全国大会2019 Round 5:荒木。(福岡県) vs. fogion(山口県)
ライター:小林龍之介
撮影者:後長 京介
fogionは全力で家族に向き合いたい、とデュエル・マスターズを引退した。
競技シーンは大好きだった。しかし、のめり込みすぎて家族との時間を取れなくなってしまうことが許せなかった。
そこからしばらくfogionの名前はDM界に現れない。
きっかけは偶然だった。
妻との旅行で東京を訪れ、時間潰しに入った小さなおもちゃ屋さん。
当時大人気だった「アルティメット・クロニクル・デッキ 2019 SSS!! 侵略デッドディザスター」がまだ売られているのが目に入った。
引退してからデュエル・マスターズのカードは全く買っていなかったが、このデッキがすごいという噂は聞いていた。
ここでの妻の一言が運命を動かす。
「あなたって結局カードやってるときが一番顔が楽しそうだよね」
そうだったのか。そうかもしれない。
そうしてクロニクルデッキを買ったことがこの物語の始まりである。
黎明期のCS文化を盛り上げたfogionの周りには強固なコミュニティが築かれていた。
引退前ほどデュエマに時間を注ぎ込める訳ではない。それでも、密度の濃い調整時間を取れるだけの土壌が整っていた。
誰であれ強くなりたい奴がいれば受け入れる。
荒木。もそんな北九州に育てられた若者である。
質の高い調整は結果に繋がった。2019年度九州エリア大会においてfogionは復帰から3カ月で、荒木。は高校2年生の若さで栄光への切符を掴み取った。
fogion「荒木。とはいつも一緒に調整しているし兄弟みたいに仲が良い、ダブルスだったらペア組んでるよ」
荒木。「デュエマはシングルスしか無いでしょ」
年齢としては一回り違う2人だが、雑にあしらわれるfogionに信頼関係が見て取れる。
全国が決まってからは2人で調整を重ねた。
大会が開催されるまでの2年半。
荒木。は成人になり、fogionは家を建てた。
生活環境が移りゆく中でも彼らはデュエル・マスターズへの愛を失わなかった。
では、全国大会について2人が出した答えを見ていこう。
アドバンスは60枚同一リストの【JO退化】を使っている。
オリジナルの結論は「【火単ブランド】と【JO退化】が強い」。
fogionは【火単ブランド】、荒木。は【JO退化】を選んだ。
どちらも最速3ターンキルが可能で高い火力を有している。
【火単ブランド】は《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》が【JO退化】や【5cビッグマナ】といった相手に強い。
【JO退化】は上振れだけでなくメタカードに対する《バッドドッグ・マニアクス》での回答や《アルカディアス・モモキング》によるS・トリガーケアなど、対応力の面で優っている。
fogion「相手のシールド5枚を信用するのか、自分の初手5枚を信用するのかの違いよ」
どちらも優れているデッキなことは分かった。あとは自分が後悔しない選択をしたのである。
準備は整った。いよいよ最高の舞台の幕が開ける。
荒木。・fogion「ここじゃないやん!」
5回戦の席に着いた二人は声を揃えて嘆く。
既に2敗している二人にとって、この対戦の敗北は2019年全国大会の終わりを意味する。
決勝で当たる予定だったのに、よりによって負けられないこのタイミングで……。
しかし、対面に座ったからには誰であろうと全力で打ち倒すのみ。
先攻:荒木。
fogionは《凶戦士ブレイズ・クロー》をチャージして《ブルース・ガー》を召喚。
荒木。「《凶戦士ブレイズ・クロー》出してくれよ~」
軽口は2人が調整で経た道のりを感じさせる。
2ターン目、荒木。は《禁断英雄 モモキングダムX》を召喚して退化の準備を整えた。
《未来王龍 モモキングJO》が下に置かれるまでの間、fogionは見えたS・トリガーの枚数を数える。《バッドドッグ・マニアクス》2枚、《新世界王の闘気》1枚が公開された。
順調に動きを進める荒木。に対して、2ターン目にfogion が提示したのは《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》。この壁を除かなければ《未来王龍 モモキングJO》での連続アタックには入れない。
荒木。の手札にあるのは《怒りの影ブラック・フェザー》。これが《バッドドッグ・マニアクス》だったなら。
練習では幾度となく出会ったシーンのはずなのに、荒木。の手が震える。
S・トリガーで《バッドドッグ・マニアクス》を複数枚踏ませたときのことを考えて、2体目の《禁断英雄 モモキングダムX》を召喚してターンを返す。
fogionの3ターン目が訪れた。
早期にS・トリガーを踏むと止まってしまう盤面だが、《バッドドッグ・マニアクス》がデッキに多く残っているのを見たfogionは今攻めるのが最善と判断した。
《ブンブン・チュリス》から進化した《我我我ガイアール・ブランド》を前に、姿勢を正す2人。
ここからは互いの気持ちをぶつけ合う運勝負だ。
1点。
荒木。「マジで頼むわ」
……違う。シールドはそのまま手札に入っていく。
1点。
ここで踏め、と手に力をこめる荒木。。
踏むな、と祈るfogion。
この最高にヒリつく一瞬のために2年半を費やした。
永劫にも思える一瞬が過ぎ。
荒木。「無いです」
息を大きく吐くfogion。
《我我我ガイアール・ブランド》をW・ブレイクに向かわせる。
シールドを確認した荒木。の動きは速かった。
荒木。「S・トリガー、《進化設計図》で」
このブレイクで打点が止まらなかったということは、最後のシールドを見るまでもなくゲームセット。2人にとっては既知の事実だ。
それでも最後まできっちりとプレイする。fogionが荒木。の全国大会に幕を下ろす。
最後のシールドは《新世界王の闘気》だった。
荒木。「いや最初の2点で来いよ!!!!」
そこにはさっきまでの張りつめた空気が嘘のように自然体の2人がいた。
WINNER:fogion
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