DMGP2022 Day2 決勝戦:ぴゅうvs. 上田秋斗
ライター:河野 真成
撮影者:瀬尾 亜沙子
全国大会2019でぴゅうにオリジナルの使用デッキを尋ねたときに、彼はこんな風に答えた。
ぴゅう「自分にしては珍しく、【JO退化】」
ぴゅうは環境ではほぼ見掛けることがないようなデッキを作って使うのが好きだった。だからその言葉にはきっと、「不本意ながら」というニュアンスが含まれていたことだろう。
いつもはその後に自身のデッキの動きと勝ち方を簡潔に説明してくれることも多いのだが、その日はやや諦めたような口調で「JOが強すぎる」としか言わなかった。
そして彼はベスト8でNJに敗れ、大会を後にした。
そんな【JO退化】も夏にはプレミアム殿堂コンビ指定され、デッキとしては成立しなくなった。
ぴゅうにとって、チャンスがやって来たのだ。
新しく相棒に選んだのが、【光火ライオネル.Star】だった。やはり、環境で見掛けることはほぼないようなデッキである。
しかしこのデッキは、相棒に選ぶだけの力を持っていた。《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》による展開力はもちろんのこと、このデッキの強さを底上げしているのが、《ボルシャック・モモキングNEX》だった。
このカードは火のクリーチャー以外にもレクスターズであれば場に出せるため、タマシードとも相性がいいのだ。
そしてタマシードが展開出来れば、《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》によって進化クリーチャーも展開出来るということである。最後は《アルカディアス・モモキング》と《キャンベロ <レッゾ.Star>》の力によって封殺して勝つ。アルモモ+キャンベロの強力さは、JO退化を使っていた際に身に染みていたことだろう。
この日、ぴゅうに使用デッキを尋ねると、彼は「ライオネルです」と答えたあとに、こう続けた。
ぴゅう「やっぱり強い」
今度は、自信に満ちた表情だった。
Game1
先攻:ぴゅう先攻のぴゅうは2ターン目の《ゲラッチョの心絵》からスタートする。
対して上田秋斗は、【水魔導具】の象徴である《卍 新世壊 卍》の設置から、ゲームを始めることに成功した。
同じ設置物ではあるが、ゲームに与える影響力は桁違い。ぴゅう自身も認めているが、順調に進めば【水魔導具】が有利なこのマッチにおいては、2ターン目の《卍 新世壊 卍》が大きなプレッシャーとなる。
上田は続いて《堕呪 ゾメンザン》、《堕呪 ゴンパドゥ》と唱えて、順調に魔導具のカウントを進めていく。
4ターン目、ぴゅうは《ルピア炎鬼の封》をチャージするのみで終了。
相手の盤面に脅威のない上田は《堕呪 ウキドゥ》から更にカウントを進め、更には2枚目の《卍 新世壊 卍》を設置までこぎつけた。
……これは、ぴゅうにとっては悲報だった。
ぴゅうのデッキである【光火ライオネル】は、どちらかといえばカウンター系のデッキで、受けは固い。より正解に言えば、受け切られたときの代償が大きすぎる。
実際、ひと月前ほどのCSでは、1枚の《卍 新世壊 卍》から走ってきた【水魔導具】に対して、トリガーの《スロットンの心絵》から《センメツ邪鬼 <ソルフェニ.鬼>》を投げて、ドルスザク軍団を文字通り殲滅して勝利したこともある。
故にそうしたデッキに対して【水魔導具】は、《卍 新世壊 卍》を複数設置し、2回以上の追加ターン獲得を目指すというのが鉄則だ。
上田も恐らく【光火ライオネル.Star】に詳しいわけではないだろうが、見えているカードがある程度のギミックを把握したのだろう。上田には、そうした初見殺しは通らない。
5ターン目、ぴゅうは《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》からの展開を試みる。タマシードを繋いで《ボルシャック・モモキングNEX》を繰り出していく。上田を倒し切れるだけの打点は展開出来なかったが、攻撃宣言時に侵略《キャンベロ <レッゾ.Star>》を絡めることで、一定のロックは掛けた。
しかしこのW・ブレイカーで、2枚の魔導具トリガーを踏んでしまう。
上田は1枚目の《卍 新世壊 卍》は完成させると、返ってきたターンで、2枚目の起動の準備をしていく。
ターン終了時、最初の《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》を唱えられた。《キャンベロ <レッゾ.Star>》の効果で《凶鬼卍号 メラヴォルガル》は1体しか立たないが、上田は問題とは捉えていない。追加ターンのおかわりが見えていたからだ。
上田は2枚目を完成させ、さらに3枚目の《卍 新世壊 卍》にまで魔導具のカウントを進めていく。
そして更なる追加ターンが見えたことで、1体の《凶鬼卍号 メラヴォルガル》で、シールドを攻撃した。
しかしここでシールド・トリガーからタマシードが場に出たことで、ぴゅうの《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》の連鎖が始まった。どちらのターンかわからないほどにタマシードと進化クリーチャーが並び続けていく。
しかし、それは問題の解決とはならなかった。
このデッキでカード除去をするには、《EVE-鬼MAX》でバトルに勝つしかないのだが、そんな状況にはならないのだ。
どんなに展開しても、《卍 新世壊 卍》からの《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》を止める術はない。
上田は《キャンベロ <レッゾ.Star>》効果が切れる2回目の追加ターンを獲得し、悠々と詰め切ってみせた。
ぴゅう 0-1 上田秋斗
プレイヤーが己の相棒として共に戦うデッキを選ぶとき、そこには物語がある。
上田秋斗は2022年度になって台頭してきた、宮城県のプレイヤーだ。
長らく宮城でジャッジを務めるkairen曰く、「やんちゃな部分もあったけど、元々プレイの上手い子だった」という。
やがてやんちゃさも抜け、プレイヤーとしても大きく成長したのだろう。2022年上半期では、長く宮城トップを走り、最終的にペン山ペン太郎にはわずかに及ばなかったものの宮城2位、全国57位という好成績でフィニッシュした。
彼の使用デッキは【水魔導具】である。その使用理由は、「最近ずっと使っていて、慣れているから」ということであった。
しかし話を聞くと、どうも今期の前半は長らく【5cコントロール】を使ていたようである。
上田秋斗「【5cコントロール】を使って春に優勝したんですけど、思えばこれは罠でしたね」
というのも、5cは彼の手に合っていたのは間違いなかったらしく、常に一定の勝率は出ていた。しかし、それ故に「逆に何にでも勝てそうに見えてしまった」のだという。
総合的に見たときに、【JO退化】なども存在する環境で5cは上位入賞こそ出来ても最強のデッキではなかった。しかし、予選を抜けたりTOP8に入ったりすることもあることから、デッキを変えるタイミングが終ぞなかったようだった。
優勝は出来ないことはわかっていた、勝ち切れるデッキではなかった、でも変えられなかった。
だが、その時は訪れる。
夏の殿堂によって環境が変わると、【水闇自然ハンデス】や【ゼーロベン】といったデッキたちが台頭してきた。これらに5cで立ち向かうのは、最早無謀だった。
上田は、遂に決心した。そして新たに手にしたのが、【水魔導具】だったのだ。
上田秋斗「コントロールが好きなんですよね。マナだけ置いて構えているだけなので、火単とか使った方がデュエマは上手くなりそうなんですが……」
しかしここまでの彼のプレイを見ていると、【水魔導具】への理解の深さには舌を巻いた。例えば彼は自身が採用している《龍素記号Xf クローチェ・フオーコ》について説明するときに、こんなことを言っていた。
上田秋斗「墓地メタもそうですが、自分の山札を回復するときに使うことがほとんどです。3枚目の《卍 新世壊 卍》を起動するときに山札が足りなくなるケースが多いので」
3枚の《卍 新世壊 卍》を使う動きは、かなり特殊な受けデッキと対戦するときに使うテクニックである。彼が様々なデッキを相手にしてやり込んでいたことがわかるだろう。使うと決めたら、とことん使うのだ。
上田秋斗「決勝の意気込みですか? 特別なことはないですけど……勝ちたいですね」
彼の水魔導具がその勝利を手にするまで、あと一つ。
Game2
先攻:ぴゅう直前の敗者であるぴゅうの先攻で試合が開始された。
まずはタマシードを置くために《ライオネルの天宝》からスタートする。
対して上田はというと、今度は《卍 新世壊 卍》が《堕呪 バレッドゥ》からスタート。墓地に《堕呪 ゾメンザン》を落として終了した。
ぴゅうは《ルピア炎鬼の封》を置き、続くターンの《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》の着地まで見据える。
しかしそんなぴゅうに対して、上田は再度の《堕呪 バレッドゥ》唱えながら、《ガル・ラガンザーク》を宣言した。
ぴゅうのデッキでもっとも恐ろしいのは《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》からの展開、そして《ボルシャック・モモキングNEX》による踏み倒しだ。
だからこそ、この最速《ガル・ラガンザーク》のルートを選択したのだろう。
ぴゅうはこの《ガル・ラガンザーク》は《センメツ邪鬼 <ソルフェニ.鬼>》で一度は破壊するものの、続くターンに上田が再び魔導具呪文を唱えることで、バトルゾーンへと帰還していく。
5ターン目、ぴゅうは《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》を設置し、《カーネンの心絵》で手札を増やして終了。当然、踏み倒しは行えない。
この間に《卍 新世壊 卍》さえ貼れれば問題なく勝てそうな上田だったが、見えてない。上田は《堕呪 ギャプドゥ》、そして《堕呪 ゴンパドゥ》と唱えて必死に探しに行くが、やはり見つからない。ここは一旦、2体目の《ガル・ラガンザーク》を送り込んでターンを終える。
場にクリーチャー同士が睨み合うという、このマッチにしては少し変わった展開となった。
《ゲラッチョの心絵》を出してドローを進めていくぴゅうに対して、《堕呪 エアヴォ》で《ガル・ラガンザーク》の下のカードを手札に加えて、なんとか魔導具を回そうとする上田。
しかし、目的の《卍 新世壊 卍》には、まだありつけない。
やがて、ぴゅうも欲しいカードを引いた。
6マナで召喚されたのは、《アルカディアス・モモキング》。本来このカードは水魔導具にそこまで有効でもないが、それは《卍 新世壊 卍》がある場合のみだ。そして上田はまだ、《卍 新世壊 卍》に辿り着いていない。
ここまでであればギリギリ許容出来たであろう、《卍 新世壊 卍》のトップドロー。しかし、それでもまだ引けなかった。
そして今度は《卍 新世壊 卍》を探しにいく呪文すら封じられている。上田は、ターンを終了するしかなかった。
ここまで来たら早急に詰めたいぴゅうは、それを成し遂げるべく《EVE-鬼MAX》を繰り出す。
その効果で《ガル・ラガンザーク》を処理しながら、シールドへ攻撃を開始する。
《卍 新世壊 卍》がない上田は、《アルカディアス・モモキング》に抵抗出来ない。打点が通り、ぴゅうは第2ゲームを制した。
ぴゅう 1-1 上田秋斗
プレイヤーが己の相棒として共に戦うデッキを選ぶとき、そこには物語がある。
しかし相棒として選んだデッキは、時にプレイヤーを裏切ることもある。
いまの上田はまさしくそれで、デッキの構造を考えたとき、そして上田がプレイしたカードの数を鑑みたとき、《卍 新世壊 卍》にありつけないのはもはや天文学的確率だと言っても過言ではない。
しかしそんなゲームの中でも、上田は極めて冷静に見えた。苛立ったような様子も、溜息を漏らすようなこともなかった。
実際内心は冷や汗ものだったらしいが、その表情を見ているとまるで「まぁこのデッキだから、一定の確率でこういうケースもあるよね」くらいの、やり込み故の余裕すら感じられるほどに見えた。
大事故でも一敗は一敗、そう割り切る。
そして二度続けて裏切るようなデッキでもない、といった信頼があるのかもしれない。
それはぴゅうが「不利対面」と言いこそすれ、「無理対面」とは言わないのと同じだ。
己のデッキの力に、その最大値が発揮されたときに不利を捲る手段があるという、信頼がある。
オリジナルレギュレーションにおけるデッキの選択は難しい。不正解の選択はあれども、正解はないのかもしれない。どの選択にも利点はあって、どの選択にも裏目がある。
だからこそ、その選択が難解であるが故に、そこには葛藤や信頼といった感情が生じてくる。これがまさに、物語である。
そしてここにいる二人が相棒に抱く感情は、共に信頼であった。
Game3
先攻:上田秋斗先攻の上田は、《堕呪 ゴンパドゥ》というまずまずのスタート。対してぴゅうは《ライオネルの天宝》を設置して終了する。
続くターンで上田は先ほど一切手に付かなかった《卍 新世壊 卍》をプレイし、そのまま《堕呪 ゾメンザン》まで繋げていく。対してぴゅうも《ルピア炎鬼の封》で次のターンに向けた圧力を掛けていく。
上田は魔導具呪文を二度唱え、カウントを進めてターンを終了した。ぴゅうに対してタイムリミットを与えた後に、後は座して待つ。
ぴゅうは《ルピア炎鬼の封》の2軽減から《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》を繰り出し、タマシードとともに連鎖を開始。今回は《ガル・ラガンザーク》がないので、自由を許されている。
まずは追加のライオネルを送り込むと、更にタマシードを連鎖させて《センメツ邪鬼 <ソルフェニ.鬼>》を着地させた。
そして《センメツ邪鬼 <ソルフェニ.鬼>》でそのまま攻撃を宣言しながら、《キャンベロ <レッゾ.Star>》に侵略させてシールドを2枚削っていく。
一度盤面を整理しよう。
ぴゅうの盤面には《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》が2体に《キャンベロ <レッゾ.Star>》が1体。
上田の盤面はカウントが3つまで進んだ《卍 新世壊 卍》。そして、《キャンベロ <レッゾ.Star>》の効果が掛かっている。
キャンベロの効果がある以上、追加1ターンではぴゅうを倒し切ることは不可能だ。
しかしただ2枚目の準備をしてターンを返すだけでは、返しのターンに《「正義星帝」 <ライオネル.Star>》が率いる軍団に圧殺されるだろう。
……つまり上田は、ここで1枚目の《卍 新世壊 卍》を完成させた上で2枚目を用意し、かつ追加ターンの中で2枚目の起動まで持ち込むしかない。
マナの数を考えると、かなりギリギリのラインである。普通にプレイすると、追加の《卍 新世壊 卍》に加えて、《堕呪 ゾメンザン》に2マナの魔導具呪文を3枚要求されている。
だがここで、上田秋斗は己の水魔導具を信じた。
まず《堕呪 ゴンパドゥ》で1枚目の《卍 新世壊 卍》を完成させると、2枚目の《卍 新世壊 卍》を配置して《堕呪 ゾメンザン》。マナをフルに使い切って、《月下卍壊 ガ・リュミーズ 卍》まで持っていく。 《キャンベロ <レッゾ.Star>》の効果で《凶鬼卍号 メラヴォルガル》1体しか出ない。
が、この1体の《凶鬼卍号 メラヴォルガル》が大仕事を果たす。
なんと《凶鬼卍号 メラヴォルガル》が自らW・ブレイクすると、そこから2枚もの魔導具呪文がトリガーしたのだ。
トリガーする呪文はなんでもいい。魔導具カウントは2つ進み、2回目の《卍 新世壊 卍》の起動がほぼ確実なものになった。
上田の追加ターン、2枚目の《卍 新世壊 卍》を完成させると万全の勝利を目指して3枚目の《卍 新世壊 卍》を用意し《凶鬼卍号 メラヴォルガル》でぴゅうのシールドを詰めにいく。
ぴゅうもトリガーから《キャンベロ <レッゾ.Star>》まで着地させて、最後まで抵抗を見せる。
しかし2回目の追加ターンはやってきた。
そして3回目の追加ターンをも確実なものにすると、ぴゅうに抗う術は残っていなかった。
上田秋斗が選んだ【水魔導具】が、その信に応えてみせたのだ。
ぴゅう 1-2 上田秋斗
CHAMPION:上田秋斗
オリジナルレギュレーションは、とにかくデッキ選択が難しい。どんな選択にも裏目がある。努力が報われるとも限らない、そんな厳しい戦いがそこにはある。
だからこそ、際どい試合になったときに勝ちを拾うような努力は必要だ。努力が勝ちに繋がる保証はないが、勝つための努力は最低条件なのだ。
その点でいうと、上田秋斗はミスらない。
そしてそれは、GP優勝という最高の結果をもたらした。新環境の【水魔導具】を信じプレイを深めた先にある、見事な勝利であった。
プレイヤーが己の相棒として共に戦うデッキを選ぶとき、そこには物語がある。
そしてデッキがプレイヤーに応えたとき、また新たな物語が生まれた。
おめでとう、上田秋斗!
そして彼の次なる物語にも、栄光があらんことを。 ※撮影時のみマスクを外しています。
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