最強位決定戦:メタゲームブレイクダウン~アドバンス~
ライター:河野 真成(神結)
この記事は参加者の使用デッキや証言を元に、今大会の環境について分析することを目的としている。アドバンスは計3試合と少なく、全体を通した比重では3分の1の試合数だ。
そして参加した31名のデッキは以下の通りとなっている。
使用者数 | デッキ名 |
---|---|
6 | 水魔導具 |
6 | 水闇サガ |
4 | 4c“魔神轟怒”万軍投 |
3 | 水闇自然ジャオウガ(うち、ハンデス軸が1) |
3 | 自然単オービーメイカー |
3 | 水火アポロヌス |
1 | 火自然"逆悪襲"ブランド |
1 | 火自然アポロヌス |
1 | 光水ネバーループ |
1 | 闇火侵略 |
1 | 5cコントロール(60枚) |
これを元に、今大会のメタゲームを紐解いていこう。
分布数から見るメタゲーム
使用数最多は、【水魔導具】と【水闇サガ】で、それぞれ6名。6/31であるから、全体の20%ほどだ。以下、5色ないし光を外した4色の《“魔神轟怒”万軍投》のデッキ、水闇自然(俗に「アナカラー」などと呼ばれる)の《CRYMAX ジャオウガ》のデッキ、そして自然単の《十番龍 オービーメイカー Par100》などと続いていく。
さて、分布そのものについて言えば上位2つで計40%程ということになるが、この数字自体はごく一般的なメタゲームの分布数の範疇と言えるだろう。
特に今回の最強位決定戦のように、少人数での競技性の高い大会ともなれば、上位デッキに分布が偏る傾向が強い。
参考までに数字を挙げておくと、全国大会2019のアドバンスでは【JO退化】の使用率が50%を超えており、全国大会2018の2ブロックの【水火クラッシュ覇道】の使用割合は12/40と、ちょうど30%だ。
そう考えると今回のアドバンスのメタゲームはむしろ使用デッキが分散した方だと言える。
もちろん「デッキの分布が分散すること」と「各デッキの強さが均一なこと」がイコールではないのがメタゲームだ。
ここでいう「デッキの強さ」とは、絶対的な強さを指すものである。この概念を説明するのはやや難しいが、「無作為にあらゆるデッキと対峙させた際に、期待出来る勝率が高い」ことが、絶対的な強さと言えるだろうか。
基本的には絶対的な強さを持つデッキがメタゲームの上位に食い込んでくることになるが、必ずしもそれだけではない。
各デッキには相性が生じるし、特定の上位デッキに対して有効なカードを採用しやすいデッキなどは「相対的な強さ」を有しているためメタゲーム上に食い込みやすい。
例えば全国大会2019で言えば、【JO退化】も【グルメ墓地ソース】も共にデッキとしてはかなり強かったものの、結果として【JO退化】が数で圧倒した。これは【JO退化】が【グルメ墓地ソース】に対してかなり有利だったからだと考えられる。後者のわかりやすい例がすぐに思い付かないので省略するが、「いま〇〇が強いから、それに有利な××はいける」なんて会話は頻繁に耳にするだろう。
これを踏まえて、プレイヤーたちの話を聴いていこう。
証言① アドバンスの読みにくいメタゲーム
大前提として、今回のアドバンスのメタゲームを攻略するのは参加者にとって非常に難解なものであった。「アドバンスはとにかくメタ読み(メタゲームの予想すること)が難しかったので、特定のデッキがどうこうというより、大雑把な傾向を踏まえてデッキを選ぶ必要がありました」(ぴゅう/DMGP2022day2 準優勝)
「アドバンスは……難しかったですね。どちらかといえば『なんでも勝っている』という印象で、雑多な環境になるのかなとは思っていました」(上田歌劇/DMGP2022day2 優勝)
メタゲーム予想をする際に直近の大会での結果を参考にするのは自然であるが、2月18日に「ヒーローズ・ダークサイド・パック ~闇のキリフダたち~」が発売されてからの2週間で、アドバンスのCS数自体が決して多くなかった。情報が多いオリジナルに比べると、かなりの差が生じている。
また本大会での回戦数の都合もあって、参加者の多くはオリジナルの方に注力するだろうことも想像出来る。
こうなると、数少ない情報から分布を読むか、或いは他の参加者の選択をある程度想像して補っていくしかない。ぴゅうが言ったように、「傾向」のようなものは把握出来たとしても、メタゲームを読み切るのは難しかったかもしれない。
だからこそ、その辺りはある程度予測で補う必要がある。そして予測というのは、人によってブレが生じる。
デッキの分布が分散した要因に、この「メタゲームの読みにくさ」というのは挙げられるだろう。
証言② 《絶望神サガ》が与えた影響
その上で、今大会で意識せねばいけないカードがあった。それが、《絶望神サガ》の存在だ。 「アドバンスのデッキを決めるにあたって、オリジナルで最強の《絶望神サガ》からまずは触ってみようという人が多いだろうとは思っていました」(◆ドラ焼き/最強位)
「トップシェアとして予想したのはまず【水闇サガ】です。あとはサガに勝てる【自然単オービーメイカー】でしょうか」(どんよく/2022年度DMPランキング下半期1位)
オリジナル環境で《絶望神サガ》のデッキが猛威を奮っているのは周知の事実である。
恐らく大抵のプレイヤーがオリジナルのプレイ時間の方が長いだろうから、それならばアドバンスのデッキの検討をする際にも、まずは《絶望神サガ》を触ってみようと考えるのは自然なものだ。
ぼんやりはしているものの、スタート地点はサガ。そのままサガのデッキを考えるプレイヤーもいるだろうし、サガに勝てるデッキを考えるプレイヤーもいるだろう。
そして幸いなことに、アドバンスで《絶望神サガ》に勝てるデッキはそれなりに存在している。
強力で速度のあるループデッキであるサガだが、例えばどんよくが挙げた【自然単オービーメイカー】は、充分サガに勝つことが出来る。逆に前環境の覇者だった【ガイアッシュ覇道】はサガに勝てないため、選択肢からは消えていく。
これらのプレイヤーのコメントを併せて考えると、今大会でデッキを持ち込む際に考えるべきことは、大枠としては以下の通りになるだろうか。
「現段階でのアドバンスのメタゲームはぼんやりとしているので、それを元に考えるのは難しく、ある程度は予想を立てて考察せねばならなかった。ただし【水闇サガ】は誰もが思い付く選択肢であり、強力であることから、サガを起点としたメタゲームにはなるだろう」
プレイヤーの選択肢は「サガを使う」「サガに勝てる環境デッキを使う」「サガが生み出す環境の中で、全体的に勝てそうなデッキを見付けてくる」ということになるだろうか。
デッキの分散は、この判断の分散であると言えるだろう。環境の軸となったのは、《絶望神サガ》だったというわけだが、選択に可能な幅の広さはアドバンスにはあったというわけだ。
それぞれの思惑と結果
では、今回使用されたデッキたちを改めて見ていこう。水闇サガ
まずはメタゲームの起点として考えられる【水闇サガ】だ。「サガを使う」の選択そのものである。
目黒片倉ドラゴン デュエル・マスターズ 最強位決定戦 アドバンス構築 |
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このデッキについての詳細を雄弁に語るより、使用者の以下のコメントの方が何よりもわかりやすいかもしれない。
「【水闇サガ】以外のデッキには強さを感じなかったんですよね」(目黒片倉ドラゴン)
なお目黒片倉ドラゴンは、アドバンスで見事3-0を決めている。
水魔導具
水闇サガへの対抗馬として、一番多かったのが【水魔導具】だ。
上田歌劇 デュエル・マスターズ 最強位決定戦 アドバンス構築 |
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《絶望神サガ》のループを止めるための手段として《ガル・ラガンザーク》があり、呪文耐性を持ち出し直しもしやすいこのカードは、簡単には突破されない。
またその上で、墓地リセットカードである《凶鬼98号 ガシャゴン / 堕呪 ブラッドゥ》を新規に獲得。メタカード+墓地リセットというサガデッキに対して有力な対策を持てるようになった。
ただしプレイヤーたちは、それだけではこのメタゲームを勝ちきれないと思っていたようだ。
特に上田歌劇が使用した《DG-パルテノン ~龍の創り出される地~》は面白い。
元々対サガのメタカードとして注目されてはいたが、初動としては弱く、マナカーブを阻害し、色の出ないこのカードを上手く使うのは難しかった。
その点、【水魔導具】は上記の問題を解決している。
「これまでの【水魔導具】は早期に《ガル・ラガンザーク》を建てるために《卍 新世壊 卍》を埋めるということもありました。結果ジリ貧になるというのは、このデッキの負けパターンです。《DG-パルテノン ~龍の創り出される地~》は自分の動きである《卍 新世壊 卍》を貼ったあとの3ターン目に置くことも出来ますし、リソースを残しながら戦うことが出来ます。【水魔導具】が、一番パルテノンを上手く使えるデッキだと思っています」(上田歌劇/DMGP2022day2 優勝)
3ターン目に《ガル・ラガンザーク》を建てるには多くが《堕呪 バレッドゥ》要求であり、《堕呪 ゾメンザン》を空撃ちすることもあった。3ターン目に建てたはいいが、その後2~3ターン有効な動きが出来なかった、というケースも多い。その点、《DG-パルテノン ~龍の創り出される地~》は手札を残しながらプレイが可能で動きやすい。
また【水魔導具】が苦手としている【自然単オービーメイカー】についても、切り札である《十番龍 オービーメイカー Par100》の着地を大きく妨害が出来る。
加えて【水魔導具】のマナカーブは自由度が高く、パルテノンとくっつけてプレイ出来るカードも多い。上田歌劇の言うとおり、水魔導具はパルテノンの使いにくさを解決していると言えるだろう。
一方、別なアプローチを【水魔導具】に加えたプレイヤーもいた。
どんよく デュエル・マスターズ 最強位決定戦 アドバンス構築 |
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《ゴゴゴ・Cho絶・ラッシュ》は以前より【水魔導具】と相性のいいカードとして、このデッキでしばしば採用されている。
ただ今回の採用には、明確な仮想敵が存在していた。
「サガと並ぶトップシェアとして【自然単オービーメイカー】は意識せざるを得ません。【水魔導具】はこのデッキが厳しいのですが、《ゴゴゴ・Cho絶・ラッシュ》は手撃ちであれトリガーであれ、オービーに対して最低でも2ターンは稼いでくれます。これで貰ったターンで《卍 新世壊 卍》の起動が出来るので、この環境だと外せない1枚だと思っています」(どんよく/2022年度DMPランキング下半期1位)
いずれにせよ、今後の【水魔導具】は魔導具以外のカードをタッチするのが主流になってくるのかもしれない。
“魔神轟怒”万軍投
近年では《とこしえの超人》や《流星のガイアッシュ・カイザー》の影響もあってやや下火となっていたGR軸のデッキだが、この大会においては使用者を伸ばすこととなった。
◆ドラ焼き デュエル・マスターズ 最強位決定戦 アドバンス構築 |
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使用の理由について、◆ドラ焼きは次のように回答している。
「環境デッキと予想したのは、サガとオービー、そして水魔導具です。サガに厳しい【ガイアッシュ覇道】は、もう環境外と考えました。マグナはオービーには五分で、そこ以外の想定デッキには有利に戦えます。ガイアッシュと【赤青アポロ】に当たったときは最初から割り切っていましたね」(◆ドラ焼き/最強位)
予想された上位デッキに対して強いのに加え、苦手だった【ガイアッシュ覇道】が後退しているのも追い風となった。
このデッキの魅力は《“魔神轟怒”万軍投》から出てくるGRクリーチャーでのリソース量にある。これが凄まじいために中盤以降の戦いでは滅法強く、しかしそれでいて序盤の戦いでも使えるカードを採用出来る自由度も魅力だ。
「《イデア・パラドックス》の登場は大きかったです。あのカードのお陰で、オービーなんかに対するアプローチが手に入りました」(◆ドラ焼き/最強位)
「サガに対しては《闘争類拳嘩目 ステゴロ・カイザー / お清めシャラップ》の呪文面から《龍素記号wD サイクルペディア》へと繋いで、墓地のリセットを重ねます。この時に相手は4マナなので、どうやってもループには入れません。そこで貰ったターンで、《“魔神轟怒”万軍投》や《終末王秘伝オリジナルフィナーレ》といったカードを撃つことができます。どっちかが撃てればだいたい《とこしえの超人》がくっつくので、大量のリソース+とこしえの状況を作れて、こうなるとほぼ勝ちですね」(のすけ/全国大会2019出場)
GRを巡るやり取りは超天篇を経験していないと意外と難しい。【4cデイヤーループ】の知見は、大いに役立ったことだろう。
そして使用者であった◆ドラ焼きとみみみは予選を突破し、のすけはアドバンスで3-0を決めている。今大会におけるアドバンスの「勝ち組デッキ」と判断していいだろう。
その他
以上が上位3デッキであるが、それ以外の選択についても紹介していきたい。【水闇自然ジャオウガ】や【自然単オービーメイカー】といったデッキの分布はある程度想定通りではあるが、【水火アポロヌス】もそこに並ぶだけの使用数を見せた。
ひんた デュエル・マスターズ 最強位決定戦 アドバンス構築 |
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このデッキは前環境から活躍の通り、シンカライズを持つタマシードや《ネ申・マニフェスト》で下地を整え、《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》からの打点を叩き込むデッキである。特に《ネ申・マニフェスト》のシンカパワーさえ発動してしまえば、《護天!銀河MAX》のようなトリガーでもない限り、アタックを止めることは難しい。
「【水火アポロヌス】を選択した理由は《R.S.S. アアルカイト》のお陰でメタカードを突破しやすいのと、プランが通ったときのリターンが大きいためですね。とにかくメインプランである《超神羅星アポロヌス・ドラゲリオン》の打点を作るため、サブプランとなりそうなカードも落として安定性重視のリストにしました」(ひんた/超CSⅣ宮城 優勝)
環境の予想が難しいときは、ビートダウンを選択するというのは1つの策でもある。迷うなら殴れ、というやつだ。同じデッキを使用したがらがらどんは、3-0を決めている。
またそれぞれ使用者は1であったが、ぴゅうとDAIDORAのデッキ選択理由は近くて面白い。
ぴゅう デュエル・マスターズ 最強位決定戦 アドバンス構築 |
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「サガがいる都合上、(トリガーなどで)受けるデッキはほぼいなそうだと判断したので、ビートダウンの通りは良さそうだと思っていました。中でも(知人の)スパゲさんに激推しされたのが【闇火侵略】でした。アドバンスは2種のトリッパーが強くて、盤面がなくても《覇帝なき侵略 レッドゾーンF》のお陰でワンショットが狙えるようになっています」(ぴゅう)
DAIDORA デュエル・マスターズ 最強位決定戦 アドバンス構築 |
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「使用したのは【火自然”逆悪襲”ブランド】です。サガが最大数で、次点がオービーだと思っていましたが、両方に対して有利が取れています。他のデッキを考慮した際にも、サガのお陰で受けるデッキは少ないと思っていました」
いずれもサガ環境を見越した上での選択であるが、「傾向」としてサガに不利であろう受けデッキを切った選択である。
ぴゅうの【闇火侵略】はやや速度を落としているが、それを《影速 ザ・トリッパー》で補う構築となっている。また手からの侵略を使えば《とこしえの超人》や《若き大長老 アプル》といった流行のメタカードの影響を受けることはないし、G・ストライクも《覇帝なき侵略 レッドゾーンF》がケアしてくれる。面白い選択だ。
本人は3-0する気満々だったようだが、2-1とまずまずの成績に纏めた(うち、1回戦の不戦勝を含むのだが)。
またDAIDORAの【火自然"逆悪襲"ブランド】は、【赤単我我我】のような突破力はなく、メタカードで作った時間のうちに6点叩き込んで勝つデッキである。こちらも受けるデッキを少ないと見越せていないと選択は出来ない。
【闇火侵略】にせよ【火自然"逆悪襲"ブランド】にせよ、何かしらのギミックでターンを貰ったり、動きを止めたりする必要はある。この辺りは単純に6点を叩き込む【水火アポロヌス】との差別点だろう。
以上のように、ビートダウン系のデッキは通りがよさそうだと考えたプレイヤーも多かったようだ。これは「サガが生み出した環境の中で、勝てそうなデッキ」を見付けてきたものであると言えよう。
総括
総括すると【水闇サガ】というデッキがトップにいて、それに勝ちうるデッキが以下に続いていく格好となった。デッキ分布上は分散した結果となったが、各プレイヤーのコメントを見るにやはり《絶望神サガ》の影響はやはり計り知れない。そこだけ切り取ると「予想通り」と思った方も多いだろうが、その上でもう一段階深掘りしてみて欲しい。今大会のアドバンスは「デッキ選択」にも「デッキリスト」にもそれぞれプレイヤーの工夫があって、見所の多かったように思う。
その工夫については、プレイヤーの言葉を元になるべく紹介してみたつもりだ。
もしアドバンスのゲームに魅力を感じたのなら、是非とも大会に参加してみて欲しい。
この記事が参考になったのなら幸いだ。
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