全国大会2024 九州エリア予選:TOP5カード紹介
ライター:川﨑 大輔
撮影:後長 京介
それはメタゲームが独特すぎるということだ。
たしかに毎回独特、そして今回も独特。もちろん、ここまでのエリア予選会場とは異なり東海・北陸が2日続けて開催され2大会分の情報が同時に来たうえで間が1週間あいて調整に十分に時間を取れた……と今回の九州エリアのメタゲームが独特なことにそれっぽい理由を付けることはできるのだがそれも所詮は後付けの理屈であり、どこのタイミングであれ九州エリアは現状に近いメタゲームになっていたのではないかと思われる。
とにかく会うプレイヤー会うプレイヤー「メタゲーム独特で困るでしょ?」と言ってくるので、これはおそらく彼らのプライドなのだと思う。そして、実際に独特なメタゲームを形成するデッキを使用するプレイヤーたちがインタビューで「このデッキは前から使っていて……」と語るのである。
前回の担当した記事で本編と同じくらいの長さの前振りを書いたら各所から遠回しにイヤミを言われたのでそろそろ本編に入ろう。
そんな独特なメタゲームを形成した九州・沖縄エリアを象徴するカードを断腸の思いで5枚選出したので紹介していこう。
第5位:《バブル・ボール》
当日の朝、開会式が終わったタイミングではまだ回収されたデッキリストがカバレージチームに届いていないので、比較的やることもなくヒマであり、第1回戦の開始の合図と同時くらいにカメラマンの後長氏とともにトロフィーショットを撮るのに面白そうな場所がないかと対戦スペースを横切って会場の外に出ることにした。
本当に試合開始直後、まだすべてのテーブルが1ターン目か2ターン目といったところなのに、それなのに、ちょっと会場を横切ってチラッと盤面を横目にいれただけで早くも九州エリアのメタゲームの洗礼を受けることとなった。
無茶苦茶バトルゾーンに《バブル・ボール》がいるのだ。
東北予選でいけ選手が火水ガラワルド持ち込んだことで強いインパクトを与えた《バブル・ボール》ではあったが、その後でみると北陸エリアでは2名のプレイヤーが使用しているのみ、東海エリアに至っては0名の使用カードである。
それが、ちょっとした《チアスカーレット アカネ》くらい会場にいる。
気になるものの、とりあえずは写真のロケハンを行い、リストがカバレージチームに届いてまた驚いた。なんと《バブル・ボール》を使用している全員が水闇ハイパー・エナジーだったのだ。 具体的な使用数については以下のリストを参照されたい。
全国大会2024 九州エリア予選:メタゲームブレイクダウン
なんと、10名が水闇ハイパー・エナジーを使用し、水自然ジャイアントと並んで第2位の使用率を誇っているのである。
セイリュー 全国大会2024 九州エリア予選 2ブロック構築 |
|
|
上位入賞こそ1名のみとなってしまったが、優勝者であるえいりゅー選手のインタビューでも水闇《超暴淵 ボウダン=ロウ》との相性について話題が出るなど九州エリアではかなりメジャーなアーキタイプとして認識されているのが伺われる。
デッキリストをチェックする前に早くもメタゲームの特異さに気がつかせてくれた《バブル・ボール》をまずは1枚目のTOP5カードとして選出したい。
余談だが、冒頭で後長氏と探した結果のトロフィーショットがこれである。
第4位:《楯教の求道者 ザゼ・ゼーン》
実は《バブル・ボール》と同じくらい「このカード多すぎない?」と思ったカードはもうひとつあったのだが、それについては後に話を譲るとして第4位はそのカードとも関係がなくはないこのカードをお届けしよう。光闇メカと光水闇エルボロムというふたつのアーキタイプを縁の下で支える《楯教の求道者 ザゼ・ゼーン》である。
光闇メカは店舗予選時にはトップメタの一角でありつつも今回のエリア予選ではイマイチ本領を発揮しきれておらず、また、光水闇エルボロムもここまで4大会中3人を優勝に導いた火水マジックとの相性もあって東海エリアなどでは注目されていたものの、上位に食い込み切れないでいた。しかし、この九州エリアではそれぞれ使用者の1/3である2名ずつをトップ16に送り込み、そのポテンシャルを見せつけた。
そして、トップ8にもそれぞれなす丸すえ吉選手とTCEoL選手を送り込んでいる。
なす丸すえ吉 全国大会2024 九州エリア予選 2ブロック構築 |
|
|
TCEoL 全国大会2024 九州エリア予選 2ブロック構築 |
|
|
このように、他会場でポテンシャルを発揮しきれなかったカードが活躍する一方で、他会場では圧倒的な活躍を見せていたのに九州エリアでは影が薄かったカードもある。
それが《シャングリラ・クリスタル》である。
東海エリアでは堂々の使用率第一位だったにもかかわらず、九州エリアではターボマジックを除いた純粋なゼニスを使用しているのは全部で7名。そしてその全員が予選ラウンドで敗退している。ターボマジックを使用する英進んにょお!?勢選手がトップ16で惜しくも敗退したことで、トップ8に《シャングリラ・クリスタル》を使用するプレイヤーは0名となってしまったのだ。
この対称性もまた、九州エリアのメタゲームの特異さを象徴するものだと思うので、TOP5カードに選出させていただいた。
第3位:《雷炎翔鎧バルピアレスク》
ここまで見てきたように、ここまでの4エリアと比べてかなり独特のメタゲームとなっていた九州エリアだったが、トップ16が決まった時……正確には予選4回戦目あたりからバックヤードでは全く別のカードが話題をかっさらっていた。通常のエリアならば第5位と第4位の話題だけで持ち切りであろうにそれらの話が一切されないほどの話題性を持ったカードがあったのだ。「2ブロックで《雷炎翔鎧バルピアレスク》が追加ターンとってる!」
多分、3名くらいのスタッフから別々に報告されているので、誰の目から見て驚愕だったのだろう。メタゲームの特性上圧倒的多数だった《DARK MATERIAL COMPLEX》に対して果敢にアタックしては《ボルシャック・モルナルク》と連携して永遠に追加ターンを取る《雷炎翔鎧バルピアレスク》の姿は、間違えてオリジナルのデッキを持ってきてしまったのではないかと一瞬デッキチェックが頭をよぎるものだ。
火光アーマード自体は環境に一定数いるデッキではあるが、《雷炎翔鎧バルピアレスク》まで入ったファイアー・バードは珍しいので、実際にデッキを使用していたおのでぃー選手に簡単に話を聞いてみた。
おのでぃー 全国大会2024 九州エリア予選 2ブロック構築 |
|
|
おのでぃー「簡潔に言うなら、福岡で流行っているゼナーク系統のデッキに対して強い《ポッピ・冠・ラッキー》を使うデッキを模索している中で、アーマードを経てファイアー・バードに行きついた形になります」
とのことで、やはり《死神覇王 ブラックXENARCH》が多いことを見越した《ポッピ・冠・ラッキー》選択とのことだが、しかし、アーマードではなくあえてファイアー・バードにする理由はどこにあったのだろうか?それはやはり環境の変化にあったという。
元々、アーマードはコスト5のカードが強く、また、メクレイドの関係上デッキ全体のマナコストを5に寄せた方がデッキの厚みがでる。しかし、軽減カードが事実上《アシスター・コッピ》しかいなく《アシステスト・インコッピ》を多く積みにく状態ではデッキの安定性に不安を抱えるデッキである。
本来はそこで《鎧機天 シロフェシー》や《ポッピ・冠・ラッキー》といった有効なメタカードを使用して有利な相手を増やしてメタゲーム上の優位を築くことでデッキの不安定さをフォローしていたのだが、《バブル・ボール》と《超暴淵 ボウダン=ロウ》を使用するハイパー系をはじめとして《死神覇王 ブラックXENARCH》《DARK MATERIAL COMPLEX》を搭載するデッキが増えてきたことでメタゲーム上の優位も怪しくなってきたという。
そこで、5コストに偏っていることがデッキの不安定さの原因なのであれば、逆に低コストのカードに寄せた構築にし、盤面を並べていることを勝てる優位につなげられる《雷炎翔鎧バルピアレスク》《ボルシャック・モルナルク》コンボと組み合わせることで、結果として《DARK MATERIAL COMPLEX》相手の友情コンボも実現させ、福岡で流行っている《DARK MATERIAL COMPLEX》《死神覇王 ブラックXENARCH》系のデッキへのメタゲーム的な優位を作れると考えてファイアー・バードを構築したそうだ。
また、《DARK MATERIAL COMPLEX》《死神覇王 ブラックXENARCH》系が増えたことで苦手とする水自然ジャイアントが少なくなっているのもメタゲーム的な優位であると言えるだろう。
ちなみに、TOP5カード選出の参考にデッキで一番気に入ってるカードについて質問すると「負ける理由を作る《レッツ・烈・ノルッピ》以外は全部好きです」といいつつも実はデッキを完成させたのは《ボルシャック・アークゼオス》を採用したことにあったという。
《雷炎翔鎧バルピアレスク》の関係上、ファイアー・バード以外は入れたくなかったが、《超重竜 ゴルファンタジスタ》や《爆藍月 スケルハンター》《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》といったカードを除去するいぶし銀のカードとして入れてみたところ、主力クラスに強いカードだったという。
おのでぃー「実は調整してる時は逆に入れずに調整してて本番まで隠してコッソリ入れてました笑」
ということなので、事実上の秘密兵器だった《ボルシャック・アークゼオス》は裏TOP5カードの第3位となっていただくとして、スタッフ全員を驚かせた《雷炎翔鎧バルピアレスク》を表の第3位として選出したい。
第2位:《楽識神官 プレジール》
通例であれば、優勝デッキのメインとなったカードがTOP5カードの第1位となるのだが、覇王を語る慮外者がどうしても1位の座を譲らないというので、第2位として《楽識神官 プレジール》について話させていただこう。
えいりゅー 全国大会2024 九州エリア予選 2ブロック構築 |
|
|
東海エリアのTOP5カードでも語ったように、福岡の2ブロックCSで数多く入賞しているデッキであり、九州エリアを代表するデッキとして堂々の使用率1位となっていた火水闇プレジール。その中でも、《DARK MATERIAL COMPLEX》《死神覇王 ブラックXENARCH》の入った形は「たぐスペシャル」こと「たぐスぺ」として名前が知られていた。
というわけで、ここではデッキ制作者であるたぐ選手に火水闇プレジールに《DARK MATERIAL COMPLEX》《死神覇王 ブラックXENARCH》のパッケージを投入するに至った理由を聞いてみたい。
ちなみに、たぐ選手の認識としては自身が使用しはじめる前から《楽識神官 プレジール》で《イカリノアブラニ火ヲツケロ》を使うデッキはすでに存在していて、それを参考に調整をはじめたので火水闇プレジールが福岡発祥のデッキであるという認識はないとのことだ(ただし、東海エリアで火水闇プレジールを使用していたあるが選手が参考にしたリストは状況的にはおそらく今大会でもトップ16に入賞しているネオ@選手のものであり、ネオ@選手はたぐ選手とともに火水闇プレジールを調整していたメンバーだったということで、《楽識神官 プレジール》が環境に増えた理由が福岡にあることは間違いないだろう)。
CS結果やX上で発見した《楽識神官 プレジール》から《イカリノアブラニ火ヲツケロ》や《鬼火と魍魎の決断》をプレイするデッキを回しているうちに、デッキのメインは《鬼火と魍魎の決断》ではあるが《イカリノアブラニ火ヲツケロ》からの中コスト帯のクリーチャーを出す派手な動きがもっともこのデッキの魅力であると考えたたぐ選手は《アーテル・ゴルギーニ》《忍蛇の聖沌 c0br4》以外の環境の5マナ域のクリーチャーを求めていたという。
そして、「カイザー・オブ・ハイパードラゴン」のリストが発表された時に《死神覇王 ブラックXENARCH》を《イカリノアブラニ火ヲツケロ》から出せることに気がつき、発売前からデッキを調整した結果、《イカリノアブラニ火ヲツケロ》で《死神覇王 ブラックXENARCH》が墓地に行くのも踏まえてさらに《DARK MATERIAL COMPLEX》も相性がいいことに気がつき、この形にたどり着いたという。
実際、発売直後の6月30日に開催された2ブロックのCSではすでに現状の骨子の火水闇プレジールを持ち込んでいたという。
たぐ「調整を進める中で、このデッキの出来ることの多さ、対応力の高さに驚いていました。」
と語るように、「破壊と破壊耐性」「タップとタップコスト」といったデッキ全体のシナジーが高いことで日々新しいプレイングが見つかっていく事、そして《超楽識 フミビロム》のようにデッキのできないことをフォローするパーツを見つけまた新しいプレイングが見つかることで調整が楽しかったと語る。
かなり衝撃的なデッキリストであり、たぐ選手の構築能力の高さを世に知らしめるデッキとなったと思うが、実際それは九州エリアのプレイヤーたちも同じだったようで「普段あまり話していなかったプレイヤーが風の噂でこのデッキのことを知って自分の元にリストを聞いてきてもらったり、全国的には知れ渡っていないデッキなのでCSで対面したプレイヤーとの話しの種になったり、このデッキを通じて知り合いが増えたのが個人的には1番嬉しかったことです」と語ってくれた。
たぐ選手の構築によって、九州エリアの環境は《死神覇王 ブラックXENARCH》に侵略されてしまったが、それはとても優しい侵略だったのかもしれない。
第1位:《死神覇王 ブラックXENARCH》
というわけで、途中で何度も話題に出ていたことで気がついた読者も多いとは思うが、九州エリアTOP5カードの第1位は《死神覇王 ブラックXENARCH》である。はっきり言って、今年の九州エリアのメタゲームは《死神覇王 ブラックXENARCH》と《DARK MATERIAL COMPLEX》に支配されていたと言っても過言ではない。優勝した火水闇プレジールに限らず、光闇メカや水闇ハイパー・エナジーのようにここまで話題に出たほとんどのデッキが《死神覇王 ブラックXENARCH》を使用しているのだ。
結果として、《死神覇王 ブラックXENARCH》は九州エリアで使用枚数第1位のカードとなった。前回はジョークとして使用枚数TOP5のカードを紹介したが、今回は名実ともに胸を張って使用枚数1位のカードが、本編でも第1位のカードだと言えるだろう。
なぜ《死神覇王 ブラックXENARCH》がTOP5カードの第1位かについてはここまで記事を読んでいただいた方なら説明不要だと思われるので、九州エリアの使用枚数トップ20を紹介してこの記事を終えよう。東海エリアのトップ20と並べていただければ九州エリアとの違いがよりわかるかと思う。
1位 128枚 《死神覇王 ブラックXENARCH》
2位 123枚 《同期の妖精 / ド浮きの動悸》
3位 113枚 《終止の時計 ザ・ミュート》
4位 112枚 《アーテル・ゴルギーニ》
5位 103枚 《氷柱と炎弧の決断》
6位 102枚 《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》
7位 87枚 《der'Zen Mondo / ♪必殺で つわものどもが 夢の跡》
8位 78枚 《DARK MATERIAL COMPLEX》
9位 72枚 《芸魔王将 カクメイジン》
10位 69枚 《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》
11位 66枚 《楽識神官 プレジール》
12位 64枚 《シャングリラ・クリスタル》
12位 64枚 《芸魔隠狐 カラクリバーシ》
12位 64枚 《戦攻のシダン アカダシ / 「いいダシがとれそうだ」》
15位 58枚 《イカリノアブラニ火ヲツケロ》
16位 52枚 《ツイン・シックス》
17位 44枚 《チアスペース アカネ》
18位 43枚 《輝跡!シャイニングロード・マンティス / 輝跡の大地》
19位 41枚 《超楽識 フミビロム》
19位 41枚 《忍蛇の聖沌 c0br4》
TM and © 2024, Wizards of the Coast, Shogakukan, WHC, ShoPro, TV TOKYO © TOMY