全国大会2024:メタゲームブレイクダウン~オリジナル~
ライター:渋谷 直也(シオン)
オリジナル環境の変化
殿堂施行により、【マーシャル・クイーン】、【ファイアー・バード】が弱体化を受けることになった。特に【マーシャル・クイーン】が姿を消したことは環境への影響が大きい。【マーシャル・クイーン】はアクションターンが3ターン目かつループフィニッシュという性質上、スピードのみで他のデッキを足切りしてきたからだ。
その障壁が取り除かれた今、アクションターンを4ターン目とするデッキタイプが増加すると考えられる。
さらに参加者は全国から選ばれた57名の強豪プレイヤー達だ。メタゲームの読みあいは普段よりも複雑で激しいものになるだろう。
それでは、参加者たちが考え抜いた末にたどり着いた、オリジナル環境の答えともいえるデッキ選択から見ていこう。
参加者デッキ分布
12 【ファイアー・バード】10 【ジャイアント】
7 【水闇自然マルル】
6 【デーモン・コマンド】
5 【火水闇覇覇覇ジャオウガ】
3 【火自然アポロヌス】
2 【水闇魔導具】
2 【ドリームメイト】
2 【火光水ゴスペル】
1 【ジョーカーズ】
1 【4cビッグマナ】
1 【闇単アビスロイヤル】
1 【水闇COMPLEX】
1 【暴発ゼニス】
1 【ボルシャック】
1 【水闇自然デッドダムド】
1 【ヘブンズ・ゲート】
使用デッキの最大母数は【ファイアー・バード】、次いで【ジャイアント】であった。この2デッキの共通点は3ターン目にビッグアクションを起こせることだ。【ファイアー・バード】は言わずと知れた《ハッター・ルピア》、【ジャイアント】は相手依存とはいえ《爆翠月 アカネ》からの革命チェンジが可能だ。
この2デッキの後ろには【水闇自然マルル】や【火水闇覇覇覇ジャオウガ】といったアクションターンは1ターン遅いがデッキパワーに溢れるデッキが続いている。
やはり、環境を制するうえでスピードは正義だということが読み取れる。
それ以外で注目すべきはやはり【デーモン・コマンド】だろう。【水闇自然マルル】と同様に闇自然を基板としたデッキだが、【ファイアー・バード】の弱体化や【ジャイアント】の台頭により、こうしたコントロールデッキが活躍する環境であったことが分かる。
そして面白いのは【火自然アポロヌス】の使用者が数名いることだ。【火自然アポロヌス】は超速攻デッキ、殿堂施行の影響で環境が低速化する中、それに合わせて後ろにターンを遅らせるのではなく、逆に速さに重きを置くことでコントロールデッキとの差を広げるという企みだろう。
メタゲームの読み合いにおいて、選ばれし強者のみが集まる全国大会では、「あえて」の選択肢が選ばれることがある。
そう、去年の全国大会を制したのが、「あえて」の【水魔導具】だったように。
では、デッキタイプごとに詳しく解説していこう。まずは【ファイアー・バード】と【ジャイアント】からだ。
ファイアー・バード
ユウキング/わいきん 全国大会2024 日本一決定戦 オリジナル構築 |
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規制を受けてなお、最前線を走り続けているデッキだ。《雷炎翔鎧バルピアレスク》の抜けた枠には《凰翔竜機マーチ・ルピア》が採用されており、ワンショットの性能は落ちたもののハイスピードなメタ(妨害)ビートとして扱われている。
《雷炎翔鎧バルピアレスク》による早期のごり押しが減ったことで、ミッドレンジ・コントロールデッキに対する勝率は当然落ちており、純粋な除去やトリガーによる切り返しを受けやすくなってしまっている。
それでも使用者数は最大であるという事実が《ハッター・ルピア》の凶悪さを物語っている。
ジャイアント
リノグレ 全国大会2024 日本一決定戦 オリジナル構築 |
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殿堂施行後に公認CSでも使用者がじわじわと増加していたデッキだ。【ファイアー・バード】のメタビートに対してこちらはメタコントロール、なかでもバトルゾーン上のやりとりであるボードコントロールを得意とする。
マッハファイター持ちのクリーチャーが展開の始動であることが多く、序盤の動きが相手依存であることが問題視されていたが、新しく登場した《学識妖精サイクリル》により若干改善している。
一度展開さえしてしまえば、《アシステスト・シネラリア》や《同期の妖精 / ド浮きの動悸》がメタクリーチャーの身代わりとなるため、有利盤面を返されにくいのがかなりの強みだ。
優勝デッキタイプであることはもちろん、TOP8の段階でも3名が【ジャイアント】を使用しており、大会を通しての【ジャイアント】の勝率はかなり高かったことが予想できる。本大会の正解デッキの1つだといえるだろう。
しかし、この選択は全国大会ゆえのもの。普段のCSなどではデッキタイプがさらに分散する可能性があることを留意しておきたい。
次に、環境の速度が低下したことで活躍したデッキタイプを紹介しよう。
水闇自然マルル
全国大会直前のCSのメタゲームでは、【ファイアー・バード】と並んでメタゲームの中心に存在していたデッキだが、本大会では数を減らしている。このデッキは【水闇自然マルル】の中でも大きく2つに分けられ、《偽りの月 インターステラ》を軸としたタイプと《流星のガイアッシュ・カイザー》を軸としたタイプの2つが存在する。
あーるん。 全国大会2024 日本一決定戦 オリジナル構築 |
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ZweiLance 全国大会2024 日本一決定戦 オリジナル構築 |
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前者では《偽りの月 インターステラ》と《ブレイン・スラッシュ》のコンボから《覚醒連結 XXDDZ》に繋げてのワンショット、後者では《流星のガイアッシュ・カイザー》から《終末の監視者 ジ・ウォッチ》や《終末縫合王 ザ=キラー・キーナリー》のカウンターが特徴的だ。
両者ともに搭載されているのは、4ターン目のアクションとして用意されている7コストの強力なカード達。《ロスト・Re:ソウル》や《CRYMAX ジャオウガ》だ。
コントロールデッキではあるが、押しつけの要素がかなり強い部類となっている。だが、今回の全国大会ではその攻め気が裏目に出たようだ。
母数の多かった【ファイアー・バード】や【ジャイアント】のメタクリーチャー群を超えるには、直球ではなく変化球で勝負する必要があるからだ。
デーモン・コマンド
殿堂施行後の環境では見かけなかったデッキタイプが、この全国大会で一気に注目を浴びた。こちらも2つのタイプに分かれており、邪心臓シリーズや《悪魔世界ワルドバロム》を採用したタイプと闇自然で構成され《悪魔神ドルバロム》を採用したタイプだ。前者は紅蓮、kaisora、TJMが、後者はおんそく、えむつー、うっちーが使用しており、それぞれのグループで調整したメタゲームへの答えとなっているのだろう。
紅蓮 全国大会2024 日本一決定戦 オリジナル構築 |
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《カレイコの黒像》の採用が特徴的であり、現環境に非常にマッチしている。自身は主に《混沌の獅子デスライガー / カオス・チャージャー》や《魔令嬢バロメアレディ》でマナを伸ばすため影響がなく、多用されているメクレイドにピンポイントで刺さっている。
《悪夢神バロム・ナイトメア》も革命0トリガーとは違い進化元が墓地を経由してバトルゾーンに出るため問題なく機能してくれる。
おんそく 全国大会2024 日本一決定戦 オリジナル構築 |
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こちらはで言及すべきはやはり《悪魔神ドルバロム》だろう。平成の「ロマン」カードであった《悪魔神ドルバロム》だが、競技イベント最高峰の全国大会の場で使用されていることが令和の《悪魔神ドルバロム》が「ロマン」ではなく「ガチ」である証明だ。
事実、「バロム」サポートの多さからの着地難度を考えてみても、現環境で【ジャイアント】や【ドリームメイト】の住まうフィオナの森を荒らしている姿は想像に難くない。
火水闇覇覇覇ジャオウガ
Rikky 全国大会2024 日本一決定戦 オリジナル構築 |
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dotto率いる魔王軍のメンバーは全員このデッキを使用している。【ファイアー・バード】に次ぐ、第二のメタビートだ。
注目ポイントは《偽りの希望 鬼丸「終斗」》と《修羅の死神フミシュナ / 「この先は修羅の道ぞ」》両方の4枚採用だ。【ファイアー・バード】やミラーマッチの増加を予想し、4枚採用に踏み切ったと考えられる。
本大会の【ジャイアント】の多さは少し向かい風だったと思われる。《ボン・キゴマイム / ♪やせ蛙 ラッキーナンバー ここにあり》が採用されているものの、【ジャイアント】がクリーチャー主体のデッキに対するカウンターデッキである以上、対戦したいデッキとは言えない。
最後に使用者は多くなかったものの、全国大会のメタゲームに適応していたと感じるデッキを紹介する。
火自然アポロヌス
じゃきー 全国大会2024 日本一決定戦 オリジナル構築 |
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じゃきー、ももっしー、シムレイらが使用していたのがこの【火自然アポロヌス】だ。はじめにも述べたように、いつの時代のデュエル・マスターズにおいてもスピードによる押しつけは正義なのだ。
そして【火自然アポロヌス】はまさにスピードを象徴するデッキだ。全国大会における最速の標準でもある【ファイアー・バード】のアクションターンは3ターン目。当然、他の参加者はそれを意識してこの大会に挑んでくるはずだ。
しかし、このデッキのアクションターンは脅威の2ターン目。低速化した環境で、「あえて」速度で勝負する。環境に合わせて速度を遅らせたプレイヤーは追いつけるはずもない。また、実際のデッキ分布を見てみても、天敵である受けデッキが極端に少ないことがわかる。
このデッキが勝ちあがる未来もあったのかもしれない。
ボルシャック
にわか 全国大会2024 日本一決定戦 オリジナル構築 |
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使用者はにわかのみ。にもかかわらずその成績は見事3位という素晴らしいものだ。
【ボルシャック】は捲りデッキの性質を持っているため、運要素によるものが大きいのではないかと思う読者もいるだろう。だがこのデッキの勝利の理由はメタゲームにおける立ち位置の良さによるものが大きい。
全国大会ではアクションターンが4ターン目でも十分に戦えること、受けデッキが少ないこと、そして同速度でより安定した【水闇自然マルル】が数を減らしていたこと。これらすべてが噛み合った結果だ。
構築に注目してみると、素のS・トリガーだけで12枚、《王道の革命 ドギラゴン》も合わせれば14枚だ。
この場合、S・トリガーが最低でも1枚埋まっている確率は90%であり、現在の【ファイアー・バード】の出力を考えると、十分に戦えるだろう。
捲りの中にも理論あり。見事な【ボルシャック】であった。
総括
既存のデッキから答えを見つけ出すプレイヤー、0からデッキを構築し新たな答えを生み出すプレイヤー、両者の思考を獲物に環境の逆を答えとするプレイヤー。参加者の意図は様々であったが、どれも新たな環境に対する一つの答えであることに違いはない。また、どの答えも正解となる可能性があったことも確かだ。そのうえで、【ジャイアント】を選択できたプレイヤー達はわずかに他の参加者を上回っていたということだろう。
2024年度のデュエル・マスターズはこれで一区切りついたが、4月19日には新たな環境が幕を開ける。
この記事が、新たな環境に触れるプレイヤーの助けになれば幸いだ。
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