むこととなった。
すずの音 DMGP2023-1st 1日目 優勝 光水火鬼羅ライオネル.Star |
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今回優勝を収めたこのオリジナルデッキは、【鬼羅Star】に《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》のギミックが投入されたデッキとなっている。
オリジナルデッキということで奇特な目で見てしまいがちだが、その中身は正統派ビートダウン。
通常の【鬼羅Star】に大量採用されている搦め手は採用枚数が抑えられており、メインギミックの力強さで真正面から戦う形だ。
デッキの芯を太くすることによって、三角関係の全てに対して有効な作用を見込むことができる。
対ビートダウン。
《「正義星帝」 <鬼羅.Star>》を引けなければ押し負けてしまうことも多々あったが、《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》という別軸の攻め手も用意されていることで、引きに左右されにくい攻防を仕掛けることができる。
また、防御手段として《終末の時計 ザ・クロック》の他、トリガー《スロットンの心絵》を起点とした超打点生成によるカウンターギミックが採用されている。
対コンボデッキ代表の【サガループ】。
メタクリーチャーを並べに並べて時間を稼ぐ一般的な【鬼羅Star】と違い、メタクリーチャーは《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》4枚のみ。コンボデッキに対するガードは通常の【鬼羅Star】よりも下がっているだろう。
しかし、この4枚で1、2ターン時間を稼ぐことができれば、通常の【鬼羅Star】よりも高い攻撃力を誇るこのデッキなら【サガループ】の防御を貫通することは造作もないことだ。
対コントロール。
スター進化による除去耐性持ちのビートダウンは、コントロールの除去トリガーに対して一定の耐性をつけることができる。
《奇天烈 シャッフ》によって呪文トリガーを封殺することもできるため、強烈な展開力を無理矢理押し付けることも可能だ。
そして、これらのギミックを補助する《T・T・T》、《超次元の王家》、《カーネンの心絵》という10枚採用されたドローソース。
これによって通常の【鬼羅Star】よりも高い再現性をもって上記プランを遂行可能。「《T・T・T》を引けないと弱い」と言われがちな【鬼羅Star】の弱点を解消している。
総じて、正統派ビートダウンをいくつかの補助手段によって後押しすることで、環境内ほぼ全ての対面に互角以上の勝負を仕掛けることができるデッキだ。
初見殺しの要素も多少あったとはいえ、完成度の高さは言うまでもないだろう。
総括
今大会はビートダウン⇒コンボ⇒コントロール⇒ビートダウン…の三角関係でメタゲームが構成される環境となった。三角関係の中で話をするのであれば、デッキパワーで1歩遅れを取るとはいえ、今環境はコントロールを使うのが正解に近かったといえるだろう。
だが、この三角関係を内側からも外側からも壊すことができるのがデュエル・マスターズの醍醐味だ。
重厚なビートダウン、高速コンボ、妨害手段満載のコントロール。
そして、メタ外から持ち込まれる新たなデッキ。
常識を打ち破ることこそ勝利への近道。
半年後に笑うデッキも、きっと常識の外側にいるのだろう。
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