超CSⅦ広島 準決勝:わっしー vs. あかべこ
ライター:伊藤 敦(まつがん)
撮影:瀬尾 亜沙子
「ファイアー・バード」を駆るわっしーは、テンプレートに忍ばせた一振りの刃とともにここまで勝ち上がってきた。
「ドリームメイト」を選んだあかべこは、難解な地図を読み解いて宝の在り処まであと数歩のところまでたどり着いた。
この準決勝でフィーチャーマッチエリアに現れた2人の表情は、どちらも"今日はオレが優勝する日だ"と物語っている。全能の錯覚が、脳内麻薬を分泌し続けている。
それでも、勝者はただ一人なのだ。
対戦前に2人は、互いの先攻後攻を決めるべく予選通過順位を確認する。
あかべこ「自分6位です」
わっしー「えっ!?……一応確認してもいいですか?予選全勝ですか?」
あかべこ「はい。そちらも予選全勝ですか?」
わっしー「いや、1敗なんですけど……あ、大丈夫です」
わっしーの予選通過順位は、1敗ラインではオポネントほぼ最上位の10位。それもあって、ここまで来たらさすがに先攻ばかりと思っていたのだろう。だが先攻の優位性があまりにも大きい現環境において、互いに予選順位の恩恵を受けて勝ち上がってきた者同士だと知り、空気が一瞬弛緩する。
それでも、必勝の予感が揺らぐことはない。何せわっしーの「ファイアー・バード」には、後攻をまくる秘策がある。しかも2本先取だ。先攻のゲームを当たり前に勝利し、後攻のゲームを秘策で取れば、星勘定は有利に傾く。
既に熱量は飽和し、2人の間の空気は陽炎のごとく揺らめいている。"オレだ" 極限の死闘が迫る予感。"オレだ!" 鼓動が早鐘を打ち、視界が狭まっていく。もう止まれない。"勝つのはオレだ!" 優勝まで、日本一決定戦の出場権まであと2勝。限界のその先を目指す一戦が幕を開ける。
Game 1
先攻のあかべこは《配膳犬のトレス》チャージから《トレジャー・マップ》で《森夢のイザナイ メイ様》を回収というロケットスタート。この公開情報だけで、3ターン目にノーブレイクからの「光臨」がほぼ確定している。対するわっしーは《ハンプティ・ルピア》チャージのみだが、あかべこは予定調和の《配膳犬のトレス》で《森夢のイザナイ メイ様》の2枚目を回収する。一方、返すわっしーは《マジシャン・ルピア》をチャージしてエンド……すなわち出せるけれども、出さない。「マッハファイター」の当て先を不用意に作らないことが「ドリームメイト」相手の最善だと熟知している。
だがこの隙にあかべこは《配膳犬のトレス》チャージから《森夢のイザナイ メイ様》を召喚すると「ハイパー化」でタップし、ターン終了時に「光臨」。時間をかけて楯確認しつつ、山札から出したのは《激烈元気モーニンジョー》。これを見て、これから起こることを予測し苦笑するわっしー。手札から着地したのは《料理長のラビシェフ》。先攻3ターン目、4面展開+4ドローしてターンを返す。 返すわっしーはなおも《アシステスト・インコッピ》チャージのみ。するとこれを見てあかべこは《激烈元気モーニンジョー》チャージから《トレジャー・マップ》で《配膳犬のトレス》を回収すると、さらに《トレジャー・マップ》で《料理犬のヴィヤンドゥ》を回収からの《配膳犬のトレス》で《料理猫のプワソン》を回収。そして《配膳犬のトレス》の「ハイパー化」で《森夢のイザナイ メイ様》をタップし、エンド時に「光臨」。今度こそ着地したのは、《激烈元気モーニンジョー》からの《料理猫のプワソン》。さらに《ピザスターのアンティハムト》3連打からの《ベイB セガーレ》!
先攻4ターン目、《ベイB セガーレ》含みの9面展開。パーフェクトな構えだ。
わっしー「《配膳犬のトレス》が1体ハイパー化、で、盤面が全部ブロッカー?」
あかべこ「はい」 だが、わっしーはまだ勝利を諦めてはいない。マナチャージから《アリスの突撃インタビュー》!《龍后凰翔クイーン・ルピア》を捨てて《ベイB セガーレ》と《配膳犬のトレス》を破壊しつつそのまま蘇生すると、攻撃時に自壊しながら「メクレイド」。祈るようにゆっくりと見た3枚の中には……《雷炎翔鎧バルピアレスク》!
逆転の可能性はまだある。プレイヤーへの攻撃時に出したのは《アリス・ルピア》。ここでめくれる3枚がすべて着地し、かつ《ポッピ・冠・ラッキー》含みなら、追加ターン連鎖も狙える。
はたして落ちた3枚は……《ルピア&ガ:ナテハ》、《ポッピ・冠・ラッキー》……《瞬閃と疾駆と双撃の決断》。残念ながらこれだと盤面合計4体で、追加ターンが得られない。
しかもタップしている殴り先ができたことで、あかべこは返すターンに《ピザスターのアンティハムト》で《雷炎翔鎧バルピアレスク》に攻撃時に《森夢のイザナイ メイ様》に「革命チェンジ」して《ピザスターのアンティハムト》を回収。さらにあかべこが《料理猫のプワソン》で再び《雷炎翔鎧バルピアレスク》への攻撃時に《ピザスターのアンティハムト》出し直しからスピードアタッカーの《お目覚めメイ様》を着地させたのを見届けると、わっしーは潔く投了を宣言するのだった。
わっしー 0-1 あかべこ
「ファイアー・バード」と「ドリームメイト」の超速のぶつかり合いは、先攻が圧倒的有利というのが実情だろう。だからわっしーはそれを覆しうる殿堂カード、《瞬閃と疾駆と双撃の決断》を採用した。
もちろん《ハッター・ルピア》や《龍后凰翔クイーン・ルピア》の「メクレイド」にとっては1枚の非ファイアー・バードくらい支障にならないとしても、《アリス・ルピア》にとっては、自身と《アリスの突撃インタビュー》以外のハズレが入ってしまっていることは3体踏み倒しの成功率に影を落としかねない。
だがそれでもわっしーが《瞬閃と疾駆と双撃の決断》を採用しているのは、デメリットを上回るメリットがあると判断したからなのだ。
Game 2
《ルピア&ガ:ナテハ》と《ポッピ・冠・ラッキー》が2枚ずつに《アリスの突撃インタビュー》という初手を見てわっしーが顔をしかめるが、意を決して《ルピア&ガ:ナテハ》をチャージする。対してあかべこは《激烈元気モーニンジョー》チャージから《お目覚めメイ様》を送り出す。
そして2ターン目は予定通り《マジシャン・ルピア》チャージから《ルピア&ガ:ナテハ》を送り出したわっしーに対し、あかべこは《トレジャー・マップ》をチャージからの《トレジャー・マップ》で《森夢のイザナイ メイ様》回収。さらに《トレジャー・マップ》で《料理長のラビシェフ》を回収すると、《お目覚めメイ様》アタックからの「革命チェンジ」《森夢のイザナイ メイ様》!シールドブレイクが……通る!!
あかべこ「効果」
ターン終了時に「光臨」が発動する。楯確認ののちに出したのは《激烈元気モーニンジョー》。《料理猫のプワソン》が降臨し、さらに《料理長のラビシェフ》までもが着地する。後攻2ターン目にして早くも、タップ状態の《森夢のイザナイ メイ様》に加えて12500と5500のブロッカーが盤面に並び立つ。
いかにファイアー・バードといえど、この超速の大展開をまくるのは不可能に思われた……しかし。 返すターン、わっしーが唱えたのは《瞬閃と疾駆と双撃の決断》!出す効果2回で《ハッター・ルピア》+《ポッピ・冠・ラッキー》を送り出すと、即座に「ハイパー化」して攻撃。「メクレイド」で《龍后凰翔クイーン・ルピア》を着地させる。この攻撃をあかべこは《料理猫のプワソン》でブロックするが、なおもわっしーは《龍后凰翔クイーン・ルピア》による攻撃時に《ポッピ・冠・ラッキー》を「エスケープ」させながら、祈るように「メクレイド」する。
わっしー「……考えます」
その3枚は、《雷炎翔鎧バルピアレスク》《アリスの突撃インタビュー》《龍后凰翔クイーン・ルピア》というもの。
わっしー「……すみません時間もらいますw」
あかべこ「あー、いいですよ全然w」
運命を左右する3択から、わっしーが選んだのは《雷炎翔鎧バルピアレスク》。そして。
わっしー「2点ブレイクしたいです。通りますか?」
あかべこ「通ります」
W・ブレイク。トリガーは……ない!
続いて《雷炎翔鎧バルピアレスク》の攻撃時に《ハッター・ルピア》を出しつつブレイク。ここでもトリガーはなく、5体を破壊して《ポッピ・冠・ラッキー》と《龍后凰翔クイーン・ルピア》が残った状態で追加ターンに入る。もはやわっしーの眼前を遮る障害は、《料理長のラビシェフ》と残る2枚のシールドのみ。
そしてわっしーは《アリス・ルピア》を捨てながらの《アリスの突撃インタビュー》で《森夢のイザナイ メイ様》《料理長のラビシェフ》をまとめて破壊しながら《雷炎翔鎧バルピアレスク》を蘇生すると、《ハッター・ルピア》を出しつつブレイク……通る。さらに《龍后凰翔クイーン・ルピア》の攻撃時、《ポッピ・冠・ラッキー》を「エスケープ」しながらの「メクレイド」で《アリス・ルピア》にたどり着く!
《ハンプティ・ルピア》《アシステスト・インコッピ》《マジシャン・ルピア》が「スピードアタッカー」持ちで着地し、もはやあかべこが何をトリガーしようともダイレクトアタックを防ぐことはできないのだった。
わっしー 1-1 あかべこ
あかべこ「これ負けるか……」
後攻2ターン目《料理猫のプワソン》+《料理長のラビシェフ》を超えての先攻3キル。それを可能にしたのは間違いなく《瞬閃と疾駆と双撃の決断》の力だった。
準々決勝の3本目、LEMODOGMAの「水自然ジャイアント」相手に後攻からまくれたのも《瞬閃と疾駆と双撃の決断》があったおかげだった。《雷炎翔鎧バルピアレスク》が要求する頭数を確保しつつ打点を用意するには、《ポッピ・冠・ラッキー》を「メクレイド」初動と同時展開する必要がある。たとえ《アリス・ルピア》のハズレだとしても、後攻2ターン目「光臨」をまくれるならば採用しない理由はない。
やはり《瞬閃と疾駆と双撃の決断》にはすべてを覆す力がある。あとは1枚差しのそれを引けるかどうか。
最後のゲームが始まる。
Game 3
あかべこが《Disガンバ》チャージからの《トレジャー・マップ》で《料理犬のヴィヤンドゥ》を回収したのに対し、わっしーは《ハンプティ・ルピア》チャージでターンエンド。そのまま2ターン目も《料理猫のプワソン》チャージからの《トレジャー・マップ》で《激烈元気モーニンジョー》回収といまいちそうな動きのあかべこを見て、わっしーも《マジシャン・ルピア》を召喚して手札を整える。《瞬閃と疾駆と双撃の決断》も《アリスの突撃インタビュー》もない手札で、動き出しの遅さを嫌った形だろう。 だが、それがあかべこの起点となってしまう。すなわち《森夢のイザナイ メイ様》チャージからの《料理犬のヴィヤンドゥ》召喚、「マッハファイター」による攻撃時に《森夢のイザナイ メイ様》「革命チェンジ」!
みたび「光臨」が走り、《激烈元気モーニンジョー》→《料理猫のプワソン》→《激烈元気モーニンジョー》→《配膳犬のトレス》とつながって《ピザスターのアンティハムト》があかべこの手札に加わる。
返すわっしーはそれでもやれることをやるしかないとばかりに《ルピア&ガ:ナテハ》チャージから《ポッピ・冠・ラッキー》を送り出す。
しかしあかべこは、まず《料理犬のヴィヤンドゥ》を出して「ハイパー化」し、《ポッピ・冠・ラッキー》へと「マッハファイター」で攻撃。これが「エスケープ」でかわされるのを見るや、続いて《料理猫のプワソン》でプレイヤーに攻撃する時に《森夢のイザナイ メイ様》へと「革命チェンジ」。《激烈元気モーニンジョー》《料理猫のプワソン》のセットを出し直しつつ、登場時能力で《ピザスターのアンティハムト》から《お目覚めメイ様》を「スピードアタッカー」持ち、盤面ドリームメイト7体の状態で送り出す。
あかべこ「1点行きたいです」
《森夢のイザナイ メイ様》のブレイク。「G・ストライク」でも《アリスの突撃インタビュー》でも、《お目覚めメイ様》の攻撃さえ止まるなら何でもいい。
わっしーがゆっくりとシールドを確認する……そして。
そのシールドはそのまま、わっしーの手札に重なる。
やがて《お目覚めメイ様》が、目覚めの欠伸とともにゲームに決着をつけたのだった。
わっしー 1-2 あかべこ
わっしー「マジかー!1枚隣だったら……」
最後、《ポッピ・冠・ラッキー》が「エスケープ」して手札に加わった楯が《アリスの突撃インタビュー》だった。紙一重の決着……天秤がどちらに傾くかは、ギリギリまで本当にわからなかった。
あかべこ「っしゃー!運が良いー!」
対し、あかべこは自らの運の良さを誇る。最後の《お目覚めメイ様》は、直前の《ピザスターのアンティハムト》のドローで引き込んだものだった。それだけでなく、予選全勝からここまでで、先ほど落とした1ゲームが初めての敗戦だというのだ。
--「これまで大型大会などで活躍された経験はありますか?」
あかべこ「最初の超CS熊本で128位に入ったことがあるくらいですかね。あとはKDFっていう小倉の大会で4位になったのと、CS優勝が何回かとか。まあ、10年くらいやってるんで」
--「今回ドリームメイトを選択した理由を教えてください」
あかべこ「直前までこれかファイアー・バードかでずっと悩んでて、決め手としては明らかにこっちの方が好きで触ってたんですよね。やってる時間的にもこっちの方がいいし。あと自分の周りでDMGP2nd準優勝の尖迅さんがいるんですが、このデッキのことをすごい研究してくれて。それで彼が決勝で打った《トレジャー・マップ》を自分も決勝で打ちたいと思ったんです」
あかべこ「尖迅さんはドリームメイトがまだ流行りだす前に《ベイB セガーレ》を入れ始めた人で。メタクリの枚数とか、細かい枚数を相談に乗ってくれて、軽い気持ちでDM送ったらぶわーっと長文で返ってきて。なので自分は上手い人が頑張って必死こいて研究したデッキを40枚パクって、運で勝ったというだけですよ」
謙遜しているが、あかべこ自身の練度もまた極限の領域に至っていることは明らかである。
極限の先にあるのは運だった……だがそれは人の手で届く範囲を徹底的に突き詰め、もはや天命を待つしかないという状態にまで己を追い込んだ者にしか掴めないものなのだ。
Winner: あかべこ
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