ライター:伊藤 敦(まつがん)
安全には価値がある。
規格化された天門。入賞実績を持つマジック。多くのプレイヤーが使っているアビス。テンプレートはデッキパワーの最低保証を可能にする。リスク抜きで手に入る力がある。
だがそんな安全をあえて手放して、メインデッキどころか超次元ゾーンの1枚1枚、超GRの隅の隅まで、己の哲学を貫かせようとする者たちがいた。
ここではトップ128まで勝ち残りつつも、その中で使用者がそれぞれ1人しかいなかった、そんな勇敢なる
14種のローグデッキについて紹介しよう(ちなみにブレイクダウンと分類が異なるものもあるが筆者の主観的な分類に基づくものとご理解いただきたい)。
ディノム:ジャンボ・ビッグマナ
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ディノム
DMGP2024-1st
アドバンス構築
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《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》からの《邪帝斧 デッドアックス》があるアドバンス環境では、中途半端な殴り先を作ってしまうことはNGとされる。ならば逆にクソデカいクリーチャーだけでデッキを組んだら何も気にする必要はないのでは???🤔🤔🤔そうした思想が見え隠れするのがこちらの「ジャンボ・ビッグマナ」だ。
従来《MAX-Gジョラゴン》の活用によって実現していた水自然のビッグマナから《MAX-Gジョラゴン》のパッケージを抜き、12000マターで再構成したこのコンセプトを裏から支えているのが新カード、《哀樹の夜 シンベロム》。《流星のガイアッシュ・カイザー》や《コレンココ・タンク / ボント・プラントボ》からつながり、マナゾーンを瞬時にプレイの選択肢に変えられる柔軟さは、なかなかに替えが利かないものがある。
8枚の「終末縫合王」がリストに並ぶ美しさも見逃せない。見た目のインパクトやカードパワーに加えて初見殺し要素も抜群の、非常に実戦的なリストに仕上がっているのが好印象だ。
よしゆき:龍世界転生
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よしゆき
DMGP2024-1st
アドバンス構築
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アドバンスだけに許されたバグ、ゲーム開始時にあらかじめ設置できる《禁断 ~封印されしX~》を利用して無料ガチャを行える《水晶転生》を生かすことで、新たな《龍世界 ~龍の降臨する地~》デッキを持ち込んだのがDMGP9thでの3位入賞経験もあるよしゆきだ。
デッキの半分、ぴったり20枚が「他のドラゴンを踏み倒せる大型ドラゴン」となっており、しかも手札からの踏み倒しも多く意外と理詰めで連鎖できるのがポイントである。
また一見単なる脳汁ハピハピハッピーデッキに見えて、メタ処理役も兼ねている《偽りの希望 鬼丸「終斗」》は《禁断 ~封印されしX~》の封印を外せるため、《革命の絆》との組み合わせによるカウンター性能も極めて高い。体験の楽しさと実用的な強さを高いレベルで両立する、中毒性の高そうなデッキだ。
tamu:60枚4Cディスペクター天門
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tamu
DMGP2024-1st
アドバンス構築
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オリジナルとアドバンスの大きな違いの一つは、デッキを40枚で収める必要がないという部分にある。
常に2つ以上の勝ち筋をキープし、相手が塞いだ道を迂回して残された道から勝利を目指すというデュエル・マスターズにおけるミッドレンジやコントロールのコンセプトからすれば、「中継ぎの多様性」「フィニッシュの多様性」「受け手段の多様性」はどれも確保されなければならない。だがそれは通常40枚に収まりきらないところ、《13番目の計画》は不可能を可能にする。
しかしそれは突き詰めるべきスロットが1.5倍に増える茨の道でもある。「相手の裏目を作る」ことを意識しつつもデッキ全体として破綻がないよう調整する行為はとてつもなく神経を使う作業だ……だがだからこそ、よくできた60枚のリストというものは美しいものなのだ。
飆MAX:60枚4Cギャラクシールド
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猋風MAX
DMGP2024-1st
アドバンス構築
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同じ60枚でも、こちらはいくつかの太いゲームプランのみにコンセプトを絞った、「絶対≪伝説の禁断 ドキンダムX≫倒すマン」として一貫性が強いデッキとなっている。
いわゆる「光水自然ギャラクシールド」の系譜として防御力を担保しつつ、グランプリならではの時間切れ対策として《完全水中要塞 アカシック3》+《闘争類拳嘩目 ステゴロ・カイザー / お清めシャラップ》+《der'Zen Mondo / ♪必殺で つわものどもが 夢の跡》ループを採用している点も、単なる脳内妄想ではなく幾度もの実戦に基づいて鍛え上げられたリストの強度を感じる。
だが何より褒めるべきはこうしたデッキを大舞台で選択でき、そして実際に結果を残せるだけの技量と精神性だ。調整上の相性は実戦での初見殺しによって容易に覆しうる。だからこそ想定外のルートをたどった際にアドリブで勝ち星を拾えるよう、自身はデッキの隅々まで理解しておく必要がある。このデッキに関してそれを行うのにかかった時間は想像に難くなく、そうした努力の跡にこそ私たちは敬意を表するのだ。
sign:水魔導具
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sign
DMGP2024-1st
アドバンス構築
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全国大会2023 日本一決定戦を制したアーキタイプも、アドバンスにおいてはただのローグに過ぎない。
だが、だからこそ使う価値がある。《歌舞音愛 ヒメカット / ♪蛙の子 遭えるの何処?好きと謂ひて》《Napo獅子-Vi無粋 / ♪オレの歌 聞けよ聞かなきゃ 殴り合い》や《ア:エヌ:マクア》の存在はオリジナルとそう変わらないが、少なくともメタられてはいない。逆にアドバンスならではのレッドゾーンやドルマゲドンに対しては強く出られる部分もあるし、トップメタの天門には速度勝負ができる。今の多様なアドバンス環境ならば、通りがむしろ良いのかもしれない。
一応45枚デッキとはいえ《禁断 ~封印されしX~》も超次元も超GRもほとんど関係がなく、アドバンスらしさは一切ないデッキだが、使えるからといって使わなければならない理由などどこにもない。むしろそうしたパラダイムシフトこそが、メタゲームの裏をかくデッキ選択のためには必要なのだ。
のじ:闇火アビス
今大会でフィーチャーされたシナジーの一つが新カード《超霊淵 ヤバーダン=ロウ》からの《復活の祈祷師ザビ・ミラ》だろう。特に横並べしやすいアビスにおいてはすさまじいフィニッシュ力を誇るため、役割が被りがちな《アビスベル=覇=ロード》からの脱却を図った形も見られるほどであった。だが、そうなると自然の必要性に疑問が出てくるのも当然の流れだ。
そもそもアビスの「革命チェンジ」が出てくるまでは、もともと「闇火テレスコ」だった。それもあって闇火の基盤に違和感は全くない。全国大会2023 日本一決定戦では《キャディ・ビートル》入りの闇自然アビスも既に登場しており、闇火の形においてはその枠を《赤い稲妻 テスタ・ロッサ》に担わせるというのもごく自然な発想だろう。
だがそれも「時間があれば」という枕詞がつく前提の話であって、「デーモン・オブ・ハイパームーン」発売から一週間という短い期間でここまでシャープな形を見出した構築力には脱帽と言わざるをえないだろう。
サイダー・ミヤシタ:闇単アビス
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サイダー・ミヤシタ
DMGP2024-1st
アドバンス構築
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他方、新コンテンツ
「デュエチューブリーグ」から環境攻略のヒントを見出した者もいた。
「魔王軍」のdottoが使用していた
《深淵の憤髄 ファウン=テイン》型の闇単アビスをベースに、ブラッシュアップを図ったものとなっている。
大きく異なるのは
《滅亡の起源 零無》の存在だ。相手に手札を与えてしまうとはいえ、「復活の儀」による無料の墓地肥やしが
《深淵の憤髄 ファウン=テイン》の着地に大きく貢献することは言うまでもない。
また
《ルピア炎鬼》も、アドバンスにおいて超GRの活用が下火になっている昨今、むしろ機能しやすいかもしれない。「デュエチューブリーグ」は縛りがある環境だが、縛りがない環境においての解答を先んじて見出してしまうこともありうることを考えると、これからますます見逃せないコンテンツとなっていきそうだ。
narukami:フィオナ・アカシック
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narukami
DMGP2024-1st
アドバンス構築
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《天命龍装 ホーリーエンド / ナウ・オア・ネバー》の殿堂によって「フィオナ・アカシック」は大きく後退したと思われていたが、narukamiの手によってここにきて新たな展開を見せた。《巨大設計図》型からの脱却だ。
《激烈元気モーニンジョー》を拾えない《巨大設計図》型は安定性に難がある。ならば闇を足して《天災 デドダム》と《終末王秘伝オリジナルフィナーレ》でデッキの強度をあげようという思想だが、超次元も超GRもなく、オリジナルにそのまま持ち込んで使える形というのはあまりにも勇気がありすぎる選択だ。
だが《光開の精霊サイフォゲート》を得た「巨大天門」の存在により半端な殴りデッキに価値が失われている現状、受けの要素をある程度割りきったこうした選択にも一定の合理性がある。他のアーキタイプとは異なり、ループデッキに必要なのはハマったときに突き抜けた成績を残せるだけの一貫性であり、その点においてこの4が7つ並ぶほどに綺麗なリストは、求められている要素を十分すぎるほどに満たしていると言えよう。
ましましゅ:マーシャル・アカシック
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ましましゅ
DMGP2024-1st
アドバンス構築
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そのままオリジナルで使えそうなループデッキといえば、ましましゅが使用した「マーシャル・アカシック」もそれにあたる。《マーシャル・クイーン》で《暴発秘宝ベンゾ / 星龍の暴発》と《完全水中要塞 アカシック3》を同時に埋め、《暴発秘宝ベンゾ / 星龍の暴発》の呪文側を回収しつつ唱えてから出したクリーチャー側によって、先ほど埋めた《完全水中要塞 アカシック3》を暴発させるというのがメインのコンボだ。
そのほとんどがドロー系とはいえ21枚というトリガー率の高さは見切り発車するにも十分すぎる構造だが、そこであえて《水晶の王 ゴスペル》の流行を見越した《♪なぜ離れ どこへ行くのか 君は今》の採用も、今回のGPでは躍進に一役買っていたことだろう。
だが何より、《マーシャル・クイーン》というカードとそれを中心としたデッキが持つ美しさが格別だ。このデッキを相棒に選ぶということは、己の信仰を海の女神に捧げるということでもある。4500名から128名という尋常ではない倍率のセレクションで勝ち残るためには、理論を超越した「愛」が時には必要となるのだ。
ぺん丸:4Cガイアッシュ覇道
「デーモン・オブ・ハイパームーン」の発売一週間後ということが取り上げられがちな今大会だが、実はカードプールに加わっている新規カードはそれだけではない。二週間前に発売したキャラプレミアムデッキ「ドラゴン娘になりたくないっ!」イェーイめっちゃドラゴン!!に収録されているドラゴン娘たちもまた、今大会が大型大会初登場のタイミングとなる新規カードなのだ。
とはいえいくらなんでもアドバンスのカードパワーとは比較するべくもない……と思いきや、ぺん丸は「ガイアッシュ覇道」に7枚ものドラゴン娘たちを投入し、見事にそのポテンシャルを証明してみせた。
《流星アーシュ》のバウンス対象はマナゾーンから戻したドラゴンのマナコストに依存するため、元ネタとなった《流星のガイアッシュ・カイザー》と同じく《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》との相性は抜群だ。《真久間メガ》もその巨大すぎるマナコストで《流星アーシュ》とシナジーがあることはもちろん、アビスなどの大型横並べデッキに対しても無類の力を発揮する。一見コミカルな見た目のキャラプレミアムデッキからもしっかり龍軸の強化の可能性を見出した、ぺん丸の確かなカード評価は特筆すべきだろう。
ムロ/ラー好き界隈:水闇自然オービーメイカー
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ムロ / ラー好き界隈
DMGP2024-1st
アドバンス構築
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《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》が特に強力なアドバンスにおいては、オリジナルよりも《飛翔龍 5000VT》や《「必然」の頂 リュウセイ / 「オレの勝利だオフコース!」》の使用率が低いことが想定される。ならば《十番龍 オービーメイカー Par100》のポテンシャルも一段引き上がると考え、隙間を通してきたのがムロ/ラー好き界隈だ。
新カードも奇抜なテクニックもないそのリストからはむしろ、使い込んだアーキタイプに対する圧倒的な自信が感じられる。同じデッキを使っている人が勝っていないとしても、自分だけが勝てるならば問題ない。むしろ使用者が減れば意識されなくなって好都合というものだろう。
メタゲームを円と定義するならば、少し前に時代遅れになったデッキは、いずれ一周まわって最先端になる可能性が高い。そのタイミングが大型イベントにぶつかるかどうかは運ゲーだが、追い風を見逃さなければ、新カードがなくても最新のメタゲームで活躍することは不可能ではないのだ。
kimushin:グリッファ・ジャオウガ
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kimushin
DMGP2024-1st
アドバンス構築
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だが、王道はやはり新カードの攻略だろう。kimushinは《哀樹神官 グリッファ》のポテンシャルに着目し、「水闇自然ジャオウガ」を《キユリのASMラジオ》から脱却した構造にすることで、《CRYMAX ジャオウガ》と《復活の祈祷師ザビ・ミラ》という進化と非進化のフィニッシャーをつなぐ架け橋として運用した。
さらに《百威と族絆の決断》とのくっつきも活用することで異次元の角度の受けも可能となっている。どう見ても水闇自然のデッキから飛んでくるのはなかなかに想像しづらいだろう。
《天災 デドダム》からの《哀樹神官 グリッファ》という基盤がもたらす自由度は、今後の水闇自然系デッキの構築を変えてしまう可能性もある。もしかすると、私たちはいま時代の変わり目を目撃しているのかもしれない。
夢現:水闇自然ザビ・ミラ
夢現をトップ16にまで導いたのは、水闇自然ベースながら《復活の祈祷師ザビ・ミラ》による一点突破に振りきったデッキだ。
ここまで《復活の祈祷師ザビ・ミラ》が活躍しているとなると、《頂上接続 ムザルミ=ブーゴ1st》に対抗できる戦略として、「クリーチャーをバトルゾーンに残したままどうやって《復活の祈祷師ザビ・ミラ》を早期に着地させるか」が黙示的な共通課題の一つだったと考えられる。その解答の一つが《超霊淵 ヤバーダン=ロウ》であり、あるいは《哀樹神官 グリッファ》であり、そして夢現の場合は《ブレイン・スラッシュ》だったというわけだ。
特に《アーテル・ゴルギーニ》墓地肥やし+蘇生で《奇天烈 シャッフ》を蘇生させてターンを取ってからの《ブレイン・スラッシュ》両面というマナカーブが美しく、メタクリーチャーも最大効率かつ発動した際にマナ加速になり、《ブレイン・スラッシュ》を唱える前にも簡単に脇に添えやすい《ベイB セガーレ》に絞っていることからも、相手にとって予想外の角度から早期に決着させるプランが見てとれる。
そしてそんな中でも多くのカードに触る機会を増やし、モードがあるカードでプレイの選択肢を広げている構築は、惜しくもトップ8には届かなかったものの、総じて見事というほかないだろう。
☆ヨッシー☆:光単ゴルギーニ
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☆ヨッシー☆
DMGP2024-1st
アドバンス構築
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そして最後に同じくトップ16にまで勝ち残った☆ヨッシー☆の「光単ゴルギーニ」を紹介しよう。
7種ものメタクリーチャーを相手に合わせて使い分け、《ドラン・ゴルギーニ》《シェケダン・ドメチアーレ》《「正義星帝」 <鬼羅.Star>》という3種のみのパワーカードで毎ターン丁寧にゲームメイクしていく構造は、はっきり言って本人にしか使いこなせないほどに真っ当すぎるデュエル・マスターズをすることを要求する。
メタクリーチャーで相手の動きを制限することで選択肢を減らし、少しずつ袋小路に誘導していくプレイ感はさながら詰め将棋に近いものと思われる。毎ゲーム勝ち筋は作れるかもしれないがその筋はどれも細く頼りなく、一歩間違えれば奈落の底へ真っ逆さまだ。
だが逆に言えば、クリーチャーでクリーチャーを攻撃したり、効果でタップして殴り先を作ったり、エスケープで手札を調整したりと、デュエル・マスターズの細やかなエッセンスを端から端まで体験できるデッキであり、このデッキを使いこなすことができれば、他のどんなデッキも簡単に思えてしまうことだろう……つまり☆ヨッシー☆は、こちらもトップ8には惜しくも届かなかったが、それほどの達人であることが証明されたということだ。