全国大会2024 東海エリア予選:メタゲームブレイクダウン
ライター:川﨑 大輔
撮影:後長 京介
前回までのあらすじ
三つ目の大会となったエリア代表決定戦。2ブロックという開催数の少ないレギュレーションだけに「共有されたメタゲーム」が少なかったものの、二つの大型大会を経て、いよいよ大枠での環境の姿は全体で共有されるようになった。一方でその共有されている全体というのはあくまでも「エリア予選参加予定者」の全体でしかない。結局、2ブロック自体はオリジナルやアドバンスに比べればまだまだマイナーなレギュレーションであり、ここまでの逆に「エリア予選参加予定者」以外でこの環境についてここまでの2大会を追いかけて来ている方は少ないだろう。
しかし、今期の2ブロックはかなり面白い。いや、2ブロック(やその前身となったブロック構築)は毎年独特のメタゲーム展開となりいつだって面白い。特にカードプールが成熟しつつ新カードも追加されていく年末年始のエリア予選での2ブロックは面白くて、特に全国大会に出場するモチベーションはない筆者も2ブロックが見れるというだけでエリア予選の復活を喜んだぐらいだ。そんな筆者の立場として言わせてもらうと今期の2ブロックは特に面白い。
というわけで、ここまでの2ブロックを追いかけていない人でも東海エリアのメタゲームブレイクダウンを楽しんでもらいたいと思ったのでまずは北海道・東北の両エリアのメタゲームを簡単にまとめさせていただきたい。
逆にここまでのメタゲームを見ている人には蛇足的な記事内容になるので、そういう方はこの後の今回のあらすじまでスクロールしていただけるとありがたい。
また、むしろさらに細かく知りたい方のためには以下の記事がさらに詳しい。
全国大会2024 北海道エリア予選:メタゲームブレイクダウン
全国大会2024 東北エリア予選:メタゲームブレイクダウン
北海道エリアメタゲーム
10 水自然ジャイアント9 火水マジック
9 ゼニス( 7 火自然、 1 光水自然、 1 闇自然)
6 ターボマジック
4 COMPLEX( 2 XENARCH、 1 メカXENARCH、 1 トリガーコントロール)
3 闇自然アビス
4 その他(1 光水自然超化獣、 1 火水闇プレジール、 1 エルボロム、 1 アーマード)
特に、過剰打点による殺意であらゆる環境でおなじみの火水マジックよりも、オリジナルなどでも少数派である水自然ジャイアントが数で上回っているのは象徴的だと言える。カードプールの関係で多くの(最近で言えば光水闇マーシャルに代表される)ループデッキや、《ヘブンズ・ゲート》系のデッキが存在しにくいことにより、《チアスカーレット アカネ》のマッハファイターからの革命チェンジで盤面の取り合いに強いジャイアントの方がメタゲーム的に優位であるということだ。
端的に言うと、いわゆる地上戦最強の環境だと言える。 続いて、同じくこのカードプールにおいて圧倒的な出力を誇る水晶マナギミックを持つゼニス系のデッキが人数が多い。水晶マナギミック自体はゼニス・セレスに限らず各文明のゼニスが描かれた呪文サイクルやアンノウン・セレスたちも水晶マナを溜める時間があれば圧倒的なカード出力を誇るのだが、通常環境では(例えば《ヘブンズ・ゲート》のように)少し早いターンに近い系統で出力を発揮してしまうアーキタイプが存在するので注目されにくかった。最近では《DG-パルテノン ~龍の創り出される地~》の採用のしやすさからメタゲーム的な立ち位置が見直されオリジナル環境でも注目されつつあるが、やはりカードパワーでの採用という意味では2ブロックの方が特殊だと言えるだろう。
また、すべてのゼニス系のデッキが自然文明をベースにしており、これは当然ながらマナを増やしやすい自然文明がゼニスと相性がいいのもあるが、一方でジャイアント同様に地上戦では無類の強さを発揮する《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》を採用できることも影響していると思われる。実際、この環境で着地してしまった《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》に対処するのは難しい。 続いて、革命チェンジと水晶マナという環境トップ2の出力のギミックを併せ持つこともあり直前で注目されたターボマジックが続く。
こちらのデッキはほぼ2ブロックでしか存在していないデッキなので、ご存じない方のために簡単に説明すると、水晶マナ武装4を達成した状態の《グレート・流星弾》を《芸魔王将 カクメイジン》から使い、《氷柱と炎弧の決断》などで同ターンにディスカード済みの《芸魔龍王 アメイジン》などで使いまわしていくことで最終的に《der'Zen Mondo / ♪必殺で つわものどもが 夢の跡》を使いまわし続けて勝利するデッキだ。
水晶マナによるマナ加速が通常環境では存在しえない《芸魔王将 カクメイジン》での≪♪必殺で つわものどもが 夢の跡≫プレイにつながったりと、ただ強いギミックを合体させただけのデッキと言えないほどにギミック同士のシナジーが強く、完成度の高いデッキとなっている。また、この環境のデッキの中ではかなり珍しいくらいにコンボに寄っており、チャージャーからの《芸魔隠狐 カラクリバーシ》始動であればマッハファイターの的を置くことなくコンボを指導できることから地上戦メインの環境へのアンチテーゼともなっている。
その他、地上戦がメインの環境ならばむしろ強いはずだと《DARK MATERIAL COMPLEX》や《死神覇王 ブラックXENARCH》をメインで、もしくは上位デッキのサブプランに組み込んだデッキも模索されていたが、大筋では
・革命チェンジ強すぎる
・水晶マナもやはり強い
・メインは地上戦
という3点がこの環境の方向性だと示された大会であった。
トップ8は以下の通りとなった。
4 水自然ジャイアント
1 火水マジック
1 ターボマジック
1 火自然ゼニス
1 メカXENARCH COMPLEX
決勝はターボゼニスvs.水自然ジャイアント。
思惑通り準決勝・決勝と水自然ジャイアント戦を引き当てデッキ相性的にはメタゲームの勝者となりえたターボマジックのセキボン選手ではあったが、水自然ジャイアントのリノグレ選手はベストに近い動きで毎ターンセキボン選手に回答を要求する動きを続け、ほぼ先手後手の差で敗北することとなった。個人的にはターボマジックの最大の弱点である受けの弱さを1回戦目の火水マジック戦で付かれて敗北していたことで決勝の先手を取れなかったのが大きかったのではないかと思う。
全国大会2024 北海道エリア予選決勝戦:セキボン vs. リノグレ
こうして、攻め最強のマジック←地上戦最強のジャイアント&ゼニス←コンボのターボマジック←攻め最強のマジック←………という一旦のメタゲームの三角形も提示された大会だったと言えるだろう。
東北エリアメタゲーム
25 水自然ジャイアント11 闇自然ゼニス
10 火水マジック
7 光水自然ゼニス
5 ターボマジック
4 火自然ゼニス
4 光闇メカ
3以下 13デッキタイプが18人
翌週に開催された東北エリアにおいても大多数の動きは変わらなかった。ひとつの理由として、北海道予選のカバレージが掲載されたのが木曜日だったこともあり、最新のメタゲームがまだ周知されていなかった、もしくはされていたとしても対応が間に合わなかったことが言えるだろう。
したがって東北地方のメタゲームにおいても基本的な部分では違いはないが、強いて大きな違いを上げるならゼニスの主流が火自然ゼニスではなく闇自然ゼニスとなっているところだろうか。 店舗予選で行われていた2ブロックメタゲーム初期に特に早期着地する《「呪怨」の頂天 サスペンス》の強さから注目されていた闇自然ゼニスだが、早いターンに盤面を構築するデッキが増えてきた結果、《「呪怨」の頂天 サスペンス》では遅いということで《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》に注目するなら闇である必要はないだろうとゼニスは多様性を身につけていった。
だが、前述のメタゲームブレイクダウン記事の言葉を借りるなら「メタは一周した」ことになる。ターボマジックを始めとした手札をため込むタイプのデッキが増えてきたことから《「呪怨」の頂天 サスペンス》を4ターン目に召喚することにメリットが産まれ、そして何より地上でクリーチャーのぶつけあいをしている中での《深淵の逆転撃》は(相手のマッハファイターは当然処理できないが)直接除去という他にはないメリットで存在意義を主張していた。
また、ここで直接除去にメリットが産まれた話と重なるのだが、多くのプレイヤーが大量のテストプレイをしていく中でひとつ気がついたことがあった。
環境の盤面の取り合いがマッハファイターに依存しており、そしてマッハファイターを利用しないデッキのメインギミックが火水マジックのギミックである関係でマッハファイターに依存しないデッキはスピード・アタッカーに依存している。そして直接除去で≪ボン・キゴマイム≫をどかそうとすると、横にいる≪同期の妖精≫が邪魔になるわけだ。じゃあ、≪同期の妖精≫をマッハファイターで倒そうとすると、そこには≪ボン・キゴマイム≫がいる。
≪ボン・キゴマイム≫の弱点を≪同期の妖精≫が補い、≪同期の妖精≫の弱点を≪ボン・キゴマイム≫が補う。当然、オリジナル環境やアドバンス環境でも同時に使われる両方のカードであり、それも強いのだが、まぁ、なんだかんだで対処できるカードがあったり、カードパワーで上から踏みつぶして勝っちゃったりしてなんとかなってるからなんとなくスルーしていたはずが、改めてカードプールが狭く対応カードが少ない状況になって改めて実感してきたわけだ。君たち並ぶとヤバくない?
≪ボン・キゴマイム≫に追加して《爆藍月 スケルハンター》まで投入し徹底的にマッハファイターとスピード・アタッカーを止め、さらにそのゲーム展開であれば双方ともにクリーチャーが並ぶ前提での《ボルシャック・ガラワルド》での一方的な除去。「その大会で最もメタゲームを読み切って、その大会で勝つためだけに作られたデッキ」を仮にソリューションと呼ぶのならば、このいけの火水ガラワルドは火水ソリューションを名乗るにふさわしいデッキであったと思う。
もはや、≪ボン・キゴマイム≫と≪同期の妖精≫が並んで対処できないデッキは厳しいことが共通認識となり、その組み合わせをどうにかするカード選択をすることがメタゲームでのし上がる第一段階となった現在ではソリューションを名乗れるかはわからないが、少なくとも、この瞬間だけで言えばこのデッキはソリューションだったのだ。
全国大会2024 東北エリア予選決勝戦:いけ vs. さちぼう
決勝戦では惜しくもトリガー差で敗北してしまったが、将来この環境の2ブロックが語られる時に改めて名前があげられるデッキリストであると思う。
一方で、この≪ボン・キゴマイム≫≪同期の妖精≫問題にすでに対応しているデッキもこの大会には多く存在していた。
†カナタ† 全国大会2024 東北エリア予選 2ブロック構築 |
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その中でも白眉と言えるデッキリストは、†カナタ†選手が持ち込みトップ4まで進出した光水自然ゼニスだ。
レインボーカードの少なさから3文明デッキが厳しいと言われていた今年の2ブロックにおいて、強力な受けトリガーでありながら3文明の《プリンセス・パーティ ~シラハの絆~》を投入して3文明化するというアプローチは、例えば北海道エリアで大谷選手がトップ16に入賞した光水自然ゼニスで採用しており、カバレージ席でも話題となっていた。
しかし、†カナタ†選手のリストが白眉だったのは前述の≪ボン・キゴマイム≫≪同期の妖精≫問題に二つのアプローチで回答を用意していたことによる。
当然現環境で《蒼神龍トライクラブ・トライショット》が多く採用されているのもそこに理由があるのだろうが、†カナタ†はさらに《「狡智」の頂天 レディオ・ローゼス》を採用してきた。
《蒼神龍トライクラブ・トライショット》と違い、《「狡智」の頂天 レディオ・ローゼス》は4ターン目に手打ちで召喚できてしまい、そして4ターン目に召喚された《「狡智」の頂天 レディオ・ローゼス》は水自然ジャイアントが4ターンかけて作り上げた盤面を≪同期の妖精≫が居ようとも無にする。これまで、《「呪怨」の頂天 サスペンス》《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》《「使命」の頂天 グレイテスト・グレート》に比べて環境で戦うには力不足と目されていた《「狡智」の頂天 レディオ・ローゼス》だったが、メタゲームの中で他にはない優位性をここで獲得している事にいち早く†カナタ†選手は気がついていた。 そして、もうひとつの≪同期の妖精≫≪ボン・キゴマイム≫対策が、3文明化によって採用可能になった《聖霊超王 H・アルカディアス》の存在だ。当然、呪文停止などの要素も強いのだが、実は《聖霊超王 H・アルカディアス》に求められている最大の要素はその「ハイパー化」という能力そのものにあった。もっというと、《聖霊超王 H・アルカディアス》のハイパーモードの能力を求めてこのカードが採用されているのではなく、環境で一番強いハイパー化能力を持っているのが《聖霊超王 H・アルカディアス》だったので採用されている可能性があるのだ。
というのも、ハイパー化はその副産物としてクリーチャーをタップすることができる。つまり≪ボン・キゴマイム≫が居ても《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》をタップして相手の攻撃を封殺できるし、なんなら、その後も(シールドブレイクのリスクなく)タップし続けて盤面が有利になるのを待つことができるのだ。デッキの性質上、いわゆるビッグマナに分類されるゼニス系のデッキにとってリスクなく時間を稼げるのは、自分に得意な時間帯で戦う権利を獲得することにほぼ等しい。
実際、東海エリアで話を聞いた多くのプレイヤーも「東北の光水自然ゼニスから環境のインスピレーションを得た」「東北の光水自然ゼニスと回してみたらきつすぎて諦めた」「東北の光水自然ゼニスが増えるなら勝てるデッキだと思った」といったコメントがあり、直前のデッキとしては強くその後の環境に影響を与えたデッキだったと考えていいだろう。
今回のあらすじ
というわけで、長くなってしまったがこれが東海エリア予選が始まるまでのメタゲームだ。まとめると・革命チェンジ強すぎる
・水晶マナもやはり強い
・メインは地上戦
そして
・≪ボン・キゴマイム≫≪同期の妖精≫が並ぶとヤバい
この点を中心にここまでのメタゲームは推移しており、そして、カードプールが増えていない以上は東海エリアもほぼ同じ軸で話が進むと考えられる。それでは早速デッキ分布をみて行こう。
16 自然系ゼニス(8 光水自然 4 火自然 3 闇自然 1 水闇自然)
14 ターボマジック
12 水自然ジャイアント(2名ゼナーク入り 1 光水自然)
8 火水マジック
7 闇自然アビス
5 コンプレックス(3 光水闇 2 光闇)
4 エルボロム(2 光水闇 1 光水闇コンプ入り 1 光水)
1 火水闇プレジール
1 光闇ゼナーク
1 火光アーマード
1 水単ゼニス
以上のような形になった。
まず、第1位となったのは自然系のゼニスデッキ。
特に、東北で勝った光水自然型の躍進は恐ろしく、また、選択した8名のうち7名が《「狡智」の頂天 レディオ・ローゼス》を採用した形であったことも含めて、直前で登場したこのリストが環境に与えた影響力はすさまじかったことが伺える。
また、自然系ゼニスの中でもうひとつ注目するべきは4名使用の火自然ゼニスで、こちらは使用人数こそ少ないものの、2/4でトップ16に入賞しており、そしてトップ16に入賞したnobuo選手とBitMEX選手が使用したリストは40枚が完全に同じでこのリストに限ったトップ16進出率は100%である。
BitMEX 全国大会2024 東海エリア予選 2ブロック構築 |
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このリストでは《聖霊超王 H・アルカディアス》の代わりに《ボルシャック・ハイパー・アークゼオス》を採用することで(ターボマジックへの相性は再現できないが)≪ボン・キゴマイム≫対策として《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》をタップすることが可能であり、また、《ボルシャック・ハイパー・アークゼオス》自体が複数除去が可能なカードとして機能するあたり、かなり特徴的な選択であると言える。この選択についてはトップ5カードでも触れる予定だ。
トップ16は以下の通り。
3 光水自然ゼニス
3 火水ターボマジック
2 闇自然アビス
2 火水マジック
2 火自然ゼニス
1 闇自然ゼニス
1 水単ローゼス
1 水自然ジャイアント
1 火水闇プレジール
水単ローゼスも水晶マナ系のデッキであることを踏まえれば、トップ16のうち約半分にあたる7人が水晶マナギミックのデッキを使用しており、盤面に依存せずにマナゾーンで出力を確保できる水晶マナ系のデッキにトレンドが映りつつあることが感じられる。同じように、盤面にカードを散らすデッキが減ったことで闇系のデッキが復権しつつあることも感じられるだろう。
続いて、第2位となったのは火水ターボマジック。
他のエリアに比べると明らかにターボマジックの人数が多いが、その理由のひとつに「逆張りキングダム始皇帝」ことアーチー選手とその調整チームが全く同じリストで持ち込み、4名増えていることがあげられると思う。
りんちょん 全国大会2024 東海エリア予選 2ブロック構築 |
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その調整メンバーの中からは、りんちょんがトップ16に入賞している。
アーチー 「(北海道エリアで)セキボンさんが2位だった《偽りの名 システイス》型だと、《死神覇王 ブラックXENARCH》入りのジャイアントや闇自然アビス・闇自然ゼニスといった手札破壊ギミックが入ったデッキに不利がつくことが分かったので、(墓地に落ちたクリーチャー回収兼ループ用に)《♪なぜ離れ どこへ行くのか 君は今》を2枚にして、さらに《黙示録の水晶》《貝獣 パウアー》を2枚採用して手札破壊をしてくる対面には五分以上を取れるようにしました」
しかし、一方で《偽りの名 システイス》が少ないともっとも相性が厳しい相手である火水マジックに厳しく感じるが。
アーチー 「東海って結構逆張り気質で一番強いデッキを使わない感じがあるんですよ」
と期待通りの回答。
アーチー 「東海は強いプレイヤーが使っているデッキに対して、メタカードやメタデッキで対抗する人が多いので、今回強いと言われているデッキの中でも一番当たりたくない火水マジック(のようにまっすぐにデッキパワーで対抗してくるデッキは)あまりいない、いても母数3位くらいだと認識していたので、それ以外に勝てるターボマジック選びました。マジック切るならスピードはそこまで重要じゃないのでフィニッシュに絡まない《芸魔隠狐 カラクリバーシ》も3枚にしましたね東北の光水自然ゼニスにもきついって言われてますが、《芸魔龍王 アメイジン》で止めたのちに≪der'Zen Mondo≫で《聖霊超王 H・アルカディアス》を手札に戻して動くみたいにプレイングで対処できるから《偽りの名 ワスプメリサ》までいかれなければ戦える認識でした」
また、リストの手札破壊偏重から、《死神覇王 ブラックXENARCH》系のデッキの隆盛をメタとして読んでいたのかも聞いてみたが、これには「そこまでメタは回ってないと思いました」とのこと。逆に言えば、今後のエリア予選ではそこまでメタが回る可能性はあるということだろう。
アーチーサンプルリスト 全国大会2024 東海エリア予選 2ブロック構築 |
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ついでに今回調整で作成した《死神覇王 ブラックXENARCH》のリストも共有していただいた。たしかに《ヨビニオン・マルル》は現状の2ブロックのカードプールの中で、カードパワーの割に本領を発揮していないカードのひとつであり、今後注目される可能性が高いデッキリストであるといえるだろう。
牧瀬 全国大会2024 東海エリア予選 2ブロック構築 |
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また、ターボゼニスの中でも、ベースが水晶マナである故に注目カードである《「狡智」の頂天 レディオ・ローゼス》を採用できることに気がついた牧瀬選手のリストも覚えておきたい。≪同期の妖精≫≪ボン・キゴマイム≫がキツイデッキではあるのでオプションとしては優秀だろう。
第3位は水自然ジャイアント。
初期のメタゲームから上位に居続けた「2024年2ブロック界の盟主」こと水自然ジャイアントだが、今回は3位の使用人数となった。
とはいえ、これは例えば自然系ゼニスをまとめてしまっていたりなどの集計上の問題で単独のアーキタイプでは火水ターボマジックに次ぐ二位となっている。
ただ、実際ゼニス系・マジック系・ジャイアント系の現時点の三強の中では現状ジャイアントが一番対策がわかりやすくなってしまっているという弱点は緩やかにメタゲームの中で存在してきている。冒頭に上げた3点で言えば
・革命チェンジ強すぎる←一応強みとして存在している
・水晶マナもやはり強い←水晶マナを構造的に組み込みにくい
・メインは地上戦←地上戦をできるだけしないことが環境のマジョリティになりつつある
そしてなにより、≪同期の妖精≫≪ボン・キゴマイム≫の組み合わせを一番強く使える一方で、≪同期の妖精≫≪ボン・キゴマイム≫に一番弱いデッキなのである。このあたりに向けてのブレイクスルーが無ければ、水自然ジャイアントの母数は減り続けてしまうだろうし、そうすると水自然ジャイアントが一定数いる前提で構築されているデッキたちも立ち位置を考えなおさざるを得なくなってしまうだろう。
杁中 全国大会2024 東海エリア予選 2ブロック構築 |
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今回トップ16に入賞した唯一の水自然ジャイアントであり、《宙番龍 オービーメイカー Par001 / 奇跡の一打》を採用した2名のうち1名が結果を残している事には注目したい。
続く第4位は優勝デッキを輩出している火水マジックである。
かにかまぼこ 全国大会2024 東海エリア予選 2ブロック構築 |
火水マジック全体のデッキリストに関しては、《ゴルパガーニ-A7 / ダウンフォース・サーキュラー》が採用枚数くらいしか正直特筆するべき点はなく、全体的にいわゆるテンプレのリストに近い。むしろ、今回の優勝も含めてテンプレに近いリストであったことが最大のポイントであったといえる。
というのも、先ほどのアーチーのコメントにもあったが火水マジックへのガードを下げたデッキが特に多くなっていたのである。これはメタゲームが進んで環境が見えてきた状況ではよくあることなのだが、環境全体に対応しようとデッキに手を入れていくと対応力が上がった代りにデッキ自体の本来のポテンシャルは発揮しにくくなり、結果、環境最速のデッキに対応できなくなってしまうことがままある。
デッキの構造的にも手を入れにくいため火水マジックはいわゆる「フルパワー構築」に近いリストが多かったので、今回の環境に限って言えばメタゲームの隙間を縫って勝利する絶好のタイミングだったと言える(実際、翌日に行われた北陸エリアでも火水マジックがスキを突く形で上位入賞しており、まさしくそのような過渡期のメタゲームだったと言えるだろう)。
翌日の北陸エリアの結果も含めると、実に4大会中3大会を火水マジックが優勝しており、いよいよ無視できない相手となってきた火水マジックではあるが、結局、火水マジックを対策してしまうと他のデッキにまで手が回らないという環境の持つ構造的な優位は残ったままだ。現時点で環境に1割前後しかいない火水マジックを意識するか、それとも割り切った構築を持ち込んでほかへの優位を保つかは今後のエリアでの見どころのひとつとなるだろう。
そして、第5位が闇自然アビスだ。
2016年にDMGP-2ndと全国大会のニ冠を達成したせいな選手を始めとして、東海では他のエリアよりも多くのプレイヤーがこのアーキタイプを選択した。
馬王 全国大会2024 東海エリア予選 2ブロック構築 |
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シーズン序盤こそ《芸魔王将 カクメイジン》《超重竜 ゴルファンタジスタ》に後れを取っていたものの、ジャイアント同様にマッハファイター+革命チェンジによって、革命チェンジの強さと地上戦の強さを両立できるアビスは本来のポテンシャルままについに東海エリアではトップ16に2名を送り込む躍進を果たした。
≪同期の妖精≫≪ボン・キゴマイム≫を両立する水自然ジャイアントに対して、闇自然アビスの最大の長所は手札破壊にあり、現状のメタゲームのトレンドである盤面の取り合いに対して強いデッキ、特にゼニス系のようにマナ加速から手札にキーパーツを溜めていく動きに対しても対抗ができるのは他のデッキには得難い長所ではある。地上戦が強く意識されている現状のメタゲームにおいて、地上戦の強さをある程度キープしつつ、地上戦対策をしているデッキに強くでられる闇自然アビスは今後魅力的な選択肢になるかもしれない。
また、今後魅力的な選択肢になりうるデッキという意味では、全国出場経験もあるよこくら/岩田組を始めとした4人のプレイヤーが選択した《超光喜 エルボロム》にも注目したい。
よこくら/岩田組 全国大会2024 東海エリア予選 2ブロック構築 |
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この環境では唯一無二と言っていい受けの強さをキープしつつも、能動的な動きを相手に押し付けられるデッキである。前述のように闇自然アビスがメタゲームの中心になった時には少し厳しい選択になるかもしれないが、現在のように火水マジックが環境の持つ受けの弱さという弱点を突いて駆け抜ける流れが今後も続くと考えた時に検討してみたい選択肢になるかもしれない。
繰り返しになるが
・革命チェンジ強すぎる
・水晶マナもやはり強い
・メインは地上戦(そして≪同期の妖精≫≪ボン・キゴマイム≫はヤバイ)
の三点が環境を定義する状況は、少なくとも「悪魔神、復活」が発売され使用可能となる1月のエリア予選までは大きくは変化しないのではないかと思われる。
その中でメタゲームがどれくらい回っていくのか、その検討材料にこの記事が少しでもなれれば幸いだ。
本日のローグデッキ
最後に、おまけというわけではないが今回のエリア予選でひとりしか使用していなかった8つのデッキリストを紹介しよう。革命は辺境から起きる、とはよくいうもので今回ひとりだけが採用したアイディアが今後のメタゲームを大きく塗り替えるイノベーションとなることもあり得る。せっかくなのでこれらのデッキを見て行こう。
水単ゼニス Canopus
Canopus 全国大会2024 東海エリア予選 2ブロック構築 |
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イノベーションと言いたかっただけじゃないのか?と言われてしまいそうだが、今回、デッキリストをチェックしていて最もインパクトを受けたデッキリストのひとつがこのCanopus選手の使用する水単ゼニスだ。
《「狡智」の頂天 レディオ・ローゼス》が環境において注目されていることについては前述の通りなのだが、こちらはローゼスはローゼスでも《ローゼス・イノベーション》から《水晶の祈り / クリスタル・ドゥーム》をプレイするコンボを中核にしており、水晶マナ武装4の呪文が持つポテンシャルの高さを見せつけてくれた構築である。
Canopus選手自身は店舗予選もこちらのデッキで突破(主な変更点は《セレスティアル・スパイラル》の投入)しており、自身のプレイスタイルに合っていることも選択理由には認めていたものの、選択最大の理由として
・他の店舗予選やエリア予選からジャイアントが多いことを予想できた。
・(マッハファイターの的にならないために)盤面に並べずに勝てるデッキを探していた。
と語っており、《聖霊超王 H・アルカディアス》が厳しい事を除けば今回のメタゲームにかなり合致した選択であったと言えるだろう。
特に《Uta-Awase選手宣誓のスピーチ》と《水晶の王 ゴスペル》によるループでフィニッシュする動きは、本質的なループデッキがいない事でマナをのばすことを正当化しているゼニス系のデッキにも強い動きではあり、構築やプレイに練度が必要だが面白い選択肢ではないかと思う。
水闇自然ゼニス ジェガン
ジェガン 全国大会2024 東海エリア予選 2ブロック構築 |
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《ローゼス・イノベーション》を使用したデッキとしてもうひとつ特徴的だったのがジェガン選手の使用する「全部入り」水闇自然ゼニスである。
《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》《「呪怨」の頂天 サスペンス》、そして最近注目の《「狡智」の頂天 レディオ・ローゼス》と強力なゼニス・セレスを三種とも大胆に採用した構築であり、ある意味で《ローゼス・イノベーション》と《水晶の祈り / クリスタル・ドゥーム》のコンボの出力を最大化した構築だと言えるだろう。
実際、この三種を全て入れる必要があるかどうかは当然議論の余地もあるだろうし、逆に水自然をキープすれば2文明でキープしたり、光や火との組み合わせも検討できるため、想像以上にポテンシャルがある基盤ではないだろうか。
この一見「マジで動くの?」という基盤だが《呪華のサトリ カナザー》がよい潤滑油として機能している事にも注目したい。全力で手札を使い切れる時はともかく、各ゼニス・セレスの役割がある程度固定されており、必要な相手がはっきりしている関係で、手札を選べる《呪華のサトリ カナザー》は他のデッキ以上の活躍をしただろうことは想像に難しくない。
光水エルボロム オカド
オカド 全国大会2024 東海エリア予選 2ブロック構築 |
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記事のメイン部分で今後に注目デッキとして挙げた《超光喜 エルボロム》だが、基本的には光水闇で構築されている。
そんな中、《超楽識 フミビロム》や《禁呪と聖句の決断》といった闇文明の持つカードパワーを犠牲にしてでも光水の2文明に絞っている理由、それはデッキの安定性とスペースの確保による追加の受けの投入のしやすさだろう。《プリンセス・パーティ ~シラハの絆~》がゼニスに採用される際に話題になったように、レインボーカードが限られているこの環境は多文明化に無理がでやすく、それはコンボデッキであるエルボロムでも同じ事である。
特に、あてはまる文明が存在しない故に採用されない強力トリガー、《S・S・S》を採用できるのは二文明に絞って光水のためだけのレインボーカードを採用しやすくなっているメリットだと思われる。実際、今回の東海エリアにおいて《S・S・S》をデッキに採用で来ていたのはオカド選手ひとりであった。
光水闇COMPLEXエルボロム DuskSphere
DuskSphere 全国大会2024 東海エリア予選 2ブロック構築 |
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安定感と受けのために文明を減らす選択肢があるなら、逆にある程度安定感を犠牲にしてでもデッキに含まれるカードパワーを上げてリストの総合力を高める選択肢だって当然ある。
光水闇エルボロムにおいて、その選択肢を取ったのがDuskSphere選手である。中々今シーズンのエリア予選で注目されにくいものの、あらゆる行動を一気にフィニッシュブローに繋げる圧倒的なカードパワーでオリジナル・アドバンス両環境で活躍している《DARK MATERIAL COMPLEX》を大胆にも光水闇エルボロムの基盤に投入したリストで今回の東海エリアに臨んだ。
革命チェンジが多い環境であるのも踏まえて、《DARK MATERIAL COMPLEX》(と《死神覇王 ブラックXENARCH》)をうまく使いこなせれば環境の新たなソリューションを産み出せるのではないかと2ブロックを研究している諸氏は日々研究を重ねているかと思うが、ハイブリッドをするという意味では北海道エリアで北のあーさん選手が水自然ジャイアントに《死神覇王 ブラックXENARCH》を入れたくらいのパラダイムシフトだと思う。
光水自然ジャイアント セロ
セロ 全国大会2024 東海エリア予選 2ブロック構築 |
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ここまでの強力なアーキタイプやテクニックのハイブリッドという意味でさらに大胆なアプローチを取ったのがセロ選手の使用する光水自然ジャイアントである。なんと、水自然ジャイアントに《聖霊超王 H・アルカディアス》を投入するというありそうでないアプローチだ。
実際、地上戦を得意とする水自然ジャイアントが苦手とするデッキは、大体の場合呪文を戦略の軸としているため、《聖霊超王 H・アルカディアス》は苦手な面を克服するカードとしては適している。正直、デッキ内の光文明の枚数が7枚な事も含めてバトルゾーンに出すのが《哀樹神官 グリッファ》だよりになりそうには見えるが、マナをのばす力には問題がない水自然ジャイアントなだけに、呪文封じが必要となる相手のターンまでには意外と光マナを確保することもできるのかもしれない。
本来だとこの光文明確保要素として《プリンセス・パーティ ~シラハの絆~》が選択されがちだが、タップインの許容枚数がシビアなジャイアントだけにアンタップインの《極閃呪文「バリスパーク」》が採用されている。
光闇メカゼナーク マニフェスト
マニフェスト 全国大会2024 東海エリア予選 2ブロック構築 |
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マジック・ジャイアント、そしてこの会場ではアビスといわゆる「アビス・レボリューションの種族(オレら)」の持つカードパワーの高さが環境を規定している今期の2ブロックシーズン。しかし、「種族(オレら)」はその3種族だけじゃない!とばかりに名乗りを上げるのがマニフェスト選手の使用する光闇メカゼナークだ。
「間違いなく環境に合致しているはずなのに、なぜか居場所がない」覇王を名乗る慮外者こと《死神覇王 ブラックXENARCH》を使用するために各エリアで様々なリストが試行錯誤されており、その中でもメカゼナークは一見高いポテンシャルを持っているかのように見える。
だが、やはり盤面にクリーチャーを並べた上で相手の動きを待つことを義務付けられているメカは、マッハファイター跋扈するこの環境では少し厳しいのは否めない。《獲銀月 ペトローバ》や《ドラン・ゴル・ゲルス / 豪龍の記憶》は環境を支配しうるポテンシャルはあるので、ジャイアント包囲網が厳しすぎてジャイアントが減るメタゲームになれば、選択肢にあがってくるかもしれない。
火光アーマード ラブラビ
ラブラビ 全国大会2024 東海エリア予選 2ブロック構築 |
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そして、最後の「種族(オレら)」であるアーマードを持ち込んだのがラブラビ選手だ。
大量のドローによる再現性の高さが火水マジックの強みであるとすれば、過剰打点の量で生半可なトリガーは乗り越えることができるのが火光アーマードのメリットだ。
上述のメカとは対照的に、火水マジック対策として受けが強すぎる環境になるのであれば、それすらも突破する可能性のある火光アーマードが選択肢にあがる可能性は少なくない。特に、メカとアーマードで共通して採用できる《鎧機天 シロフェシー》に関しては、ゼニスやコンボの初動を止めつつ動けるという他にはないメリットがあるため、注目したいカードである。
火水闇プレジール あるが
あるが 全国大会2024 東海エリア予選 2ブロック構築 |
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8つのローグデッキの最後を飾るのは、見事トップ8入賞を果たしたあるが選手の火水闇プレジールだ。
ある意味、最初に紹介した水単ゼニスと逆のアプローチで、盤面を減らすのではなく盤面にメタクリーチャーを複数展開するというアプローチで構築されているのがこのデッキであり、東北予選の火水ガラワルドに近いアプローチのデッキであると言える。
特に重要なのは受けのトリガー枚数を大量に確保できることで火水マジックに対しての相性を確保しつつ、お馴染み≪同期の妖精≫≪ボン・キゴマイム≫の2枚にあわせて《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》まで採用することで水自然ジャイアントに対しても有利な状況を作れる点にある。
使用者のあるが選手も「最初、水自然ジャイアント相手の戦い方を間違えていて殴り合いをすると厳しかったが、こちらが受けとして負けない盤面を作り溜めるプレイをすれば相性差が激変した」と語るように、デッキに入っている豊富なユーティリティを駆使し、相手によって自分が有利なゲームレンジを選択できるところに最大の優位点があったと言えるだろう。
メタクリーチャーで盤面を作る選択肢がある一方で、《楽識神官 プレジール》と《超化秘伝アビスアサルト》や、《楽識神官 プレジール》と《イカリノアブラニ火ヲツケロ》(+《アーテル・ゴルギーニ》)のような出力の高い押し付けをキープできていることで相手に自由なゲームレンジを選ばせていないところが大きい。メタカードに目の敵にされやすい革命チェンジや、デッキの構造を要求する水晶マナを使わずに出力の高いゲームプランを持っていることがこのデッキの構造を可能としていると言えるだろう。
「直前に登場した光水自然ゼニスには相性が厳しいのはわかっていた」というものの、今回はすでに練度があるこのデッキを優先し、相性の悪い光水自然ゼニス(や闇自然アビス)相手はプレイで対応することを選択したというあるが選手。くしくもトップ8ではその光水自然ゼニスに負けてしまったものの、今大会のソリューションとなりえるポテンシャルがあったと思う。
また、このデッキが「10月12日の博多のCSで1・2フィニッシュしている」ことで発見し、使用候補にいれたというエピソードを聞いて、どこに環境の答えがあるかわからないということで、今回のブレイクダウンのラストにローグデッキリストを掲載するきっかけになったことを最後に追記しておきたい。
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